だれかに話したくなる本の話

新刊ラジオ第1413回 「「精密力」〜日本再生のヒント〜 全日本女子バレー32年ぶりメダル獲得の秘密」

32年ぶりのメダル獲得を成し遂げた全日本女子バレーチーム。それを支えていたのは、眞鍋監督が考え、日本の選手の能力を引き出す「精密力」。そこには日本再生のヒントも隠れていた。名将の考える「小さな変化の積み重ねが生み出す、爆発的な変化」とは?その仕組みとノウハウをあますことなく解明します。

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精密力とは何か

■ 著者について 著者の眞鍋政義さんは、2008年12月から全日本女子バレーボール代表監督を務め、昨年の世界選手権で32年ぶりのメダル獲得へチームを導いた、正に名将です。 現役選手の頃には、ソウル五輪出場やイタリア・セリエAでもプレーされていました。

■ 本の概要 今回紹介する「精密力〜日本再生のヒント〜」という本は、眞鍋監督が培ってきた「勝てるチームを作るための哲学」を、過去の試合やトレーニングの様子を交えながら教えてくれる本です。

この本で眞鍋監督が教えてくれるのが「精密力」というもの。 はじめて聞いた人も多いと思いますが、言葉自体はオリジナルの造語だそうです。

■ 精密力とは? 監督の考える精密力とは、「緻密さや器用さといった日本人の性質・特性」「機微に敏感なこまやかさといった和の精神」などを指しています。

バレーボールだと…… ◆「サーブレシーブをセッターに正確に返す」 ◆「スパイカーが打ってくるコースを、データから読みブロックする」 ◆「選手同士の声かけなどでチームの和を高める」 ……のような、「一つ一つは小さいけど確実に小さな変化を起こし、その積み重ねでチーム力をアップさせ予想以上の結果を生み出す」というのが、精密力の目指すところなんです。 そして「確実な小さな変化」に不可欠な要素が「データ」です。

データバレーの真意

野球なら「ID野球」「セイバーメトリクス」、サッカーなら「データストライカー」など、今やデータはスポーツには欠かせないツールですが、バレーボールに関しても「データバレー」というものが十数年前から導入されてきました。 わりと知られていないようで、全日本女子の勝利の際マスコミが「データバレーの勝利」という表現を使ったそうですが、実は何年も前から、世界中が同じソフトウェアを利用してきたそうです。 眞鍋監督曰く、自分は「元々データ好き」なんだとか。 それは選手時代、ずっとセッターという役割を担っていたことが大きいそうです。

セッターには試合をコントロールする重要な役目があります。 「エースの調子はどうか?」「今日のローテーションで誰が一番決めてくれる確率が高いか?」「相手選手の動きはどうか?」「どんな戦術で攻めるか?」 状況に応じて動き続けてきた結果、常に考える習性が身に付いてしまったそうです。 そして「考える習性」と「データ」が手を組みます

例え選手たちの調子を把握しているつもりでも、間違ったイメージや思い込みに変換してしまうことがあります。 不調なアタッカーに「決めてくれる」と思い込んでボールを上げ続けても、苦戦するのは明らかですよね。 しかし、「対戦チームと相性の良いアタッカー」や「最近調子の良い選手」「今日ノッている選手」のデータがあれば手を打つことができます。

つまり精度の低い主観ではなく、「勝率を上げるための精密な数値の裏付け」としてデータを活用するわけです。 眞鍋監督にいたっては、試合中「精密なデータ」をタイムラグ無しで指示するために、特別にチューンしたiPadを使っていたぐらいで、それだけ「精密さ」にこだわっていたそうです。

データは絶対ではない

データの数値は絶対的なものではなく、あくまで判断材料や裏付けに過ぎないと言います。 例えば数値が悪くても…… ◆「攻撃の中心になるエース」 ◆「代えがきかないセッター」 ◆「いるだけでムードがよくなる」 こんな選手は、代えるとかえって試合の流れが悪くなることもあるそうです。

むしろ データが活用されるのは、試合前の準備段階だそうです。 例えば…… ◆「相手チームと相性のいい自チームの選手は?」 ◆「相手の攻撃パターンや特徴はどうか?」 ◆「相手の弱点や攻めどころはどこか?」……etc 他にも、相手選手一人一人の特徴や癖などを綿密に調べ、それをもとに対策を練るのが準備段階のキモになります。

しかし戦術やすべてのデータを選手に覚えさせるのは限界があります。なので伝える際には、最低限必要なデータだけを徹底して伝えるようにしているそうです。 例えば、「このローテーションで確率が高いのはライト側。しかもストレートが多いから、木村はコースをしっかり締めろ。レフト側は二割しか来ない。センター攻撃はほとんどないから、やられたらしょうがないと割りきれ」という具合に伝えるそうです。

この他にも ◆「具体的な数値目標を設定する」 ◆「技術の精度を上げるトレーニングやマネジメント」 ◆「自分たちの弱点を活かした戦術を考える」 など、世界の強豪と戦うチームを支える「データと精密力」を公開しています。

面白かったのは、「マネジメントの精密力を上げたい」という章で触れる、初めて女子チームの監督についた時、男女の違いを気にせずコーチングを始めたところ上手くコミュニケーションが取れず、「ルールは同じでも男女でマネジメントが違うことを痛感した」というエピソード。 しかも女子選手の場合、一人の練習量が増えると、他の選手から「特別扱い」しているように見られさらに苦労したとか。 以来、練習量や会話の時間などはなるべく均等にするように心掛けているそうです。

まとめ

「精密力」は、日本人が元々得意とする「緻密な作業」を世界で通用するレベルにまで昇華させた、全日本女子バレーの勝利の鍵とも言えるファクターだと言う事がよく分かりました。 今回の本ではあくまでもバレーボールを通した解説になっていますが、「組織であり、チームがあり、成果を求められる場所」ならどこででも活かせるノウハウだといえるでしょう。 日本スポーツ界の名将が生み出した、新たな勝利の哲学を学んでみてください。

「精密力」〜日本再生のヒント〜 全日本女子バレー32年ぶりメダル獲得の秘密

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「精密力」〜日本再生のヒント〜 全日本女子バレー32年ぶりメダル獲得の秘密

「精密力」〜日本再生のヒント〜 全日本女子バレー32年ぶりメダル獲得の秘密

32年ぶりのメダル獲得を成し遂げた全日本女子バレーチーム。それを支えていたのは、眞鍋監督が考え、日本の選手の能力を引き出す「精密力」。そこには日本再生のヒントも隠れていた。名将の考える「小さな変化の積み重ねが生み出す、爆発的な変化」とは?その仕組みとノウハウをあますことなく解明します。