BOOKREVIEW この本の書評

ビジネスの現場では人前に立って話をする機会はよくあること。しかし、そこでどのように自分を演出し、どのように相手に自分の言わんとしたいことを話すかによって、その後の聴衆の動き方は大きく変わる。

誰もがスティーブ・ジョブズのようなプレゼンができればいいのだが、あれは彼だからこその説得力であり、一介のビジネスパーソンが真似をしたとしても「イタイ人」になってしまう。

勘違い講師が多い!

ビジネスマナーから業界固有の情報レクチャーまで、幅広いスキルを教える「セミナー・研修講師」は、人前に立って話をすることのいわば「プロ」だ。

また、「講師」という立場として話すわけだから、聴衆は「受講者」であり、教えを乞いにそこに参加していることになる。となると講師は受講者の期待に添わなければいけない。話すことだけでなく、受講者たちにとって身になるかどうかが大事になるはずだ。

しかし、講師歴27年のキャリアを持つ潮田、滋彦氏は、成功している人のプレゼンの手法や振る舞いをただ真似ていたり、自己流になっていて、本質的なことを忘れている講師が多いと指摘する。要はニセモノの「勘違いセミナー講師」である。

これは学ぶべきものがない…10の「なんちゃって講師」

「良いセミナー講師、研修講師とはどういう講師なのか」について書かれた潮田氏の新著『“売れっ子講師”になる112の秘訣』(ごま書房新社刊)では、まずこうした「なんちゃって講師」を10種類に分類するところからはじまる。それが次の10個である。

(1)聞きかじり講師
…本やネットの情報を鵜呑みにしてそのまま話してしまう。話が表面的。
(2)上から目線講師
…「教えてあげる」というスタンスで受講者に接してしまう。上からになり過ぎて相手企業に失礼を言ってしまうことも。
(3)揉み手講師
…自分を卑下して「受講者に気に入れられよう」としてしまい、自信のなさが伝わる。
(4)あいまい・ブツ切り講師
…話す内容につながり感が薄い。ワークをしても目的がはっきりしないため、受講者が困ってしまう。
(5)フィーリング講師
…感情に流され過ぎて気分で話してしまう。あがって頭が真っ白になることも。
(6)ボソボソ講師
…声が小さくパワポやスクリーンに頼りがちで面白くならない。会場を居眠りの場にしてしまう。
(7)やらされ講師
…企業内の「プロではない話し手」に多い。やらされている意識からネガティブな発言を連発する。
(8)キャラだけ講師
…キャラ立ちし過ぎて、かえって受講者の学ぶ姿勢をそいでしまう。
(9)瞬間風速講師
…普遍性がないノウハウを教えるため、基礎も応用も身につかない。
(10)頭でっかち講師
…専門用語を使って自分をブランディングするが受講者に対する配慮がなく、理解できない。

この10個のタイプは講師として自分が教えるときも、そして自分がセミナーを受ける(採用する)側においても、その人が講師として「良いのか/悪いのか」を判断する一つの指標になるはずだ。

人に教える立場の講師にとって最も大切なものとは

潮田氏は講師が主役になってしまってはいけないと述べる。あくまで主役は受講者自身であり、彼らが自分で価値を生むように仕向けるのが講師なのだと言う。

簡単な社内セミナーや社内研修や勉強会で講師を行うときも、外の企業から招かれて何かを教えに行くときも、大切なことは「講師」が目立つことが目的ではないということ。自分の持っているノウハウやテクニック、知識をしっかり伝えて受講者に身に付けてもらうことが目的なのだ。

『“売れっ子講師”になる112の秘訣』に書かれているテクニックは、自分をブランド化する方法ではなく、良いセミナーをするためのノウハウが書かれている。「売れっ子」になるかどうかは、結果でしかないということを考えれば、この内容は大いに参考になるはずだ。
講師を目指す人はもちろん、社内で人に何かを教えることのある人には、きっと共感できる内容が詰まっている本だ。

(新刊JP編集部)

BOOKINFO この本の情報

書籍情報

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12万人を指導した”カリスマ講師”が教える”売れっ子講師”になる112の秘訣

