解説
結果だけでなくプロセスも評価 成果主義を成功させるための2つのポイント
モチベーションを保って仕事をするのが本当に難しい時代になった。
給料が上がりにくかったり、労働時間が異常に長かったり、役職は年長者が順番待ちをしていて、大きな仕事に関われなかったり、何の成果も出していないベテラン社員が自分よりはるかに高い給料をもらっていたり…。
会社によって事情は様々だろうが、従業員が「成果を出したらきちんと評価してくれる。がんばろう」と思える会社というのは、今どんどん減っているのかもしれない。
それでもやっぱり「年功序列」より「成果主義」。その理由とは
では、従業員がモチベーションを持って働くことのできる会社とはどんな会社かと考えると、やはり「成果が報酬に適正に反映される」というのが大前提だろう。
となると、ベースは「成果主義」になるが、日本企業において必ずしも成果主義は成功してきたわけではなく、近年では「年功序列への回帰」を主張する声もちらほら聞こえてくる。
ただ、それでも企業はいずれ評価制度に成果主義を採り入れていかざるを得ない、と分析するのが、『人事評価制度だけで利益が3割上がる!』(きこ書房刊)の著者で、人事評価制度構築・運用のコンサルタントとして活動する高橋恭介氏だ。
低い生産性、長時間労働、そして正規雇用と非正規雇用の待遇格差など、国内ですでに取沙汰されている労働問題はいずれ各企業それぞれに改善すべき課題としてふりかかる。その時に、従来の年功序列型の企業では対応できないからだ。
成果主義は結果だけで評価するものではない
では、企業は成果主義をどのように取り入れていけばいいのか。この点について、高橋氏はいくつかのポイントを挙げている。
まず注意すべきは、仕事の結果だけで評価せずに、「結果を出すためにどんな行動をしたか」といったプロセスの部分も評価対象にすべきだという点だ。
仕事には、「これを守っていれば、結果が出る」と考えられるプロセスとしての行動がある。たとえば営業マンであれば、アポイントの数などはこの一例だろう。
営業マンの例でいえば、売り上げも当然評価の指標になりえるが、これはどうしても運に左右されやすい。しかし、「結果を出すためにどんな行動をするか(=プロセス)」という点を、営業マンと彼を評価する上司が共有し、行動改善目標として提示すれば、営業マンは結果が伴わない時期もモチベーションを失わずに仕事ができるだろう。
もちろん、結果が悪くても、そのプロセスをきちんとこなせたのであれば、給料に反映されるのはいうまでもない。
また、高橋氏は、成果主義の場合、評価は「相対評価」ではなく「絶対評価」にすべきだとしている。
相対評価は、その性質からして全員を公正に評価するのが難しい。たとえさほどレベルが高いわけではなくても、その集団の中で一番上であれば最上級の評価を受けることになるからだ。当然チームごと、部署ごとにばらつきが出やすくなり、評価を受ける側の納得感が低くなってしまう。
部下それぞれに目標を設定して、その目標の達成度合いによって評価を決める絶対評価の方が、この手の不満は出にくいのだ。
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『人事評価制度だけで利益が3割上がる!』では、ここで紹介した評価制度の構築・運用についてさらに詳しい解説が加えられている。
従業員のモチベーションはそのまま売り上げにつながるもの。
高橋氏の提唱する成果主義をベースにした評価制度も、単に従業員満足で終わることなく、売上を伸ばし、業績を上向かせることが目的となっている。会社が「成果を出した人、懸命に取り組んだ人が報われる」という、本来あるべき性質を手に入れるために、本書は大きな助けになるはずだ。
(新刊JP編集部)
インタビュー
日本企業で成果主義が根付かない本当の理由
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『人事評価制度だけで利益が3割上がる!』についてお話を伺えればと思います。高橋さんは、本書の中で独自に構築した企業向けの人事評価制度を提唱しています。この評価制度は、基本的には成果主義に基づいていると考えていいのでしょうか。
高橋: 成果をもとに評価するという意味では確かに成果主義に基づいていますが、一般的なイメージとしての成果主義とはまったく違うものです。
世の中で言われている成果主義の場合、たとえば売上であったり利益であったりと、最終的な業績に連動する成果軸のみで評価する、いってみれば「結果主義」ともいえるものです。
