だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1481回 「論語の教え 孔子のことば・セレクト119」

孔子語録を集大成! 『孔子』の一生は苦難と挫折の一生であったといいます。それだからこそ、『孔子の教え』は共感を持って読み継がれてきました。とりわけ、社会が不安定になってくると、生きる指針を求める人たちに支持されてきました。『論語』は、大震災を経験した日本人にとって心の支え、行動指針になることが必至です。悲観ムードが漂ういまだからこそ、読んでおきたい一冊です。

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現在も読み継がれる孔子のことば

● 著者プロフィール  佐久協(さく・やすし)さんは、1944年東京生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学院で中国文学を専攻。大学院修了後、慶應義塾高校で教職に就き、国語、漢文、中国語などを教え、慶應義塾高校生徒のアンケートで最も人気のある授業をする先生として親しまれてきました。多数の著書もあり、今年の5月には、NHK教育テレビ「100分de名著」に出演し、好評を博しました。

 孔子とは、2500年ほど前の古代中国に実在した人物です。その思想は弟子たちとの問答集である『論語』によって伝えられています。孔子の生きた時代は、故国の魯は家老職の三家が力を持ち、君主をないがしろにする下剋上の時代でした。

 孔子はそうした祖国を道徳と教育によって正そうと早くから政治家を目指しましたが、家柄も富も後ろ盾もない孔子にとって、政治の世界に食い込むことは至難の業でした。孔子がようやく実力を発揮できるようになったのは、53才で魯の司法大臣になった時でした。けれども、3年ばかりで、半ば追われるかたちで故国を離れ、以降14年間に渡って各国を流浪することとなります。

 亡命生活の間に政治的手腕を買われて外国政府に就職するチャンスもありましたが、いずれも横槍が入ってかないませんでした。69才で故国には戻れましたが、その後は私塾を開いて、通称3000人といわれる弟子を養成し、就職の世話をし、間接的に自分が理想とする政治や社会の実現を目指しました。

 孔子の生涯は苦悩と挫折の一生でした。しかしだからこそ、孔子の教えは共感をもって、現在も読み継がれています。

論語から選んだ119の名言(1)

 『論語』は、比較的短い510余りの章句からなる総字数1万4000字足らずの短編です。400字詰め原稿用紙にすると、35枚だそうです。けれども、全文を読みとおすとなると、なかなか大変なのです。なぜかというと、『論語』は、年代順や項目順に編集されておらず、孔子や弟子の言葉が順不同に並んでいるのです。

 そこで、本書では、『論語』の中から選んだ、119の孔子の名言を取り上げて解説をしてくれています。そのうえ、孔子の名言・名句を覚えやすいように、項目別ではなく、五十音別に並べてあります。

 「過(あやま)ちては、すなわち改むるに憚(はばか)ることなかれ。」 子曰く、君子重からざれば、すなわち威あらず。学べばすなわち固ならず。己に如 かざる者を友とすることなかれ。過ちては、すなわち改むるに憚ることなかれ。

人は失敗をしたと思った途端に、言い訳を考え出したり、誰かに責任をなすりつけようと悪知恵を働かせたりしがちなものだ。失敗に気づいたなら、まずは「すみません」と謝ること。言い訳は二の次だ。まず謝って頭を下げれば相手も怒りを鎮めて言い訳に耳を傾けてくれる。自分も失敗の原因を冷静に分析できる。 一時期アメリカでは裁判に負けるから先にアイムソーリと口にしないと言われてきたが、現在ではそんなことはない。謝れば裁判沙汰にならないことが分かってきたのだ。孔子は「過ちを犯して改めないのを、本当の過ちというのだ」とも言っている。また弟子の子夏(しか)が「小人物は間違いを起こすと、うわべを取り繕って、誤魔化そうとする」とも言っている。 孔子は、「いやんなっちまうよ。自分の過失を認めて素直に反省する者が今ではすっかり影をひそめちまった」とボヤいてもいるが、昔も今もまったく変わらぬ世情だったのだ。 それにしても、昨今の日本では「潔い」という言葉は死語になりつつある。せめて『論語』を学ぶわれわれは、潔さを堅持して孔子を安心させたいものだ。 (P20-21より抜粋)

論語から選んだ119の名言(2)

もうひとつ。

 「まことに仁に志せば、悪まるることなし」 子曰く、まことに仁に志せば、悪まるることなし。

『論語』は、言葉の使い方の難しさや人間関係の難しさを指摘して、それらを少しでも軽減する方法を伝授しようとしている書物だが、孔子が究極の方法として提唱しているのが、「相手の立場を思いやって行動する」という配慮だった。 しかし、そうしたとしても誤解されて、友人との関係が一時的にこじれたり、上司や部下との間に齟齬(そご)が生じることを100パーセントは防ぎきれない。孔子もそれを認めている。だが孔子は、思いやりを中心に行動をしていれば、いつかは必ず心が届くようになると確信しているのだ。 一方、弟子の子夏(しか)は、「上司から十分な信任を得ていない間は上司を諌(いさ)めるべきではない。信任を得ていないのに諌めれば、上司をそ謗(そし)っているとして遠ざける危険がある」と述べている。 師と弟子の言葉を並べてみると、両者の力量の差が歴然とするだろう。子夏は孔子より44才年少であり、経験不足でもあるのだろうが、いかにも消極的で小賢(こざか)しい。「子夏はやり足りない」と批判されているのが納得できる言葉である。 (P242-243より抜粋)

 この本の中で取り上げられたのは、孔子の発した、肝に銘ずる名言ばかりです。大震災を経験した日本人にとって、心の支えとなる『論語』、孔子の人生訓が心に響いてくるのではないでしょうか。なにかひとつでも、心に引っ掛かる言葉、心に残る言葉が見つかればいいなと思います。

 また、中国映画「孔子の教え」が、11月に公開されることが決まっています。『論語』ブームはますます盛り上がっていくでしょうね。楽しみです。

論語の教え 孔子のことば・セレクト119

中国人気NO.1最高傑作(ひとつ前の新刊ラジオを聴く)

論語の教え 孔子のことば・セレクト119

論語の教え 孔子のことば・セレクト119

孔子語録を集大成! 『孔子』の一生は苦難と挫折の一生であったといいます。それだからこそ、『孔子の教え』は共感を持って読み継がれてきました。とりわけ、社会が不安定になってくると、生きる指針を求める人たちに支持されてきました。『論語』は、大震災を経験した日本人にとって心の支え、行動指針になることが必至です。悲観ムードが漂ういまだからこそ、読んでおきたい一冊です。