定価 :
1,450円+税
著者 :
潮田、滋彦
出版社:
ごま書房新社
ISBN :
4341086464
ISBN :
978-4341086466

著者プロフィール

潮田、滋彦

Ushioda Shigehiko
トゥ・ビー・コンサルティング株式会社 代表取締役。
米国NLP協会認定NLPトレーナー、DiSC(行動特性分析)
認定インストラクター、ハーマンモデル認定ファシリテーター。
大手エンジニアリング企業で海外営業職を経験後、企業内人材開発講師の道へ。
独立を経て、27年間一貫して第一線の研修講師として活動中。講師実績として、一部上場企業を中心に250以上の企業や自治体にて、述べ12万人以上を指導。登壇時間は1万2000時間以上にも及ぶ。また、受講者の研修満足度が高く、研修のリピート率が95%を超える。現在も年間220日以上のペースで「学ぶことの楽しさ、成長することのワクワク感」を日本中のビジネスパーソンに伝えるために、全国を飛び回る日々を過ごしている。
著書に『知恵の素~アイディアがどんどんわいてくる~』『速習!シンプルに文章を書く技術~読み手をならせる32のテクニック~』(共にPHP研究所)『思考停止人生から卒業するための個人授業 -年間5000人のリーダー職を生む、最強の思考法-』(ごま書房新社)ほか。

INTERVIEW 著者インタビュー

ビジネスの基礎からロジカルシンキング、さらにはビジネスマナー。

こうした知識を教えてくれる研修やセミナーは、やはり教えてくれる講師次第で学ぶモチベーションが変わってくるものだ。

では、様々な企業から引っ張りだこの人気講師に共通する点とは一体どのようなところがあるのか。

『“売れっ子講師”になる112の秘訣』(ごま書房新社刊)の著者であり、講師歴27年、年間登壇数220日という潮田、滋彦さんにお話をうかがった。

「売れっ子講師」に共通するポイント

――『“売れっ子講師”になる112の秘訣』というタイトルからすると、かなり読み手が限られる本ではないかと思ったのですが、実際に読んでみると参考にできる人は多そうですね。

潮田:確かに直接的なターゲットは、実際に講師として活動している人や少し成果を出せている人や、これから講師をするという人たちになりますが、会社の中で「教える」立場にある人にとっても使える内容だと思います。

潮田氏の写真 インタビューに答える潮田氏

例えば、新人や他部署から異動してきた人に対してどう教えればいいのか悩んでいる人は多いでしょう。そういう意味ではマネージャークラスの人たちにも役立つはずです。人前で何かしら話すことがある人にはぜひ参考にしてほしいですね。

そして、企業の人材開発部門の人は必読だと思います。講師を選ぶ際の基準がよくわかりますよ。

――「売れっ子」の講師はやはり教えるスキルが長けていますよね。その要素を潮田さんなりにまとめて書き込んでいる。

潮田:そういうことになります。人にわかってもらうためのポイントを詰め込みました。

――潮田さんから見た「売れっ子講師」に共通するポイントを教えてもらえますか?

潮田:2つありまして、1つは受講する人たちの成長を第一に考えていることです。貢献することを意識する。逆に「自分が目立ちたい」と考えている人は見透かされますね。

私はいま様々な企業に赴いて講師をしていますが、以前は会社の中で外部講師を招く仕事もしていました。やはりそこで続かない講師もいるんですね。上から目線で話したり、一方的に話し続けたり。そういう人は仕事をお願いする立場としては「もういいかな」と思ってしまいます。

もう1つは「謙虚な人」は売れっ子になりますね。これは教える力というより、一人のビジネスパーソンとしてという話です。人として誠実で、自分の仕事に対して謙虚であると、成長につながる。ただし、ここでいう謙虚さとは「遠慮」とは違います。「自信」は必要ですが、「過信」にならないようにすることが大切だと思うんです。

謙虚さと貢献する意識、この2つを持っている人は人気が出ると思います。

「理解しているのか分からない人」への教え方

――自分が教える立場にあるときに、もしその対象が複数人いたら、同じスピードの成長を促すことは極めて難しいことですよね。なかなか言っても伝わらない、理解してもらえない人がいるときにどう振る舞えばいいのですか?

