だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1574回 「ビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる」

全世界で800万部を突破したビジョナリー・カンパニーのシリーズ第4弾。今回は不確実とカオスの時代を生き抜く「10X型企業」を発見し、その調査分析を行っています。インテル、サウスウエスト航空など、おなじみの企業も出てきますよ。

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概要

こんにちは。ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

世の中、“不況”“不景気”と言われて久しいですが、こうして不景気が続くと“自分が成功しないのは世の中が悪いからだ”なんて、思ってしまいます。

しかし、本を読むたびに“不景気”というのは“気”だから、自分が気を強く持っていれば、きっと成功するはずだ!と、歯を食いしばって頑張っている毎日です。

不況・不景気を紐解くと、何も近年ばかりにあるわけではなく、昔から好景気と不景気の波が繰り返されてきました。

その昔、不景気の頃に当時を生きた人は、今のように苦労してきたのでしょうか。

もちろん会社が倒産したり、家族が路頭に迷ったり、本当に悲惨な目に遭った方もいるかもしれませんが、そんな不景気の世の中においても成功、成長している人や会社、組織というのはあるんですよね。

今回は、そんな逆境を生き抜く法則を教えてくれる、「ビジョナリーカンパニー」の新刊をご紹介しましょう。

◆今日の一冊 『ビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる』 (ジム・コリンズ モートン・ハンセン/共著 日経BP社/刊)

著者はお馴染みジム・コリンズ。 今回は教え子のモートン・ハンセンとの共著で本書を執筆されています。

◆ビジョナリー・カンパニー・シリーズについて

いずれも膨大なデータを元に調査分析をして、そこから選抜された「偉大な企業」の分析結果を一般の人にも分かりやすく述べている本です。

『ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の法則』 生き残る企業は基本理念が一貫しており、かつ優れている(=ビジョナリーカンパニー)という事に着目し、GE、ソニー、ウォルマートなどの企業を例として取り上げています。全世界で350万部売れた名著です。

『ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則』 飛躍する経営者はこういう人だ! と、この本は、リーダーシップ、人材戦略、企業文化に焦点を当てて分析。取り上げた企業は. ジレット、フィリップ・モリス、キンバリー・クラークなど。この2作目には、あまり目立つことのない地味ともとれる企業の優れた点が述べられているのが特徴的です。内容においても人間主義の面が濃くドラッカー好きな人はストンと腑に落ちるでしょう。こちらは全世界で400万部売れています。

『ビジョナリー・カンパニー3 衰退の五段階』 一時期隆盛を極めた企業もこういう風に衰退していくと視点を変えて、企業が衰退する際に、どういう段階を経ていくのかを詳細に分析しています。取り上げられた企業はヒューレット・パッカード、メルク、モトローラなど。 ちなみにヒューレット・パッカードは1作目でも取り上げられていますので、絶対的な成功法則というものは無い、という事も分かりますね。

逆境でも成長する企業の特徴

本書は、『逆境の中を躍進する企業はここが違う!』というテーマが扱われています。

前作同様、膨大なデータを分析して不景気や経済不安など困難な環境に置かれながらも、長年に躍進を続けた企業をピックアップし、その特徴と成功のための原則や経営概念をまとめられています。

本書を読む上で重要になる用語があります。

その一つが、「10X型企業」というものです。

10X型企業とは、著者達の研究により選抜された企業で、以下の3つの条件を満たしている企業です。

1)十五年以上にわたって株式市場平均や同業他社を凌駕するなど、真に目覚しい実績をあげ続けた企業。 2)制御不能で急ピッチに変化し、不安定で潜在的に有害であるなど、置かれた環境が非常に厳しいのに1のような実績を達成した企業。 3)偉大な企業へ脱皮する前、つまり10X型企業への旅路を歩み始めた当初は歴史の浅い中小企業であり、経営基盤が脆弱。

