ストレス社会を生き抜くためのキーワードとして、近年、注目を集めつつある「レジリエンス」という言葉。「失敗や挫折をしても、その経験を糧に回復して成長する回復力」のことを指すという。
ビジネスシーンにおいて、これまではどんなストレスを受けても耐えられる我慢強さが求められることが多かった。が、プレッシャーやストレスが増大する一方の昨今において、心を折らずにやっていくためには、もはや「強さ」だけではなく、「しなやかさ」も必要になってきたということなのだろう。
では、この「しなやかさ」を持つためには、どうすればいいのか。『輪ゴム思考で最強社員になる48のヒント: あなたもできる自由な発想で問題解決』(合同フォレスト刊)の著者、平野雅之さんが提唱する「輪ゴム思考」という考え方をヒントに、その答えを探ってみたい。
― まずは本書のキーワードである「輪ゴム思考」とは、どのようなものなのかを教えていただけますか。
平野:
何か問題に直面したとき、自分やまわりの人を「輪ゴム」として捉えることで、解決策を見つけていこうとする発想法を指します。
輪ゴムは伸び縮みしますし、柔らかいために形も変幻自在に変えられますよね。
なので、自分が抱えている仕事が納期に間に合わなさそうだなと思ったら、「輪ゴムも束ねれば強くなる」というイメージを思い出してみる。そのなかで自然と「人の力を借りればいいじゃないか」と解決策が見えてくるというわけです。
― では仕事やプライベートにおいて、AとBどちらの選択肢どちらをとるべきか悩んだとき、輪ゴム思考を使うことで、どのような効果が得られるのでしょう?
平野:
輪ゴムには芯があります。だからこそ、どんなにグシャグシャに丸められようと、元の形に戻るわけです。
これになぞらえて考えるなら、そもそも悩んだりブレたりしないような自分をつくることが大事だと気づく。つまり、岐路に立たされたときにいちいち悩まずにすむよう、自分のなかに芯をつくらなければと考えられるようになります。
― 今のお話をまとめると、輪ゴム思考を実践するためには「芯」と「柔軟性」が重要になるということでしょうか。
平野:
おっしゃるとおりです。なぜ本書を執筆したのかといえば、まさにそういった部分が今の若者には足りないのではと感じたからです。彼らがメンタルを健康に保つ上で、何かの参考になればと思いまして。
― ということは、今の若者はメンタルが弱いと思われているのですか。
平野:
メンタルが弱いといいますか、真面目すぎるという印象を持っています。責任感が強すぎると言ってもいいかもしれません。
決して大げさな表現ではなく、入社1、2年目の子が「自分の受け持った仕事を失敗したら、会社が傾いてしまうかも」ぐらいのことを大真面目に考えてしまうというケースをよく見かけます。でも、そんなことはあり得ないじゃないですか。会社としては、ある程度の失敗は見込んだ上で、仕事をお願いしているわけですから。
― 仕事をしていて、精神面の強さが試されるのは逆境に立った時です。平野さんもそういう状況を経験したことがあるかと思いますが、どのようにメンタルを健康に保っていましたか?