潮田:それは非常に難易度の高いお話ですね。セミナーや研修を受講する人たちも、個々のレベル感はばらばらで、職場や仕事の内容も違います。事務の人もいれば、ものつくりの人もいる、営業もいます。

知識レベルもバラバラで、もともと知っている人もいればそうでない人もいる。ロジカルシンキングなんかはまさにそうです。好き嫌いもありますしね。

だから私ができる限り意識しているのは、その場にいる人たちが共通で理解できる普遍的な言葉で伝えるということです。

また、自分がなぜそこで講師をするのかという目的や役割もちゃんと把握します。その企業が抱えている問題意識を事前に聞いて、受講者の現実に目を向けるんです。

研修中にはグループ討論でどんな話をしているのか? 休憩時間の雑談は? メモには何が書いてあるのか? そういったことを確認しながら、受講者の方々にリアルに刺さる言葉を探っていくようにしています。

――なるほど。他に意識されていることはありますか?

潮田:体験型ワークを積極的に行っています。これは学びを持って帰りやすくなるからですね。結局、重要なことはその人やその現場によりけりです。そこで参加型にして自分なりの重要なメッセージを持って帰っていただくようにしているんです。

――講師として話をしているときに、「理解しているのか」「理解していないのか」どちらか分からない人っていませんか? そこで「理解しました」と言ったのに、確認してみると理解できてないとか。

潮田:そういうこと、ありますよね。もしOJT指導などで、理解できているかどうかを把握する際には、その人のメモを見せてもらいましょう。抽象的なことしか書かれていなかったり、言われたことをそのまま書いてあったりすると理解できてない可能性が高いです。メモがしっかり取れていない人は、その後の仕事でも行き違いが生じることが多いんです。なぜなら人間の記憶はどんどんあいまいになっていくものだからです。

研修でそういう人を見かけたら、自分にとってこのワークがどんな価値があるのか、ちょっと踏み込んで具体的にメモを書いてみましょうと言ったり、相手の気付きになるような言葉を伝えるようにしています。

これは私が教壇の上から話すのではなく、受講者と同じ目線に降りて話しているからできることです。研修中はずっと教室内をうろうろしていますよ(笑)。

――セミナーは教えることを理解してもらいたいだけではなく、その人自身の行動を変えてほしいから行うものですよね。行動の変化まで行き着くにはどうすればいいんですか?

潮田:人間って「このままではまずいな」「もっとやらないといけないな」「こんなすごい人になりたいな」と実感したときに行動しますよね。だから、その人にとってのメリットを提示することだと思います。それを研修の中で実感してもらい、職場に戻って「新しい習慣」にしていってもらうんです。

――具体的にはどんなワークを行うのですか?

潮田:いろいろありますが、一つ簡単なワークをご紹介しますね。例えばメモの取り方について、はじめに3つのポイントをレクチャーして、その場でその3つを意識してメモを取ってもらう。でもそれだけでは実践できない人がいるんですね。だいたいの人が自己流であり、理解したふりをしているんです。

そこで、いかに3つのポイントが理解できていないか実感してもらうために、お互いのメモをまわしあってもらうんです。メモの取り方は人それぞれですが、「こんなに自分とは違うんだ」ということに気づくわけですね。

そして、自分のものが戻ってきたら、改めて自分のメモを見て修正をするわけです。それが「学ぶ」ということにつながっていきます。

まったくやる気を感じられない人がいたら…

――研修に参加する人の中には、そもそもまったくやる気が感じられない人もいると思います。

潮田:こちらが困ってしまうタイプの受講生ですよね。学ぶ気がまったく感じられない人ですね。

――何をしに来たのだろう、と。

潮田:でも、上司に無理やり言われて半ば強制的に参加させられたりすると、どうしてもモチベーションは一段階落ちてしまいますよね。これは本人の問題もあるけれど、上司が研修に参加する動機づけをできていないのが大きな要因です。

もう一つのパターンは、その人にとって研修はネガティブなものであるということ。価値がないと思っているケースです。これは過去に受けてきた研修のイメージが研修そのものをつまらないと思わせていることが多いですね。

私の場合、ぜひ皆さんの研修のイメージを変えてほしいと思っています。楽しく、学びのある場作りを意識することで、最初はふんぞり返っていても、最終的には受講者が前のめりになっていきますね。本来、学ぶということは自分にとって価値があり、ワクワクする体験だからです。

――他にも「困ってしまう受講生」はいますか?

