BOOK REVIEW書評
■ 副業としての不動産投資 「年間所得100万円アップ」を実現する方法とは
投資の中でも注目度の高い不動産投資は、元手が少なくても実践でき、なおかつあまり手をかけなくても良いという理由から人気の投資法です。そのため、関連本コーナーが作られている書店も多く、またインターネット上にはさまざまな情報がアップされています。
しかし、どんな投資にも「100%」は存在しません。それは不動産投資も同じで、トラブルばかりが起こる「手がかかる」物件もありますし、空室によって借り入れしたローンが返済できなくなるリスクもあります。
それでも、あまりある魅力を持っているのが不動産投資。
本業の収入にプラスアルファの副業レベルから、がっつりと稼ぐ複数棟のマンション経営まで、目的にあった方向性で実践することができます。
ただ、これから不動産経営を始めてみたいという方には、まず年間100万円の所得アップレベルの副業クラスの投資で経験を積んでみるという手法が良いかもしれません。
『"自己資金ゼロ"からキャッシュフロー1000万円をつくる不動産投資!』(ごま書房新社刊)は、不動産投資アドバイザーの椙田拓也(すぎた たくや)さんが、「ゼロ」から不動産投資を始めたい読者に向けて、
「不動産投資のはじめ方」
「給料プラスアルファの不動産投資法」
「リタイアも視野に入れた不動産投資法」
「その先の投資法」
という、あらゆる段階に通じる投資ノウハウを教えてくれる一冊です。
ここでは本書の中から、不動産初心者がまず習得すべき「給料プラスアルファの不動産投資法」について少しご紹介します。
ちなみに、椙田さんは「ゼロから不動産投資を始める場合には、小手先のテクニックではない王道のやり方で段階を経て規模拡大して行く必要がある」と言っています。つまずくにしても、最初の段階ならば大けがにはなりません。だからこそ知っておきたい方法です。
■ 実際にシミュレーションをしてみれば、その物件の価値がわかる!
「給料プラスアルファの不動産投資法」での目標は、キャッシュフロー年間100万円。「キャッシュフロー」とは端的にいえば、ある期間に手元に入った(流入)額から出て行った(流出)額を引いて残ったお金です。ここではまず年間100万円手元に残ることを目標にしており、普通のサラリーマンとしてはかなり良い副収入になります。
本書では、栃木県にある中古アパートを一棟買いするという事例によって「購入すべきかどうか」を判断するポイントを教えてくれます。
☆購入するかどうかを判断する
【物件データ】
- 木造2階建て
- 法定耐用年数:22年
- 築年数21年
- 価格3000万円(+諸経費240万)
- 表面利回り12%(実質利回り10.6%)
- 現況家賃月26万5000円(1室空きあり)
- 満室家賃月30万円
諸経費は物件購入のための経費で、だいたい物件価格の7~8%程度かかるといわれています。
また、この物件は、日本政策金融公庫から3000万円融資を受け、諸経費は自己資金で賄う形で購入したそうです。普通のサラリーマンであれば、240万円は捻出できない額ではありません。
融資期間は18年、金利は固定金利で1.29%、返済は月に15万5711円。この事例における固定金利は破格の条件ですが、通常の2%後半の固定金利でも、賃貸経営を安定させる上で変動金利よりメリットがあると椙田さんは述べます。
続いて、物件の収入と支出を見て行きます。
●収入
利回りを見てみると、わずか1室空いているだけで利回りは1.4ポイントも下落します。つまり、物件を購入したら満室稼動させる経営努力が必要だということになります。この物件の場合には、購入後すぐに空室が埋まったそうで、その後は順調に満室稼働しているとか。
●支出
月々の融資返済もさることながら、不動産経営には「ランニングコスト」という経費が発生します。月ごとの経費はだいたい家賃収入のおよそ10%~20%。管理費や定期清掃費など、年間で固定資産税や都市計画税が発生します。
これらを計算した上で、投資すべきか否かの判断をします。
現況は1室空いていたので、家賃収入は年間318万円。そこから経費(本書では高めに17%と設定)、融資返済を引くと、1年で約77万円1000円が手元に残る計算になります。
77万1000円を購入金額の3000万円で割ると、2.57%。これが物件の「キャッシュフロー率」になります。キャッシュフロー率とは、購入額に対して年間にいくらのキャッシュフローを生み出してくれるかの率のことで、数年前だと2%が目標といわれていたものが、現在は不動産投資人気によって低下の傾向にあります。そのため、「2.57%」という数字はとても高いといえます。
