疲れた人の心や体の回復・改善を図る「セラピスト」という職業。
しかし今、このコロナ禍において人との接触を避けることが推奨され、フリーで活動をしていたり、店舗を経営している人にとってはかつてない苦境に直面しているのではないでしょうか。
ただ、そんな時だからこそできることがあります。
それは、自分の事業基盤を見直し、安定的に収益を得られるための事業をつくること。これはむしろ、今だからこそすべきことなのかもしれません。
セラピストに不足しがちな起業家・経営者マインドとビジネススキル・ノウハウを教え、売れっ子セラピストへの道を示してくれる一冊が『成功する「セラピスト」ビジネスの教科書』(セルバ出版刊)です。
著者の鈴木幸代さんは一般社団法人日本プロセラピスト協会代表理事で、セラピストの育成・支援を行う活動をしています。
そんな鈴木さんが本書の中で提示する、セラピストとして成功するための重要な考え方についていくつかご紹介しましょう。
「セラピストマインド®」とは、セラピストの心のあり方のことで、クライアントから信頼されてリピーターになってもらうために必要不可欠です。
その心をひと言でいうと、「思いやり精神」。
セラピストは「人を癒す仕事」と考えてしまいがちですが、それは上から目線で傲慢さにつながると鈴木さんは言います。セラピストは癒すのではなく、人に寄り添う仕事であるということを理解し、クライアントだけでなく、自分自身にもそれを向けること。
「自分に優しくなければ他者にも優しくなれない」とはよく言いますが、自分自身に寄り添えていて、いつでも笑顔でいるセラピストこそ、信頼されるセラピストになれるのです。
ストレスフルな社会。だからこそ求められているセラピストの存在ですが、その一方で飽和状態だと鈴木さんは指摘します。2013年から2018年まで5年間にマッサージ業・接骨院等の倒産件数は約3倍に上り、エステティックサロンもここ数年のサロン件数はほぼ横ばいですが、新陳代謝が激しく参入1年以内に60%が倒産するという激戦区。
こうした状態の中で生き残るには、自分の強みを知ることです。
クライアントは「わざわざ」あなたを選ぶわけですから、その理由があるはずです。それを自己分析するのです。まずは以下の14の質問に対して、紙に答えを書き出しましょう。それぞれ答えは1つでなくてかまいません。
1、やっていて楽しいと感じることは何ですか?
2、今までお金をたくさん費やしてきたことは何ですか?
3、今まで時間をたくさん費やしてきたことは何ですか?
4、お金がもらえなくても、やりたいことは何ですか?
5、ワクワクしてしまうことは何ですか?
6、時間を忘れ、没頭してしまうことは何ですか?
7、今よりも上達したいと思うことは何ですか?
8、あなたにとって、上達が速いものは何ですか?
9、人に「すごいね」と言われることは何ですか?
10、人に相談されたり、お願いされたりすることは何ですか?
11、人にしてあげて喜ばれたことは何ですか?
12、人からセンスがあると言われたことはなんですか?
13、人と比べて自分ができることは何ですか?
14、あなたが上手なこと、得意なことは何ですか?
