AI分析でわかった
トップ5%社員の時間術
著者:越川 慎司
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,650円(税込)
著者:越川 慎司
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,650円(税込)
残業しないと仕事が終わらない。
ギリギリまで粘ってやっているけれど結局成果も出ない。
「時間が足りない」という悩みは現代人の病ともいえる。仕事の効率を上げようと思っても、次々と仕事が降ってくるため、与えられた業務をこなすのでいつも精一杯になってしまう。
しかし、そんな中でも定時に仕事を終わらせ、成果もしっかり出す社員がいる。彼らはなぜ時間に追われることなく、仕事を完遂させられるのだろうか。
元日本マイクロソフト役員で現クロスリバー代表の越川慎司氏はこれまで815社の働き方改革を支援。クライアント企業に協力を仰ぎ、各社の人事評価トップ5%の社員の言動や習慣をAIで分析。そこからあぶりだした彼らの時間の使い方を『AI分析でわかった トップ5%社員の時間術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)にまとめている。
では、トップ5%社員と残りの95%社員の違いはどんなところにあるのだろうか?
本書の中から3つ取り上げよう。
分析の結果、トップ5%社員は一人で作業しているとき、「ため息」をついていることが分かったという。それもなんと、95%社員の2.2倍もついているのだから驚きだ。
ネガティブなイメージがある「ため息」だが、呼吸器の専門家によると、深い呼吸の動作で脳のはたらきや精神的な落ち着きをもたらすプラスの効果があるという。仕事に入る前に一度ため息をついて心と体を安定させることは、集中力を増すという意味で理にかなっている。
越川氏は、トップ5%社員は共通して「初動が速い」と述べる。
仕事を受けたら間髪入れずにスタートする。これは業務の時短を達成するために必要不可欠な要素だ。そして、彼らは初動を速めるために、各々が仕事前のルーティンを持っている傾向にある。「ため息」はそのルーティンの一つととらえていいだろう。
時短とセットで出てくる言葉といえば「効率」だ。業務の効率が上がれば仕事の生産性もアップする。そのため、「効率化」が業務改善のスローガンに使われることも多い。
しかし、トップ5%社員は「効率」よりも重視していることがあるという。それが「効果」だ。
「仕事を進める上で効果と効率のどちらを優先させますか」というアンケートを行ったところ、一般社員は「効率」と答えた人が53%に対し、「効果」が47%だった。一方のトップ5%社員は「効率」が21%に対し、「効果」が79%。大きく差が出たのだ。
効率化は生産性を上げるための手段であり、目的ではない。5%社員は「効率」という言葉に疑問を抱いており、「何でもかんでも短い時間でやればいいわけではない」と考えているという。まずは「明確な目標を持つ」ことが重要であり、効率にとらわれてしまわないように注意すべきだろう。
トップ5%社員はタスクマネジメントにも特徴がある。それは、「仕事を受けるかどうか考えることもタスクマネジメントの一部」と考えていることだ。
さらに、受けた仕事は必ずしも自分でやるわけではなく「誰かに依頼する」という選択肢も持っている。「期限内にタスクを終える」という目的がまず先に立ち、その目的を達成するために、自分以外の人が取り組んだ方がいいのであれば他の人に依頼をする。
もちろん、依頼をするときは相手のベネフィットや内容の意義・目的を伝え、相手が納得した上で仕事を振っている。
越川氏は、トップ5%社員は人を巻き込むコミュニケーションスキルを磨くことに時間を費やしていると述べる。巻き込み方のメソッドが確立できれば、より大きな課題を短期間で解決できるようになるからだ。
何でも自分でやろうとせず、適切なタスクマネジメントができるようになれば、時間にぐっと余裕が生まれるはずだ。
ここで取り上げたもの以外にも、「上司との接触時間を減らす」や「45分単位で仕事をする」、「金曜日に重要な仕事を2つ書き出す」など様々な時間術が紹介されている。トップ5%社員たちが実践しているタスク遂行術を一般のビジネスパーソン2.2万人で再現実験したら89%の人が効果を実感したそうだ。
本書は読んで終わりではなく、実践をしてこそ初めて効果を発揮する。残業沼で心の余裕も持てない状況を抜け出すためにも、ぜひトップ5%社員の時間術をいくつか試してみてほしい。
■長引く社内会議、原因は「上司が仕切るから」?