また、物件購入で使った自己資金240万円は3年で回収可能ということから、年間100万円目標で始める規模の投資としては、かなり良さ気な物件であると判断できるでしょう。
☆購入から5年でアパートを売却する
売却益を狙うならば5年で売るのが椙田さんのセオリー。
ここでキモになるのが、築年数です。築古になればなるほど家賃は下落するものですが、だいたい20年をめどに横ばいになるといいます。もちろん近隣の環境に左右される部分もありますが、地方であれば大きくは変わらないでしょう。
この物件は築21年なので家賃の下落がしにくく、不動産の価値が大崩れする可能性も少ないので、「買ったときと同じ金額で売却すれば良い」という椙田さんの考えに適しています。
また、大事な視点は「利回りで買って、利回りで売る」という原則です。
収益アパートの場合、利回りが買ったときから落ちなければ、売却は充分可能だと言います。
◇
いかがでしょうか。不動産投資のイメージがなんとなく湧いてきましたか? もちろんここで紹介する際に割愛した大事な部分もあるので、そこはぜひ書籍を参考にしてほしいのですが、椙田さんが教える「王道」の不動産投資の方法はとてもシンプルで、誰でも実践できる内容になっています。
不動産投資についてこれから知ろうとしている人から、何棟か経営して成功し、さらなる投資を考えている人まで幅広いニーズに対応できる思考法が詰まった本だといえるでしょう。
(新刊JP編集部)
"自己資金ゼロ"からキャッシュフロー1000万円をつくる不動産投資!
定価 :
1,550円+税著者 :
椙田 拓也出版社:
ごま書房新社ISBN :
4341086774ISBN :
978-4341086770Amazonで見る
INTERVIEWインタビュー
■不動産投資で見誤らない目を作るために必要な「考え方」と「勉強方法」
「普通のサラリーマンでもできる」ということから、人気の高い「不動産投資」。
確かにすぐに乗り出すことは可能だが、知識ゼロ、準備ゼロで成功できるものではない。
これから不動産投資を始めたい人や、なかなか上手くいかない人に向けて、手堅く成功するための方法が書かれた『“自己資金ゼロ”からキャッシュフロー1000万円をつくる不動産投資!』(ごま書房新社刊)の著者である椙田拓也さんは、もともと株式投資を行っていたものの、リーマンショックを経て株に不安を感じ、不動産投資に鞍替え。
現在は14棟102室を保有しながら、アドバイザーとして融資のサポートや勉強会などを行っているという。
そんな椙田さんに、これから不動産投資を始めたいと思っている人に向けて、その始め方やノウハウをご自身の経験を踏まえながら語ってもらった。
(新刊JP編集部)
■「はじめの1年間は投資手法に迷って何も買えなかった」
――椙田さんの不動産投資についての経歴についてまず教えて下さい。
椙田:
もともと株式投資を行っていたのですが、2008年のリーマンショックで資産が目減りしたことから不動産投資に鞍替えしました。しかし、思い立って不動産投資の勉強を始めましたが、あまたある投資手法に迷い、結局1年間は何も買えない時期が続きました。
初めての物件は2009年の年末に神奈川県に2棟買ったところから始まり、そのあとは年に3~4棟を取得し、いまは14棟102室を保有しています。
――1年間何も買えない時期が続いたとおっしゃいましたが、実は以前、椙田さんと同じように最初の物件を買うまでに時間がかかったという投資家の方がいました。これは不動産投資初心者によくある話なのでしょうか?
椙田:
いや、あまり聞かない話だと思います。少なくとも1年迷ったらもう買えなくなってしまうことが多いですね。逆に始めてすぐに買ってしまう人はいます。
――やはり最初から直感的に物件を選んだほうが成功しやすいのですか?
椙田:
結局はどんな物件を購入するかですね。ただ、最初から悪い条件の物件を掴んでしまっても、そこからやり直してリカバリする方も多いです。
――最初からできるかぎり良い物件をつかむにはどうすればいいのでしょうか。
椙田:
欲張りすぎないことですね。利回りの高さばかりを求めてしまう人は少なくありません。しかし、表面利回りは確かに高いけれど、空室リスクが高かったりリフォーム資金がかかったりしてしまうこともあります。
――椙田さんはどのように不動産投資の勉強をしたのですか?
