だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1463回 「資金繰らない経営」

本書は、経営者を“資金繰り”から開放して、商売や事業を考えることにフォーカスさせる戦略を著した経営指南書。会社経営で重要なのは、事業を進捗させることに他なりません。現在、資金繰りに手一杯になっている中小企業経営者は、ご一読を!

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資金繰りからの解放

● 著者プロフィール  柳澤賢仁さんは、財務体質や収益構造の改善(資金繰りの改善)を得意とするコンサルタントの方です。経歴としては、慶應義塾大学大学院 経済学研究科修士課程を修了後、アーサー・アンダーセン、KPMGを経て、柳澤国際税務会計事務所・株式会社柳澤経営研究所を設立し、現在に至ります。

 柳澤さんはここ数年で、実に100社を超える中小企業に対して、業務改善のコンサルティングを行ってきたそうですが、その中で、会社の資金繰りに苦労している経営者が、非常に多かったといいます。そして、資金繰りの問題に直面すると、多くの経営者は、朝目覚めたときから夜寝るまで(それどころか睡眠中に至るまで)、資金繰りのことで頭が一杯になってしまいます。すると、商売や事業のことを考える時間が減り、ビジネスに集中できなくなってしまうそうなんです。

 ……資金繰りに失敗すると倒産しちゃいますからね。

 そんな経営者をたくさん見てきて柳澤さんは、「これじゃあまるで資金繰りのために経営しているようなもんだ。どうにかしてあげないといけない。これは日本経済にとっての損失だ!」 と考え、経営者が“資金繰らない”環境、仕組みをつくるための経営戦略をまとめ、発表したのが本書なのです。

「資金繰らない経営」とは何か?

 「資金繰らない経営」とは、凡そ次の3つの戦術を実現したものです。

 1、内部留保を高める  2、収支構造を変える  3、財務部門を任せる

 まず、「内部留保を高める」について。内部留保とは、もちろん会社の内側にためた利益(投資を前提とした留保)のことです。売上が立っているときに資金をプールして、内部留保を高めておくことで会社の体力を温存しておくのです。そうすると、事業の調子が悪くなったときにでも、すぐに資金繰りが追いつかなくなるという状況を未然に防げるわけです。

 次に、「収支構造を変える」について。収支構造、つまり、キャッシュフローの状態を、経営に有利なように変えていこうということ。たとえば、同じ売上でも、前金で全額もらえるのか、一部前金なのか、後回収なのか、それだけで(損益は同じでも)キャッシュフローはぜんぜん違ってきますね。後回収だと運転資金が必要になるので、結果、資金繰りで苦労することになります。ですから、「支払いはなるべく遅く、回収はなるべく早く」という構造にしていくと、運転資金に詰まることが少なくなるわけです。

 「財務部門を任せる」については、言葉そのままの意味で、財務部門を誰かに任せるということです。優秀なCFO(最高財務責任者)を雇えということですね。そうすることで、資金繰りのことはCFOに専ら考えてもらって、自分は事業を進めることに頭と時間を使うことができるのです。

 柳澤さんは、この成立のためにはもうひとつ絶対的な条件があるといいます。それは、「黒字を出すこと」そして、できれば「黒字を出し続けること」だそうです。3つの戦術をいかに実践したとしても、赤字続きではいつか破綻します。ここは柳澤さんも、会社を経営するならそのくらいの覚悟は必要だとしています。

資金繰りを考えなくていい会社が考えていること

 会社経営というものは、本当にいつ何が起こるかわからないものです。先の、リーマンショックや、東日本大震災も、リスク・不確実性のひとつです。そんなリスクもあるのが経営ですが、ここで、具体的なリスクヘッジの方法、柳澤さんが「究極の資金繰らない経営の手法」としている、コスト感覚についての記事を紹介したいとおもいます。

 これは柳澤さんがよく知る、実在する経営者のお話です。その会社は、毎年200%という急成長を続け、あっという間に年商数十億円の会社に育てあげられました。その会社には次のような特徴があったそうです。

 ・ 前金ビジネスしかやらない  ・ 在庫ビジネスはやらない  ・ 設備投資は1年以内に回収している  ・ 新規事業は基本的に外注でテストしている  ・ 内製化したほうがコスト削減できる場合のみ雇用している  ・ ただし、人件費は末締めの翌月支払い

 今現在経営をされているあなたはどう思われましたか? これで、黒字が続くのであれば、運転資金、設備資金、営業キャッシュフロー、投資キャッシュフロー、財務キャッシュフローの観点で、まったく資金繰りをする必要はなくなりますよね。

 柳澤さんは、経営のスタンスについて、次のように言います。  儲かりそうなビジネスのタネは、比較的たくさん、世に溢れています。しかし、そのなかでも、資金繰りに無理のないビジネスモデルというのは限定的です。その限定的なところでなければ、いくら儲かりそうな話でもやらない。この徹底したスタンスに卓越したビジネスセンスを感じます。(41ページより抜粋)

 本書では、「資金繰らない経営」をするためにノウハウ、そしてセンスを磨くための理論やケースが多く掲載されています。経営のうえで、本当に大切なことは、資金繰りのノウハウではなく、資金繰らないためのノウハウだったのです。経営の目的は、会社を進捗させることです。

 現在、資金繰りに手一杯になっている中小企業経営者の方は、ぜひご一読下さい。

資金繰らない経営

3D 『脳で感じる朗読』(ひとつ前の新刊ラジオを聴く)

資金繰らない経営

資金繰らない経営

本書は、経営者を“資金繰り”から開放して、商売や事業を考えることにフォーカスさせる戦略を著した経営指南書。会社経営で重要なのは、事業を進捗させることに他なりません。現在、資金繰りに手一杯になっている中小企業経営者は、ご一読を!