だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1532回 「精神筋力 困難を突破し、たくましさを育てる。」

単独無寄港世界一周世界最年少記録を樹立した、海洋冒険家の白石康次郎さん。たったひとりで世界一周を成し遂げた裏には様々な困難が立ちはだかっていました。そしてそのことで生きる力、“精神筋力”が鍛えられていきました。人生、何もしなければ、何も起きない、様々な困難に立ち向かっていった白石さんの言葉のひとつひとつに重みがあります。

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

あなたの“困難を乗り越えた経験”とはどのようなものでしょうか。

“困難を乗り越える”と聞くと、以前、塩沼亮潤さんの本で知った 「千日回峰行」を思い出します。「千日回峰行」とは仏教の修行で、途中で行を 続けられなくなったときは自害しなければならない掟のある厳しい行です。

厳しい困難を乗り越えたとき、そこから得られる気づきや自信は、それは大きな ものなのでしょうね。

さて、今回ご紹介する本も、若くして大きな困難を達成した方の本です。 単独無寄港・世界一周・世界最年少記録を樹立した、白石康次郎さんにスポットを 当てて行きます。

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◆今日の一冊 『精神筋力 困難を突破し、たくましさを育てる。』 (白石 康次郎/著 生産性出版/刊)

◆この本をひと言でまとめると 「海洋冒険家“最年少世界記録”達成までの困難」

◆著者について 著者の白石康次郎(しらいし・こうじろう)さんは、1967年、東京都生まれ鎌倉 育ちの海洋冒険家です。高校卒業後、1986年に第1回単独世界一周レースに優勝 した、故・多田雄幸(ただ・ゆうこう)氏に弟子入りし、1993年に、単独無寄港 世界一周を達成しました。当時の世界最年少記録を樹立。

命がけのレースだからこそ本物の学びがある

白石さんは、アドベンチャーレースや数々のヨットレースに参加しています。 最も過酷と言われるアドベンチャーレース「レイド・ゴロワーズ」南アフリカ大会 では、日本過去最高の11位でゴールしました。

2006年に行われた単独世界一周ヨットレース「5オーシャンズ」クラス?に日本人 として初参戦し、2位という快挙を成し遂げ、世界中の注目を集める存在となって います。

今回の本は、白石さんが、ヨットを通じて学んだことの数々が書かれています。 白石さんは本のなかでこう言っています。

●「コース上には、凍える海、荒れる海が待ち受けている。それ以外の場所でも、  いつ嵐に襲われるか、どこでヨットが壊れるかわからない。ヨットでの世界一周  は命がけのチャレンジなのである。  だからこそ、その中に本物の学びがある。僕は好き好んで苦難や危険に身をさら  しているわけではない。ただ、自分が求める幸せが、苦難や危険を超えたところ  にあるだけだ。  肉体的にも精神的にもぎりぎりのところで踏ん張っていたら、いつしか危機に  対する対応能力が身についてきた」(P4-5より抜粋)

●「日常生活を生き抜いていくのも、ヨットで世界一周するのも、考え方や準備は  たいして変わらない。年齢に応じた肉体と精神の筋力を、少しずつ鍛えていけば  いい」(P6より抜粋)

このような言葉を通して、生きることの大切さ素晴らしさを教えてくれる一冊です。

第1章 夢は何度でも生み出せる  第2章 大きなことを成し遂げるにも一歩から 第3章 平時に訓練していないと危機に対応できない 第4章 人生で大事な人には自分から近づいていく 第5章 成功体験より失敗から学ぶことのほうが大きい 第6章 生意気でもまっすぐ生きる

ヨットレースの一番の困難とは?

「ヨットをやっている」というと、日本ではお金持ちの道楽……という感じが しませんか? 白石さんも、そんな誤解を受けることが多いそうですが、実際、 そうではないのです。

白石さんは、東京赤羽の団地で、ヨットとは全く関係ない普通のサラ―リマン 家庭に生まれました。そして6歳のときに鎌倉に引っ越すことになり、 毎日のように海を見て、「この水平線の向こうには何があるんだろう」と感じ たことが夢の原点なのだそうです。

「海の向こうには見知らぬ国があり、さらに進んでいくと丸い地球を一周できる」 そう知ったときから、“船で世界一周したい”と夢見るようになったといいいます。

単独世界一周の航海のときは、進路の選定からセールの上げ下ろし、故障個所の 修理まで、何もかもたったひとりでしなければなりません。 まともに寝ている暇もないそうです。

怪我や病気をしたときもよほどの重症でない限り自力で治さなければなりません。 そのため、レース前にはドクターの講習を受け、ギブスや痛みどめを船に積んで いくことが義務づけられます。全てが自分自身の判断で行わなければならないの です。

数々のヨットレースで高成績をあげてきた白石さんですが、苦労も絶えません。 前述した厳しいレース環境も困難ですが、それが一番の困難ではないそうです。 実は、最も困難なこととは、“スポンサー探し”なのだそうです。

白石さんも、スポンサーがつかずに資金難に悩み続けました。 世界一周ヨットレースでは数億円のお金がかかるそうなのですが、応援する レーサーが優勝しても宣伝効果がそれほど期待できないので、スポンサーに とってはメリットが少ないのです。

日本ではとくにメジャーなスポーツではなく新聞、雑誌もほとんど報道しない のが現状です。そんななかのスポンサー探しは至難の業。しかも白石さん自身が 企業を1件1件回って、いわば営業活動をしなくてはならないのです。

夢を語り出会いを掴む

これを白石さんがどう乗り越えていったかというと、粘り強い交渉と、意識の 転換だったそうです。最初、白石さんは自己中心的に「これくらいお金が欲しい のです」とスポンサーを回っていたそうなのですが、それだとなかなか交渉は うまくいきませんでした。

そこで頭を切り替えて、「とにかく今持っているヨットの修理をしよう」と思い、 目の前にある問題を解決しているうちに、人が集りだしたのだそうです。 すると、集った人たちが資金集めを手伝ってくれたり、人を引き合わせてくれたり したそうです。 自分の夢を語ることを続けているうちに、人を惹きつける才能を身につけ、発揮 していったのではないでしょうか。

白石さんは人との出会いにとても恵まれてきたと本を読んで感じました。 「出会い運がいいですね」と言われることも多いのだそうです。

しかし、白石さんは出会いをじっと待っていた訳ではありません。 相手から白石さんに声をかけてきてくれた訳でもないのです。 知りたい、話したいと思う人にはいつも、白石さん自身が会いに行ったそうです。 こう白石さんは言います。

「棚からボタモチが落ちてくるなんて、なかなかない。  いい人間関係は、自分からつくっていく。  そして縁は育てていかなければならないと思う」

このようにして、白石さんは困難を乗り越えてきたのです。

うまくいかないとき、風が吹いてこないとき、何もできないときはどうすれば いいのか。一位になれないと分かってしまったときでも全力を尽くす気持ち、 失敗してもいいんだというおおらかさ……などなど、本のなかで白石さんは 生きる上で必要なことをたくさん教えてくれています。

まさに“生きる力”を与えてくれる一冊です。

精神筋力 困難を突破し、たくましさを育てる。