この14の質問の答えを書き出したら、次は赤ペンで1~7の答えに印を、青ペンで8~14の答えに印をつけましょう。1~7は「好きなこと」、8~14は「得意なこと」になります。この2つの重なるところが、あなたの「強みの原点(1)」です。
そしてもう1つの質問「あなたが今までに経験を積んできたことはどんなことですか?」に対する答えが「強みの原点(2)」です。
この2つ原点の重なったものが、あなたの本当の強みとなります。あまたいるライバルに勝つために、「好き」だけでも「得意」だけでも「経験」だけでもなく、それが重なる点があなたにとっての武器になるのです。
本書ではさらに経営者の視点を身につけることをすすめています。
これは例えば資源の最適分配、経営方針、経営目標の設定、顧客像・ペルソナの明確化といった、いわばどんなビジネスにも通底する要素となります。
自分はフリーランスだから。一人でお店をやっているから。そういう人は、最適分配を考える必要はないと思うかもしれません。しかし、分配しなければいけないものがあります。
その一つがあなた自身の時間です。事業を始めたら自分の時間の一分でも惜しくなるはずです。時間を無断にしないようにする。そこで「経営者として」、経営方針に従って選択していくことが要求されます。
セラピストといっても、事業主になればあなたは経営者です。だから、経営者の視点を身につけることは成功をするために必須ともいえるのです。
このコロナ禍において、人々が「おうち時間」を過ごす中で、インターネットでの情報提供はビジネスにおいて欠かせないものになっています。特に近年はSNSサービスを上手く使うことが、ビジネスの成否を左右すると言っても過言ではない状況です。
本書でもSNSの活用法が書かれていますが、そのポイントは複数あります。例えば、そのサロンを構える地域に根差したコミュニケーションを取ること、出す情報に一貫性を持たせること、宣伝ばかりでなくテーマを決めて、役立つ情報を発信すること、などです。
また、オンライン講習会などの集客にも、上手くSNSを利用することが求められます。
SNSにはツイッター、インスタグラム、フェイスブック、ラインといったサービスがありますが、中心にブログを据えて、ブログと関連付けた情報を発信していくと効果的です。
本書でつづられていることは、実はセラピー業界に限らず、すべてのビジネスの世界で経営者や起業家たちが持っている「経営の視点」です。
この視点を持てば、自分のビジネスの成長を促してくれるとともに、さまざまな可能性を広げられるようになるはずです。
今、セラピストとしてどうしていこうかと悩んでいる人や、もっと信頼され、愛されるセラピストになりたいと思っている人はもちろんのこと、これからセラピストとしての第一歩を踏み出す人にとっても大いに参考になる一冊です。
(新刊JP編集部)
■コロナ禍で苦境に立たされるセラピスト業界 今必要なことは?
鈴木: 日本プロセラピスト協会では、プロセラピストとしてご活躍していただくためのビジネススキルやノウハウ、ビジネスマインドが勉強できるプログラムを、セラピスト向けに全国展開しています。
また、もう一つ事業がありまして、メンタリングマナーという人材育成とビジネスマナーを融合した研修を企業向けに提供しています。この2本を柱にして、2013年に設立登記をし、2014年から活動を本格的にスタートしました。
鈴木: おっしゃる通り、範囲はとても広いと思っています。療法家と呼ばれる方々がすべて当てはまるので、例えば医者であったり、理学療法士、言語聴覚士といった方もセラピストに含まれます。また、整体師、エステティシャン、カラーセラピスト、アロマセラピストといった方もセラピストです。
では、「療法家」をどう定義するかというと、医療に限らず、お客様の心や体を健康に導く人たち。心身を回復、維持、増進する理論や技術を用いて、お客様の健康な状態をつくりあげていく人たちのことを指します。
「療法」と聞くと少し難しいイメージを持たれるかもしれませんが、協会では、クライアントが元気になる、笑顔になるお仕事をされている方を全般的にセラピストと呼んでいます。だから、「セラピー」という言葉がつかない仕事の方も、お客様を元気にしたり、笑顔にしたり、一歩を踏み出す力を持っていただいたりという形で、お客様に寄り添っている方を「セラピスト」と呼んでいます。
鈴木: もともと私はカラースクールを経営していまして、そこでカラーセラピストやパーソナルカラーアナリスト、カラーコーディネーターの育成や企業研修、コンサルティングを行っていました。
