INTERVIEW
著者インタビュー
ビジネスの基礎からロジカルシンキング、さらにはビジネスマナー。
こうした知識を教えてくれる研修やセミナーは、やはり教えてくれる講師次第で学ぶモチベーションが変わってくるものだ。
では、様々な企業から引っ張りだこの人気講師に共通する点とは一体どのようなところがあるのか。
『“売れっ子講師”になる112の秘訣』(ごま書房新社刊)の著者であり、講師歴27年、年間登壇数220日という潮田、滋彦さんにお話をうかがった。
「売れっ子講師」に共通するポイント
――『“売れっ子講師”になる112の秘訣』というタイトルからすると、かなり読み手が限られる本ではないかと思ったのですが、実際に読んでみると参考にできる人は多そうですね。
潮田:確かに直接的なターゲットは、実際に講師として活動している人や少し成果を出せている人や、これから講師をするという人たちになりますが、会社の中で「教える」立場にある人にとっても使える内容だと思います。
例えば、新人や他部署から異動してきた人に対してどう教えればいいのか悩んでいる人は多いでしょう。そういう意味ではマネージャークラスの人たちにも役立つはずです。人前で何かしら話すことがある人にはぜひ参考にしてほしいですね。
そして、企業の人材開発部門の人は必読だと思います。講師を選ぶ際の基準がよくわかりますよ。
――「売れっ子」の講師はやはり教えるスキルが長けていますよね。その要素を潮田さんなりにまとめて書き込んでいる。
潮田:そういうことになります。人にわかってもらうためのポイントを詰め込みました。
――潮田さんから見た「売れっ子講師」に共通するポイントを教えてもらえますか?
潮田:2つありまして、1つは受講する人たちの成長を第一に考えていることです。貢献することを意識する。逆に「自分が目立ちたい」と考えている人は見透かされますね。
私はいま様々な企業に赴いて講師をしていますが、以前は会社の中で外部講師を招く仕事もしていました。やはりそこで続かない講師もいるんですね。上から目線で話したり、一方的に話し続けたり。そういう人は仕事をお願いする立場としては「もういいかな」と思ってしまいます。
もう1つは「謙虚な人」は売れっ子になりますね。これは教える力というより、一人のビジネスパーソンとしてという話です。人として誠実で、自分の仕事に対して謙虚であると、成長につながる。ただし、ここでいう謙虚さとは「遠慮」とは違います。「自信」は必要ですが、「過信」にならないようにすることが大切だと思うんです。
謙虚さと貢献する意識、この2つを持っている人は人気が出ると思います。
「理解しているのか分からない人」への教え方
――自分が教える立場にあるときに、もしその対象が複数人いたら、同じスピードの成長を促すことは極めて難しいことですよね。なかなか言っても伝わらない、理解してもらえない人がいるときにどう振る舞えばいいのですか?
潮田:それは非常に難易度の高いお話ですね。セミナーや研修を受講する人たちも、個々のレベル感はばらばらで、職場や仕事の内容も違います。事務の人もいれば、ものつくりの人もいる、営業もいます。
知識レベルもバラバラで、もともと知っている人もいればそうでない人もいる。ロジカルシンキングなんかはまさにそうです。好き嫌いもありますしね。
だから私ができる限り意識しているのは、その場にいる人たちが共通で理解できる普遍的な言葉で伝えるということです。
また、自分がなぜそこで講師をするのかという目的や役割もちゃんと把握します。その企業が抱えている問題意識を事前に聞いて、受講者の現実に目を向けるんです。
研修中にはグループ討論でどんな話をしているのか? 休憩時間の雑談は? メモには何が書いてあるのか? そういったことを確認しながら、受講者の方々にリアルに刺さる言葉を探っていくようにしています。
――なるほど。他に意識されていることはありますか?
潮田:体験型ワークを積極的に行っています。これは学びを持って帰りやすくなるからですね。結局、重要なことはその人やその現場によりけりです。そこで参加型にして自分なりの重要なメッセージを持って帰っていただくようにしているんです。
――講師として話をしているときに、「理解しているのか」「理解していないのか」どちらか分からない人っていませんか? そこで「理解しました」と言ったのに、確認してみると理解できてないとか。
潮田:そういうこと、ありますよね。もしOJT指導などで、理解できているかどうかを把握する際には、その人のメモを見せてもらいましょう。抽象的なことしか書かれていなかったり、言われたことをそのまま書いてあったりすると理解できてない可能性が高いです。メモがしっかり取れていない人は、その後の仕事でも行き違いが生じることが多いんです。なぜなら人間の記憶はどんどんあいまいになっていくものだからです。
研修でそういう人を見かけたら、自分にとってこのワークがどんな価値があるのか、ちょっと踏み込んで具体的にメモを書いてみましょうと言ったり、相手の気付きになるような言葉を伝えるようにしています。
これは私が教壇の上から話すのではなく、受講者と同じ目線に降りて話しているからできることです。研修中はずっと教室内をうろうろしていますよ(笑)。
――セミナーは教えることを理解してもらいたいだけではなく、その人自身の行動を変えてほしいから行うものですよね。行動の変化まで行き着くにはどうすればいいんですか?