私が提唱している評価制度は、結果に至るまでのプロセスも重視して評価をするので、そこの部分に大きな違いがあります。
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いわゆる「成果主義」が日本の企業でいまひとつ定着しないのも、そのあたりに理由がありそうです。
高橋: やはり、短期的な数値目標とそれを達成したかどうかという視点だけで、プロセスも評価するという考え方がなかったことが理由だと思いますね。
日本の成果主義は欧米から入ってきたものですが、じゃあ欧米の企業はどうかというと、結果だけで評価するようなことはありません。プロセスまで追って評価するという緻密なシステムを持っている会社が多いんです。
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日本はまちがったマネの仕方をしてしまった。
高橋: まちがったかどうかはともかく、表面的なのは確かです。従業員個々人に対して適切な目標設定をしたり、それをいかにジャッジするかを決めるという労力のかかるところを避けて、「結果を出せば昇給、出なければ給料は上がらない」というところだけを採り入れてしまった。
欧米型の成果主義にしても、目標の設定から賃金の支給まで、一人ひとりが納得するように個別管理を徹底してはじめて機能するものです。その部分を置き去りにして表層だけをマネしてしまったことが、成果主義が根付かない原因としてあるのではないかと思います。
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高橋さんの評価制度は、欧米型の成果主義に基づく評価制度とはまた別のものなのでしょうか。
高橋: そうですね。「人材育成」という要素を多分にはらんでいるので、そこは欧米にはあまりないものだと思っています。
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高橋さんの提唱するものに限らず、公正な評価制度はどんな会社にもあってしかるべきものです。評価制度として機能する評価の仕組みをもっている会社というのは現在どの程度あるのでしょうか。
高橋: 私が考える評価制度の最低限の運用ルールは、評価点の算出が従業員の個人としての業務上の目標に関与していて、自分が何点だったかが1点単位でわかること。その点数が自分の基本給とダイレクトに連動していることです。
これが実現できている会社というと、少なくとも経団連クラスの大企業には1社もないのではないかと思います。
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今おっしゃったような評価制度を採用することによって、長時間労働や低生産性など、企業が抱えるさまざまな問題の解決に繋がるとされています。たとえば、長時間労働については、「上司の評価に、部下の残業時間を入れる」という策を示していますが、長時間労働の場合、仕事量が人員に見合っていないことも一因であり、評価制度だけで解決できる問題ではないのではないかという疑問を感じました。
高橋: もちろん、それもあると思います。そのことも含めて、長時間労働の問題は経営側の取り組みになります。
今の人員に対して仕事量が過剰ならば、仕事の仕方自体を変える必要があると思いますし、利益計画を修正してでも人員を確保するという方向に向かわなければいけません。
それと同時に仕事の質の向上ですよね。無制限に働ける時の仕事の質と、働ける時間が限られた中での仕事の質では、まちがいなく後者の方が、質が高くなります。
評価制度を設けることで、各人が自分に求められているものと、何が評価されるのかという評価点がクリアになるため、限られた時間の中で質の高い仕事をするという方向に働く人の意識は向かうはずで、そこを追求して生産性向上と業務効率を改善しつつ、それでも溢れてしまった仕事については利益を諦める潔さも、経営者には必要だと思っています。
社内の「既得権」が社員のモチベーションを奪う
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高橋さんの提唱する評価制度は、結果だけでなくプロセスも含めて評価するというものですが、その評価において「成果をあげた人」の昇給源のひとつは、「成果が出なかった人」の減給分です。この構図があまりはっきりしすぎると、社内の人間関係がぎくしゃくしそうですが、この点についてはいかがですか?
