新刊JP
新刊JPトップ > 特集 > 新刊JP FEATURING J’sGOAL編集部 『スタジアムの感動を! J’sGOALの熱き挑戦』

スタジアムの感動を!J'sGOALの熱き挑戦 スタジアムの感動を! J’sGOALの熱き挑戦の書籍画像

『J’s GOALの熱き挑戦』 解説文

◇地域社会とJリーグ「百年構想」とサポーター

それまでの何気ない商店街が急に真っ赤に色づき、多くの人で賑わう。
彼らの会話の内容のほとんどは「レッズ」の話。

「なんであそこでパスを・・・」
「あの選手交代はちょっとわからないね」

私が浦和で見たのは、そんな光景だった。 スタジアム観戦を終えたサポーターたちが、浦和の街に繰り出してきた瞬間。
地域そのものがレッズ色に染まっているという印象を受けた。

Jリーグには「百年構想」という理念がある。
これは、Jリーグのオフィシャルウェブサイトから言葉を拝借すると 『「地域に根差したスポーツクラブ」を核としたスポーツ文化の振興活動』に取り組み、 地域密着によるクラブチーム運営をしながら、地域の振興を目指すというものだ。

なぜ、「クラブチーム」が地域にとって重要なのか。
社会学者のジャネット・リーヴァーはブラジルにおけるサッカーと地域の関係性を分析した 『サッカー狂いの社会学―ブラジルの社会とスポーツ』において、次のように述べる。

通常、スポーツチームというのものは、外部世界にたいして、地域社会をもっとも目に見える形で代表してくれる存在である。 ・・・・・・ストーンは次のような結論するにいたった。 ・・・・・・スポーツは地域社会間の葛藤を引き起こすがゆえに、また、地域社会内のコミュニケーションを確立するがゆえに、 地域社会を統一するのである。 (J・リーヴァー『サッカー狂の社会学』亀山佳明・西山けい子訳,世界思想社,1996,20)

いわば、クラブチームというのはその地域社会を代表するものであり、 また、その社会を統一していく軸となるようなものである。
人間は共同体の中で生きているが、その最小単位となるのが「家族」であり、 その次にあるのがその家族を取り巻く「地域」だ。 その地域をまとめるJリーグの「クラブチーム」は、まさによく言われる「地域の再構築」になくてはならない存在であり、 「百年構想」はそうした「地域のあり方」を体現するものとなるのだ。

◇「J’s GOAL」というウェブサイトがつなぐ「一体感」。

さて、遠回りしてきたが、ようやくここで本書『J’s GOALの熱き挑戦』の解説に移ろうと思う。
本書は一人の中年男性の写真から始まる。 それはモンテディオ山形のJ1昇格時にサポーターが感極まって泣きそうになっている写真だ。 その写真は「J’s GOAL」に掲載され、瞬く間に反響を呼んだ。「山形おめでとう!」という言葉とともに。 モンテディオサポーターはもちろんのこと、他のチームのサポーターからもコメントが寄せられ、 そこでは地域だけではなく、Jリーグファン全体としての一体感をかもし出しているのである。

「J’s GOAL」はJリーグ公認のファンサイトだ。
ニュースやデータ、勝敗予想ゲームやクイズなどといったサポーターが楽しむためのコンテンツなどが用意されており、 サポーターたちが毎日訪れ、月間3億PVを達成するなど、活気に満ちている。

本書はそんな「J’s GOAL」のリニューアルから月間3億PVという数字を達成するまでの軌跡を辿りながら、 ウェブ上でクラブチームやサポーターたちをどのように盛り上げていったのかが書かれている、 ウェブプロモーション及びマーケティングの1つの戦略法を示した1冊だ。
さまざまな面白いアイデアを実行していく―投票システムを作り、 クラブチームのサポーター同士で競わせたり、チームのゲーフラ(ゲームフラッグ)を特集したり―その裏にあるのは、 より多くの人がスタジアムに足を運んで欲しいという理念であり、そしてスタジアムを楽しんで欲しいという想いである。

このサポーターが集まる「J’s GOAL」というサイトが盛り上がるということは、同時に地域が活性していることでもある。
ウェブも人間が使う以上、現実世界で起きていることは切っても切ることができない。 ウェブでも、冒頭に述べた「百年構想」の形ははっきりと見えてくるのである。
リアルとウェブが重なるところに存在する「J’s GOAL」は、まだまだやることがたくさんある。
「人々をつなぐとはどういうことか」や、「ウェブとリアル」を考える上で、大きな示唆を与えてくれるであろう一冊だ。

(新刊JP編集部 金井元貴)