潮田:人間って「このままではまずいな」「もっとやらないといけないな」「こんなすごい人になりたいな」と実感したときに行動しますよね。だから、その人にとってのメリットを提示することだと思います。それを研修の中で実感してもらい、職場に戻って「新しい習慣」にしていってもらうんです。
――具体的にはどんなワークを行うのですか?
潮田:いろいろありますが、一つ簡単なワークをご紹介しますね。例えばメモの取り方について、はじめに3つのポイントをレクチャーして、その場でその3つを意識してメモを取ってもらう。でもそれだけでは実践できない人がいるんですね。だいたいの人が自己流であり、理解したふりをしているんです。
そこで、いかに3つのポイントが理解できていないか実感してもらうために、お互いのメモをまわしあってもらうんです。メモの取り方は人それぞれですが、「こんなに自分とは違うんだ」ということに気づくわけですね。
そして、自分のものが戻ってきたら、改めて自分のメモを見て修正をするわけです。それが「学ぶ」ということにつながっていきます。
まったくやる気を感じられない人がいたら…
――研修に参加する人の中には、そもそもまったくやる気が感じられない人もいると思います。
潮田:こちらが困ってしまうタイプの受講生ですよね。学ぶ気がまったく感じられない人ですね。
――何をしに来たのだろう、と。
潮田:でも、上司に無理やり言われて半ば強制的に参加させられたりすると、どうしてもモチベーションは一段階落ちてしまいますよね。これは本人の問題もあるけれど、上司が研修に参加する動機づけをできていないのが大きな要因です。
もう一つのパターンは、その人にとって研修はネガティブなものであるということ。価値がないと思っているケースです。これは過去に受けてきた研修のイメージが研修そのものをつまらないと思わせていることが多いですね。
私の場合、ぜひ皆さんの研修のイメージを変えてほしいと思っています。楽しく、学びのある場作りを意識することで、最初はふんぞり返っていても、最終的には受講者が前のめりになっていきますね。本来、学ぶということは自分にとって価値があり、ワクワクする体験だからです。
――他にも「困ってしまう受講生」はいますか?
潮田:研修を途中で抜けちゃう人ですね。電話で呼び出されて抜けられてしまったりすると、ペアワークやグループワークが出来なくなってしまうんです。また、本人も、研修を片手間で聞くという形になってしまいます。
――それでは身にならないですよね。
潮田:どうしても緊急のトラブルで対応しなければならないこともありますが、基本的には自分で研修に集中できる環境づくりをするのも、自分のマネジメント能力の一つですね。
研修にかぎらず、自分が抜けても現場が回るようにしておくことって大切ですよね。
さて、研修でずっと抜けてしまう受講者がいる場合、私は研修会場の残りのグループメンバーに、抜けてしまった間にあったことを本人へ教えてもらうようにお願いをします。受講生同士で教え合うということは、主体的な学びにつながります。実は他人に教えることは、非常に学習定着率が高いんですよ。きちんと理解していることが前提なので。
良いセミナーってどんなセミナーですか?
――本書の中で「稼ぐことを目的にしてはいけない」と書かれています。ただ気になるのは人気講師となるとどのくらい儲けられるのかということなのですが、教えていただけますか?
潮田:これは明確には言えないですね…(苦笑)。ただ、講師って経費があまりかからない、身一つあればできる仕事なんですね。セミナー会場まで行くときの交通費を自分で出す時もありますが、たいていの場合は支払われます。地方をまわる際にも宿泊費は出ます。
だから、パソコンソフトや勉強のための本、あとは自分でもセミナーを受けに行ったりするような経費はかかりますが、収入と比較すると経費の割合は少ないと思います。そういう意味では良い仕事なのかもしれません(笑)。
――1年間で220日、講師として日本各地をまわって登壇されている潮田さんですが、体調管理はどうなさっているのですか?
潮田:例えば新幹線での移動の際には、自腹でグリーン車のチケットを購入して乗ったり、宿泊するホテルも自分で色をつけて少し高級なホテルに宿泊するなどしています。そういった時間に、いかに心と体のメンテナンスをするかを考えていますね。また、いかに旅を楽しくするかということを意識しています。移動を苦痛だと思ってしまったら、これほど辛い仕事はないと思います。私の場合は、Facebookに移動先で乗った電車やご当地グルメの写真を乗せたりすることを楽しみにしています。とは言っても、研修が終わるとすぐに移動してしまうので、グルメはあまり食べられませんが…(苦笑)。
――良いセミナーとはどういうセミナーだと思いますか?
潮田:受講者自らが学ぶ姿勢を持てるセミナー、研修ですね。人は実感を持たないと主体性を持つことはできません。自分のすべきことを実感し、学びとして仕事に持ち帰ってもらうことが大切です。
――では最後に、本書の読みどころについて教えてください。
潮田:研修、セミナー、勉強会は、何よりも学ぶことの楽しさを知ることが大切です。もしそれらにネガティブなイメージを持っていると、積極的に学ぶことはできません。
講師の役割は、受講者に学ぶことの価値を伝え、それを持って帰ってもらうということ。「今回もつまんなかったな」「学びがなかったな」と言わせてはいけないんです。
講師は人からの注目が集まる仕事なので、目立つことを意識してしまう人もいるでしょう。でも、それでは一時的な人気に終わります。講師としての目的をしっかり見据えて頑張ってほしいですね。
(了)