高橋: 特に年功序列式の会社がそうですが、今多くの会社で起きていることは、結果が出ていない人が必要以上の好待遇を与えられているということで、これは一種の既得権ともいえるものです。
その裏で、成果を出しているのに本来もらえるべき待遇をもらえていない人もいる。そういう人は泣く泣く我慢をしているか、嫌気が差して辞めているというのが現実です。
私が提唱している評価制度は、この歪んだ状態を正して、評価されるべき人がきちんと評価されるという普通の状態にしようというもので、それに対して「NO」という従業員がいるのなら、それはもうエゴでしかないでしょう。「それならほかの会社で働いてみたらどうですか」という話でしかありません。
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高橋さんは、人事評価制度の構築・運用のプロとして、さまざまな企業に自身の評価制度を広めています。そこでお聞きしたいのですが、ある企業が高橋さんの評価制度の採用を渋ったり難色を示す場合、どんな理由が多いのでしょうか?
高橋: 経営者が自分で従業員の給与を決めたい意向を持っているケースと、こちらは仕方がないのですが経営が赤字のケースですね。
従業員一人ひとりの数値目標を設定したり、プロセスも評価に組み込んだりしても、トータルで赤字だと、評価を給料に反映させたくても「ない袖は振れない」ということになってしまいます。
この場合は、個々人の目標管理と、評価と報酬の連動を切り離して考えざるをえません。
――
業種という観点ですと、どんな業種でも運用可能なのでしょうか。
高橋: どんな業種でも大丈夫ですが、飲食業のようにお客さんを相手にしていたり、在庫管理システムや予約管理システムなど、管理者が複数のクラウドを使っているような業種だと、導入後してもなかなか続かないという意味で難しさはありますね。
ただ、それでも導入して運用を続けている会社は業績が伸びているということはお伝えしたいです。
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高橋さんの評価制度において、各人への評価の公正さを保つためにやるべきことがありましたら教えていただければと思います。
高橋: 何があっても経営者が自分で評価を決めずに、まずは評価制度に基づいて出てきた給与額を守ることです。
最初のうちは、経営者自身の評価と、評価制度で算出された評価の間にズレがあるはずです。でも、そこで査定を調整したりせずに、評価制度の方の精度を高める方向に注力していただきたいです。
個々人に課される目標が正しいか、評点を算出している評価者の評価方法が正しいか、といったポイントについて、経営者自身が見て自社の評価制度を改良しながら運用していくことが必要になります。
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自分の会社の従業員の給料は自分で決めたいと考える経営者は多いのでしょうか。
高橋: 多いです。決めたいかどうかは別として、決めざるを得ないと考えている経営者も含めると99%そうじゃないですか。
なぜ従業員の給料を自分で決めたい、あるいは決めざるを得ないと考えるかと聞くと、ほとんどの経営者は「自社の管理職にその力量がない」とか「全体を見られるのは自分しかいない」といったことを言います。
それはそれで正しいのでしょうが、その現状を改善する唯一の手段が、社長が給料を決めずに、給与を決める仕組みを作って、それを継続して運用していくということなんです。
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最後になりますが、本書をもっとも読むべき経営層の方々にメッセージをお願いします。
高橋: 勘違いしていただきたくないのですが、私の提唱している評価制度は単なる「結果主義」に基づくものでも、インセンティブや賞与を決めるためのものでもなく、一人ひとりの従業員をプロセスも含めて個別管理をして、それぞれの生産性を向上させるものです。
その意味では、「査定」よりも「人材育成」や「企業防衛」に主眼を置いたものであり、会社の規模は関係なくすべての経営者にとって大切なものでもあります。ぜひ自社をよりよくして、発展させていくために採り入れてみていただきたいですね。
(新刊JP編集部)