だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1467回 「異端のメス 心臓外科医が教える病院のウソを見抜く方法! 」

20年間にわたり心臓外科の最前線に立ち、自身の肌で感じた、医療現場の混乱とカラクリ、そして希望とホンネを熱く語る。高価な最新医療機器は信用できるのか?腕が良くなくても医者になれる?望ましいのはとにかく臆病な医者?目からウロコの凄絶エッセイ。

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異端の医者

著者プロフィール  南淵明宏(なぶちあきひろ)さんは、日本国内だけでなく国際的にも評価が高い心臓外科医の方です。奈良県立医科大学卒業後、国立循環器病センター、オーストラリアのセント・ビンセント病院、国立シンガポール大学病院、新東京病院、大和成和病院を経て、2010年東京ハートセンターへ。現在は同病院のセンター長をなさっています。

「心臓外科のスペシャリストが語る“異端”な医療現場エッセイ」

 何が“異端”なのでしょうか。紹介していきます。

1、日本では心臓外科?専門?の医者が少ない  ほかの外科手術もしながら、心臓手術をする外科医の方が多い中、心臓外科だけに特化した――南淵さん曰く「心臓手術で生計を立てている医者」――というのは日本では相当、希な存在なんだそうです。

2、技能が求められる  外科医なら、程度の差こそあれ最低限の技能を持っているように思ってしまいますが、実はそうでもなかったりするんだそうです。そんな中で、心臓外科の専門医となると当然高い技能が求められます。

3、プレッシャーが半端じゃない  一般的な外科手術よりも、手術の失敗が不幸な結果に直結してしまうこと。また、手術が成功しても、不幸な結果が避けられないことがままあるそうです。

このような事柄が“異端”となる理由です。

腕のない医者がけっこういる?

 本書は「週刊現代」で綴られたエッセイが元となっており、その内容を再構成したものです。

第一章 病院のウソ 第二章 外科医の質を見抜く方法 第三章 心臓外科医の『原罪』 第四章 『異端の医師』の誕生

 一章と二章は、南淵さんが見た、感じた医療現場や医療制度について。  続く三章は、体験談と、命に関わる日々の中で感じた様々なこと。  四章は、南淵さんの生い立ちと、医大に対する思いや、自身の医師としての有り様。前半は医療全体の実体や裏話。後半は心臓外科ならではの命に対するある種の哲学が感じられる内容になっています。

 続いて、気になったトピックスを紹介しましょう。

■腕のない医者がけっこういる?  この本を読んで、びっくりするのは「外科医の肩書きに、腕の善し悪しは関係ない」ということです。

 例えば、「気管内挿管ができない医者がいる」という現実があります。これは、呼吸が止まった人に対して、喉にチューブを入れて呼吸を確保する措置ですが、医療の基本中の基本となる技術です。難しさは「逆上がり」程度で、できる人はすぐできるし、できない人でも猛練習すればできる技術です。それなのに、何故、「気管内挿管ができない医者がいる」という現実は起きてしまうのでしょうか。そこには、医者になるための試験制度に原因がありました。

 医者は、合格率90%の医師国家試験に合格すればなることができますが、「実際に何ができるか」という資質が問われることはありません。つまり、「医者は気管内挿入ができなければいけない」という決まりはないのです。

 また、最近は最新の医療器械を設備していることをうたう病院もありますが、これについてはどうでしょうか。

最新の機械は信用できるのか?

■最新の機械は信用できるのか?  最近、「最新機器による最先端医療」を謳っている病院があります。しかし、いくら機械が最新でも、その結果を診断する人が、きちんと診る眼を持っているかどうかが本質的なところです。問われるべきは、最近の医療や、最近の器械ではなく、医者の眼であるということを忘れてはいけません。

■記録を残さない外科医は失格  手術室の多くには、手術の過程の記録や、患者に手術の説明を行うためにビデオカメラを取り付けて撮影されています。時折、記録をとっていない病院があるそうですが、そういった病院は、手術の記録を残していない可能性があるため、注意が必要です。

■病気は容赦なく襲ってくる  「どうして、普段から健康にも気を使っているうちの人が病気にならなきゃいけないの?」と言う患者の家族がいるそうです。しかし、病気は突然、理由もわからないまま、容赦なく襲ってくるものなのです。例えば、急性大動脈解離という、突然、大動脈が破れてしまう病気があります。これは、発症年齢もまちまち、男女差もありません。動脈が裂けてしまう理由は明確になっていますが、そうなる素地ができあがる理由は未だ不明です。現在の医療では、予測ができません。医療行為には常に危険がつきまとうし、そもそも不確実なものということなのです。

■まとめ 印象的なのは、ところどころに、哲学者の言葉が出てくること。生死に関わるケースがほとんどであり、直接、その手に心臓を触れるという外科医ならではの、死生観や、命に対する考え方が、胸に刺さる瞬間があります。「医者」という肩書や響きだけで持ってしまう、イメージが清濁含めて変わる一冊です。

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