だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1534回 「幸福論と。」

劇団ひとりさん扮するキャラクター“春樹先輩”が、アランの『幸福論』を読んだらどうなるのか?! 本書は、難解なアランの言葉と、“春樹先輩”がポロリつぶやいた「幸せ」に関する本音を対比させる形で構成されたフォトブック。写真家・飯田かずなのさんの美しい空の写真とともに送る小さな幸せ。

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

「幸福だから笑うのではない。むしろ、笑うから幸福なのだ」 これは、フランスの哲学者アランが書いた『幸福論』に載っている有名な言葉です。 『幸福論』は、生涯、市井の人々に哲学を教え続け、「実践的人間哲学」の新しいスタイルを作った哲学者アランが、「幸福」について記した書です。20世紀初頭、第一次世界大戦の混沌を生き抜いた力強い言葉が集められており、今でも多くの示唆を与えてくれます。

ロングセラーですから、書店で目にしたことがある方も多いはず。 しかし、アランの『幸福論』は実は難解で……気軽に読むにはちょっとむずかしい内容なんですよね。そこで、今回の本をご紹介したいと思います。

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◆今日の一冊 『幸福論と。』 (劇団ひとり/著 飯田かずな/写真 主婦の友社/刊)

◆この本をひと言でまとめると 「親しみやすく読める『幸福論』」

親しみやすく『幸福論』を読み解く

本書は、『陰日向に咲く』でミリオンセラーを達成した、劇団ひとりさん扮するキャラクター春樹が、難解と言われるアランの『幸福論』を読んで感想をこぼす……。春樹なりに考えて出てきた感想や、ポロリとつぶやかれた「本音」なんかを、アランと対比させるような形で構成されたフォトブックです。

「春樹」というキャラクターは、アランほど賢くはなく、どちらかと言うと、人生や物事をあまり深く考えないで、快楽に身を任せるタイプです。しかし、アランの言葉には感じることがあるようで、春樹なりの等身大の言葉で「幸せ」を表現しようします。 春樹の視点や言葉は、生活感に溢れています。しかし、それがかえって親しみすく、日常にあるふとした瞬間にも発見があるのではと考えさせられます。

たとえば、アランが人生の目的について述べている、このような言葉があります。

私の見たところ、しっかりした足どりで出発した野心家たちは、誰もが目的にしっかりたどりついている。しかも私が思ったより早く、その目的地に着いている。彼らは、有益なことはすぐに行動に移したし、自分に役立ちそうな人々なら、かならず定期的に会いに行き、ただ心地が良いだけで役に立ちそうもない連中のことは無視していた。しかし、必要とあればお世辞くらい使うのであった。なにもわたしはそれを非難しているのではない。それは好みの問題だ。ただし、あなたの出世を叶えてくれそうな人に向かって、不愉快な真実をあえて口に出すようなら、「わたしは出世を望んでいた」などと言わないほうがいい。

このアランの言葉を読んだ春樹は、このようにつぶやきます。

この年になって分かってきたのよ 俺も

お得意さんに必要以上に

ペコペコするクリーニング屋の父ちゃん

格好いいんだよ これが

幸福と感じるときとは

また、人はどのように手にした幸福を「幸福」と感じるのか、アランはこのように言います。

なぜなら、そうやって運命について不平を言えば、自分の不幸を大きくし、笑う希望をあらかじめすべて自分から奪い去ってしまい、そのために胃そのものまでいっそう悪くなるであろう。もしあなたにひとりの友人がいて、なにごとにつけて悲痛の思いで不平不満を言ったとすれば、おそらくあなたは彼をなだめ、世の中を別の角度から見させるように努力するだろう。では、なぜあなたは、あなた自身の、かけがえのない貴重な友とならないのか。そうなのだ、わたしはまじめに言っている。もう少し自分を愛し、自分に対して親切にならなければならない、と。

このアランの言葉を読んだ春樹は、このようにつぶやきます。

どうせなら好きになってやらなきゃな

だって生まれてから死ぬまで

俺はこの鏡に映った馬鹿野郎と

ずっと一緒なんだから

ごめんな いつも責めてばっかで

あとでエンゼルパイ買ってやっから

人生と言うものを考えるとき、人はいったいどこまでの未来を見通せるのでしょうか。 アランはこのように言います。

わたしとしては、将来のことなど考えないで、目の前のことだけを予見するほうがはるかにすきだ。わたしは占い師に手相を見せに行かないばかりでなく、物事の本質の中に将来を読みとろうなどと試みもしない。なぜなら、わたしたちがどんなに物知りになれるとしても、私たちの眼が遠く先まで見通せるとは思わないからだ。誰の身の上にも起るものであろうと、重要なできごとはすべて、思いがけないことであり、また、予見できないものであろうと、わたしは気がついた。

このアランの言葉を読んだ春樹は、このようにつぶやきます。

1年後、10年後のことを考えると

いつだって答えは

「よし。だからこそ今がんばろう」

ってなるんだよ

「よし。それなら今は適当に」

って絶対ならない

だったら何も考えないで

とりあえず 美幸ちゃんのとこ行ってくるわ

まとめ

いかがでしたか? アランの『幸福論』からの言葉と、劇団ひとりさん扮する春樹から出てきた言葉、2人の言葉を対比させて読むことで、読者もいろんなことを思うはずです。

やはり、アランの言葉は難しいのですが、春樹はアランを読み解こうとするのではなく、無垢な視点で感じるままに受け取っています。つぶやかれる言葉は、気取らないシンプルなものや、ちょっぴりおバカな言葉で、それが妙に心に残り、「幸せ」について考えさせられます。

アランの言葉は、「幸せになる方法」というよりは、「不幸にならない」という方向からの教えなので、読む人によってはすこし疲れることもあるとおもうんですね。そこを、春樹のおかしくも無垢な感性から発せられた言葉が中和してくれて、読みやすくなっていると感じました。本書を読んで、あなたは何を感じるのでしょう・・・。

幸福論と。

幸福論と。

幸福論と。

劇団ひとりさん扮するキャラクター“春樹先輩”が、アランの『幸福論』を読んだらどうなるのか?! 本書は、難解なアランの言葉と、“春樹先輩”がポロリつぶやいた「幸せ」に関する本音を対比させる形で構成されたフォトブック。写真家・飯田かずなのさんの美しい空の写真とともに送る小さな幸せ。