江戸時代に出版された軍学書『甲陽軍艦』に、次のような一節が出てくる。「人は城 人は石垣 人は堀 情けは味方 仇は敵なり」。
「どんなに城を固めても、人の心をつなぎとめておくことができなければ国は滅びてしまう」という意味を持つこの句は、室町時代末期に活躍した甲斐国の戦国大名・武田信玄の思想を集約したものとして知られ、もともとは中国・春秋時代の武将である孫子が書いた『兵法』に由来する。
この言葉は現代における企業経営においても充分に通用する。自国の民を大事すること。「情け」をもつこと。それは旧来から変わらぬ普遍的な経営思想であり、それができない会社は瞬く間に潰れてしまう。
著者である坂本光司氏は、経営が上手くいかない原因を「企業の外」に見出し、企業に関わる「人」――自社の社員や外注先の社員、顧客。地域住民、株主に対し使命と責任を果たそうという意識が欠落している会社は上手くいかない指摘する。そして、「一に人財、二に人財、三に人財」という坂本流の経営思想を打ち立てるのである。
本書には、そんな坂本流の経営思想を体現し、人びとの心をつなぎとめる経営を行っている企業5社のエピソードがつづられている。
・障害者を受け入れ、働く喜びを見出せる環境を提供している「日本理化学工業株式会社」
・社是は「いい会社をつくりましょう」。斜陽産業の中で売り上げをのばす「伊那食品工業株式会社」
・過疎化が進む地域、ロケーションは最悪。でも社員たちは熱い想いを持っている。「中村ブレイス株式会社」
・地域社会とともに歩み、家族の団欒を演出するお菓子を。「株式会社柳月」
・寂れた商店街に殺到する全国からの注文。「顧客のために」を体現する「杉山フルーツ」
本書の帯には「油断していましたが、泣けました…」という言葉が踊っている。最初は「よくある商売文句だ」と思ってしまった私だったが、一読してみるとそれもあながち間違いではないことがわかった。そしてこんな世の中だからこそ、是非とも本書の感動をいろんな人に味わって欲しいと感じるのだ。
(新刊JP編集部)