その中で気づいたことがあります。資格を取られても、それをなかなか役立てていないという方が多かったんです。そこで、日本プロセラピスト協会を立ち上げました。
資格を活かすためには、技術以外のビジネス面も含めた勉強が必要であって、その部分をもっと広く伝えられないか課題を感じていたんです。
だから、セラピストビジネスの教科書的に読んでもらえればと思って、この本を執筆させていただきました。本だと復習もできますし、勉強する時間に融通が利きますからね。これからセラピストとして仕事をしていく中で、何が必要なのかを学ぶ手助けになればと思っています。
鈴木: そうですね。お客様と対面で施術やカウンセリングなどをすることが多い仕事ですから、とても影響はあると思います。特にエステティシャンや整体師はお客様のお身体を触って健康に導く施術をします。店舗に来ていただく形でも、出張で行う形でも、セラピスト、お客様いずれかの移動が伴うので、不安に思う方も多いですよね。
鈴木: そうだと思います。ただ、心身の健康を崩れていると感じている方々が、こういうセラピストがいるということをまだ認識されていないところもあるのかなと。
お客様は施術所やサロンなどの店舗があればそこにいけばいいですけど、自宅開業や出張セラピーなどはどのようにアクセスしていいのか分からない状況があると思います。そのマッチングが上手くできていない印象ですね。
鈴木: そうだと思います。ただ、闇雲に情報を発信すればいいというわけではなくて、自分が持っているセラピストとしてのマインド、心のあり方と、自分の技術を必要としているお客様にしっかり届けられるかが大事です。SNSやホームページ、パンフレットなど、発信手段はありますが、そこをちゃんと伝えられないと、お客様は自分にとって必要な場所かどうかはわからないですからね。
鈴木: そうですね。SNSの情報発信は避けては通れないものだと思いますが、その一方で発信の仕方が分からない、インターネットの知識に疎い方もいます。また、たくさんの方に告知をすることに対して怖さを抱いている方もいます。
ルールや勝手を理解していないまま、問題となる発言を発信してしまうと、お客様との信頼関係も構築できないと思うので、ちゃんと理解した上で発信をしてほしいなと思って本の中で書かせていただきました。
■長く続けるためにセラピストは今、何をすべきなのか
鈴木: どんな企業でも、理念、企業方針、企業目標があり、最初にミッション、ビジョン、バリューを考えます。それはセラピスト業界も全く同じで、その根幹がなければビジネスとしてやっていけません。ただ、セラピスト業界はまず個人事業主から始める方が多いからか、なかなかその部分を考えられていないんです。
自分がどの目的地に向かって事業を進めているのか、どんなことを施術で提供していくのか。どんな空間を提供するのか。目的があるからこそ、マインドも定まります。だから最も大事な根幹部分ともいえるんですね。
そこをしっかり持っていただいて、事業を進めてもらう。長くセラピストとして活動していく上で、何か障害が起きることもあります。そのときに立ち返る場所として理念が必要ですし、その部分をお伝えできればと思っていました。
鈴木: まさにそういう部分をクリアしていくために、一般社団法人日本プロセラピスト協会を立ち上げました。資格や技術がお客様を見つけてくれるわけではありません。相当な技術力があり、知名度も高い方ならお客様は寄ってくると思いますが、ほとんどの方はそうではないと思います。
だからこそ、ビジネススキルやノウハウが重要なんです。今、どういうニーズがあるのか、時流を読む。コロナ禍で対面での施術ができないならば、それをどう補うかを考えるためにはビジネススキルやノウハウ、マーケティングの能力、経営者としての能力が問われます。
無料や割引という手もあるけれど、価格競争が進んでしまうと体力が持たなくなります。だから、自分にしかできない付加価値は何かを考えたり、新しい価値を提供できないか探したりというビジネス面での力が問われるんです。
鈴木: そうなのかもしれません。こういう時期だからこそ、事業基盤を見直すことが大事です。本書を読んで頂いて、今の自分の事業と照らし合わせて、不足している点、見直すべきポイント、逆に加速できる部分があるなら、それを精査し、新しい価値を提供できるようになるチャンスだと思います。
また、事業計画がぶれているとしたら、理念に合わせた事業の進め方をすべきでしょうし、理念がないなら考えるべきです。それを今この時期に行って、新しいスタートラインに立ってほしいですね。
