AI分析でわかった トップ5%セールスの習慣
著者:越川 慎司
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,760円(税込)
著者:越川 慎司
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,760円(税込)
一生懸命頑張っているのに、なかなか成約に結びついてくれない。
提案資料も完璧だったはずなのに、顧客からの反応はイマイチだった。
セールスは過酷な仕事だ。数字で結果を出せないと、周囲の評価は下がり、自信も折れてしまう。
一方で安定して成果を出し続けるトップセールスパーソンがいる。彼らを見るとセールスという仕事を楽しそうに取り組み、課題を解決している。
成果を出し続けられる人と、成果が出ずにもがき続けている人。そこにはどんな壁があるのか。
「仕事の教科書」とも言えるベストセラー「トップ5%」シリーズ。その最新刊が『AI分析でわかった トップ5%セールスの習慣』(越川慎司著、ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)だ。
今回のテーマはタイトルの通り「セールス」。3年連続で目標を達成して、かつ社内の営業成績がトップ5%に入っている人を「トップ5%セールス」と定義し、2.1万人におよぶセールスの実態調査から、「トップ5%」と残りの「95%」にはどんな差があるのかを分析している。
著者の越川氏によれば、5%セールスは他部門に異動しても、他社へ転職をしても良い成績を出し続けており、再現性の高い行動習慣を持っていると述べる。つまり、セールスに限らず、どのような環境においても活用できるというわけだ。
では、5%セールスと残りの95%にはどんなところに違いがあるのだろうか。
既存顧客への提案資料。よかれと思って美しく整形をしたり、顧客から指示をされていないページを忖度して増やしたり、情報を詰め込んだりしてしまってはいないだろうか。
相手のためにと自分なりに頑張るわけだが、実はそれは徒労に終わることが多い。越川氏によれば、資料作成の調査から過剰な気遣いによって作成された「忖度ページ」は資料の24%を占め、さらにその「忖度ページ」の約8割は顧客に見られてすらいなかったという。
5%セールスの人たちはそうした無駄をしない。5%セールスのうち、パワーポイントが得意な「パワポ職人」はわずか13%。美しい資料作りと「売る」という行為に、因果関係はないのだ。それよりも、意思決定者がどんな資料を好んでいるかを分析する方が重要だ。
仕事において「成功」は目指すべき目標であり、当然「失敗」はしたくないもの。失敗をするくらいなら、やらないほうがいい。そう考えているのであれば、95%から抜け出すことは難しいだろう。
5%セールスは「失敗・失敗・失敗の先に成功があります」と言う。彼らは失敗を失敗のままにせず、学びを得て次の行動に活かし、最終的に成功を勝ち取っている。つまり、ローリスク・ローリターンで「学び」を積み重ねているのだ。
越川氏は「一つ一つの行動を、成功か失敗かで判断していたら、心が持ちません」と言う。
一つ失敗をしてクヨクヨしていると、次への動き出しが遅れてしまうだろう。5%セールスは「行動実験を繰り返しているだけ」と述べる。うまくいかなくても「失敗」ではなく「学び」と捉え、すぐにまた新たな「実験」を重ねていくのだ。
仕事をしていると、どうしても自分が成果を出すことにフォーカスしてしまう。しかし、5%セールスが考えていることはその一段上を行く。
彼らは、自分ひとりでなんとかしようとするのではなく、周囲を巻き込み、チームで複雑な課題に取り組む。部門の壁を越える必要があるときには、「協力者の上司へのお礼」「ビジョン・情熱の共有」「共通の敵を見つける」といったアクションを通して協力を取り付けている。社内調整力の高さが際立っているのだ。
顧客との関係性においては、「共感・共創」が大事だ。お互い協力し合い、目標を達成するために、まずは腹を割って話せる「共感関係」を築く。それは上下関係ではなく「横に並んで寄り添う」関係であると5%セールスは語る。
「共創関係」においては、自分の営業成績よりも顧客の評価を高めることが第一優先であると考える。例えば、購入を担当した顧客が社内で表彰されるようにサポートをしたりするのだ。自分ではなく、顧客をヒーローにする。それが成果を継続させる要因になることを5%セールスは知っているのだ。
◇
本書を読むと、5%セールスは何も難しいことをしていないと気づくだろう。少し考え方を変える。5%セールスの行動を真似してみる。それだけで自分自身に変化が生まれることは、越川氏の再現実験で立証ずみだ。
誰もが最初は95%からのスタートだ。今はできていなくても、少しずつ5%セールスの習慣を取り入れていけば、成果を出し続ける人間になることができるようになる。大事なことは、その歩みを止めないことだろう。頑張りすぎず、セールスを楽しんでほしい。
(新刊JP編集部)
■セレンディピティを引き寄せるトップ5%の行動とは?