平野:
私がやっている営業の仕事のなかで培ったことをひとつお話させていただこうと思います。
営業マンの人柄が試される場面の一つに「クレームが入った直後にどういう行動をとるか」というものがあります。
こんな時、ダメな営業マンほど、自分も誰かにクレームを言うことでストレスを発散しようとするんですね。出入り業者などにつっかかって、弱い者いじめをするわけです。でも、これは実際にやってみると分かりますが、メンタル的にますます悪循環になってしまう。
では、私はどうしているかといいますと、いつも懇意にしてくださっているお客さんに電話をするんです。特に用事がなくてもです。
なぜなら、やさしい言葉をかけてもらえそうだからですよ。実際、かけてみると、そのとおりになる。あっという間にメンタルが回復します(笑)。おすすめですよ。
「替えのきく人」にならないために ある経営者が大切にする父の教え
あなたが会社員だとして、「自分は今、会社にどれぐらい必要な人材なのか」を手早くチェックする方法がある。
それは、自分の仕事の依頼のされ方を振り返ってみることだ。そうすることで、あなたが周りから「替えのきく人」だと思われているかどうかは一発で分かる。
『輪ゴム思考で最強社員になる48のヒント: あなたもできる自由な発想で問題解決』(合同フォレスト刊)の著者、平野雅之さんはまさにこの点について、「頼まれ事」と「頼られ事」という言葉を使って解説している。その真意とはどのようなものなのだろうか。
■商売人として叩き込まれた二つの教え
― インタビュー前編の冒頭で、輪ゴム思考を実践するためには、その人に「芯」がなければならないというお話がありました。平野さんの場合の芯とは、どのようなものですか。
平野:
私は商売人の息子として育てられました。そのなかで父から口酸っぱく言われたことが二つあります。「後ろめたいことはするな」と「損して得とれ」です。それが間違いなく、私の芯を形づくっていると思いますね。
私の会社ではOA機器を販売していますが、父の教えを守り、お客様のオーダーのなかに「必要のなさそうなもの」が入っていたら、「それは必要ないですよ」と正直に伝えるようにしてきたんです。
扱う機器はコピー機や電話機などで、一つひとつの金額は大したものではありません。しかし、「5年間リース」といった長期の契約が多いですから、一つでも無駄なものが入っていれば、お客様にとってはかなりの損失になります。
「自分さえ儲けられればよい」というスタイルでいると、長い目で見れば必ずしっぺ返しをくらいます。逆に誠実な姿勢を貫いていれば、お客様も信用してくれるようになる。
弊社がもう10年以上、テレアポ営業は一切行なわず、紹介のみで販路を広げてこられたのも、このあたりに理由があるような気がしています。
■「頼られ事」にしかない喜び
― 今のお話と関連するかもしれないので、是非うかがいたいのですが、本書のなかで出てくる「頼られ事」とは、どのようなものですか。
平野:
仕事の頼み方には2種類あると私は考えています。「頼まれ事」と「頼られ事」です。
前者は、頼む側が「誰にでもできることだから」と思いながら仕事をお願いするケース。「ゴミを捨てておいて」といった具合ですね。それに対し、後者は「Aさんにしかできない仕事だから」と名指しで頼み事をするケースです。私は、この「頼られ事」が来ると、本当にモチベーションが上がります。
せっかく自分のことを頼ってくれたのだから、なんとかして報いようとがんばりますし、自ずと良い結果が出ることも多い。「頼られ事」の喜びだけで生きていると言っても過言ではありません。そして、このように頼られるためにも、お客様に対する裏切りにつながるようなことはしない。これだけは肝に銘じてきました。
― 最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
平野:
先日、ある方からうかがったのですが、現代の日本人が1日に触れる情報量は、江戸時代の日本人のそれの一生分に匹敵するそうです。
江戸時代というのは、かりに関東大震災級の地震が起きたとしても、その情報が九州に届くまでには3~4日はかかったし、世界で何か事件が起きたとして、それが江戸に伝わるまでには2年ぐらいかかった、と。
情報が伝達されるスピードも遅く、またそもそも情報量自体も少ない時代があったわけです。そう考えると、現代の情報の多さ、伝達の早さがいかにすごいかが分かります。本当に変化のめまぐるしい時代ですよね。
最近の若い子たちを見ていると、「喜怒哀楽がないなあ」と感じることがあります。でも、それは仕方のないことだとも思うんです。
SNSのタイムラインひとつとっても、悲しいニュースが流れてきたと思ったら、その数秒後に、メチャクチャ笑える画像が流れてきたりするわけですから。
そういった情報にいちいち感情豊かに反応していたら、おかしくなってしまう。ある種の防衛本能が働いた結果としての「不感症」なのだと思います。
でも、そんな時代だからこそ、情報に振り回されないよう、自分のなかに芯を持ったほうがいい。なので、一つでも二つでもいいから、何か自分の趣味といいますか、「これを見たら(したら)思わずニヤニヤしてしまう」ようなものを持つことから始めてはいかがでしょうか。
(新刊JP編集部)