創業&経営の大学
ートップは人たらしであれ
著者:竹菱 康博
出版:さくら舎
価格:1,760円(税込)
著者:竹菱 康博
出版:さくら舎
価格:1,760円(税込)
どんな世界でも一瞬だけ輝く人はたくさんいるが、何年も輝き続けられる人はまれだ。
だからこそ、長く第一線で活躍し続けている人の経験や考えには価値がある。運や時代の流れに左右されない普遍的な真実が含まれていることが多いからだ。
『創業&経営の大学 ―トップは人たらしであれ』(さくら舎刊)は、浮き沈みの激しいビジネスの世界で約50年間経営者として活躍してきた竹菱康博氏が、企業のトップとしてのあるべき姿と事業に臨む姿勢を説く。
「ヒト・モノ・カネ」と言われるが、竹菱氏が一番大事にしているのは「ヒト」であり、人対人のコミュニケーション能力である。いかに人を巻き込み、説得し、理論的に伝えるかが経営者の気量であり、いかに「人たらし」たれるかが事業の成否を分ける。竹菱氏が語る「社長のコミュニケーション能力」とはどのようなものか。
コミュニケーションは経営者の必修科目であり、下手だったら学ぶべき、というのが竹菱氏の考えだ。仕事では従業員とも取引先ともコミュニケーションが発生する。コミュニケーションは経営者にとって避けられない仕事の一部なのだ。
ただ、経営者のコミュニケーションはただ話せばいいだけではなく、三つの目的に分けられる。
1.人間関係を築く・・・いいものも悪いものも含めて人間関係。八方美人になることなく、相手にとって嫌なことでも発言する。
2.情報を交換・共有する・・・何気ない会話や一見どうでもいい情報からビジネスチャンスが生まれることは珍しくない。ふとした時に生まれるアイデアを大事にしよう。
3.相手に働きかける・・・相手に働きかけ、働きかけられて、結果として相手が動く。双方向のコミュニケーションを。
自分が今、何を目的としているのかを自覚することが、経営者のコミュニケーションの第一歩となる。毎日の会話を意識的に行うことが大切なのだ。
ただ、経営者もコミュニケーションが得意な人ばかりではなく、コミュニケーションが苦手な人、コミュニケーション能力が低い人もいるという。
1.相手が聞きたい(言いたい)と思うものがわからない
2.感情を喚起できない(理屈によって伝えようとする)
3.話を聞く必要がある人物とは思われていない
これらに心当たりがあるなら要注意だが、コミュニケーション能力は今からでも鍛えることができる。組織を動かし、ビジネスを推進させ、人を巻き込むコミュニケーション能力とはどのようなものか。本書から学び取ることができるだろう。
◇
『創業&経営の大学 ―トップは人たらしであれ』は、コミュニケーション能力だけでなく危機管理能力、決断力、計画力、ブランディング力に至るまで、経営者に必須の能力について、50年にわたる経営者人生から導き出した著者の極意を伝えていく。
経営者が仕事観や経営哲学を語ると、どうしても世間受けのいい美談めいたものになりやすく、失敗談を語る際も、あくまで「成功への土台」として語られる。そのため、聞き手(読み手)からすると綺麗事のように感じられることもしばしばなのだが、本書は一般的な「経営者本」とは一線を画し、竹菱氏の本音が伝わってくる。
「ビジネスにはグレーな部分が必要不可欠」と言い切り、マルサ(国税局)に入られた話、ブルネイ王国の偽王子にだまされたエピソードなどを包み隠さず明かす姿勢は、いいことも悪いことも飲み込む度量によるものだろう。
時代が変わり、ビジネスが変わっても経営者に必要な資質は「人間としての魅力」である。そんなことに改めて気づかせてくれる一冊だ。
(新刊JP編集部)
■ビジネスの動機は不純でいい
竹菱: もちろんそれもあります。ただ事情をお話しすると、私は今から7、8年前まで、知人の紹介で知り合った経営者を対象に経営者塾をやっていたんです。ここ数年はやっていなかったのですが、コロナ禍が始まってから経営に悩む経営者の知人が増えました。そんななかで「もう一度、あの経営者塾をやってほしい」という声をいただいたんです。
「じゃあやろうか」となって大阪と東京でやっていたのですが、そのうちに塾で私が話している内容を本にしませんか、とお声がけいただいたのが今回の本を書いた経緯です。
竹菱: これは本には書いていない話ですが、大学を中退して時間を持て余していた時期に、私はたまたま大阪で進学校に行っていたこともあって、近所のおばちゃんから「うちの子の面倒をお願いできないか」と言って小学生の勉強を見てもらえないかと頼まれたんです。それで学習塾を始めたのが最初です。これが結構評判が良くて、生徒が増えたのですごく儲かった。
竹菱: 最初はそうです。家の2階の自室で生徒は5、6人くらい。そのうちに近所のガレージを借りて教室にしてから生徒が増えました。
でも、言い方は悪いのですが自分で教えるのが段々と面倒になってきて、妹とその友達を雇って、自分は現場から離れたんです。保護者のフォローだけするようにした。それから教室を増やして、多いときは5カ所くらいで教室をやっていました。
でも、そうするとまたやることがないんですよ。そこで「世界を見てみよう」という気持ちが出てきて、フィリピン、台湾、香港などを何のあてもなく見て歩いているうちに、世界を相手にビジネスをしたら面白そうだなと思えてきて、貿易の会社を立ち上げたんです。
竹菱: そうです。行ってみたら「貿易をやるのは面白いかも」って。それだけです。計画性も何もない不純なビジネスの始め方でしたが、ビジネスの始め方なんて不純な動機がはじまりでも、明確な動機がなくてもいいんですよ。それでもやっていくうちにそのビジネスの動機づけができてきて、一つのビジネススタイルが出来上がる。それでいいんだと思います。