潮田:研修を途中で抜けちゃう人ですね。電話で呼び出されて抜けられてしまったりすると、ペアワークやグループワークが出来なくなってしまうんです。また、本人も、研修を片手間で聞くという形になってしまいます。

――それでは身にならないですよね。

潮田:どうしても緊急のトラブルで対応しなければならないこともありますが、基本的には自分で研修に集中できる環境づくりをするのも、自分のマネジメント能力の一つですね。
研修にかぎらず、自分が抜けても現場が回るようにしておくことって大切ですよね。

さて、研修でずっと抜けてしまう受講者がいる場合、私は研修会場の残りのグループメンバーに、抜けてしまった間にあったことを本人へ教えてもらうようにお願いをします。受講生同士で教え合うということは、主体的な学びにつながります。実は他人に教えることは、非常に学習定着率が高いんですよ。きちんと理解していることが前提なので。

良いセミナーってどんなセミナーですか?

――本書の中で「稼ぐことを目的にしてはいけない」と書かれています。ただ気になるのは人気講師となるとどのくらい儲けられるのかということなのですが、教えていただけますか?

潮田:これは明確には言えないですね…(苦笑)。ただ、講師って経費があまりかからない、身一つあればできる仕事なんですね。セミナー会場まで行くときの交通費を自分で出す時もありますが、たいていの場合は支払われます。地方をまわる際にも宿泊費は出ます。

だから、パソコンソフトや勉強のための本、あとは自分でもセミナーを受けに行ったりするような経費はかかりますが、収入と比較すると経費の割合は少ないと思います。そういう意味では良い仕事なのかもしれません(笑)。

――1年間で220日、講師として日本各地をまわって登壇されている潮田さんですが、体調管理はどうなさっているのですか?

潮田:例えば新幹線での移動の際には、自腹でグリーン車のチケットを購入して乗ったり、宿泊するホテルも自分で色をつけて少し高級なホテルに宿泊するなどしています。そういった時間に、いかに心と体のメンテナンスをするかを考えていますね。また、いかに旅を楽しくするかということを意識しています。移動を苦痛だと思ってしまったら、これほど辛い仕事はないと思います。私の場合は、Facebookに移動先で乗った電車やご当地グルメの写真を乗せたりすることを楽しみにしています。とは言っても、研修が終わるとすぐに移動してしまうので、グルメはあまり食べられませんが…(苦笑)。

――良いセミナーとはどういうセミナーだと思いますか?

潮田:受講者自らが学ぶ姿勢を持てるセミナー、研修ですね。人は実感を持たないと主体性を持つことはできません。自分のすべきことを実感し、学びとして仕事に持ち帰ってもらうことが大切です。

――では最後に、本書の読みどころについて教えてください。

潮田氏の写真 インタビューに答える潮田氏

潮田:研修、セミナー、勉強会は、何よりも学ぶことの楽しさを知ることが大切です。もしそれらにネガティブなイメージを持っていると、積極的に学ぶことはできません。

講師の役割は、受講者に学ぶことの価値を伝え、それを持って帰ってもらうということ。「今回もつまんなかったな」「学びがなかったな」と言わせてはいけないんです。

講師は人からの注目が集まる仕事なので、目立つことを意識してしまう人もいるでしょう。でも、それでは一時的な人気に終わります。講師としての目的をしっかり見据えて頑張ってほしいですね。

(了)

CONTENTS この本の目次

  1. はじめに
  2. 第1部:”売れっ子講師”準備編
    1. 第1章:セミナーや研修の「本質」を理解しよう! ~「売れっ子講師」と「イマイチ講師」の大きな違い~
    2. 第2章:あなた自身のクリアリングをしよう! ~ジリ貧の原因を探れば、”売れっ子”への道が開ける~
  3. 第2部:”売れっ子講師”現場・実践編
    1. 第3章:本物の講師力① 場づくり力 ~”想い”だけでは人は動かない~
    2. 第4章:本物の講師力② 事前準備と状況対応力 ~研修を成功に導く「ビフォア」と「イン」の法則~
  4. 第3部:”売れっ子講師”飛躍変
    1. 第5章:講師としてのグラウンディング ~さぁ、”売れっ子講師”のステージへ駆け上がろう~
  5. おわりに
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12万人を指導した”カリスマ講師”が教える”売れっ子講師”になる112の秘訣

定価 :
1,450円+税
著者 :
潮田、滋彦
出版社:
ごま書房新社
ISBN :
4341086464
ISBN :
978-4341086466

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