だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1422回 「大前研一と考える営業学」

本書は、プロフェッショナルを目指す営業パーソンの必読書。営業の問題解決、マーケティング・マインド、セルフマネジメント、営業チーム力の論理と実践方法を解説。営業の科学的側面に加えて、人間的・感覚的・現場的な側面も詰まった、実践的な一冊です。

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大前研一が考える、プロフェッショナル営業とは?

● 著者プロフィール 大前研一さんは、ビジネス・ブレークスルー代表取締役社長およびビジネス・ブレークスルー大学学長。 1943年福岡県生まれ。早稲田大学理工学部卒業後、東京工業大学大学院原子核工学科で修士号、マサチューセッツ工科大学大学院原子力工学科で修士号を取得。 (株)日立製作所原子力開発部技師を経て、72年にマッキンゼー・アンド・カンパニー・インク入社。日本支社長、アジア太平洋地区会長を務める。 「アジアには大前研一あり」とも言われる、ビジネスの世界において非常に発言力のある方です。

大前さんの久しぶりの著書となる本書は、営業のプロフェッショナルを志す人のために書かれました。

なぜ、今に、「営業」の本を書かれたのでしょうか?

大前さんは、世界経済が激変し多極化する世の中において(――かつて、ソニー・盛田昭夫氏や、キャノン・御手洗冨士夫氏、トヨタ張富士夫氏が先頭に立って欧米市場に進出してきたように――)、新興国市場を切り開いていくためには、営業のプロフェッショナルの存在が必須と考えているといいます。

しかし、「巷にはいわゆる営業本が溢れているが、本格的な営業のプロフェッショナル化を支援する本は、現在のところ存在しない」 と、大前さんは続けます。

曰く、「アカデミックな研究者が書いた営業本は、自ら営業の経験がないことに加え、(中略)体系化することが難しい営業分野の特性もあり、実践的とは言いがたい内容である」 「成功した営業担当者による営業本は、浪花節的な体験談や成功談に終始しがちで、まねるのはほとんど不可能である」 とのことなんです。

そこで、今回の本を書かれたというわけです。

営業のプロフェッショナルになるため知恵

大前さんは、営業プロフェッショナルに必要とされる知識やスキルは多岐に渡るといいます。

営業という仕事は、基本的には会社の商品を社外に売る仕事ですから、社内や社外関係者とつながり、そして、顧客との間に起きる問題を、ひとつひとつ解決していかなければなりません。そのためには、人材マネジメント、セルフマネジメント、そして市場を把握するためのマーケティングや思考スキルといった知識が必要だといいます。 本書では、 大前さんが学長を勤めるビジネス・ブレークスルー大学大学院の教授陣とともに、営業のプロフェッショナルになるための、知識、実践方法を、読者のみなさんに伝えてくれます。

● 全体の構成 1章は、大前研一さんが、営業プロフェッショナルのコンセプトについて解説し、それを自分のものにするために必要なスキルについて論じています。また、日々、現場で働いている営業担当者に向けた、実践的なアドバイスも書かれていました。

2章は、問題解決を専門とする、斉藤顕一教授が、問題解決型営業の考え方と、その方法論を解説しています。顧客が抱える問題を発見・解決することで、モノの売れない時代での新規需要を創造し、従来の営業の枠を超えた存在になる可能性が開けると、論じています。

3章は、マーケティングについて。須藤実和教授が、現在の営業が抱える課題を踏まえたうえで、営業担当者に不可欠なマーケティングマインドの磨き方を示しています。 「マーケティングは別の部署の仕事だな…」と思っている方もいるかもしれませんが、ソリューション営業や、顧客のニーズ・世の中のニーズに合致する営業をする上では、とても重要なことなんです。

4章は、川上真史教授が、セルフ・マネジメントの基礎について解説しています。営業はなかなかストレスの多い仕事だと思います。しかし、どんな状況でも安定した営業活動ができて、顧客のパートナーとなるためには、それ相応の思考法や、行動のスタイルというものがあります。4章ではそれらについて解説してくれます。

5章は、後正武教授が、チームとしての営業力を向上させるための組織運営と、そこにおけるリーダーの役割を、事例を紐解きながら解説しています。

これら5章を通して、大前さんと4人のアドバイザーが、「営業プロフェッショナル」になるにはどのようにしたらよいのかを徹底的に検討します。 文体は非常にロジカルで読みやすいのですが、ロジックや概念に終始することはなく、現場に基づいた視点で、実践的に書かれています。

それでは、大前さんが解説する「営業プロフェッショナルのコンセプト」について解説されているところから一節を抜粋してご紹介します。

ストリート・スマートを目指す

「ストリート・スマートを目指す」

営業というと、売れないものでも売る、体を張ってカネを捕ってくる・・・といった悪習の強いイメージです。会社としても「うちの会社の強みは何よりものづくりです」とか「一番の資産は、技術力です」なんて言われているのを見ると、報われない部署・・・のようなイメージがついてしまいます。

しかし大前さんは、営業は、改革を後押しする存在になる可能性を秘めた部門であるといいます。

営業は顧客にもっとも近い存在です。つまり、顧客の視点から自社を見つめることがもっとも可能なポジションなんです。大前さんは、この最大の強みを生かして、営業は「ストリート・スマート」を目指そうと、コンセプトを打ち出しています。

ストリート・スマートとは、アカデミック・スマートの対となることばです。 アカデミック・スマートは、顧客に関する情報をすべて数字、分析、理屈で解決しようとする傾向が強く、なまじ知識があるばかりに、矛盾や不合理が当たり前の現実世界を正しく理解できないことがあるのだといいます。

物事を定量的に考えることは重要なのですが、、、顧客心理や購買動機の分析では、勘やフィーリングなどの要素も重要ですね。アカデミック・スマートは、こうした数値化できないものを扱うことが苦手だそうなんです。

事実、失敗した商品やマーケティング施策を大前さんが分析してみると、市場調査と分析が原因だったということがよくあるのだとか。 かたや営業は、現場主義がモットーということが多いと思います。 経験のある方はよく分かると思いますが、現場には言語化も数値化もできない暗黙の了解が溢れていますよね。

プロ営業パーソンが身につけるべきスキル

その空気を感じて、耳で、目で、肌で、実感できるのは、営業の強みです。 そこを生かすために、大前さんは、2つのスキルの習得をすすめています。

ひとつはマーケティング・リテラシー。 マーケティングに関する体系的な知識です。

そして、ロジカル・コミュニケーション。 論理的に考え、伝達する力です。

当然のことだと思っている方もいると思いますが、、、しかし、売ることばかりが頭にいってしまっている営業マンで溢れているのもまた事実。今の2つのスキルをどのように活用して、どのように営業に生かすのか、そちらはじっくり本で読んでほしいと思います。

ただ、これだけはいえます。 マーケティングや、分析のスペシャリストにならなくても、営業という立場の人間が、 今上げたスキルを実についけて現場に立つと、机の上で分析しているアカデミックスマートでは出せない成果、方針が打ち出せるようになります。

ただ、定量データに終始しないように気をつけて下さいね。 営業はあくまで現場主義を貫き通すべきだと、大前さんの文章から受け取りました。

<まとめ> 経営者、営業担当者は必須だと思います。 また、新入社員も理解できない部分が多くとも一読をおすすめします。

大前研一と考える「営業」学

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