簡単に言えば、「10X型企業とは、逆境に逆らって成長し続けてきた、元中小企業」ですね。

この10X型企業として本書で取り上げられているのは、全7社。

アムジェン、バイオメット、インテル、マイクロソフト、プログレッシブ保険、サウスウエスト航空、ストライカー、です。

いずれもアメリカの企業なので、ご存じない方も多いかと思います。

また、ご存知の方の中にも、「え?○○って今落ち目じゃない?」と疑問に思う方も居るかもしれませんが、2012年現在、上手くいっているかは考慮に入れられていません。

調査データ事態は2002年までを参考にされており、2002年時点で、長年躍進を続けている企業が対象にされています。

このあたりが、よくあるHowto経営本と、経営学書の違いですね。

10X型企業は何が優れていたのか

この全8社の10X型企業に、比較対象として同業他社を用意し、それを元に10X型企業は何が優れていたのかを調査分析しています。

章別構成で見ると以下の通りです。

第1章 不確実性の時代に飛躍する 本書の概要、および10X型企業の概要と、その選抜方法などについて

第2章 10X型リーダー 10X型企業の経営者にみられる特徴を述べています。前作の知識・概念も出てきますね。

第3章 二十マイル行進 常に一定の速度で目標達成や企業の成長を続ける10X型企業の特徴について述べています。 ビジョナリー・カンパニーらしい、分析です。 一貫性を持った理念・目標を、いつどんな時でも曲げずに達成し続ける。 苦しい状況に置かれても前と同じハードルをクリアし、楽な状況に置かれても、調子に乗らず、前と同じハードルをクリアする。 結果的に、これが逆境に強い企業を作ったようです。

第4章 銃撃に続いて大砲発射 いきなり大砲を撃つ=大きな勝負を仕掛けるのではなく、まずは銃撃=小さな試みを無数に行ってから、命中した弾丸=企画・商品を大砲に切り替える、という手法です。 いきなり大きなイノベーションを行うのではなく、小さな実験・検証を経て、次第に大きくしていく、といういわば堅実なイノベーション手法を10X型企業はとっていました。

第5章 死線を避けるリーダーシップ 簡単に言うと、リスクを抑える経営手法が語られています。 10X型企業はいずれも用心深く、その上で尻込みする事無く、目標を達成していきます。そのために欠かせないのが、本章に書かれている手法です。

第6章 具体的で整然とした一貫レシピ 3,4,5章を包括的にまとめ上げ、それを経営に活かす方法を教えてくれる章です。 ここでは「SMaCレシピ」と言う概念が出てきます。 企業の戦略、戦術をまとめたレシピのようなものですが、10X型企業は、他の比較対象企業と比べて、このSMaCレシピをほとんど変更してきませんでした。 この一貫性・永続性こそが、逆境の中で偉大になるポイントだったようです。

第7章 運の利益率 僕が言う「逆境」というのは、この本の言葉を借りると、予測不可能・制御不能な変化をし、不確実・無秩序な状況の事です。 まさに今の時代を表しているように感じますね。 そんな中、運というものは、どれだけ作用するのか、なんと、これを分析している章です。 結論だけ言うと10X型企業も幸運・不運の双方に見舞われているのですが、10X型企業でない比較対象企業もほぼ同じ条件でした。 しかし、この運を利益につなげる上手さが10X型企業にはあったのです。

まとめ

本書は経済学書の側面が強く、調査データも1965年頃〜2002年までと、2012年現在から10年前の内容を分析しています。

したがって、本書に書かれている内容を実践すれば、全ての企業がただちに成功する、という物ではありません(どの本も基本はそうなんですが…)。

しかし「不安定・不確実な状況に置かれていても、長年躍進を続けた企業の特徴」という本書のテーマは、多くの経営者にとって有用な知識となるでしょう。

そういう意味では、間違いなく価値ある一冊です。

この本を読む上で、ヘビーな読者の皆さんに是非チャレンジして欲しいのは、要点を掴み取るという読み方です。

本書は一般向けに書かれた経済学書なので、優しい文体である反面、少し冗長になっています。

ページ数も翻訳者の解説と調査手法の説明を合わせれば430pほどと結構なボリュームですが、意外と重要な概念のみに着目して読むとスラスラ読める内容になっています。

重要な概念とは、「狂信的規律」「実証的創造力」「建設的パラノイア」なんですが、まずは1章と2章を読んでみて、肌に合うかどうか、概念を掴めるかどうか、試してみて下さい。

ビジョナリー・カンパニー 4 自分の意志で偉大になる