―関さんの著書『病気になりたくなければふくらはぎを温めなさい』についてお話をうかがえればと思います。「頭寒足熱」という言葉があるように下半身を温めることが健康にいいということは昔から言われていますが、特にふくらはぎを温めることでどんな効果が期待できるのでしょうか。
※「病気になりたくなければ、ふくらはぎを温めなさい」講談社+α文庫より引用
関:下半身の中でも特に“ふくらはぎ”を温める重要性ですが、それより前に、“ふくらはぎ”を何故冷やしてはいけないかについてご説明させていただきたいと思います。
現在私は多くの場所で「ふくらはぎ温め健康法」の講演会をさせて頂いておりますが、その最後にアンケートを取るようにしています。昨年から“ふくらはぎ”に関する健康法が話題になっておりますが、特に、「もむ」という健康法がブームになっています。そのため、アンケート結果を拝見すると、多くの方が“ふくらはぎ”を「もむ」ことの大切さを知っていますが、「冷やしてはいけない」「冷やすことの怖ろしさ」を知らないことに気がついたのです。
冷やしてはいけない理由の一番大きなポイントは“ふくらはぎ”には、現在多くの方が悩んでいる体の不調を改善するための経穴(ツボ)が、数多く集まっているということです。一般的にツボの刺激というと“足裏”が有名ですが、“ふくらはぎ”は、足裏に負けないくらい重要なツボが集中しています。その数は、下半身だけを見ても太腿(大腿部)に比べて圧倒的に多いです。そして、ツボは、東洋医学でいう「氣(生命エネルギー)」と「血」の通り道である経絡上にある重要なポイントで、温めたり刺激を加えることで、そのツボに関係する臓器などの働きを調整することや、経絡上の症状の改善や健康維持が可能であることは医学的にも立証されています。ですから、そのツボが数多くある“ふくらはぎ”を冷やすということは、単純に考えてみても、体の不調を招く原因をつくっていることになると私は考えております。
また“ふくらはぎ”は特徴の一つとして、感覚的に「冷えていることにあまり気がつかない」ところなのです。そのため、からだの他の部分に比べて“ふくらはぎ”は冷やしやすいということです。その結果、本来冷やしてはいけないところなのに、冷やしてしまいやすく、体の不調を招きやすくなるということです。
―確かに、ふくらはぎが冷えるというのは、あまり表現としても馴染みがありません。
関:更に近年の夏は、毎年全国で最高気温の更新があるくらい気温が上昇しております。私の住んでいる信州においても、私が子供の頃(今から約40年前)は、信州の夏は、扇風機で十分過ごすことができた地域であっても、今はエアコンがないと暑くて過ごしにくい状況です。そうすると、どうしてもからだを冷やすために、肌を露出させる部分が増え、その結果“ふくらはぎ”も露出することが多くなります。その傾向は、女性だけではなく男性も同じです。昔は、男性が街中を“ふくらはぎ”を出して歩いていることは、あまり見かけませんでしたが、現在ファッション的にも男女問わず膝下を露出する服装が多くなってきました。そのため、今までは体を冷やすというが、冬場だけの問題であったのに、現在は、夏場も冷える、つまり、一年中“ふくらはぎ”を冷やしやすい環境になってきているということです。そのため、年間を通して体の不調を訴える方が増えていると、私は考えております。
それを理解していただいた上で、特にふくらはぎを温めることでどんな効果が期待できるかということを、述べさせていただきたいと思います。
第一として、現在いろいろな健康法が世の中で言われておりますが、大切なことは、「老若男女」子供からお年寄りの方まで男女問わず、いつでも、どこでも、誰にでも、簡単に毎日継続してできるものでないといけないと思います。それを考えると、“ふくらはぎ”全体を温めるということは、現実的に素人ではなかなか正確に見つけることができない“ふくらはぎ”の“ツボ”に対する健康法が、簡単にできるということです。特に“ふくらはぎ”には、冷え解消のツボや体の不調の原因と言われている“自律神経”の“ツボ”があるので“ふくらはぎ”を温めることで、冷え症の解消や自律神経のバランスを整えることができます。、それによって免疫力のアップや精神的な面での安定につながり、ストレスの緩和、イライラの解消、不眠症、などの効果が期待できます。
第二に、ふくらはぎは「第二の心臓」と言われるように、全身の約70%以上が集中して、滞りやすいと言われる血液やリンパ液等の体液を、心臓に戻すポンプの働きを持ちます。“ふくらはぎ”を温めることで、冷えて硬くなった血管の柔軟性が上がり“ふくらはぎ”の筋肉をを大きく動かすことができるため、ポンプ機能が上がり、心臓へ戻る血液の流れがより良くなります。その結果、全身の血液循環やリンパ等の体液の循環が改善され、免疫力のアップ、むくみの解消や高血圧、動脈硬化の予防、婦人科系疾患(月経不順、月経痛、子宮筋腫、不育症)ダイエット、美肌効果等の効果が期待できます。
第三に、体温に関しても“ふくらはぎ”を温めると、からだ全身が温まるということがわかっています。実際に、当院で患者様に対しての実験を行いましたが、脚温器を使って(お湯を使わず脚を温める健康機器)“ふくらはぎ”を10分から15分間入れて体温の変化を調べたところ、調べた全員の体温の上昇が確認されました。最低でも0.1℃、最高でなんと1.7℃、平均0.5℃の体温上昇が確認できました。最近のファッションは、上半身はダウンジャケット等で温めていますが、下半身に関してはあまり重要視されていません。ですから、“ふくらはぎ”を冷やすことは、からだ全身を冷やすことになると考えられます。身体が冷えて困る人は、まずは“ふくらはぎ”を温めることが大切です。
―服装的に、どうしても女性の方がふくらはぎを冷やしやすいということが言えると思います。寒い時期にやむを得ずスカートで過さなければならない時の対策がありましたら教えていただけませんか?
