BOOK REVIEW
焼畑営業はもう限界 中小企業が生き残るために必要なビジネスモデルとは
ビジネスを取り巻く環境の変化の速さに苦悩する経営者は多い。次々に新しいテクノロジーが登場しては、またたく間に社会に定着する。少し前まで持てはやされていた企業が、その数年後には凋落の一途を辿っていたということも珍しくはない。
どんな企業も、安定した収益源となる事業を創りたいと考えているはず。
そのキーワードとなるのが「ストックビジネス」だ。
たとえば、6年以上連続して増収増益を達成できている日本の上場企業は、約3600社中でたった110社。わずか3%しかないといわれている。しかし、このわずか3%しかない増収増益を続ける上場企業には、ある共通する特徴があるという。
経営コンサルティングをはじめ、多角的な事業を手掛ける株式会社インキュベーションファクトリー代表取締役・小泉雅史氏は、増収増益を続ける上場企業の特徴として「ストックビジネス」=継続的な売上が期待できるビジネスを持っていることがあげられると指摘する。
では、ストックビジネスとは具体的にどのようなビジネスを指すのか? そしてどのようにビジネスを展開すれば成功できるのか?
小泉氏は『中小企業の「ストックビジネス」参入バイブル』(クロスメディアパブリッシング刊)でその答えを明かしている。
ストックビジネスのメリット、デメリット
まずは「ストックビジネス」について簡単に説明をしよう。
前述のようにストックビジネスは「継続的な売上が期待できるビジネス」のこと。対する言葉としては「フロービジネス」があげられる。
フロービジネスはいわゆる「狩猟型」のビジネスで、例えば新築マンションの販売事業がそれにあたる。マンションを顧客に販売したら、また別の新築マンションを別の顧客に販売する。新たな顧客を得るために常に移動し続けるのである。単発的には大きなお金が入るが、焼畑営業になりやすい。
一方のストックビジネスは「農耕型」のビジネス。同じ土地で何度も作物を育てるように、既存顧客と向き合い、継続・育成することで売上を上げていくという仕組みだ。また、土地を広げることで作物量を積み上げていくこともできる。
このビジネスで成功している具体的な例としては化粧品の通販を手掛けるドクターシーラボがある。化粧品は消費財だがずっと使い続けるリピーターが多く、特に流行に左右されない「スキンケア製品」が人気だという。
また、IBMもクライアント企業からシステム構築を受託し、長期に保守・運用まで行うストックビジネスを展開している。他にカーリースやコインパーキングなどもストックビジネスの一例だ。
こう見ると、顧客としっかり向き合ったり、安定して収益が上がるというところで、ビジネスの王道とも思えるストックビジネスだが、デメリットも存在する。安定性はあるものの、急に大きな売上が上がることはまずなく、ある程度時間をかけることが求められる。
「今すぐ売上を立てないと資金繰りが…」という企業にとっては、そんなことをしていられないという声が本音だろう。
ストックビジネスを立ち上げるなら「FC投資」と「M&A」?
新しくストックビジネスを立ち上げるにしても、やはりそれなりの時間、そして人材が必要になる。しかし、余分な体力が残されている中小企業は少なくない。
そこで、小泉氏が本書で提案しているのは「投資・M&Aによるストックビジネス多角化経営」である。
まず一つ目の「投資」。小泉氏は最も確実性の高い「投資」としてFC(フランチャイズ)投資をあげている。
「FC投資」とは、FCの加盟店になることで、フランチャイズ本部が開発したFCビジネスの「使用権」を得るというもの。複数のFCにわたって加盟し何十店舗も構える企業もあり、オートバックスと業務スーパーのフランチャイジーのFC加盟店を中心に全国で多店舗経営を展開する「G-7ホールディングス」は東証一部上場を果たしている。
「FC投資」によって、FC本部の持つ事業の仕組みやノウハウ、ブランド、人材などを吸収することができ、新規でストックビジネスを立ち上げるよりも早くビジネスを軌道に乗せることができる。
もう一つの「M&A」は、もともとあったストックビジネスをまるごと買収してしまう方法だ。M&A案件は、以前は極秘情報として金融機関を中心にのみ扱われてきたが、近年は中小企業の後継者問題などから「仲介サイト」も登場。小泉氏は「不動産売買と同じような取引状況」になってきていると述べる。
M&Aは、FC投資よりもさらに参入スピードをはやめられるのがメリットの一つ。自分の資金力に合わせて適切な規模でM&Aを進めることで、ストックビジネスの多角化をはかることができる。さらに、税務上や会計上のメリットがあることも大きな魅力だと小泉氏は指摘する。
一方で、M&Aは自身の投資力、そして一定な資本力が必要だ。特に投資力は自分自身の「目利き力」ともいえるもの。事業価値をしっかり算定できるか、会社内に投資・M&Aに対する実務的なスキルを持っている人材がいるか、といった部分が問われる。
◇
本書は「基礎編」と「応用編」に分かれており、ここでは「基礎編」からストックビジネスの基礎をまとめた。この先の「応用編」ではストックビジネスで成功するために何が必要なのか、どのようなことをすべきなのかを教えてくれる。
実際、小泉氏は幅広い事業を展開しており、その経験も本書の内容に織り込まれている。変化の速い時代だからこそ、安定した収益を積み上げるビジネスを創りたい。そんな経営者にとっては参考になる一冊だ。
(新刊JP編集部)
INTERVIEW
キャッシュフロークワドラントを知って頭の中がスパーク
