だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1416回 「新書 沖縄読本」

バブルのころの「沖縄ブーム」に深く関わったふたりの著者が、いまの沖縄の現実をリアルに描いていきます。いまや沖縄は、「楽園」でも、「癒しの島」でもありませんでした。貧困、基地問題、県民所得全国最下位、完全失業率全国1位、就職率の悪化、自殺者の増加、生活習慣病による死亡率の増加、観光業の衰退・・など深刻な状況でした。いま、沖縄で何が起こっているのでしょうか?

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沖縄県民の不快感の芽

● 著者プロフィール 下川 裕治さんは、1954年長野県生まれ。旅行作家。「12万円で世界を歩く」でデビュー。「格安エアラインで世界一周」、「愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語」など、沖縄と東南アジアに関する著書多数。

仲村 清司さんは、1958年大阪府生まれのウチナーンチュ二世。作家・沖縄大学非常勤講師。96年、那覇に移住。

今回の本は近年の沖縄ブームをつくりあげたと言われている二人による共著です。

バブルの時代に、著者の下川さんは、「好きになっちゃったアジア」シリーズを手がけ、1998年に「好きになっちゃった沖縄」を出版します。 もうひとりの著者、仲村さんは沖縄移住の先駆的な存在として沖縄ブームの火付け役として登場しました。

下川さんが書かれた「好きになっちゃった沖縄」は、太平洋戦争、沖縄の基地問題、サンゴの海の問題をはじめから外した本でした。 健康食、長寿、癒し、音楽・・、そういった沖縄の魅力を読者が知ることによって沖縄はブームとなり、いろいろなメディアでも取り上げられるようになっていきました。

しかし、実際に沖縄で生活している人たちのなかで、ある不快感の芽が生まれてきたのです。

沖縄の「癒し」は本当か

例えば、「癒し」。

本土の人たちは「癒し」を求めて沖縄にやってきます。しかし、沖縄には沖縄の暮らしがあります。 沖縄の人たちは、「癒し」とは無縁の世界で生きていました。基地問題、貧困、県民所得全国最下位、完全失業率全国1位、就職率の悪化、自殺者の増加・・など深刻な状況で、沖縄は「癒しの島」でも「楽園」でもありませんでした。ブームによって本土の人間がもたらした様々な問題も本の中で浮き彫りにされています。

沖縄は長寿の島、元気で健康なオジイ、オバアがたくさん住んでいるということが、沖縄食のブームや観光へのきっかけとなって沖縄の経済を上げる要因でもありました。 しかし、実際には伝統食離れ、平均寿命のトップ争いからも転落し、飲酒量の増加、米軍基地の影響によるジャンクフードや高カロリー食の定着(コーラやハンバーガー、ステーキ、ポークランチョンミートなど)による肥満率が全国ワースト1になってしまうなど、「長寿県沖縄」とは呼べないような状況になってきているのだそうです。 30歳代〜60歳代の男性の心筋梗塞、脳内出血といった生活習慣病や死亡率は全国平均をみてもかなり高いのが現実なのです。 その結果、長寿県沖縄ブランドが崩壊し、売れ行きが好調だった健康食品や沖縄食などの売り上げが落ち込み、明るいイメージだった観光地沖縄の価値までも下がってしまうということがおきています。

ほかにも、雇用情勢の悪化や低賃金などによる多重債務の自己破産者も増える一方で、借金苦によるうつ病や自殺者も増加傾向だそうです。

本当は苦しい沖縄の生活

仲村さんは以前書かれた本の中で、このように言っています。

**ここから抜粋** 「沖縄は全国一仕事が少なく、やっとありついても、すぐに辞めたり、転職し、貯金も少ないので借金がかさみ、そのせいかどうか家庭不和から離婚にいたるケースが多発している。学校を卒業してみたものの仕事がなく、あっても給料は安い。しかしこうした極貧の生活でも、なぜか子どもはこれでもかこれでもかとバンバンつくり、そんな孫やひ孫の世話をしながら、お年寄りは達者で長生きしているのである」(P16より抜粋) **ここまで抜粋**

そこで疑問なのが、これほどまでに低所得で子沢山な沖縄の人たちがなぜ今までは暮らしていけたのか?ということです。今も昔も状況は変わっていないのに、近年だけ、自己破産者や自殺者が増えるのか不思議ではないですか?

本の中にその理由が書かれています。

沖縄の県民所得を12ヶ月で割ると、17万750円。 共働き家庭では、世帯当たり30万円ほどの収入。

沖縄は出生率が全国一高く、子どもが2〜3人いる家庭がごく普通です。 となると教育費など子どもにかかる費用もかさみます。

そんな中、なぜ暮らしていけるのでしょうか。 沖縄は血縁の結びつきが非常に高いヨコ社会で、法事や年中行事だけでなく、日常的に交流があるのだそうです。そのような場所で、食べ物や生活用品を援助してもらう、相互扶助の習慣が社会の隅々まで張り巡っていたのです。

また、お金の工面という点では、兄妹や知人同士が手軽にお金をやり取りできる「模合」という金融制度が盛んに行われていました。「模合」とは、毎月何名かが集まって、いくらかを出し合い、ほしい人から順に集まったお金を取っていくという助け合いのシステムです。

しかし、この「模合」という制度そのものが揺らいできたり、こうした精神や慣習を駆使しても暮らしていけない人たちが増え続けてきているのです。 助け合うことができないほど暮らしが苦しくなってきているのが現実なのです。

知らなかった沖縄の真実

本書では、このように沖縄の知らなかった現実が記されています。

沖縄の歴史、戦争、本土との関係、音楽、暮らし、基地問題、宗教、観光の衰退、サンゴ問題のねじれ、離島の人々、沖縄人気質までをも取り上げ、21の物語が収録されています。 その中には、「沖縄の高校野球や強くなったのは何故か?」、「沖縄音楽はメジャー化して、本土で人気が出たのは何故か?」といったことも書かれています。

巻末には「沖縄をもっと深く知りたい人のためのブックガイド&サイト」として、 数ページにも渡って詳細な紹介が載っています。 この本を読み終えたとき、さらに沖縄を知りたくなっていることと思います。

いま、沖縄で何が起こっているのか? 沖縄ブームに沸いていた本土の人間は知るべきではないでしょうか?

新書 沖縄読本

新書 沖縄読本

バブルのころの「沖縄ブーム」に深く関わったふたりの著者が、いまの沖縄の現実をリアルに描いていきます。いまや沖縄は、「楽園」でも、「癒しの島」でもありませんでした。貧困、基地問題、県民所得全国最下位、完全失業率全国1位、就職率の悪化、自殺者の増加、生活習慣病による死亡率の増加、観光業の衰退・・など深刻な状況でした。いま、沖縄で何が起こっているのでしょうか?