夫婦は「産後」が危ない!妻の変化に対処するために夫が知るべきすべて
知っておくべき産後の妻のこと

知っておくべき産後の妻のこと

著者:東野 純彦
出版:幻冬舎
価格:800円+税

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本書の解説

出産後に妻の様子が変わり、自分に対して冷たくなったと感じる夫は少なくない。
やたらとイライラしたり、自分に対して素気なかったり、良かれと思ってやったことが逆に怒りに火をつけてしまったり…。

夫である男性は、そんな妻の変化が受け止められない。出産前後で女性はホルモンバランスが変化すると聞いたことはある。でも、人が変わったような目の前の妻に対してどう接していいのかわからない…。

夫は妻の産後の変化を楽観視してはいけない
これが、出産を境に夫婦に亀裂が入る「産後クライシス」の一端だ。

産後クライシスとは、妊娠や出産によって起こる身体やホルモンバランスの変化に伴って産後の母親に起こる精神不安や産後うつが原因で、夫婦関係や社会関係に影響を及ぼすこと。

産婦人科医の東野純彦氏は著書『知っておくべき産後の妻のこと』(幻冬舎刊)で、産後の女性に起きるドラスティックな変化について指摘。パートナーとなる男性側にこの変化への理解を促している。

妊娠中の女性は、胎盤からエストロゲンという女性ホルモンが大量に分泌され、このホルモンのはたらきによって授乳のために乳房が大きくなったり、出産に向けてお尻周りに皮下脂肪がついたりと、出産して母親になるための準備が始まる。

しかし、出産が終わると胎盤は体外に出るため、エストロゲンは急激に下がる。この変化によって女性には「眠れない」「元気がでない」といった症状があらわれる。これが「マタニティブルーズ」である。

朝笑顔だった妻が、仕事を終えて帰宅すると大泣きをしている。どうしたのか聞いても「理由はないけど、涙が止まらなくてすごく不安」と泣き続ける。夫からすると、「気分にムラがあるな」と感じるが、本人のなかではとてつもない葛藤や心の嵐が吹き荒れている。このマタニティブルーズは産後の女性のうち約3割が経験するという。

ただ、基本的にマタニティブルーズは2週間ほどで自然に収まる。問題は、2週間経っても症状が治まらない場合。本書では、こうしたケースは「産後うつ」の可能性があるとしている。

もう一つ、男性側が知るべきは「オキシトシン」というホルモンの存在だ。エストロゲンが出産後に急激に減る一方で、オキシトシンは分娩の時に最も分泌され、産後も授乳中など我が子と密着してゆっくり過ごしている間によく分泌される。

このオキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、この分泌によって、女性には「母として、子どもを愛し、守っていこう」という気持ちが芽生えるが、同時に母親の攻撃性を高めてしまう作用もある。「子どもの世話をしようとしているのに、妻が嫌な顔をする」という場合、このオキシトシンのはたらきによるものである可能性がある。



産後の女性にこうした大きな変化が起こる一方で、男性側にはこうしたホルモンの変化は少ない。結果、産前とは別人のような妻が理解できず戸惑ったり、妻とのコミュニケーションがうまくいかなくなったり、ということになりがちだ。

ただ、この時期に夫がどう妻に寄り添うかは、その後の結婚生活を左右する。場合によっては離婚につながることもあるからこそ、男性は産後の女性に起きる変化について理解することが重要になる。

本書で明かされている産後の女性に起こる変化は、多くの男性が想像するよりもはるかに大きいはず。いつまでも妻に愛される夫でいるために、男性が本書から得られるものは多いはずだ。

(新刊JP編集部)

インタビュー

東野 純彦(とうの・あつひこ)

■夫婦を揺るがす「産後クライシス」とは

『知っておくべき産後の妻のこと』について聞いていきます。産前産後のホルモンの分泌による女性の変化について、男性側はぼんやりと「そんなことがある」とは知っていても、なかなか詳しいところまではイメージできません。この女性の変化はどのようなものなのでしょうか。

東野: 妊娠中の女性は、胎盤からエストロゲンという女性ホルモンがものすごくたくさん分泌されます。多くの女性ホルモンは卵巣から出るものなのですが、エストロゲンは胎盤から出ます。

そのエストロゲンなのですが、胎盤は出産の際に体外に出ますから、赤ちゃんを産むと分泌量が大きく下がります。それによって起こるのが、俗にいう「マタニティブルーズ」です。マタニティブルーズは誰にでも起きるのですが、個人差が大きくて、症状が軽い人もいれば、そうでない人もいます。まずこのことをパートナーとなる男性の方々には知っていただきたいのです。

どのような症状が出るのでしょうか。

東野: 具体的には夜眠れなかったり、元気が出なかったり、という症状です。これが出産して2、3日経つと出てくる。人によっては「こんなもんかな」と思えるし、「思ったよりもつらい」と感じる人もいます。