越川: 『トップ5%社員の習慣』からはじまり、4年間で新作を含めて4冊の本を出してきたのですが、予想外の反響を多くいただきました。
それは、想定していた読者層とは異なる方々がこのシリーズを読んでいるということです。例えば民間企業の方だけではなく、公務員や医療・介護関係者といった方々からの反響も多く、現場で頑張っている方々がこの本に共感してくださっているということが分かりました。
また、韓国語や中国語、タイ語など様々な言語で翻訳され、世界中で読まれているということも予想外でしたね。
越川: 印象的なのは、皆さんがこの本を通して自分の行動や習慣の答え合わせをしているということです。「意外とこれ自分もできている」とか、「この5%社員の行動はやったことがないから試してみよう」とか、本を通して自分自身の行動の振り返りをされている方が圧倒的に多いんです。
これは著者としては嬉しい限りで、「読んで終わり」ではなく実際に試してみて、自分にとって効果があるものを個別最適して、変化を起こしていってほしいと思っています。だから、読者の方からのアンケートに書かれている「やってみました」という言葉は、著者冥利に尽きますね。
越川: まずは私がこれまで17万人の働き方改革を支援してきたなかで、頑張っているけれどもなかなか成果が出ないという人がセールス部門に多かったという点があります。読者アンケートへの回答や800社を超えるクライアント企業へのコンサル、講座を提供する中でもセールスに関する要望は多かったですね。
また、ビジネスはセールスからすべてが始まります。そのビジネスの起点にいる人たちにとって、どういう立ち振る舞いや言動が必要なのかを分析することで、ビジネス全般にも通じるものが得られるのではないかと思いました。
越川: 多くのセールスが偶然に大型案件を受注する、いわゆる「ラッキーパンチ」を経験しているのですが、意外にも結果を出し続けている5%セールスも「運で獲得した大型案件がある」と答えていました。
でも、幸運ってそう連続では起こらないものですよね。ここでポイントなのが、5%セールスは偶然のラッキーを必然に変える力が圧倒的に高いことなんです。それは何も特別な力ではなく、常にアンテナを張って行動量を増やす、挨拶を欠かさないといった、ちょっとしたことの積み重ねです。
偶然獲得する幸運を「セレンディピティ」と呼びますが、5%セールスはそのセレンディピティを引き寄せるために、普段から信頼を積み重ねる行動を取っていたんです。
越川: そうです。彼らはなぜこの偶然の機会が自分にめぐってきたのかを考えます。そして、それが予期せぬ人、例えばたまたま参加したフットサルで知り合った人とか、社内懇親会で初めて話した別部門の同僚といった、偶然の出会いからもたらされることに気づくんです。だから、いろんな人との接点を増やそうと行動しますし、自分から相手にどんどんギブしていって信頼を高めていきます。
セールス自体のスキルを高めるよりは、セールス以外のところでの努力に重点を置いていることは驚きであり、印象的でした。
越川: これは2つあります。まずは「ローリスク・ローリターン」ができない理由の一つに、頭のどこかに「ローリスク・ハイリターン」があるものだと信じてしまっているんですよね。例えば、ChatGPTを導入すれば作業時間が半分になるとか、人事制度を変えれば社員の働きがいが3倍になるといった、「魔法の杖」がどこかにあると必死に探してしまうのです。
でも、実際そういうものはありません。ラッキーパンチを経験すると、「ローリスク・ローリターン」の積み重ねが馬鹿馬鹿しく見えてしまうけれど、本当は積み重ねがあったからこその成果であるはずです。だから、まずは「ローリスク・ハイリターン」はないものだと考えるべきです。
二つ目はおっしゃる通り、95%セールスは失敗を恐れがちです。そして、失敗を恐れて行動をしない。ただ、成功は失敗を繰り返した先にあるものです。成功と失敗はコインの表裏ではありません。成功と失敗の定義を変えることが必要です。
5%セールスの語りをAIで分析したところ、彼らの発言で一番多かった言葉が「実験」でした。どういうことかというと、失敗を失敗と考えていないということなんです。実験って、その結果をデータとして得るものですよね。つまり、次に活かす「学び」を得るものだと考えているんです。