関:仕事の環境で、どうしてもスカートで過ごさなければいけないという女性の方は多いと思います。私はそのような方には、ハイソックスやレッグウォーマー“ふくらはぎ”を温める効果のあるサポーターを使用していただき、ふくらはぎの露出を、できるだけ控えていただくことをお話ししております。更に、可能であれば、ふくらはぎにある“ツボ”の中で、私は「三陰交」「懸鐘」というツボに使い捨てのカイロを、靴下の上に貼っていただくこともお勧めしています。
また、ハイソックスやレッグウォーマーやサポーターを職場の環境的に着用できない方は、「ふくらはぎホット」という、体温を反射させてからだを温める効果のある、特殊なシールを「三陰交」「懸鐘」「承山」という“ふくらはぎ”のツボに貼ることをお勧めしております。これは、ストッキングの下に貼れば、ほとんど目立つことがなく、当院での実験では、実際に“ふくらはぎ”の温度が上がり、使用していただいた方からも、冷えが解消されているという声がありました。
また、日中はどうしても何も冷えを防ぐことができないという方は、自宅に帰ってから、レッグウォーマーやサポーターをして“ふくらはぎ”を冷やさないように気をつけることや、脚温器等を使って「その日の冷えは、その日の内に取る」ことが大事になります。
―血行を良くするという意味では、ふくらはぎを「揉む」というのも一つの方法だと思います。関さんが「揉む」よりも「温める」方がいいとされているのは何故ですか?
関:私は、血行を良くするという意味では、「揉む」よりも「温める」方がより効果的であり、簡単であると思っております。しかし、これは実際には、比較されるものではないと思っております。その理由の一つとしては、常に“ふくらはぎ”の血行を良くしておくことを考えた場合、常に“ふくらはぎ”を揉みつづけることは、実際には難しいでしょう。対して、“ふくらはぎ”を温めることは、いつでも誰でも簡単にできることです。
二つ目の理由としては、私も施術の中で、“ふくらはぎ”に対して刺激を加える手技をしておりますが、同じ「揉む」ということをするのであれば、冷えて硬くなった“ふくらはぎ”を「揉む」よりも、温かめて柔らかくなった“ふくらはぎ”を「揉む」方がより効果的なのです。ですから“ふくらはぎ”を温めることは、「揉む」より先にやって欲しいことです。
また、手の小さな女性の方や、握力の弱いお年寄りの方が、毎日自分の“ふくらはぎ”を「揉に続ける」ことは大変だという声もあります。それに比べれば、「温める」ことは、誰にも簡単にできることだと思います。
―顔のゆがみの原因になるというのには驚きました。ふくらはぎの冷えと骨格にはどのような関係があるのでしょうか。
関:人間の頭の構造に関してお話ししておきます。
人の頭は、23個の骨が組み合わさって形成されています。難しいことは省略させていただきますが、その23個の骨は不動のものではなく、呼吸と同じように僅かですが動いています。そして、目はいつも床と平行になるように保とうとしています。これを覚えておいてください。
ふくらはぎの冷えと骨格の関係ですが、人の体を支える一番の下は足の裏です。その足の指を動かす筋肉も、土踏まずを安定させるための筋肉も、ほとんどが、実は“ふくらはぎ”の筋肉です。筋肉には、浅いところにある筋肉と、深いところにある筋肉があります。“ふくらはぎ”に関しては、浅い所にある筋肉は、内・外側腓腹筋、ヒラメ筋(=下腿三頭筋)などで「アキレス腱」の元です。これらの筋肉は、足首を動かしたり膝を曲げる時に働きますが、これらの筋肉の下層にある、深い所の筋肉は、足の指を曲げたり、足首の捻る時に使われます。ふくらはぎが冷えてこれらの筋肉が硬くなると、「伸縮運動」がうまく行われなくなるわけですが、左右同じ様に硬くなれば問題ありません。ただ、まずそのようなことはなく、左右の違いは必ず起こります。実際に、当院に来院されている患者様の足首の硬さも、左右の比較をしてみると、症状が重い方ほど左右の硬さが違います。
足首の左右の硬さが違うということは、体を支える足裏のバランスが崩れることになり、その結果骨盤の歪み、背骨の歪みが起こります。家で例えると、土台が崩れると柱がゆがむということになります。建築物であれば崩れてしまうところですが、人はバランスを保とうとします。どこで、バランスを保とうとするかというと、首を傾けて頭の位置を調節するわけです。
ここで、初めにお話をさせて頂きました頭の構造を思い出してください。
首を傾けてバランスを取ろうとしても、目はいつも床と平行になるように保とうとします。首が傾いたまま目だけ床と平行になった姿を想像してみてください。傾いた首を元に戻したら、目の高さが左右違うことになります。これが、顔の歪みです。
逆に、顔のゆがみのある方は、身体の歪み(背骨・骨盤)も必ずあると思ってください。
―ふくらはぎを冷やさない生活習慣としてどのようなものが挙げられますか?
