だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1533回 「富と幸せを生む知恵」

“日本の近代資本主義の父”と称される実業家、渋沢栄一。本書は、氏の名著『青淵百話(せいえんひゃくわ)』の中から、「富」と「幸せ」というテーマにそって項目を精選し、平易な表現にしてまとめられた一冊です。没後80年を迎える今も、現代経済に多くの影響と示唆を与え、多くの経営者が座右の本にしている書物の現代版です。

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

今日は、渋沢栄一さんの本をご紹介します。

「日本の近代資本主義の父」とも称される名実業家。 没後80年以上が経った今でも、敬愛している人は多いのではないでしょうか。

渋沢さんは坂本竜馬と同世代の人物で、何も無い時代の日本に資本主義を興した 人です。当時と現在を比べると、当然会社の戦略・戦術は変わっていますが、 経営者として大切なこと、根源的な哲学は今も色褪せることはありません。

今回は、明治時代の名著を現代語訳してまとめた本のご紹介です。

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◆今日の一冊 『富と幸せを生む知恵』 (渋沢 栄一/著 実業之日本社/刊)

◆この本をひと言でまとめると 「日本資本主義を根付かせた名実業家の言葉」

◆著者について 渋沢栄一さんは、「日本の近代資本主義の父」と称される実業家。 日本初の銀行である、第一国立銀行をはじめ、王子製紙、日本郵船、東京ガス、 帝国ホテル、など、生涯で500以上の企業設立にかかわり、約600の社会や 公共事業への支援、民間外交に尽力してきた方です。

金はたくさん持つな、仕事は愉快にやれ

本書は、明治45年に刊行された、渋沢栄一さんの著書『青淵百話』(せいえんひゃくわ) の中から、「富」と「幸せ」というテーマにそって項目を精選し、平易な表現に して一冊にまとめられた本です。

この本の発刊向けて、元トリンプ・インターナショナルジャパン社長の 吉越浩一郎さんがメッセージを寄せています。

「技術面・情報面でのすさまじい変化、それに伴うほころびの拡大。だからこそ、  今の私たちに求められるのは、より深い人間性であり、精神性の向上なのでは  ないでしょうか。渋沢栄一の教えは、それらを考え直す意味でとても深い  示唆を与えてくれます」(10ページより)

技術だけが進んで、精神的なものがないがしろにされている、現代の経済社会を 憂いでいるのです。そして、“今こそ新しい時代の渋沢栄一が必要” “本書を読んで、日本を復興させる知恵と力と勇気を感じて欲しい”としています。

渋沢さんの著書『青淵百話』は、「道徳経済合一説」という、「倫理と利益の両立」の 考えをもとに書かれています。

それでは本書から、現代の経済社会に忘れられがちな、倫理観を持って社会貢献 するための働き方を思い起こさせてくれる言葉をご紹介しましょう。

●金はたくさん持つな、仕事は愉快にやれ 渋沢さんは実業家でありながら、“大金持ちになるのは悪だ”という考えを 持っていたそうです。人の欲望には際限がなく、小金が貯まると更に大きな財産を 求めようとします。しかし、日本国内においては大富豪である三井・三菱も、 米国のカーネギーやロックフェラーに比べたら足元にも及ばないレベルです。 そう考えると、いくら金を貯めて富豪になったところで、世界中の金を独り占め できるわけでもないし、それが社会万民の利益になるわけでもありません。 渋沢さんはこのように言います。

“こんな無意味なことに貴重な一生を捧げるなど、ばかばかしいかぎりではないか”

“「富を積む」という際限のないことに一生を費やすより、  自分の学問・知識を活用し、生きがいのある働き方をして一生を過ごすほうが、  はるかに価値のある生涯を送ることができる”

と言っています。

「道理」に外れない選択

●揺るがない「人生の物差し」を持つ 物事を精神的に判断するとき、「道理に通っているか」ということを意識することが あると思います。たとえおいしい儲け話でも「それは道理に通っていないから やってはいけない」と判断されることがあるように、「道理」にはなかなか深遠な 力があります。