越川: このシリーズは、クライアント企業の人事評価トップ5%社員の行動や言動をAIで分析し、その中で出てきた意外なデータをコンテンツとしてまとめているのですが、今回のテーマである「時間術」もその意外なデータの一つでした。
また、もう一つの理由として「時間術」のニーズが大きいということがあります。働き方改革関連法案の影響から世のビジネスパーソンたちが残業削減を強いられている一方で、仕事は減るどころか増えている状況があって、いわゆる「残業沼」から抜け出せずに悩んでいる人がすごく多いんです。
特にこの2年間はクライアント企業からタイムマネジメントやタスク管理の講座やコンサルティングをしてほしいという依頼が多くて、時間術のニーズの高さを感じていました。
越川: コロナ禍の影響で言うと、テレワークの普及によって通勤時間などはなくなったものの、自宅で仕事をしているとプライベートの切り分けが難しくなり、気づけばずっと仕事をしていたという声は珍しくありません。また、「残業をするな!でも売り上げは落とすな!」と言われて、隠れ残業をしてしまうケースもあります。
テレワークの普及と残業削減圧力によって、困っている人が多いということなのだと思いますね。
越川: そうですね。そこで、5%社員の時間に共通していた意外な時間の使い方をクライアント企業の2.2万人に試していただいたところ、「時短効果があった」と回答した人が89%もいて再現性が高いことが判明したんです。ならば、多くの方に実践していただこうということで、急遽このテーマで本を書くことになりました。
越川: 人事評価で優秀な評価をもらっている方々ですから、私も最初は業務処理能力が高いことが、残業をせずに成果をあげられる理由なのだろうと思っていました。でも、意外なことに、処理能力がひときわ高いというわけではなかったんです。
決定的に違う部分は「無駄なことをしない」ということです。本書にも書いていますが、彼らは「効率」ではなく「効果」を大事にしています。これは、上司やお客様に求められていることを必ず意識して、それしかやらないというイメージですね。
例えばパワーポイントで資料を作る時に、良かれと思って手の込んだ派手なものを作っちゃったりするじゃないですか。でも、それは単なる自己満足で時間を奪うだけのものと彼らは考えています。
越川: そういうことですね。また、彼らは集中力が高い傾向にあるのですが、「これは集中力を高めている」というよりは、「集中力を高く保てる時間を増やしている」といったほうがいいでしょう。
人間はそんなに長く集中力を保つことができませんから、45分集中して休憩、45分集中して休憩と、細かく刻みながら集中する時間を増やすようにしています。また、わざとため息をついたり、睡眠時間を長く取ったりするという工夫も取り入れたりしています。
結論をいうと、その人の持つ能力ではなく、仕組み化して高い集中力を発揮していたというのがポイントです。
越川: 再現率が高かったテクニックでいうと、数字で表現できるものですね。例えば先ほどいった45分集中して休憩を入れるというとか、「金曜に大きな仕事を2つ書き出す」といった、時間や数字で表現できる行動は真似しやすいです。
また、社内会議が多すぎると感じたときの「時短3アクション」として「参加者をその気にさせる」「上司に仕切らせない」「議事録は会議中に完成させる」という3つのアクションをまとめたのですが、それも効果が高かったです。他に会議時間を60分から45分に短縮したり、アジェンダを24時間前に共有するということも、時間短縮に成功しやすかったです。
越川: 管理職の方々には説明しづらいのですが(笑)、特に「上司に仕切らせない」というアクションは予想以上に上手くいきました。上司が仕切ってしまうと、会議時間の7割はその上司が話していたりするんですよね。だから、上司ではない人をファシリテーターとして立てると時短に効果があるし、メンバーのファシリテーション能力も上がるんです。
越川: そうですね。この本のテーマは、今まで良かれと思ってやってきたことを、勇気をもってやめるということだと思います。今の話で言えば、上司は悪気があって独演会をしているのではないけれど、結果的に時間が伸びてしまっている。それを一度立ち止まって振り返ってもらう。
ご自身の業務を一度振り返ってもらって、改善したいものの中に本書のテクニックが活用できるものがあれば、ぜひ実践してもらいたいですね。
■仕事の時短を現実化するための行動で圧倒的に効果があったのは…
越川: 5%社員のタイムマネジメントは仕事を受けたタイミングで始まるんです。仕事を受けたときに「自分で完遂する」という選択肢だけではなく、「これは任せる」「これはやらない」という判断もあるんですよね。そこが決定的に一般社員と違います。