ただ、これは胎盤がなくなったことによって起こる一時的な変化なので、だいたいの人は2週間くらいで元に戻ります。

自然に元に戻るんですね。

東野: どちらかというと「慣れてくる」というのに近いです。2週間ほどで、赤ちゃんとの生活に折り合いがついてきて、新しい生活になじんできます。

ところが、この2週間のマタニティブルーズを乗り越えられない人が、約1割ほどですがいますね。それが、よく言われる「産後うつ」です。この産後うつを何とか減らしたいというのが、今回の本を書いた大きな理由です。

今回の本では、マタニティブルーズや産後うつをきっかけに夫婦の関係が悪化する「産後クライシス」が一つのテーマになっていますが、女性の産後の変化が夫婦関係の悪化にどう関係するのでしょうか。

東野: まずはオキシトシンというホルモンの影響を知っていただきたいです。これは俗に「愛情ホルモン」と呼ばれるのですが、授乳の時とか陣痛の時、出産の時に大量に分泌されます。

このホルモンによって、女性は赤ちゃんが産まれた瞬間から愛情を感じることができて、授乳のたびに幸せな気持ちになります。それは頭で感じるのではなくて、自然にそういう気持ちが湧いてきます。

ただ、オキシトシンは強いホルモンで、愛情を感じて「産まれた子を守りたい」という気持ちが、妨害するものは「敵」とみなして排除しようという気持ちに結びつくことがあります。

そこで夫やパートナーの男性が「敵」だと思われてしまうことがある。

東野: そうです。男性は女性と違ってオキシトシンはあまり分泌されません。今はコロナウイルスの感染拡大の影響で立ち会い出産はできないのですが、立ち会いができたとしても、男性は女性とは違って、自然に子どもへの愛情が無条件に湧いてくるわけではなくて、頭で考えて愛情を持つ。この違いは実は大きいのです。

この違いがどうあらわれるかというと、オキシトシンが大量に分泌されている女性たちは、パートナーの男性の言葉や態度を敏感に感じ取ります。何気なくかけられた言葉ひとつにイライラしたり、怒りを覚えてしまうことがある。たとえば、夫が子育てや家事で大変そうな妻を見て「手伝おうか?」とか「がんばって」と言うでしょう。これって実は産後の女性からしたら最低の言葉なんですね。

そうなんですか?私は男性ですが何の気なく使ってしまいそうです。

東野: 産後の不安定な女性からしたら、「がんばれよ」っていうのは「俺はがんばらないけど、おまえはがんばれよ」と聞こえますし、「手伝おうか?」も、他人が上から救いの手を差し出しているように思えて、当事者意識がないように感じられることが多いんです。だからこれらの言葉は言わない方がいいです。

こういったコミュニケーションのズレによって夫婦の関係が悪化してしまうことがあって、これを「産後クライシス」と呼んでいます。出産直後の時期は、その後の夫婦関係の分かれ道なんです。

■「産後」は結婚生活の分かれ道 そこで夫は何をすべきか

「産後クライシス」についてですが、原因は女性のホルモン分泌の変化だけではなく、コミュニケーションにもありそうですね。

東野: 問題は男性の側がこうした女性の変化について理解していないことなのです。知ってさえいれば、産後の女性がイライラするような言葉は言わないですみますし、もし言ってしまったとしてもすぐに謝ることができると思います。

私はもうすぐお父さんになる男性のための「父親教室」を20年近くやっているのですが、こういう話をすると「では、どうしたらいいんですか?」という話になります。結論からいえば、女性が求めているのは「何も言わずにやってほしい」ということなんです。でも、そんなのできないでしょ(笑)?

できないと思います。

東野: 男性は「察する」ということができないか、苦手な人が多いのです。やってほしいことがあるなら言ってほしいと思っている。

そのことを、今度は「母親教室」で話します。女性同士なら自然にできる「察する」ということが男性はできないと。女性は女性で、「男性はそういうものだ」っていうことを理解する必要があります。男女の間で、お互いに努力して、相手との違いを理解するというのが、「産後クライシス」を避けるためには大切です。男性と女性は、脳のつくりから違うのですが、意識しないと相手が自分と違う性質を持った存在だということがなかなか本当にはわからないんですよね。

男性側からすると、こうした女性の変化は腑に落ちず、理由もわからずにイライラされて理不尽だと感じることもあるはずです。こんな感情をもった時、男性はパートナーとの関係を壊さないためにどうすればいいのでしょうか。

東野: こればかりは自分が変わるしかありません。「産後の女性はこういうものなんだ」ということを理解して、それを受け入れる覚悟をする。今回の本を通じて、男性の方々の覚悟を促したいという気持ちがありました。