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まずは小泉さんとストックビジネスの出会い、そして本書を執筆しようと思った経緯をお聞かせ下さい。
小泉:私はもともと経営コンサルタントとして買収ファンドビジネスの方と組んで買収した企業のバリューアップやキャッシュフローの改善を行っていたのですが、リーマンショックで痛い目に遭いました。つまり、多くのプロジェクトが不況で止まってしまったんですね。さらにリーマンショックの数週間前には、なんと六本木ヒルズのリーマンブラザースのオフィスで商談していましたので、リーマンショックはとても他人事ではありませんでした。
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そこでコンサルティングフィーだけでやっていくことの不安定さを痛感したわけですね。
小泉:そうです。コンサルタントの収入だけに頼ると大変なことになると身をもって体験 しました。もう一つは、当時、ロバート・キヨサキの『金持ち父さん貧乏父さん』を読んで、「キャッシュフロークワドラント」というフレームワークを知り、インスピレーションを受けたことも大きいです。
キャッシュフロークワドラントは4象限の概念で、ビジネスへの関わり方を「E: Employee(従業員)」「S: Self employee(自営業者)」「B: Business owner(ビジネスオーナー)」「I: Investor(投資家)」によって定義しています。私はそれまで「B」「I」をあまりよく知らなくて、「ああ、これだ」と頭の中がスパークしたんです。
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「B」と「I」に踏み出そうと考えたわけですね。
小泉:はい。「B」「I」について色々研究するうちに、投資の神様バフェットの一連の著作を読むようになり、ストック性の高いビジネス、つまり「ストックビジネスに投資して経営する」という経営手法に出会いました。その視点・考え方を通して、これまでの自分の事業経験を振り返ると、成功しているビジネスはみんなストックビジネスだったことに気づき、ストックビジネスを自社の経営戦略の中心に据えようと思いました。
そこが本書のテーマになっているストックビジネスの入り口でした。そして なにができるか考えた時に思いついたのが不動産投資でした。さらに、近年は米国オマハのバークシャーハサウェイの株主総会に出席して、バフェットから直接、ストックビジネス投資法・多角化経営法を学ぶようにもなりました。
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バフェットに会った日本人はかなり少ないでしょうから、とても貴重なノウハウを学ばれているのですね。そのノウハウが今回のご著書にも書かれているのでしょう。ところで現在、小泉さんが代表を務めるインキュベーションファクトリーでは、どのような事業を展開されているのか教えて下さい。
小泉:今は主に2つの事業を展開しています。ひとつは自社で行うビジネス投資です。自らプレイヤーとしてストックビジネスの事業投資・多角化経営を実践しています。具体的には、不動産の再生投資やネットビジネスへの投資、ストックビジネスを営む上場企業株への投資などがあげられます。もうひとつは、ストックビジネスへの参入を望む企業に対して参入支援コンサルティングを提供しています。
じつは今回の本を書こうと思った動機は、これまでの「投資・M&Aによるストックビジネス多角化経営」の経験や知識を経営手法として体系化して書籍にまとめることで、日本の中小企業の経営力の向上に貢献したいと考えたからです。
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実際に本書を読ませていただきましたが、その可能性は十分ありそうですね。ところで話はかわりますが、最近はサブスクリプションモデルが注目されています。ストックビジネスとの違いはなんでしょうか?ご著書ではAmazonプライムの事例も紹介されていますが。
小泉:サブスクリプションの語源は英語のsubscription で、もとは新聞・雑誌などの「定期購読」の意味です。
なぜ、サブスクリプションが注目されているのかというと、IT業界では「ソフトウェア販売型」から「クラウドサービス型」にビジネスモデルがどんどん移行していて、必然的にサービス利用に対して継続課金するサブスクリプション方式が注目されるようになりました。
さらにクラウドサーバー技術やIoT、AIによるデータ解析などデジタルテクノロジーの進化によって常時ネットワーク接続型のビジネスが急速に拡大していく中で、IT業界だけではなく他の多くの業界でもITベースのサブスクリプションモデルへの移行が進んでいるからです。所有から利用へ移行するシェアリングビジネスの影響もあると思います。ちなみに、サブスクリプションモデルは英語でsubscription-based modelと書きます。
一方、ストックビジネスですが、これは日本では一般的にビジネス用語として使われていますが、もとは和製英語なんですね。だから外国でストックビジネスと言ってもあまり理解されないと思います。英語ではrecurring revenue modelが近い表現です。意味は「定期的・継続的な収益」です。ストックビジネスは売上継続型ビジネス、同じ畑から毎年安定収穫を得るような農耕型のビジネスです。
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それで両者はどのように違うのでしょうか?