越川: 挑戦と捉えてしまうと成功か失敗かになりますが、実験だと上手くいかなくても「これで一つデータが取れた」と考えられるようになりますよね。
5%セールスは成功したときの態度もかなり特徴的で、「なぜ成功したのだろう」とすごく疑ってかかります。そして成功の要因を探る。つまり、失敗しても成功しても学びを得て、次のセールスに活かそうとするんです。それが彼らの、モチベーションや一時の感情に左右されず、成果を出し続けられる仕組みなんですね。
越川: これは面白いと思ったのですが、いわゆるエリート大学の出身者ではなく、中堅レベルの大学や高校を出ている人のほうが5%セールスには多いんです。
それは理由が二つありまして、一つ目はセールスって実績重視ですよね。勉強ができても案件を取れないと評価されない。だから、セールスが学歴とは関係ない勝負の世界であるという点が挙げられます。
二つ目は、フットワークの軽さです。IQが高い人の場合、どうしても最初に深く考えてしまうので、初動が遅くなりやすいんです。PDCAの「P(計画)」にすごく時間をかけてしまうわけですね。でも、5%セールスは「P」を小さくして、残りの「DCA」をどんどん回していくことに長けていて、より多くの実験を積み重ねることができます。
だから、IQよりもEQ(心の知能指数)、熟考力よりもフットワークの軽い人の方が、トップ5%に入っている確率が高いですね。
越川: そうですね。なぜ初動が早い人がトップ5%になるのかというと、「やる気」をあてにせずに、成果を出すための仕組みになっているからだと思います。まず動き始めることによって、行動量も増えて、学びを得る機会が増える。つまり、セレンディピティを獲得しやすくなるわけですね。
■トップ5%セールスが顧客から信頼を得られる理由とは?
越川: 先ほど、彼らは仕事を実験と考えていると言いましたが、それってようはゲーム感覚で楽しんでいるということなんですね。
自分で課題を見つけて、自分でスキルを磨き、たまに休息をして、いろんな人を自分のチーム(パーティー)に巻き込む。これはまさにロールプレイングゲームです。失敗して体力が減れば宿屋で休んでHPを回復させればいいし、もし敵が強いなら違う武器を持っていけばいい。一人では無理ならパーティーで立ち向かうというのも、ロールプレイングゲームの感覚ですよね。
越川: それにボスを倒していくのも大事だけど、レベル上げも楽しいじゃないですか。新しい魔法を覚えたり、仲間が増えたりして。そういうプロセスを楽しむ特徴は5%セールスに共通しています。
越川: 自己肯定感が高いというよりは、自己効力感が高い人が多いように思います。「自分にはこんな力があるんだ」と自己認識しているということですね。それはやはり「ローリスク・ローリターン」の中で実験を重ねてきたからこそでしょう。
また、5%セールスは感情のコントロールが上手で、一喜一憂をあまりしません。それはなぜかというと、期待値をそんなに高く設定していないからです。自分に対しても、顧客に対しても、もっと言うと上司に対しても期待値は上げない。そういったマインド面での共通点がありますね。
越川: 一つ目は、95%セールスは「お客様に製品を売る」と考えていることが多く、いわゆるプロダクトアウトの発想なんです。一方の5%セールスは顧客と対等の立場で課題を解決することを目標にする。つまり、顧客との共感から始まり、そのニーズに合わせて顧客ファーストの「商品」にカスタマイズするんですね。そこは大きな違いです。
二つ目は、売った先のことをしっかり見ているかどうかです。5%セールスはアップセル、クロスセルを狙っていて、継続して売上を出し続けようとします。1回の商談で終わらず、その先を常に見据えているということが特徴です。
一方で新規顧客に対する期待値は低く、新規を獲得できるかどうかの7割は運だとも言っています。だから、既存顧客からもらえるレベニューを上げることに7割くらい力を入れていて、新規顧客の開拓は3割程度とも話していました。これはB2BでもB2Cでも変わりません。