関:まずは“ふくらはぎ”を露出しない服装をすることです。現実的には難しいこともありますが、大切なことは「意識する」ことだと思います。また、冬はそのようなことはありませんが、夏になると、夜寝る時に短パンを着用したり脚を布団から出して寝たり、布団をかけない人がいます。また、エアコンも使って部屋を涼しくして寝る人もいます。その結果、朝方になると寒くなって目を覚ますことがありますが、これは、体全体がかなり冷え切ってしまった状態です。その結果、体調不良を起こしやすくなります。
「頭寒足熱」といわれる通り、夏であっても脚は冷やさない方が良いです。暑い時でも、スウェットパンツのように“ふくらはぎ”が露出しないように、夜中にパンツの裾が上にめくれないような服装で寝てください。また、頭の部分は、氷枕等冷却枕を使用されると、良く眠ることができます。
―また、ふくらはぎは可能であれば一日中温めているほうがいいのでしょうか。温めるべきタイミングなどがありましたら教えていただければと思います。
関:私の接骨院受診されている患者様には、“ふくらはぎ”は、一年中冷やさないように、入浴時以外は常に、サポーターの装着を積極的にお勧めしております。実行していただいている方からは「もう、手放すことができません!」「サポーターをはめていないと落ち着かない」というくらい、温めることは気持ちもいいものです。
都市部のように夏場かなり暑いところで生活している方でも、サポーター等を可能な限り冷やさないよう装着していただくことをお勧めします。
―本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?
関:この本は、前著『「ふくらはぎを温めるだけ」で全身健康になる!』(講談社:2011年7月出版)をベースに、新たな情報や患者様の体験談等を加筆したものです。前著は活字が大きかったこともあって、比較的年齢の高い層の方々に読んでいただいた傾向がありますが、本書は、文庫本ということで、通勤の電車や待ち合わせの時に気軽に読める、ということでより多くの方に読んでいただけるのではないかと思っています。値段も手ごろですしね。
特に、これからお母さんになる、若い女性の方々に、是非読んでいただきたいという思いがあります。“ふくらはぎ”を冷やすということの怖さ、“ふくらはぎ”を温める大切なことを、若い年齢の内から知っていただきたいと思います。
“ふくらはぎ”を冷やすことで起こる体の不調は、冷やしてすぐ出るものではなく、時間の経過とともに積み重ねで起こるものが多いものです。ですから、今のうちにぜひ読んでほしいですね。
―最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いできればと思います。
関:この本を読んでいただき“ふくらはぎ”を温めることの重要性を感じていただいた方は、あなたの大切な人に、是非そのことを伝えてください。
私は“ふくらはぎ”を「福良入氣」と書いて説明しています。これは、私の作った造語であり、実際にはこの様には書きませんが、「良い氣を入れることで幸せ(=健康)になる」それだけ大切な所だと思っております。
また、「足を冷やしてはいけない」といわれる「足」は、これからは、“ふくらはぎ”から下の部分であるということを、世の中の常識として伝えていってほしいと思います。
1964年、長野県に生まれる。せき接骨院院長。ぴゅあスリムプロポーション矯正センター院長。 健康管理士一般指導員、介護予防運動指導員、姿勢教育指導士。日体柔整専門学院卒業後、柔道整復師資格取得。 東京都内の接骨院での約6年間のインターンを経て、1990年10月、長野県岡谷市でせき接骨院を開業する。 その後、スパイラルテーピングバランス療法、カサハラ式フットケアバランス療法、醫王堂無血療法(カイロプラクティック)、 各種整体、気功、エネルギー療法等を学び、現在は筋骨格のバランス療法と独自の検査法を組み合わせて治療を行っている