だからおっしゃる通り、他者を巻き込む力は圧倒的に高いですし、仕事の仕方がすごくスマートに見えるんですよ。これを日本語で言うと「ずるい働き方」になるのですが、とにかく成果に向けて最短距離で仕事をするということを大事にしています。
越川: 「やらない」というのは、引き受けたものをやらないのではなく、例えば資料の作成を依頼されたときに、不必要に派手にしないとかそういうことなんですよね。そこはやはり先ほどお話したように、「効果」「成果」を第一に考えているというところが大きいんですよね。
越川: これはあるあるですよね。例えば慎重パターンのように、期限は守るけれど慎重に準備をしていった結果、いつも納期近くにバタバタするという人は、そこで力を出し切ってしまって次の仕事にかかる初動が遅れてしまうんです。一方で、5%社員は少し余力を残して仕事を終えるので、次の取り掛かりも早いんですよね。
越川: これはすごく大きなポイントです。今回の調査でどのようにしたら時短ができるかということを分析した結果、そのきっかけとなるものが3つあったんです。
まずはやらなければいけないことを時間内に終わらせる処理スピードですね。これが世に言う「時短術」です。ただ、それは時短のきっかけの3分の1にしか過ぎなくて、残りの3分の2は、「初動を早める」ということと「集中時間を継続する」ということなんです。
その中でも圧倒的に影響があるのが「初動を早める」で、仕事の取り掛かりを早くすることで、かなり時短できるということが分かったんですよね。だから、5%社員の行動を見ていると「やる気が出ないから仕事を後回しにする」ということがほとんどないんです。まずは仕事に手を付ける。そこから集中力のマネジメントをしていくということですね。
越川: 5%社員を取材していて分かったのですが、モチベーションを高めてから仕事をするのではなく、仕事をはじめたら作業興奮でモチベーションが高まってくるという方が正しいんです。だから、5%社員のお話を聞いていて、「やる気に頼らない」ということはすごく大事だと分かりましたね。
■テレワーク。95%社員はカメラに投資し、5%社員はマイクに投資する
越川: 5%社員と一般社員を比較して象徴的だったのは2点です。一つめはキーボードで、5%社員は高級なキーボードを使っている傾向が強かったです。作業に必要なキーボードショートカットを使いこなしているのでマウスの操作頻度は少なかったです。ノートパソコンで仕事をしている人も外付けのキーボードを使っている人が多くて、入力を確実に速める効果があるのだろうと思います。
二つめはマイクです。オンライン会議が増えている中で、95%社員はカメラにお金をかけることが多いのですが、5%社員はマイクに投資している傾向がありました。映像がきれいだからといって営業の成約率が上がるわけではありませんし、確実に音を伝えるという相手主体のコミュニケーションを心掛けているのが5%社員の特徴といえます。
越川: テレワークだと家族の声や生活音が入ったり、救急車の音が聞こえたりもしますしね。そのたびに打ち合わせが止まったりしてしまうことってあるじゃないですか。それを防ぐことが時短につながるんですよね。
私も5%社員を真似して、単一指向性のコンデンサ付きマイクを使っているのですが、打ち合わせ相手に話を聞くと雑音がほとんど入らないと言われますね。ミーティングをしながらメモを取っていても、キーボードを打つ音がほとんど入りません。そういった意味では、マイクに投資をするということは理に適っていると実感しています。
それにもう一つ、ノートパソコンのスタンドを使っている5%社員が多いです。その理由として一番多かった回答は、Webカメラで目が合いやすいと。確かに普通に使っていると画角的に上から見下ろすような視点になりやすいんですよね。そうなると相手に不快な思いをさせてしまう可能性があるわけです。
越川: すぐに劇的な変化するのではなく、小さな行動実験を積み重ねてほしいです。だから、自分の業務を振り返ってできそうなものをまずやってみて、1回失敗したらもうやらないのではなく、もう一度やってみるということが大事だと思います。5%社員はローリスク・ローリターンを確実に積み重ねて成果を出し続けていますから。
越川: 仕事をしていて何か他の事が気になったり、ちょっと手を止めてしまったりしてしまうのはなぜかということを考えたときに、まず原因の一つは疲れ、ストレスですよね。だから、体調を万全に整えるために睡眠をしっかり取ったり、ストレスを分散させるようなリフレッシュがまず必要です。
もう一つの原因、手を止めてしまう理由が不安や悩みです。「こんなことをやっていていいのか」とか「この資料で本当に評価してくれるのか」といった業務の不安だけでなく、「この会社でいいのか」「両親と上手くいかない」といった人生や人間関係の悩みも含めて、そういうものが仕事を邪魔するんですよね。