小泉:英語で比較するとわかりやすいですが、subscription-based modelとは「定期課金型モデル」を意味しているのに対して、recurring revenue model は「継続的な収益モデル」を表現しています。つまり、サブスクリプションはより具体的な定期課金という「方式」なのに対して、ストックビジネスは収益継続性という「ビジネス概念」であると考えています。
だから、ストックビジネスという単一ビジネスが存在するというよりも、ストック性が高いビジネス、ストック性が低いビジネスといった「収益継続性のレベル」が異なるビジネスが存在するといったイメージでとらえていただきたいと思います。
たとえば、 私が以前勤めていたドクターシーラボという化粧品通販会社では、ストック性が高い化粧品通販を営んでいましたが、サブスクリプションモデルではありませんでした。
サブスクリプションビジネスを検討する際に、そのビジネスの「ストック性」を分析することがとても重要です。そして、ストック性が極めて高いビジネスに限ってサブスクリプションモデルを導入するべきです。単なる流行でサブスクリプションモデルを導入しても大抵は失敗するでしょう。
「投資の神様」バフェットとの邂逅
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小泉さんは実際にウォーレン・バフェットにも会いに行っているそうですが、バフェットはストックビジネスを徹底してやっている?
小泉:そうですね。彼がCEOを務めるバークシャーハサウェイは持ち株会社ですが、 彼が成功してきた投資先を見ると、どれもストック性の高いビジネスを展開しています。クレジットカードを発行するアメリカン・エキスプレスの株を取得したり、最近では鉄道会社を買収しています。バークシャーハサウェイは時価総額でいえばGAFAの次くらいの規模ですね。巨大企業です。
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お話をうかがっていると、ソフトバンクとも似ているように感じました。
小泉:孫正義さんはウォーレン・バフェットのやり方を真似していると公言していますよね。IT分野のバフェットになりたいそうです。
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ストックビジネスのメリットとデメリットを改めておうかがいしたいです。
小泉:メリットは安定収入が得られるという点が大きいですね。またストックビジネスの多角化経営を展開することで、中小企業でも安定収益を複合的に積み上げながら、大きく成長拡大できることです。一方のデメリットは立ち上げに時間がかかるということ。ビジネスシステムを構築して改善していくことが求められるので、それなりに時間と労力が必要です。ただ、そのデメリットを解決できる方法も存在します。それは後編でお話したいと思います。
時間と労力が必要なストックビジネスの成功確率を高めるには?
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前編の最後でストックビジネスのメリットとデメリットについてお聞きしましたが、「立ち上げから軌道に乗るのに時間や労力がかかる」というデメリットを解決する方法はあるのですか?
小泉:その部分を解決する方法を本書で書いています。具体的には「投資・M&A手法」を使うことで、デメリットとなっている時間とビジネスシステム構築の問題を一気に解決し 、素早く参入できる仕組みを提案しています。
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「投資・M&A手法」とは何ですか?
小泉:本書は 日本の中小企業の経営力の底上げに貢献したい気持ちもあり執筆させていただいたのですが、その多くの中小企業は「社内経営リソース不足」という問題を抱えています。それを解決するのが「投資・M&A手法」です。
つまりウォーレン・バフェットや孫正義さんと同じく、M&Aで事業を買収したり、投資によってノウハウを外部から手に入れるというやり方です。立ち上げがなぜ難しいかというと、ゼロからノウハウを築き上げていく手間と時間がかかるからです。
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だから、仕組みをまるごと買ってしまってノウハウを築き上げる過程を省くということですね。
小泉:そうです。なんでも自社で立ち上げることにとらわれている日本の経営者は多いですが、投資・M&Aで一気に「獲得」してしまうという発想を持つべきです。立ち上げはこれからの「計画」にお金を投じますが、投資・M&Aは実稼働している「実績」のあるビジネスにお金を投じる行為です。どちらが合理的かはすぐわかると思います。
ただ、ストックビジネスは積み上げですから、短期間で大きく儲けたいときには不向きなんですね。フロービジネスの方が数字的な華やかさもあるのでどうしてもそちらに目がいってしまいがちです。
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たしかに「ストックビジネス」は育てるビジネスだと思います。「育てる」やり方は効率的ではないから避けて、M&Aや投資をすべきということでしょうか?