椙田:
もともと新卒で入社した大和ハウス工業で、郊外店舗の建て貸し物件の営業という仕事をしていたことが、いま思うと不動産投資の基礎となっています。しかし当時は、そうした不動産投資は先祖代々土地を所有している「地主」が行うものと思い込んでいたので、資産背景のない一介のサラリーマンが不動産投資に参入できるとは思っていませんでした。
2008年に思い立って、書店で「不動産投資」の本を手に取ったことで、これまでの断片的な知識や経験がまるでパズルのピースのようにパチパチとはまり、不動産投資の全容が見えた瞬間は本当に衝撃的でした。それ以降は、書店や図書館で60冊くらいの関連書籍を読み、インターネットでも検索して勉強しました。
当時、不動産投資関連のセミナーなどはそんなになかったため、不動産業者さんに実地で教わったことも多いです。あとは、実際に物件を取得して運営していくなかで、冷や汗をかきながら対応していったことが振り返って見ると一番勉強になったなと思います。
――2015年に椙田さんはサラリーマンを引退されています。この引退の基準はどこにあったのですか?
椙田:
当時、サラリーマンとしての僕の年収は1000万円くらいでしたが、キャッシュフローでこの年収を抜いたことで、リタイアしてもよいかなと思うようになりました。
「キャッシュフロー1000万円」は本書のタイトルにもなった数字です。しかし、キャッシュフローは金利やランニングコストの変動、減価償却の枯渇、入居率の低下、老朽化による修繕費の拠出など、将来にわたってキャッシュフローを脅かすリスクファクターはいくつかあるため、手放しで安泰というわけではありません。そのため、取得後の運営の中でも経営努力していくべき課題はどんどん出てきます。
――不動産投資を始めてからご自身の考え方はどのように変わりましたか?
椙田:
小さな視点としては、本業のサラリーマン生活のなかで、経営者目線が身に付いたということでしょうか。不動産投資は事業ですから、売上の拡大(空室対策と新規追加購入)やコスト削減などを自己責任で行なっていかねばなりません。そのなかで当然ながら経営者目線が備わってくるものです。
一方もっと大きい視点としては、世の中は仕組みを提供してお金を受け取る側と、その仕組みを享受してお金を支払う側とがあることがわかってきた点です。不動産投資は住居のように供する部屋を提供して家賃を受け取る仕組みですが、不動産投資に限らず全ての商売がこの原則のうえで成り立っています。これが分かったことは自分の中では大きな変化でした。
――他の投資と比較して不動産投資のメリット、デメリットはどこにあると思いますか?
椙田:
不動産投資のメリットはいくつかありますが、他の投資との違いで最も大きいことは「金融機関からの融資によって買う」ということです。これを「レバレッジをかける」と表現することがあります。テコの原理ですね。
なぜ不動産投資だけ融資がひけるのかというと、土地建物という資産が銀行から評価されるからです。あとは収益性のモデルが、不動産賃貸業という事業だから。要するに不動産投資は投資ではなく事業なんですね。
ただ融資を引いてレバレッジを膨らませること自体はリスクも伴います。収益性の悪い物件や安定稼働できない物件を取得してしまうと、レバレッジが逆の効果をもたらします。
不動産投資の借入れは、家賃収入から返済します。つまり入居者が代わりに返済してくれるというイメージです。入居者がいなくなると自分の収入から返済しなくてはならず、稼働率が極端に低下すると支払い不能に陥ってしまう恐れもあるのです。そのため物件選びが非常に重要となります。この空室のリスクが不動産投資の最大のデメリットでないかと思います。
■「家庭が円満」「素直」…不動産投資に成功しやすい人の4つの特徴
――不動産投資を成功する上で必要な情報はなんでしょうか。
椙田:
これはステージによって異なると思います。基本的に投資やビジネスではいかに低位で買えるか? が必要とされますが、不動産投資に関してはただ単に安く買うだけではいけなくて、特に最初のステージにおいては、いかに「良いもの(=収益のしっかり出せる物件)」を安く買うことができるか? が重要です。
素人が「安く買う」ことだけにフォーカスすると悪い物件を掴まされてしまうのがオチです。そのためにも信頼できる取引先を確保することが重要ですが、それらは分母となる圧倒的な行動量からしか生まれないと思いますね。
――信頼できる取引先を探すために、情報をどのように仕入れていますか?