だから、仕事に取り掛かる前の準備として、不安や悩みを吐き出して、メモを取って可視化したりしながら、仕事と関係ないものは切り離すといった整理をすることが大切です。不安や悩みが整理されている状態だと圧倒的に継続できることが、95%社員に対する行動実験でも明らかになっています。
越川: そうかもしれません。1回自分の中を空っぽにするという感じです。多くの5%社員は朝に何もしない沈黙の時間をつくり、自律神経を整えていました。
悩みの姿が見えないから不安になるのであって、それをしっかり可視化できるようにすれば整理できますし、他の人に聞いたりして解決することもあります。それは習慣化が可能ですから、ぜひ真似をしてもらいたいですね。
■「残業沼」から抜け出したい人に読んでほしい
越川: うちの会社のメンバー全員が週休3日ですし、私自身も20年以上時短仕事術を実践していましたので、時間術にはちょっと自信があったんです。でも、5%社員の分析をしていくうちに、まだまだできることがあるなと思いましたね。
越川: 本書に特別なことは全く書かれていないんです。でも、なぜかみんなできていない、やっていないことばかりなんですよね。
「当たり前のことができないのは何故か」ということが本書のテーマだったのですが、そこを大きく分けるのは時短の原理・原則を知っているかどうかなんです。そして、やはりその行動を継続するということがポイントになるのかなと。
だから、本書を読んで、時間術を知って終わりではなくて、行動をしてほしいです。実際にこのトップ5%社員シリーズで「習慣」「リーダー」をテーマに書いてきましたが、「実践した結果、成果が上がりました」「出世しました」という声をいただくことも多いです。それはすごく嬉しいですよね。
越川: このトップ5%社員シリーズは、もともと30代から40代のビジネスパーソンを想定読者として書いていたのですが、これまでいただいた感想の手紙やフィードバックを読むと、意外にかなり若い方が読んでいるんです。例えば就職活動中の学生が、本を通して会社で働くイメージをしたり、入社して活躍をするために読んだり。
また、都市部の方だけでなく地方の方に読まれています。地方自治体の公務員の方々が感想を寄せてくれました。またエリートの働き方を知りたいというニーズは国外でも高く、複数言語で出版されました。
それに一番嬉しかったのが、医療関係者の読者が多かったことですね。医療現場はマルチタスクで、常に想定外と対峙しなければいけない状況だそうです。人を巻き込むことは当たり前で、ストレスもたまりやすい環境だそうです。そういった方々にこのシリーズを役立ててもらえたのは著者として本当に嬉しかったです。
越川: ずばり「残業沼から抜け出したい人」に読んでほしいです。
「残業沼」というのは、今日は残業するけど明日は定時上がりではなく、毎日残業が続いていて、これからもその沼から抜け出す見通しが立っていなくて、気づいたら夜まで仕事しているという状態のことです。
その沼から抜け出したいと思っている人は、実は優秀なんです。優秀だからその人に仕事が集まってしまっているわけで、ぜひこの時間術を実践してみてほしいです。現状を打開できるはずですし、これまで以上に評価されるようになるはずです。
(了)
越川 慎司(こしかわ・しんじ)
株式会社クロスリバー 代表取締役
株式会社レビルソーク 代表取締役
株式会社キャスター 執行役員
国内通信会社および外資系通信会社に勤務、ITベンチャーの起業を経て、2005年にマイクロソフトに入社。業務執行役員として最高品質責任者やPowerPointやExcelなどの事業責任者など歴任。2017年に改善活動のコンサルティング会社 株式会社クロスリバーを起業。ITをフル活用してメンバー全員が週休3日・週30時間労働を継続。述べ800社以上に、ムダな時間を削減し社員の働きがいを上げながら”自分の時間”を増やしていく「働き方改革」の実行を支援。2018年から1000名以上のほぼ全員がフルリモートワークの株式会社キャスターの執行役員と兼任。著書18冊。『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』『AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣』(ディスカヴァー)、『科学的に正しいずるい資料作成術』(かんき出版)、『「普通」に見えるあの人がなぜすごい成果をあげるのか』(KADOKAWA)など。
著者:越川 慎司
出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン
価格:1,650円(税込)