新刊JP FEATURING 「上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか?─人材流出時代のマネジメント戦術─」松本順市

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「上司はなぜ部下が辞めるまで気づかないのか?─人材流出時代のマネジメント戦術─」著者・松本順市氏

1956年、福島県生まれ。中央大学大学院中退。大学3年生より株式会社魚力(現在東証2部)にアルバイトとして入社。4年生より社長室担当となり、社長の参謀役を務める。大学院中退後に社員となり、社長の強い希望により労働環境の改善に取り組む。いわゆる「3K」産業と呼ばれる魚屋の業界にあって、業界初のサービス残業なしの週44時間完全週休2日の勤務体制を実現。社員の成長を支援する人事制度を構築し、定着率を飛躍的に向上させた実績を持つ。結果として同社は、30年連続増収増益、東証2部上場にいたっている。

現在は、人事コンサルタントとして、社員が成長する仕組みづくり(人事制度)支援のために日本中を飛び回る。平成10年には「新・人事制度研究会」を立ち上げ、中小企業に人事制度づくりノウハウの提供を開始。平成19年までの4年間で251社の企業の人事制度づくりを支援して日本最大級の規模に。人事コンサルティング業界では日本で初めて満足保証(返金保証)をつけた。

一般に言われている成果主義の弊害を排し、社員を育て成果を向上させるノウハウをまとめた著書『成果主義人事制度をつくる』が大好評。賃金を決めるためだけの評価から社員を育てるための評価へと変革を促し、数多くの経営者の支持を受けている。