越川: そうですね。自分の営業成績よりも顧客の評価を高めることが第一優先であると考える5%セールスは多いです。例えば、購入を決定した顧客が社内で表彰をされるようにサポートをしたり、「購入者の声」や「導入事例」などに登場してもらったりして、顧客の上司からの評価を上げたり、ご家族から喜ばれるようにしたりするんですね。
5%セールスは視点が常に社外に向いています。自分の上司に気に入られることよりも、顧客が何に悩んでいるのか、どのように課題を解決していくかを考えていて、顧客を嬉しがらせるにはどうすればいいんだろうという気持ちが中心にあるのだと思います。
越川: もうこれ以上頑張らないでください、と伝えたいです。4-5月はどうしてもスタートダッシュを決めようとエネルギーを使いがちです。でも結局は最初の1、2ヶ月でエネルギーが切れてしまって、トーンダウンしてしまうというパターンが多い。だから、あまり頑張りすぎないことが大切だと思います。
ただ、頑張らなくてもいいというわけではありません。正しい頑張り方をして欲しいのです。特に新社会人はこれから長いキャリアが始まります。100メートルの短距離走ではなく、フルマラソンと考えて最初から突っ走らずに、まずは「ローリスク・ローリターン」でナレッジや経験、信頼を積み重ねていくことが、結果的にケイパビリティを高めることにつながると思いますね。
越川: この「トップ5%社員」シリーズの感想で、毎回「5%社員ってそんなに大したことをやっていませんよね」というコメントをいただきます。まさにその通りで、私もこの5%セールスについて読み直したときに、彼らは特別なことをやっていないことに気づきました。でも、それで成果を出し続けています。
では、彼らの何がすごいのかというと、行動継続力です。実践し続ける。これが一番のポイントだと思います。今回は5%セールスの特徴の再現実験に力を入れていて、2万1千人の95%セールスに、5%セールスの習慣や行動を3年半にわたって取り入れてもらったんです。そうしたら成約率がどんどん上がっていき、平均で成約率が20%以上アップしました。当たり前のことを当たり前にやり続けることが一番の近道なんです。
越川: 感情のブレや期待値の高さ、失敗への恐れなど要因はたくさんあります。その意味では、期待値を下げる「ローリスク・ローリターン」の積み重ねであったり、失敗を「学び」としてとらえる「小さな行動実験」といった習慣は、行動を続けるうえでとても重要です。
ただ、いくら結果が出るからといって、本書の内容を一気やろうとするのは、バテてしまうのでおすすめできません。この中から自分に合うものを見つけて、一個ずつ実践していきながら「ローリスク・ローリターン」でナレッジや経験を積み上げていってほしいですね。
越川: 実はこのインタビューの直前にも、5%セールスにお話をうかがっていたのですが、すごく刺激を受けたんです。彼は「不安はチャンスです」と言っていたんですよ。
なぜこの言葉が響いたか、その理由が二つあります。一つは、彼らが「不安」を過去に対する後悔ではなく、未来に向けた感情として捉えているんです。不安があるから備えられるし、不安があるから顧客や製品のことを知りたいと思う。不安を持つことは未来のために良いことだと考えているんですね。
二つ目は、セールスは不安を持っていることが当たり前だということです。それはなぜかというと、新しいことに挑戦しているからなんですよね。これは決してネガティブな不安ではなく、むしろポジティブなものです。
自己否定に陥ると行動が止まります。ですから、不安を感じている自分を認めてあげて、しっかり備える。「ローリスク・ローリターン」で小さな実験を積み重ねて「学び」を得ていく。どんなセールスでも不安を感じているものですが、5%セールスは不安を原動力にして実験を継続する力に変えています。だから、この本を読んで少しでも肩の荷を下ろして、成果を出すための一歩を踏み出してほしいですね。
(了)
越川 慎司(こしかわ・しんじ)
815社17万人の稼ぎ方変革(最大の成果を最小の労力で)を支援 / 年間400件のオンライン講演・講座を提供 お問合せ http://cross-river.co.jp/contact/
著者:越川 慎司
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,760円(税込)