特に出産後の一カ月は本当に意識して、女性の側に寄り添って、相手の気に障ることは言わないように気づかっていただきたいです。かといって奴隷になれというわけではないのですが。

「奴隷になればいいわけではない」とは本書の中でも書かれています。このあたりが男性にはどうすればいいのか難しそうです。

東野: もちろん、女性の側も男性に奴隷になれと思っているわけではありません。結婚したからには相手のいいところはわかっているし、魅力を感じているはずです。ただ、男性はよく「釣った魚にエサをあげない」なんて言われることがありますが、結婚するまでは相手の気を引きたくて色々なことをやっていたのに、結婚したり子どもができたりしたとたんに、会話が減ってしまう人は多い。相手が自分のことを理解してくれていると思っているとしたら、それは思い込みです。

男女の関係は人それぞれに違うものですから「こうすればいい」という正解はありません。自分で考えるしかないのですが、少なくとも普段の会話は大事ですよね。特に産後のことは、妊娠期間中によく話しておいていただきたいと思っています。

「僕にはこれができる」「私はこれをしてほしい」「これをされたら嫌だ」というのを擦り合わせておく。こういうことは出産後の、女性が不安定な時期に話すのは難しいので。二人の間で決めごとがあれば、産後になっても互いにストレスを抱えることは減るのではないかと思います。

東野さんが今回の本を通して伝えたかったことはどんなことですか?

東野: 繰り返しになりますが、まずは男女の間にある歴然とした違いを知っておいていただきたいということです。そして、「Agree to disagree(意見が違うことを認める)」という言葉がありますが、相手は自分とは違うんだということを認めること。

それは差別とはいわないはずです。本当は学校教育で教えるべきことだと思うのですが、教えていないので、今回の本を通じて知っていただきたいですね。

あとは、特に男性の方々に、結婚や子どもを育てることについてもっと覚悟を持っていただきたいという思いもあります。産婦人科医としての経験上、男性は何となく相手を好きになって、なんとなくプロポーズして結婚したという方が少なくないのですが、最初はそうでも人間は成長していけるので、徐々にでも結婚生活や子育てへの覚悟を培っていただきたいと思います。

最後に妻の出産を控えている男性や、産後の妻の変化にとまどっている男性の皆さんにメッセージをお願いいたします。

東野: 夫婦の間でも言葉は大事です。相手にどんな言葉をかければいいのかというのは、相手にもよるので正解がないところですが、夫婦で一緒に考えれば会話は楽しくなっていくはずです。趣味が一緒じゃないと夫婦で会話できないのは悲しいことだと思うんですよね。

人生100年時代と言われますが、子どもと一緒に過ごす時間はせいぜい20年。子どもの方は思春期になれば親と離れたいと思いますから、実質15年ほどです。そうすると、子どもが巣立ってからが長いわけで、この長い時間を互いに愛し合う幸せな夫婦として生きていただきたいと思っています。今回の本のテーマは「産後」なのですが、そこにその先の夫婦関係の分岐点があるということを知っていただきたいです。

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

    1. はじめに
    2. [ 第1章 ]
      産後2年以内に離婚する夫婦が急増中!知らなかったでは済まされない〝産後クライシス〟
    3. [ 第2章 ]
      子どもが生まれて母親になる女、なかなか父親になれない男
    4. [ 第3章 ]
      コミュニケーションのズレは脳の構造にも原因が男女脳を理解するだけで夫婦仲が変わる!
    5. [ 第4章 ]
      育児は手伝うものではない! 戦力になるために夫がやるべき行動とは
    6. [ 第5章 ]
      妻のために、家族のために「良き夫・良き父」になろう
    7. おわりに

プロフィール

東野 純彦(とうの・あつひこ)
東野 純彦(とうの・あつひこ)

東野 純彦(とうの・あつひこ)

医療法人 愛成会 東野産婦人科医院 院長
1983年久留米大学医学部卒業後、九州大学産婦人科教室入局。1990年国立福岡中央病院に勤務後、東野産婦人科副院長に就任。その後、麻酔科新生児科研修を行う。1995年同院長に就任。東野産婦人科では ”女性の一生に寄り添う。これまでも、これからもずっと。” をテーマに、妊娠・出産・育児にかかわらず、思春期から熟年期、老年期まで女性の生涯にわたるトータルケアを目指す。お産については家庭出産と医療施設の安全管理の長所を活かした自然分娩を提唱。フリースタイル分娩、アクティブバースの推進など、母親の希望の出産に合わせてサポートしている。また、赤ちゃんとの関わり方が分からない父親のための「赤ちゃんサロン〜パパ&ベビークラス」や、育児における父親の役割を学ぶための「父親教室」なども開催。子育てに取り組む夫婦にしっかり寄り添うクリニックとして定評がある。

知っておくべき産後の妻のこと

知っておくべき産後の妻のこと

著者:東野 純彦
出版:幻冬舎
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