株式会社多摩研 http://www.1ess.com

-最初の質問なのですが、この『上司はなぜ部下が辞めるまで気付かないのか』を出版されたきっかけとは一体どんなことだったのでしょうか。
松本 これは話してしまうと相当長くなるので、まとめて短く説明していきましょう(笑)。以前、私は『成果主義人事制度をつくる』(鳥影社)という人事制度の本を出版したことがあるんです。その本を書いていた当時、成果主義というのが企業にどんどん導入されていた時期でもあって、私はその成果主義に対して警鐘を鳴らす意味で、その本を出版したんですよ。
ところが、成果主義は成果主義なんですよね。「成果主義の松本」と言われてしまいまして。まぁ、そういう風に言ってくるのは、その本を読んでいない人なんですけども(笑)、これはあまり良くないということで、正しいメッセージを送らなければいけないと思ったのが、今回出版した本を書くきっかけです。
だから、本当は人事制度の本を書く予定だったんです。ただ、私が考える人事制度というのは「人事制度は社員を成長させる仕組み」なので、そうならば、その「人を成長させること」、つまり、「社員を育てること」をテーマとして書いていくととっつきやすくなるんじゃないか、と。人を育てることを考えない企業はありません。だから、そういう意味で言ったら人を育てるテーマって非常に大きいじゃないですか。こうしてテーマをしぼっていきました。
-人を育てるというところでは、今、企業で研修制度を敷いてカリキュラム立ててやっているところもありますよね。そういう教育制度から起こる弊害みたいなものもあるんですか?
松本 研修自体は弊害や軋轢を生むことはないと思います。ただ、研修の目的を明確に示している企業は意外と少ないですね。社員に対して、「研修することによってあなたは成長するよ」って言ってるのでしょうけども、実際は研修受けたからといって成長したことは分からないじゃないですか。
私は「成長シート」(→http://www.1ess.com/masterpack/mp01.html参照)というものを提案しているんですが、そういう、自分がこれからどう成長していけばいいのかという可視化されたものがないと分からないし、自分がどこまで成長したかも分からないままなんですよね。だから、明確になっていて、「こういうことを期待しているんですよ」ということが示されれば、その研修の必要性も理解されやすくなるわけです。
研修の目的が明確になっていないという実態があるので、研修を受ける側は「やらされている」という感覚に陥りやすくなりますよね。どうも、企業側で考えていることと、研修を受ける社員のニーズや問題点っていうものがマッチングしていない。企業はもうそういうものは当たり前だっていう意識があって、いろんなことをやるんでしょうけどね。
-この本を出版してから1ヶ月が経過しましたが、どのような反響が寄せられていますか?
松本 ユニークな表紙のおかげなのかも知れませんが、若い方々がずいぶんと読んでいるという感じがしますね。若い方で、あまりマネジメントとか管理っていうことについて学んだりしたことがない。けれど、部下がいて、悩みを持っているという方々ですかね。そうした方々が、どうしたらいいかなと考えたときに、この本を購入して、難しくないことが分かった、と。
上司になるというのは良いことがある反面、大変だなぁと思う面もあるわけですよ。そういうことを担っていくのは辛いという思いもされてきたのでしょうけど、実はそういうことをしながら自分を成長するってことが分かった、という若い方々たちの声が聞けましたね。
-それは、上司初心者の若い方々たちが、人事制度というと近寄りがたいけど、こういうテーマで書いた本が出て、心構えだとか部下とどう付き合えばいいのか、という悩みにやっと答えてくれる本が出たというところでしょうかね。
松本 そうだと思います。実はそういう方々に対しても出されている本もあるんですよ。マネジメントの本もあるので、読まれるんでしょうけど、相当難しいことを言っていますし、とっつきにくいところもあるしょう。ましてや知識技術が相当必要なときもある。
一方で、この本は読んだら今すぐ出来そうなことが書かれているんで、受け入れられているというところなんでしょうね。
-この本を執筆するにあたり、工夫した点はありますか?
松本 上司と部下の関係で内容を進めるのであれば、「マネジメント」という言葉が必要になってしまうんですが、そうすると、なんか専門的な力が出てきてしまうというおか、どうしてもとっつきにくさが出てきてしまうんですよね。だから、できるだけ難しい言葉を使わないで伝えていくということを考えました。
また、特に上司になったばかりの人含めて読んで欲しいという想いがあるんですよ。そうすると、想定する読者の範囲が広くなりますよね。だって、新人の上司からベテランの上司までいるわけですよ。新人だけではなく、ベテランの上司が読んでも、自分のやってきたことを振り返れるようにしないといけない。だから、分かりやすくするとともに、どのような事例を使うかというのは工夫しましたね。
-ちなみに書き終わるまでどれくらいの期間かかりました?
松本 構想が大変でしたね。半年くらいかかったはずです。でも、書き始めてからは3ヶ月くらいです。いろんな仕事の合間をぬって書かないといけないので、大変でしたね。
-では、内容に入っていきます。まずは、この本の概要を簡潔に教えてください。
松本 組織の中には2:6:2っていう原則があるんですよ。これは、優秀な社員が2割いて、まあまあの社員が6割いて、駄目だっていわれる社員が2割。これで上司って意外と悩んでいるんです。優秀な社員は良いんですが、優秀じゃない社員がいたりして、なんとかその社員を成長させようとして叱咤激励したりする。
この、2:6:2の原則というのは、実はどんな企業…一流企業でも、中小企業にもあります。それは何故かというと、組織の中で勝手に作っている原則なんです。それは何で作られているかというと、「成果」です。「成果」をあげれば優秀だと思っているし、「成果」あげなければ駄目になると思っているんです。で、その「成果」自体も絶対的な数字ではなくて、相対評価になります。だから、2:6:2に分けることが出来るんです。
で、この原則に基づくと、「成果が低い」といわれている人たちが成長できない環境が生まれます。だって、「お前は駄目だ」って言われるわけですよ。レッテル貼りですよね。駄目だって言われたら、本人も卑屈になってしまいます。
でも、私は成果のあがっていない人は駄目かというと、絶対的な駄目な社員はいないと思うんですよ。だから、どんな社員でも、誉めてください、認めてくださいという話をするんです。そのとき、必ず言われるのは、「こんなに成果が低いのに認められるわけがないでしょう!」という言葉です。
私が申し上げているのは、「成果の部分が低いというところで認めなさいというのは無理な話です。成果の低い人も何かの部分で小さな成長をしてるんです。それを認めてください」ということなんです。その小さな認めれば、間違いなく成長するんですよ。だって認めてもらったわけですから。誰でも他人から認められたいという想いを持っているわけですけども、認められてないから伸びないんです。
