だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1527回 「ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則」

不況が続き、企業の事業戦略も大きく変わってきています。現代のビジネスでは、「スピード」「規模」「効率性」などが重要視されています。そんななか、イソップ寓話の「ウサギとカメ」のカメのように、着々とゴールに向かって、前進していく「カメ型の経営」が数多くあります。そんな「カメ型経営の会社」18社を紹介していきます。

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概要

こんにちは、ブックナビゲーターの矢島雅弘です。

世の中にはたくさんの企業が存在しますが、あなたが好きな会社はどこですか? 「買い物中に良い接客を受けてファンになった」など、消費者目線で好きな会社 はすぐに思い浮かぶかもしれませんが、「あの会社の企業理念に共感してファン になった」というようなことはあまりないのではないでしょうか。

普通に生活をしていると、企業の理念や社風に触れるきっかけは、あまりないか らかもしれません。しかし、日本には、素晴らしい企業理念や社風をもった会社 がたくさんあります。

今回ご紹介する本は、そんな、“あまり知られていないけど素晴らしい理念を もった会社”や、“よく知られた会社の知られざる素晴らしい一面”にふれるこ とのできる一冊です。

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◆今日の一冊 『ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則』 (藤井正隆/著 経済界/刊)

◆この本をひと言でまとめると どんな時代でも成長を続ける18の会社の経営

◆著者について 著者の藤井正隆(ふじい・まさたか)さんは、組織開発コンサルタントで株式会 社イマージョン代表取締役。今まで30年近く、数多くの経営者と会い、企業を 実際に見てきました。そして、最近では、「日本でいちばん大切にしたい会社」 (あさ出版/刊)の著者で知られる、坂本光司(さかもと・こうじ)教授と一緒 に取材した企業が、高い理念を具体化する社会性と経済性を両立した素晴らしい 経営を実現していることに驚嘆し、以来、「優良企業を訪問することが趣味」に なったといいます。現在も月10社、年間120社の企業視察研究を継続しています。

ウサギがカメに追いつけない理由とは?

今回紹介するのは、藤井正隆さんが選んだ『日本を元気にしてくれる18の会社』。 イソップ寓話の「ウサギとカメ」の関係性を例にとりながら、「カメ型の経営」 を推奨している会社を紹介していきます。

みなさんもご存知のとおり、「ウサギとカメ」のお話は、ウサギとカメが競争を して、走力に勝るウサギが、圧倒的な差を広げていきます。しかし、油断して昼寝 をしたために、ノロノロと歩むカメに負けてしまったという話です。

一般的に、コツコツ努力をするものが最後には勝つという教訓が込められていま すが、現代のビジネスでは、「スピード」「規模」「効率性」などが、重視され ていますよね。

企業活動では、これは当たり前のことです。そして、現代のウサギは昼寝なんて しません。ひたすら走り続けます。しかし藤井さんは、現代のウサギが昼寝をし ないで疾走し続けたとしても、長い目で見たら、「カメ」が勝つのでは・・・、 と考えているのだそうです。

なぜならば、いま、世界の経済は、ウサギのように速く、シェアを拡大して、 効率を追い求めたとしても、それだけではうまくいくわけでは、なくなってしまった からです。

世界経済が繋がった今、遠い地球の裏側で起きた出来事も日本経済に影響を及ぼ します。つまり、いつ何が起こるか予想することが非常に難しくなってきている のです。

右肩上がりの成長が見込めるのは一部の業界だけなのに、それでも、効率性や スピードを求め、「さらに上へ、上へ」と求められて、あくせく働いて、生きて いく実感の乏しい働き方で良いのかと思い始めている人が多いのではないでしょうか。

実績に基づかない成長を追い求め、その結果、会社が立ち行かなくなった例は、 これまでに何社もありました。

本書に登場する18の会社は、一歩ずつであっても、カメのように着々とゴールに 向かって前進している企業です。著者の藤井さんは本書を通して、 「今の時代に倣うべき企業とは、こういうところなのではないか」と、これを一番に 伝えたかったのだと思います。

「給料も原価もぜんぶ丸見え!」な会社とは?

では、その中の会社をいくつか紹介していきます。

まずは、社員の給料も評価も、財務諸表もぜんぶ丸見え、「丸見え経営」の 「メガネ21」を経営する、株式会社21(トゥーワン)。

組織というものは、オープンにしないことがたくさんあります。たとえば、商品を 販売するときの粗利益をお客様にオープンに話すことはありえませんよね。

また、社内においても社員の給料や評価などがオープンになるなんて考えられない のではないでしょうか。しかし、この会社ではそれら全てを包み隠さずオープンに しています。

メガネチェーン店で、9割引といったチラシを見て店舗に行くと、一部の商品だけ だったり、統一価格といっても、5万の商品が2万というのは一部だけで、本当は 1万円の商品が2万円で売られているって知っていますか?

