だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1595回 「「中国の終わり」のはじまり 〜習近平政権、経済崩壊、反日の行方〜」

本書は、習近平新政権下における、中国経済の問題を読み解く一冊。2012年11月、胡錦濤、温家宝ら、第四世代の指導者が引退し、習近平が総書記に就任しました。この交代によって中国という国家はどうなっていくのでしょうか。「中国経済の今後」「反日の行方」「米中衝突」などの問題について、黄文雄さんと石平さんが、対談形式で論説を広げていく一冊です。

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概要

こんにちは。ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

今回ご紹介する本は、習近平(しゅうきんぺい)新政権下における、中国経済の問題を読み解く一冊です。

2012年11月、胡錦濤(こきんとう)、温家宝(おんかしょう)ら、第四世代の指導者が引退し、習近平が総書記に就任しました。

この交代によって中国という国家はどうなっていくのか、「中国経済の今後」「反日の行方」「米中衝突」などの問題について、黄文雄さんと石平さんが、対談形式で論説を広げていく内容となっています。

◆著者プロフィール 黄文雄(こう・ぶんゆう) 1938年台湾生まれの方で、1964年に来日し早稲田大学商学部卒業、明治大学大学院修士課程修了。台湾で出版された『中国の没落』が大反響を呼び、現在は評論家として、日・中・韓など、東アジア情勢を文明史の観点から分析、研究されている方です。

石平(せき・へい) 1962年中国四川省に生まれ、北京大学哲学部を卒業。卒業後は同大学の講師を経て、1988年に来日し、95年神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。中国情勢や政治状況の分析を行い、著書は、『なぜ中国人は日本人を憎むのか』(PHP研究所/刊)、『私はなぜ「中国」を捨てたのか』(ワック/刊)などあります。2007年に日本に帰化され、日本を活動の場としています。

経済衰退と共産党政治の維持

まず、対談の中でお二人の意見が一致したのは、「日本人の中国観」でした。

日本人の中には、“これからは中国の時代だ”(つまり、「期待」している)と考える人がとても多いそうですが、“それは幻想である”と言うのです。

石平さんは、中国経済の実態を例に挙げながら、「経済の全体的衰退はすでに始まっている」と説明しています。

たとえば、中国メディアの報道によると、中国の輸出向け製造業の一大生産基地である浙江省(せっこうしょう)の温州市(おんしゅうし)では、現在、約4000社ある民間製造業の60%が操業を停止しており、すでに倒産したか、倒産寸前の状態に追い込まれているのだそうです。

また、公共事業投資の目玉の一つである鉄道建設は去年に比べて4割の減少、加えて不動産バブルの崩壊により、それに支えられる形で伸びていた鉄鋼産業、セメント産業、家具・内装産業も一気に冷え込み、鉄鋼メーカーの利益は前年同期比では95.8%以上の減少になっているそうです。

当然、全国的に大規模なリストラが発動され、社会問題となっています。

こうなってくると、人民の不安は積もり、危ぶまれるのが「政権の維持」です。

毛沢東時代までは、経済不安は政権を崩壊させるほどの問題ではありませんでした。

なぜなら、中国の政治は、経済と違うところで正当性の根拠があったからです。

中国の歴代皇帝は、天命によって地上の支配を託されたという「天命論」で権威を正当化し、維持してきていました(民主的に選ばれた指導者ではない)。

しかし、現代にはそういった神通力は通用しません。

文化大革命以降、外国資本を取り入れて経済を回すようになると、情報の遮断もプロパガンダも威力を弱め、ついには民主化を要求して起こった天安門事件以降は、誰も中国共産党の革命理念を信じなくなりました。

そうすると今の政権は、経済を成長させて正当性を維持させる他なく、経済崩壊だけは絶対に起こしたくないというのが中国政府の本音なのです。

中間所得層が薄い

小平(とう しょうへい)が、改革開放政策で外国から大量の資本と技術の導入を推し進め、経済成長の起爆剤にしました。

これにより、社会主義の中国で資本主義の資本が猛威を振るうことになりました。

その一例が、中国の安い労働力を武器にした加工生産業です。

外国資本がこのモデルに目を付けると、中国国内の企業もそれに倣って輸出型産業をつくり、経済の成長は外資頼りになっていきました。

中国経済の輸出に対する依存度は数字にして、2006年の段階で37%と、GDPの4割を輸出で稼いでいる割合です。

これは輸出立国と言われる日本の2倍近くになります。

当然、中国経済は、他国の経済状況に左右されることになるわけです。

外資依存度が高いのはそれとして、経済成長とともに内需は伸びたのか、というところが一つ気になる点だと思います。

「中国には13億人もの人民がいるから、そのマーケットの将来性は非常に大きい」という意見もありますし、中国政府も昔から内需拡大を掲げていました。

石平さんは、中国の内需拡大は基本的に不可能だと考えていると言います。

その理由としては、中国の富は全部、一部の人々に集中してしまうからです。

日本と中国の富の分配を考えるとこうなります。

日本には分厚い中間層がいますが、一方中国には中間層はほとんどいません。

GDPに占める個人消費の割合は、日本はだいたい60%です。

つまり、日本経済の6割は国民の消費で支えられています。

一方、中国は、2010年で約34%しかないのだそうです。しかも、その割合は年々減少しています。

富を得た一部の人々、たとえば現在の中国共産党内部には、巨万の富を築いた役人はたくさんいるそうですが、彼らは「証拠隠滅」のためと、中国国内では政治リスクによっていつ失脚するかわからないため、貯め込んだ富を外国に持ち出すことを考えるそうです。

たとえば、最近、薄熙来(はくきらい)という共産党の高級幹部が失脚しましたが、彼の奥さんは権力をバックにして、60億ドルという巨額の蓄財をしていたそうです。

これを海外に持ち出せば当然、内需拡大にはつながりません。

仮にこの60億ドルが、60万人の中国人に分配されていれば、莫大な内需拡大につながるはずです。

まとめ

今回取り上げた話題の続きでは、「中国はなぜ安定社会を築けないのか」「中国人に染みついた統一観」というトピックで、中国の文明史から見出される国民性や宗教観について掘り下げられています。

なかなかお二人の主張が強烈なので、新刊ラジオではお話しできない部分もありました。

続きはぜひ本を手にとって読んでみてください。対談形式の読みやすさも手伝って、面白く、ためになる一冊です。

「中国の終わり」のはじまり〜習近平政権、経済崩壊、反日の行方〜

「中国の終わり」のはじまり 〜習近平政権、経済崩壊、反日の行方〜

「中国の終わり」のはじまり 〜習近平政権、経済崩壊、反日の行方〜

本書は、習近平新政権下における、中国経済の問題を読み解く一冊。2012年11月、胡錦濤、温家宝ら、第四世代の指導者が引退し、習近平が総書記に就任しました。この交代によって中国という国家はどうなっていくのでしょうか。「中国経済の今後」「反日の行方」「米中衝突」などの問題について、黄文雄さんと石平さんが、対談形式で論説を広げていく一冊です。