鈴木: 日本プロセラピスト協会での定義は、「人を思い、人に寄り添い、笑顔と可能性を引き出す心のあり方」としています。つまりは「思いやり精神」ですね。
ただ、「思いやり」だけですと、思い込みになってしまったり、思い上がりになってしまうことがあります。セラピスト側の目線による「お客様のために」が、本当にお客様のためにならなかったりすることがあるんです。そうすると、お客様が苦しんでしまうことになる。そうならないように、「寄り添う」という言葉を使っているんです。
鈴木: お客様が笑顔になったり、自分の可能性を信じ、自ら一歩を踏み出せるようになるために、寄り添うような気持ちでセラピストは施術する。それができる人になってほしいと思って「セラピストマインド®」という言葉を提唱しています。
鈴木: 上手くいっていないならば、事業を見直すことですね。足元を固めることが必要だと思うので、事業計画を見直して、目的を達成するために何が不足しているのかを直視することが大事だと思います。
もしかしたらそれが遠回りだと思うかもしれないけれど、そうではないんです。苦しい時期だからこそ、事業の根幹作りをしましょうとお伝えしたいです。
「あり方」を見直すことで、新たな「やり方」が見えてきます。
鈴木: 沖縄にヘアメイクとエステのサロンがあるのですが、その方は日本プロセラピスト協会の講座で勉強をして、事業計画を根幹から作り直し人材育成に力を注いだ結果、それまで任せられなかったサロンの運営をスタッフに任せることができるようになって、新たにメイクアップのスクール事業に着手できるようになりました。
また、セラピストとして起業と同時にビジネスの勉強をしたいという方が来て、しっかりと学んでいった結果、開業後、お客様から信頼を受けるようになり、1年で黒字化させたサロンもあります。今は更に新しい事業を展開しています。
鈴木: セラピストの方、起業をされてサロン経営をされているオーナー、スクールの先生を含めて、セラピー業界の方全般に読んでほしいです。また、セラピーという名前が付かない仕事でも、人を元気にするあり方をもって役に立つようなサービスを提供している起業家さんもいらっしゃると思います。ビジネスの根幹は同じです。そういう方々にもぜひ読んでいただければと思います。
(了)
鈴木 幸代(すずき・さちよ)
一般社団法人 日本プロセラピスト協会(JPTA)代表理事
一般社団法人 日本クラブメンター協会 理事
2008年、「アマランス Color &Total Beauty School 」を開業。たった1年で県外から資格取得のため受講するスクールに成長。セラピストとしての知識やスキルだけではなく、「人間力向上」をテーマに人財育成にも取り組む。その活躍が評価され、これまでに公的機関や一部上場企業や銀行、大手広告代理店やボディーセラピーサロンスタッフなど企業研修として、ビジネスマナーやコミュニケーション力向上を指導。これまでのべ10000名に向け、セラピーと講演・コンサルを行う。 セラピストが未病を防ぐ一翼を担うと考え、セラピーの可能性を本気で信じている。現実は、セラピーの資格を取っても趣味に終わり稼げないセラピストを目の当たりにし、セラピーの可能性を広げるため2013年、セラピストの自立・自律・自活を目指すセラピスト専門のビジネススクール、一般社団法人 日本プロセラピスト協会を設立。協会が提供する「セラピスト専門の自立プログラム」を受けたセラピスト達が「見違えるようになった」と周りからの評価が後を絶たず口コミで自立プログラムを受講するセラピストが次々に集まる。
セラピスト業界を担う後進を育成しつつ、さらに活躍の幅を広げるため、日本初となる「メンタリングマナー®」人財育成メソッドを考案。人の思いに寄り添い、価値と感動を与える企業人財の育成にも力を注いでいる。現在、沖縄県においても企業・セラピストの両面から人材育成の取り組みを2015年よりスタート・組織活性化に重要な仕組みづくりとマインドづくりのサポートをしている。コミュニケーションスキル、ビジネスマナー、キャリアアップ人財育成、リーダーシップトレーニング、人財マネジメント研修の他にコンテンツ作成を得意分野としている。
JPTA公式サイト:http://www.protherapist.or.jp
メンタリングマナー公式サイト:http://www.mentoring-manner.com
著者:鈴木 幸代
出版:セルバ出版
価格:1,500円+税