メガネ21は、そういう不誠実な商売はしたくない! として、 「上顧客よりも“常”顧客をつくる」というビジョンに基づいて、全商品を4割引 にしました!

しかし、4割引を実現するのは大変です。そこで、“常”顧客に還元することは、 結果として会社や社員に返ってくるのだということを、全社員に説明して、納得して もらう必要がありました。

その一環として会社の財布の中身を見せたのが丸見え経営の切っ掛けです。 しかし、会社の財務状況も丸見えにしたことによって大きな効果も得られたといい ます。それは、「ムダを省こう」という意識が芽生えたのです。

そして、「丸見え」経営では、「儲かったらみんなですべて山分け」にします。 儲かっているときには、できるだけボーナスで社員に配り、「儲かれば、自分たち の所得も高くなるんだ!」ということが実感できるのです。

そのほかにも、社長をはじめ、役職に関係なく1000万円を年収の上限としているので、 利益があったときは余ってしまうお金もあるのですが、そんなときは、お客さんに 還元するために、値引きの原資にしてしまいます。

そんなことをして会社に蓄えがなくて大丈夫なのか心配になりますが、大丈夫。 もし、お金が必要な場合は、社員から会社が、利子をつけて借りるというユニークな 直接金融で賄っているのだというから驚きです。

社員からも、お客様からも信頼される、効率的な経営を可能にしている会社です。

あなたは1日でカレーを10杯食べられますか?

その他にも、「カメ型の経営」をしている会社が次々と登場します。

例えば・・・ 「徹底的な現場第一主義のCoCo壱番屋。あなたは1日でカレーを10杯食べられますか?」。

宗次徳二(むねつぐとくじ)創業者特別顧問は、社長時代の約16年間、1日も欠かさず 現場に足を運んでは自店のカレーを食べて味を確かめ、出張のときには、朝から晩まで 店を渡り歩き10食以上食べては、現場の課題や改善点を見つけてきたのだそうです。

このように、実際に現場に足を運び、自分の目・耳・鼻・舌・皮膚で、 「現場で何が起こっているのか」を把握し、行動する「現場第一主義」があったからこそ、 CoCo壱番屋は、熱狂的なファンや顧客に支えられているのでしょう。

更には・・・ ・5500円でつくったシャツを4900円で売っていた鎌倉シャツ ・十連休が年四回で、土日を含めると十九連休。それでも目覚しい成長を続けている、ECスタジオ。

などなど。 このような18社の企業の経営の法則を挙げながら、その経営の法則にも通じる寓話を それぞれの会社にあてはめているので、とても参考になります。

ビジネスをしていくうえで、また就職活動中であれば、会社を選ぶ上でも参考になる 1冊ではないでしょうか。

◆まとめ 「寓話」から入って企業を紹介する切り口面白さ、そして、本書で取上げられている 会社のエピソードが面白く、あっという間に読みきってしまいました。そういう意味では、 読み物としてもおすすめの一冊です。

世の中には、こんなにユニークだったり、素晴らしい企業理念をもった知らない会社が あったのか! また、知っている会社なんだけど、こんな知られざる一面があったのか! という驚きや、発見を感じることができました。

冒頭で、「藤井さんは優良企業を訪問することが趣味だ」とご紹介しましたね。 実は、僕も先日、藤井さんにお会いする機会がありました。そのときに、 「企業訪問は自腹で行っている」という裏話を聞いたりもしたのですが…(笑) それよりも気になっていた、「なぜ、趣味にするほど企業訪問がお好きなのですか?」との 質問を問いかけてみました。すると、このような答えが返ってきました。

「優良企業は、学校や本からはぜったい学べないような独自のノウハウを持っています。  そしてそれが、社員のことを大切に考えた経営、顧客に価値を提供し続けられる経営、  自分たちで考えて問題を解決できる会社を作ることにつながっています。  そういうところに惹かれるのです」

……とのことで、ビジネス書に書いてあるノウハウやフレームワークを、まったく 無視した経営方針をとっている企業もあるんです。しかし、そういう企業も実際、 経営はうまくいっていて、社員からも顧客からも評価がされ、利益も出している、 そんな企業が本書には掲載されています。ですから、本書を読んでみると意外な発見が あるかもしれません。

読みやすく学びにもなる一冊ですので、あなたのお仕事の役に立てば幸いです。 また、これから就職を考えている方は、企業をみる目を養う参考にもなるのではないでしょうか。

ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則

ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則

ぴょんぴょんウサギとのろのろカメの経営法則

不況が続き、企業の事業戦略も大きく変わってきています。現代のビジネスでは、「スピード」「規模」「効率性」などが重要視されています。そんななか、イソップ寓話の「ウサギとカメ」のカメのように、着々とゴールに向かって、前進していく「カメ型の経営」が数多くあります。そんな「カメ型経営の会社」18社を紹介していきます。