BOOK REVIEW
『テニスの王子様』『弱虫ペダル』『刀剣乱舞』。
人気マンガやアニメ、ゲームを原作とした舞台やミュージカルを指す「2.5次元」の人気はいまや日本にとどまらず、海外にも広がり、一大ムーブメントになりつつある。
その人気の秘密は、原作の世界観やキャラクターを極限まで忠実に再現していること。逆にいえば、俳優は自分の個性を出すことよりも、まずは演じるキャラクターを完全に理解し、自分のものにすることが求められる。
佐藤流司が考える「俳優にとっての2.5次元」
ある意味特殊なこの仕事を、俳優自身はどう考えているのか。
「ミュージカル・テニスの王子様2ndシーズン」(財前光役)、「ミュージカル刀剣乱舞」シリーズでは加州清光役で主演をつとめた佐藤流司さんは本書で、2.5次元は俳優にとって「諸刃の剣」であり「天狗になりやすいジャンル」だと語っている。
「原作のキャラクターの人気が役者に乗っかっているわけですけど、もしその原作の人気がなくなってしまえば、役者の人気もなくなってしまうので」(佐藤さん)
たしかに原作ありきのジャンルだ。役者の個性が評価されにくいということで、人によっては自分の将来につながらないと考えるかもしれない。しかし、このままさらに2.5次元がブレイクすればあらたな可能性も見えてくる。
ミュージカルの世界を見れば、『レ・ミゼラブル』や『オペラ座の怪人』、『サウンド・オブ・ミュージック』など、人気作品はいずれも海外から輸入されたものばかりだ。
その意味で、2.5次元ミュージカルは日本発のものであり、日本のミュージカルにおける意義はけっして小さくはない。2.5次元作品の演出を多く手掛ける演出家の茅野イサム氏は「日本から海外に出ていけるような、そんなミュージカルを作りたい」と意欲的だ。
「2.5次元」の人気がいつまで続くかはまだわからない。しかし、今の人気によって大きな予算がとれるため、制作側は舞台の改善のための取り組みや、新しいことへのチャレンジがしやすい状況が生まれ、それがさらなる人気に結びつくという好循環が生まれているようだ。
佐藤さんも、2.5次元の状況を「バブル」だとしつつ、「バブル後」を見据えて他の道を模索するよりも「2.5次元の世界でいけるところまでいってみよう、と思うようになりました」と語る。一過性のブームではなく、一つの大きなカテゴリーになってほしいとの思いからだ。
「2.5次元をもっと盛り上げたい」
この思いは、俳優陣や演出家、音楽制作者、プロデューサーなど、関係者それぞれに共有されている。『2.5次元のトップランナーたち 松田誠、茅野イサム、和田俊輔、佐藤流司』にはそんな彼らの言葉がおさめられ、このジャンルが発する熱気を感じ取ることができる。
原作ありきだからといって2.5次元が他の演劇やミュージカルより劣るジャンルだと思っているならそれはまちがい。2.5次元には原作があるコンテンツ特有の苦労や創意工夫があり、それらはまちがいなく舞台の質を高め、分厚いものにしているのだ。
(新刊JP編集部)