竹菱: 私はなれると思っています。その気になれば性格は変わりますからね。
私も、今でこそ人前で話したりしていますが、小学生の途中までは今でいう「引きこもり」で、家から出ずに世界中の無線を傍受する「アマチュア無線」のオタクでした。でも高校に入ってからできた友達の影響で変わっていったように思います。段々と外向的に人と交われるようになっていきました。
竹菱: 15年くらい前までは昭和の企業風の上下関係が残っていたりもしたのですが、今はもうまったくないですね。そういう時代なんだと思います。
組織づくりだけでなく、人の育て方、伸ばし方も変わってきていますよね。上意下達ではダメで、その人の個性をどう会社組織に融合させられるか、ということを考えないといけないと思います。その一方で経営者はやはりカリスマ性が必要だという思いも持っています。
竹菱: 確かにマネジメント層がハラスメントに腰が引けているところはありますよね。一方で、ハラスメントが「相手の受け取り方次第」になりすぎることには疑問を感じます。
よく「叱る」と「怒る」を区別しなさいという風に言われますけど、上司の側が叱ったつもりでも、相手は理不尽に怒られたと感じるかもしれません。そこは言われた方次第であり、関係性次第なんです。部下との信頼関係ができていないからこそ、上司はハラスメントに腰が引けるんだと思います。
あるいは、実はうちの会社がそうなのですが、部下も上司に好き放題言える環境を作ってもいい。上司が部下にきついことを言うのであれば、部下も上司を好きに言えばいいんです。互いに愛情と敬意を持ったうえで双方向にモノを言える組織はハラスメントが問題化しにくいのではないかと思います。
■信頼される経営者は「裏切られても人を信じる」
竹菱: 私も長い間経営をやってきましたから、離れていった社員もいますし、裏切られたこともあります。私が裏切ったことだってあるかもしれません。そういった経験をしてきて思うことは、やはり経営者はたとえ社員に裏切られても信じ続けることが大切なんだということです。
どんな従業員であれ、経営者本人にはできないことをやってもらっているわけですから、そこについては信じて任せるということですね。
竹菱: これも信じることでしょう。裏切られたっていいじゃないですか。裏切られても信じることで周りからの信頼ができるんですから。
竹菱: 悪いときは何をやっても悪くなりますよ。変にジタバタしない方がいい。
竹菱: あります。泥沼に落ちたときにもがいたら余計に沈むのと同じで、悪い時期にもがくと余計状況が悪くなる。だから、私はそういうときはじっとしています。といっても何もしないわけではなくて、先の戦略を考えることに時間を費やしていますし、自分がコンサルティングで入っている会社でもそうするよう教えています。
竹菱: 昔は他の役員の意見なんて一切聞かずに完全に自分だけで意思決定をしていましたが、今はスタッフの意見を聞くようにしていますし、広く情報を集めるようにしています。今考えると昔は直感だけで判断していましたね。今も直感で意思決定しているといえばそうなのですが、情報をできるだけ入れたうえでの直感、という感じでしょうか。
竹菱: 「自分を信じなさい」ということですね。今の日本は社会がどんどん閉鎖的になって、世界から取り残されつつあります。おそらく、これからもっと取り残されるでしょう。そんななかでも若い方々は最低限自分を信じて、何か小さいことでも夢やロマンを感じて生きてほしいと願っています。
というのも、これから起業したいという若い人と話す機会がよくあるのですが、夢やロマンという言葉が出てこないんですよ。出てくるのは「こういう事業は儲かると思いますか?」という質問ばかりです。
でも、まずやるべきことは儲けのタネを考えることではなく、「相棒」を探すことです。そこさえ決まれば「何をするか」は後でいくらでも出てくる。だから、まずは「こいつと組んだらおもしろそう」という人間を探しなさい、うまいこと成功したら一緒に酒を飲める奴、失敗したら笑って「次は何をしようか」と言える奴、そんな仲間を探しなさい、そこにロマンを持ちなさい、と答えています。お金にロマンを持ったらいけません。人探しにロマンを持っていれば、お金は後からついてくるものなんです。
竹菱: 60歳を過ぎて仕事をリタイアして、時間を持て余している人を再生させようというプロジェクトが走っていて、それはおもしろいと思ってやっています。仕事はしていないし、家庭では“粗大ごみ”のような扱いをされていたりもするのですが、錆びついていても能力はある。そういう人の錆びをとってまた活躍できるようにしようというプロジェクトです。
先ほど若い人にロマンを持ってほしいという話をしましたけど、おじさんだってロマンを持っていた方がいいのは一緒です。戦後の高度成長を支えていた世代の力はまだまだあなどれないということをこれから見せていければと思っています。
(新刊JP編集部)
竹菱 康博(たけびし・やすひろ)
一般社団法人副業創業支援協会代表理事。株式会社クワトロ会長。1953年、大阪府に生まれる。大阪電気通信大学を中退し19歳で起業。以後、今日まで約50年間、事業経営一筋に生き、他人に雇われた経験はゼロである。貿易会社、皮革製品販売、広告制作会社などでの成功と失敗体験を経て、2000年代からIT業界に進出。「ITの総合商社」としてコンテンツ事業やインフラ事業等を多角的に展開し、現在は国内4社、海外2社を経営している。また、経営コンサルタントとして経営・営業・人材教育・財務など、さまざまな角度から多くの企業にアドバイスをおこなう。IT企業経営者ながら「人のつながり」をモットーに本音で語る話には、多彩な経験に裏打ちされた人間力が溢れ、人気を博している。
著者:竹菱 康博
出版:さくら舎
価格:1,760円(税込)