どんなに小さな成長でもいいから「あ、こういうことも出来るようになったね」とか「こういう工夫してきて、すごいじゃない」と言ってあげる。そうすれば、「あ、これでいいんだ」と認められたと思うので、自分で頑張ろうという気持ちになる。成果じゃ分かりませんから。プロセスを見てください、と。上司はプロセスを見ることが仕事だと思います。
そうすることで、全社員が成長していく。私は、全社員成長するように組織にして欲しいんですよ。「何かの縁で集まった企業という組織の中でともに成長することを感じてもらうためには、優秀な人も優秀じゃない人も成長していきましょう」、と。特に、成果をあげられない人たちは、なぜ成果をあげられないかというと、そのやり方を知らないからなんですね。だから、優秀な人たちが持っているやり方を共有化することが必要になります。
それを阻害してしまったのが成果主義なんですよね。成果主義は相対評価なので、優秀な人にとっては出来ない人がいたほうがいいわけです。そしたらやり方を教えなくなるわけですよ。
でも、それでは組織全体の成果をあげることは出来なくなるので、やり方をどんどん教えて共有しましょう、と。ただ、日本には教えることに対しての評価ってないんですよ。だから、会社側の仕組みの変化も必要だなぁということは思って書いたんですけどね。
-本の内容について、松本さんの人生経験がとても反映されていると感じたのですが、こういう人材育成を考えたのはいつ頃からなのですか?
松本 これはですね…20代の頃、採用やっていた時期がありまして、そのときに受けにくる人受けにくる人、意欲を持って会社に務めたいという人がほとんどいなかったんですよ。普通の会社だったら、自分をアピールするじゃないですか。でも、「仕事はなんでもいいです。金さえもらればなんでもいい」みたいな、意欲面に関しては全然ない人が集まってきていたんです。そうなると企業って成長しないじゃないですか。でも、会社の組織でやっている以上は採用し続ける必要があるわけですよ。
ところがですね、よその会社で、2:6:2の原則で下の2割の人しか来ないわけですけども、不思議なことに、そういう人たちが来ても中には成長する人が出てくるんですよ。
「なんでそんな人間って変わるのかな」と思っていたら、実は、今までの会社では認められてなかった、と。下の2割ですからね。でも、うちの会社に入ったら、また2:6:2の中に入るわけですよね。つまり、下の駄目だと2割が集まって、その中でまた2:6:2が出来るんですよ。そこで、上の2割になって認められると、変わるわけですよ。
きちんと認めてあげるということができれば、その人自身が内発的動機付けといって、内側からやろうという気になって、どんな難しいことでも挑戦していくことがわかった。だったら、人材育成っていうのは、研修とかはもちろんやらなければいけませんが、その前に心構えに持っていかせると、難しいことじゃないんだ、と。それをまざまざと感じさせられましたね。
-本書で「ワクワクする」という言葉がよく出てきていて、本の中で一つのキーワードなのかな、という気がしたのですが、松本さんのご自身の経験の中で、もっともワクワクしたことはなんでしょうか?
松本 一番ワクワクしたのはあれですね。この本にも書いてあるんですけど、私が駅ビル店の店長だったとき(著者は株式会社魚力に勤めていらっしゃいました)に、完全週休5日制で、サービス残業なしの店舗の1号店を達成したことです。多くの店はサービス残業なくすってことで取り組んでいらっしゃったんですけど、結局理論じゃないんですよ。現場の仕組をどう変えていくかということなんです。
小売業でサービス残業なしでやっているのはそう多くないと思います。その中で、嘘偽りなくやっていくっていう仕組みを作っていって、「いよいよ今日から週休2日制、サービス残業なし始めます!」と宣言した初日ですね。朝一番、つまり早番できた社員が午後5時に帰るわけですよ。その時間帯は、お客さんがごった返していて、猫の手も借りたいという状態なんですけども、「もう早番の人はあがってください」、と。で、魚屋っていうのは大体地下にあるんですよ。そのため、早番の人たちは朝、暗い時間からお店に入って、太陽から沈んでから帰るというのが普通になるんですよね。でも、帰る時間が午後5時だとまだ太陽が昇っているんですよ。で、早番の人たちが戻ってきてこう言うんですよ。「太陽が眩しい」って。
これはすごく嬉しかったですね。結局、週休2日制できた理由は、店長の私自身が優秀だったわけでは全然なくて、現場のことを現場の人たちが考えながら仕事したからだと思います。こうすればもっと楽になるだろう、生産性が上がるだろう、と。現場の人たちが考える楽しさってあるじゃないですか。で、自分たちで仕組みをつくっていく。皆でいろいろアイデアを出し合って、つくっていく。そうすると、みんな楽しそうに仕事するんですよ。だって、考えて仕事するって楽しいじゃないですか。そういう楽しんで仕事する姿を、店長として見ているのはワクワクしましたね。皆がワクワクして仕事できるようになった、というのはとてもワクワクしました。そうすると、人間関係も良くなるし、欠勤や遅刻もなくなるんですよね。
-この本でもっとも読者に伝えたいことはなんですか?
松本 上司という仕事は大変な仕事だと思います。今までは自分で成果をあげて、高い成果を上げて、優秀な社員だと言われてきたことでしょう。でも、上司になると、成長にしていない人たちが部下になるわけですよね。そういう人たちを育てないといけない。名選手なので名監督になれない可能性があるんですよ。つらいんですよ。「なんでこんなことできないのかな」と思うこともあったりすると思うんです。
でも実は、上司という人たちはその組織の中で実は次のステージにはいったということなんですよね。自分で喜ぶという段階から部下を育てて喜ぶという段階に入ったんですよ。辛いかもしれませんけども、大変なあることもあるかも知れませんけども、是非、そのやりがいのある仕事をこなしてもらいたい、と。育てることを楽しんでもらえませんか。上司という仕事、立場を楽しんで欲しい、これが一番伝えたいメッセージですね。
-最後に、新刊JP読者の皆様へのメッセージをお願いします。
松本 まず、上司ではなく、部下の立場にいる人たちに対してであれば、どの会社でも共通なことなんですが、1人前になるための年数ってあるんですよ。この会社だったら何年というのがあるんですが、それをまずは確認してもらって、一歩一歩成長してもらいたいと思います。焦らないで着実に成長してもらいたい。
次に20代で上司になる人もいると思うんですよ。で、上司になった人にお願いしたいことは、上司ってガンガンと部下を引っ張っていくイメージがあると思うんですよ。強力なリーダーシップを発揮するというような。
「リーダーシップを発揮する」とはどういうことかというと、部下の人たちを引っ張っていける、自分の考える方向に進ませることだとすると、実はぐんぐん引っ張る必要ないわけですよ。部下に一番影響を与えることは、相手のやっていることを認めるということなんです。認めてくれた人の言うことは聞くんです。認めてもらってくれているわけですから。一方的に叱ることばかりだと、その人の話を聞きたくなくなるんですよね。認めることは最初はハードですが、部下を認めて、良いリーダーシップを発揮して下さい。
-ありがとうございました!
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