この「道理」を、渋沢栄一さんが要約すると、「人間の踏み行うべき筋目」と なります。人間は、すべての行動を「道理」に当てはめてみて、これに適応しているか どうかを判断し、決定しています。

では、どうすれば「道理」に外れない選択ができるのでしょうか。 それは、平素の心がけを善くして、広く学んで事の是非を知り、 七情(喜怒哀楽愛悪欲)の発動に対して一方に偏らないよう努めることが一番 だと、渋沢さんは言います。そして、とりわけ、知を磨くことが一番であると いいます。 カッとなり、激昂したときなどは、道理を踏み外しガチなので、注意が必要そうですね。

●功名心は、善にも悪にも作用する 仕事をする上で、「評価されたい」「認められたい」という欲求は、良い仕事を するためのモチベーションに繋がるのではないでしょうか。渋沢さんは、人生に 欠かせないものの一つに、「功名心」というものを上げています。 そして、“功名心には、常に「道理」が伴わなければいけない”と言っています。

儒学者の中には、「君子賢人は功名を無視すべきである」とか、 「名誉のことを口にするのは君子賢人ではない」と、孔子・孟子を読み説く人も いるそうですが、渋沢さんは、「道理を伴わない功名心」が悪い結果を生んでいる のであって、功名心そのものを嫌悪・排斥しているのは間違いだとしています。

渋沢さんは、“道理のある正しい功名心は、たいへん大事なもので、 これがあるために努力する心や発奮する気持ちが生まれる”と言っています。 人間は、欲望のないところには生きられないというのと同じように、 一時も功名心から遠ざかることはできません。だから、功名心はもっと尊ぶべきもので、 しかも、必要なものであるといいます。

しかし、そこに「道理」が伴っていないと、人を誤らせ、詐欺・騙しなどの悪行を 生み出す原因にもなりうるので、自律が必要なのは言うまでもありません。

まとめ

このように本書には、論語や孔子にも通じる、根源的で実学的な教えが書かれて います。渋沢さんの没年は1931年ですから、没後80年が経ちます。それでも今も尚、 現代経済に与える示唆や影響は大きく、関心を寄せる経営者も多くいます。

渋沢さんの生きた時代は、確かに僕らの時代とは違いますが、だからこそ、ビジネス の基礎をゼロから積み上げてきた、含蓄ある言葉がこの本の魅力です。

自己啓発としても注目の渋沢栄一の名著を、平易な現代語で読める本書はおすすめです。

■ 編集後記 ブックナビゲーターを名乗り始めて、1000冊を超えたくらいの時でしょうか、 ある日、松下幸之助さんの本を読んでいて、 「そりゃ、焼け野原でモノが無かった時代なんだから、今とは違うよなぁ〜」と、 愚痴を呟いてしまったことがあります。

その時の僕が、心身ともに疲れていて、やっかみもあったのだと思いますが、 「昔の人の苦悩と、今の人の苦悩は違うだろ!」という考えが、 当時、根底にあったのも事実でした。

しかし、「本の良いところを探す」をモットーにしている本読みとして、 「こりゃいかん」と思い直し、その時に考え至ったのが、 「ゼロから始めた人間は基礎を知っているのではないか?」という仮定です。

そう思いなおすと、「モノが無い時代にモノを売った」松下幸之助や、 「近代資本主義が無かった時代に、近代資本主義を導入した」渋沢栄一から、 学ぶ事がたくさんある事に気付きました。

ついつい、実用書ばかりを読んでいると、今スグ使える知識・ノウハウばかりを 追い求めがちになりますが、たまには、こういう基礎的な名著も読んでみては いかがでしょうか? 自戒をこめつつ、皆さんにもお勧めいたします。

富と幸せを生む知恵

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“日本の近代資本主義の父”と称される実業家、渋沢栄一。本書は、氏の名著『青淵百話(せいえんひゃくわ)』の中から、「富」と「幸せ」というテーマにそって項目を精選し、平易な表現にしてまとめられた一冊です。没後80年を迎える今も、現代経済に多くの影響と示唆を与え、多くの経営者が座右の本にしている書物の現代版です。