小泉:いえ、そういうわけではありません。M&A・投資したストックビジネスを維持していくことも重要です。その過程で育てていく必要はあります。ただ、今やっている本業をストック化するパターンや新規事業を0から立ち上げるパターンと比べると、すでにある程度育ったビジネスを獲得するわけですから、一から育てる時間を大きく短縮できるということです。中小企業にありがちな「社内経営リソース不足」も一気に解決できます。
ZOZOはストックビジネス?
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実際にストックビジネスで安定した収益をあげている企業はどのようなところがありますか ?
小泉:本書で紹介した企業事例としてはAmazon、マイクロソフト、ドクターシーラボ、パーク24、クックパッドなどがあります。他にたとえば31期連続で増収増益の家具製造小売業のニトリは家具だけではなく生活必需品も揃えており、リピート率が高いストックビジネスの仕組みをつくっています。
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今、話題のZOZOはいかがでしょうか。
小泉:ZOZOは(最近ユニクロと同じ製造小売業を目指していますが)基本的にはメーカーではなく、アパレルの小売業なのでAmazonと同じリテーラーモデルです。本書では「自社に合ったストックビジネスの見つけ方」の章でAmazonを「エリアトップ小売型」として紹介しています。ようは、特定エリア(商品カテゴリー・地域など)で規模や品揃えを活かして一番店を目指すビジネスです。そのカテゴリーの買い物客のリピート率が非常に高い小売業なのでストック性のあるビジネスです。アパレルの中ではZOZOはエリアトップ小売型としてストック性が高い仕組みをつくっていると思います。
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ストックビジネスで失敗をしてしまうケースもあるかと思います。たとえば、全く顧客が増えないなどがあげられると思いますが、そうした失敗ケースの共通点はどこにありますか?
小泉:これは本書の「失敗しないストックビジネス参入ノウハウ」に詳しく書いたのですが「多角化経営 3つの基本戦略」をしっかり実践できていない企業です。詳しくはぜひ書籍を読んでいただきたいですね。
簡単に言うと、ニッチ独占型ストックビジネスを上手く構築できていない企業、余剰資金を投資・M&Aサイクルで回せていない企業、ROIC(投下資本利益率)で事業の取捨選択ができていない企業です。
独占性の低い低収益ビジネス、投資・M&Aの失敗、数値による事業管理が徹底できていない企業がストックビジネスで失敗してしまう企業ですね。
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それではここで、投資・M&Aによるストックビジネスを始めようと考えている経営者、もしくは新規事業担当者に向けて、アドバイスや必要な考え方をご教示ください。
小泉:本書の「投資・M&Aによるストックビジネス多角化経営法」はストックビジネスの安定収益を、さらに事業ポートフォリオで複合的に多角化・リスク分散化させるという非常に盤石な「守りの経営」を構築する部分と、投資・M&Aで一気に社外リソースを獲得して参入・拡大する「攻めの経営」手法を併せ持つ、「堅守速攻」型の経営法です。
ウォーレン・バフェットや孫正義さんが実践し、結果を出しているビジネス経営手法でもあり、上手くやれば巨大な企業に自社を成長させることが可能です。まずは本書を読んで頂き、2つのスキル、「ストックビジネス多角化経営法」と「投資・M&A手法」の基礎を身につけてください。そして、自社の資本力に応じて、まずは小さく実践してみてください。
本書でも書きましたが、資本力に応じて、投資・M&A案件は数百万円から数千億円くらい まで、さまざま存在します。だれでも体力に応じて始められる経営法だと思います。
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最後に、本書をどのような方に読んでほしいとお考えでしょうか。
小泉:3つの読者層を想定しています。まずは、安定収益の多角化、複数の収入の柱をつくりたいと願う中小企業の経営者。そして、ストックビジネス参入に興味がある新規事業開発の担当者や投資・M&Aを検討している経営企画担当者など。最後にストックビジネス成功企業の事例を研究したい大学経営学部やビジネススクールの学生です。
特に経営に悩んでいる経営者はこの経営法を知った瞬間に頭の中がスパークするかもしれません(笑)。目からウロコと思うことが書かれているはずなので、ぜひ参考にしてみてください。