だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1536回 「気づく仕事」

本書は、大手総合広告会社博報堂のアイデア創出の源泉「気づく力」についてまとめられています。例えば、博報堂の打合せの 7割は雑談で占められているそうです。しかし、博報堂社員にとっての雑談は単なる雑談ではなく、「共同脳空間」と名づけられたアイデア創出の場なのです。このように、外からでは見えない博報堂のアイデア創出の現場や裏側を解説した貴重な一冊です。

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

アイデアを出すときに、困ることといえばどんなことでしょうか。 やはり、アイデアが出ない、出てくるアイデアが面白くない、そんなことでは ないでしょうか。

今回ご紹介する本は、大手広告会社・博報堂の、アイデア創出のノウハウを解説 する内容です。ノウハウというよりは、仕事への向き合い方に近いかもしれません。

より良い発想を考え出したい方は参考にしてみて下さいね。

***

◆今日の一冊 『気づく仕事』 (博報堂研究開発局/著 集英社/刊)

◆この本をひと言でまとめると 「博報堂アイデア会議のノウハウ」

◆著者について 博報堂研究開発局とは、マーケティングやコミュニケーションに関する研究と ソリューション開発を行う博報堂の専門組織。 博報堂社員一人ひとりの「気づく力」「考える力」「生み出す力」を触発し、 それらをどのようにしてうまく活かすことができるのか。そうした視点から、 必要な知見や技術、発想法などを体系的に研究されているそうです。

博報堂が大切にする環境とは?

本書には、博報堂の発想力を生み出している「気づく力」がまとめられています。 本書を読むと、博報堂の仕事のベースは「気づく」ことにあって、それはノウハウ というよりは、博報堂社員に共通する“体質”のようなものだと感じられます。

たとえば、本書に掲載されているある研究機関の分析によると、博報堂の打合せの 7割は雑談で占められているそうです。しかし、博報堂社員にとっての雑談は 単なる雑談ではなく、「共同脳空間」と名づけられたアイデア創出の場なのです。

博報堂の社員たちは、すべての社員が同じ土俵に立ち、自由に対等に互いの「気づき」 を誘発し合うことを求められるそうですが、博報堂のような大きな企業でこのような 体制をとっているのは、「生活者の欲望を探りあてる」ことを大切にしているから なのだそうです。ふつうの人間が出すアイデアだから、ふつうの生活者の潜在的な ニーズにも目がいくし、お互いに「気づき合う」から、ふつうの生活者がまだ気づいて いないことにも、いち早く気づくことができるのです。

では、博報堂が大切にする「共同脳空間」とはどのようなものなのか。 そして、どのようにアイデアを誘発し形作っているのか。

その作法をご紹介したいと思います。

(1)「具体」と「抽象」の往復運動

……「たとえば?」「ということは?」と問うこと。

まず「具体」の例をみてみましょう。

A「PビールとQビールって一見似てるけど、何が違うんだろう?」 B「うーん、味もそんな変わらないけど、何かQのほうが高級感があるんだよな」 A「そう? たとえば、どんなところが?」 B「何となく、Qを飲んでる人のほうがリッチなイメージがある」 A「リッチな人って、具体的に言うと?」 B「たとえば、高級な懐石料理で食事するような。あ、思い出した。  赤坂の懐石料理店でQビール飲んでる人を実際に見たことあるんだよ」

「たとえば」と問い、「たとえば」で答える。 これを繰り返すことで、物事はどんどん具体的になり、あいまいであった認識が明確に なっていきます。今の例でいえば、あいまいだったPビールとQビールの相違が具体化を 重ねることで徐々に見えてきました。

では、次に「抽象」を見てみましょう。

A「そういう高級なお店って、瓶ビールを小さいグラスで飲ませるんだよね」 B「そうそう、お猪口みたいにチビチビと(笑)  たしかにQにはジョッキで飲むイメージがないなあ」 A「ということは、Qの高級感って、ひとことで言うとビールではなく  『日本酒文脈の高級感』ってこと?」

「ということは」「ひとことで言うと」がキーワードです。 いろいろ出てきた「具体」を今度はまとめて抽象化してみるのです。 この例で言えば、「懐石料理」「小さいグラス≒お猪口」「ジョッキではなく瓶」といった 具体を『日本酒文脈の高級感』として、ひとことにしました。

具体化が「異」の発見なら、抽象化はそれらの「異」に共通する「同」の発見なのです。 そして「同」が発見されたとき、視点は大きく移動しているのです。

(2)「主観」と「客観」の往復運動

様々なデータや客観情報を見て分析することは、予測を立てる上で大切なフローです。 しかし、こんなときはどうでしょうか。

たとえば朝出かけるとき、

天気予報を見ると降水確率が10%なのだが、空を見上げるとなんだか雲行きがあやしい。 傘を持っていくべきか否か。

このときの天気予報は、膨大な統計データに基づいた客観情報です。 ですから、10回のうち9回は雨が降らない、というのは統計上の事実でしょう。 しかし、空を見上げると雲行きが怪しいというのは、10回中1回への主観による懸念です。 客観は視野を大きく広げ、事実を正確に知るために不可欠ですが、その事実をどう評価 するかは、主観にゆだねられているのです。

「降水確率を10%しかない」ととらえるか「10%もある」ととらえるか。 同じ客観データでも、主観で検証されることで、まったく違うものに見えますね。 たとえばコンビニに行くだけなら10%しかないなら平気か、となるかもしれませんが、 美容院に行ってセットするつもりなら、同じ10%でも、「10%も!」と見えますよね。

客観データは、主観を持って検証したとき、はじめて価値を成すのです。

◆ まとめ 本書の続きでは、さらに加速して「組織」で発想を誘発し合い、大きな成果を出す ための心得「共同脳空間」についての解説がされています。 博報堂のアイデア創出のヒントというだけでも一見の価値があると思いますが、 それだけに留まらず、そもそも「気づき」とはなんなのか、気づき合う組織とはどのような チームなのか、など、アイデアのテクニック本以上の学びになる一冊でした。

気づく仕事

気づく仕事

気づく仕事

本書は、大手総合広告会社博報堂のアイデア創出の源泉「気づく力」についてまとめられています。例えば、博報堂の打合せの 7割は雑談で占められているそうです。しかし、博報堂社員にとっての雑談は単なる雑談ではなく、「共同脳空間」と名づけられたアイデア創出の場なのです。このように、外からでは見えない博報堂のアイデア創出の現場や裏側を解説した貴重な一冊です。