椙田:
基本的には「楽待」や「健美家」といった不動産投資のポータルサイトを見ていますが、私の場合は物件そのものではなく、どのような不動産会社があるのかという視点を持って見ています。もし、新しい不動産会社が出てきたら問い合わせを入れて、という接点作りのために利用していますね。
――不動産会社に悪い物件をつかまされてしまう人はどんな特徴がありますか?
椙田:
例えば利回りばかりを追い求めている人でしょうか。もちろん、そういう物件もあるのですが、裏に何かあると考えた方がいいでしょう。
本書のコラムでも書きましたが、5棟目に購入した「空室率70%の問題児アパート」は、利回り24%と高利回りだったので「多少のことがあっても大丈夫」という気持ちで買ったら、どんどん入居者が少なくなっていきました。
――ニュースでは日本の不動産への投資が回復基調にあると報じられています。やはり迷っている人にとっては、今が不動産投資に乗り出すチャンスなのでしょうか。
椙田:
いまは都心部を中心として不動産価格が上がっています。投資額に対するリターンの率を示す「利回り」はその分低下しているため、投資するタイミングをはかっている人は多いと思います。しかし一方で、融資の面ではこれほどまでに低い金利で不動産投資に対して貸し付けしてもらえる時期はこれまでにありませんでした。そういう意味では、このタイミングがチャンスだと思います。
問題は、ダメな物件を高つかみすることで、ある程度見極めが重要です。かと言って、先ほど述べたように利回り重視だけで購入すると、買ったあとに入居が埋まらない、もしくは埋めるためには莫大なリフォーム費用がかかる…などといった物件を買ってしまうおそれもあり注意が必要です。
また、安くなってから買う、という人がいますが、さっきの融資がそういう時期は締まるため、たとえば投資経験が数年以上あるとか、自己資金が潤沢にあるなど限られた人しか融資してくれなくなると思われます。
そうした不確定な未来を待つのではなく、いま始めるべきだと僕は思います。買って損する物件だと意味がありませんが、プラスのキャッシュフローを生む物件であれば、数年待つよりも1年でも2年でも早く買えば、その分キャッシュが手元に残ります。この考えは重要です。
――不動産投資をはじめる上で、やはり「失敗するかもしれない」というリスクが心配です。リスクにどのように備えるべきでしょうか?
椙田:
不動産投資に関するリスクのうち、突発的な事故や自然災害系については損害保険で対応できることがほとんどです。
私が思う最大のリスクは「空室が埋まらない」という点です。これも営業努力である程度カバーできますが、やはり埋まりにくい物件を買ってしまうと、その後に賃貸付けで要らぬ苦労が増えるので、物件選定がやはり重要ということになります。これへの対応としては、日頃から管理会社・客付会社さんとリレーションシップを構築しておき、空室が出た時には迅速に優先的に埋めてもらえるようにしておくことが肝心です。
――椙田さんが不動産投資をする上でよくお使いになっているツール(アプリ)があれば教えて下さい。
椙田:
「ローン計算。」というアプリです。これは融資額、返済期間、金利を入力すると、毎月の返済額、年間の返済額、およびトータルの返済総額がすぐわかる優れものです。元利均等返済と元金均等返済という返済方式を選択できることができ、それぞれの毎月ごとの元金と利息ならびに残高の経時的変化を一覧で可視化できる点も非常に使えます。
――不動産投資に成功しやすい人の特徴を教えて下さい。
椙田:
これまで数百組の不動産投資家のデビューをサポートしてきた中で、うまく行く人と行かない人の特徴がわかってきました。その共通点は4つあり、「素直な人」「行動量が多い人」「行動が素早い人」、そして「家庭が円満な人」です。
特に「家庭が円満な人」というのは非常に重要で、家族に反対されて挫折したり、コンセンサスを取れないまま開始して、途中でやめざるを得なくなってしまう人も多いですから。
――タイトルにもある「自己資金ゼロから」という言葉に魅力を感じる人も多いと思いますが、収入も自己資金も少ない状態で本当にできるのでしょうか?
椙田:
自己資金のみならず収入も少ないというと難しいですね。収入は例えば700万円くらいあって、自己資金がない人という人ならば、生活スタイルを見直せばできます。むしろ、最初にすべきは投資ではなく生活スタイルの見直しですね。
「その年収でなぜそんなにお金がないんですか」という人は多いんです。派手にお金を使っている人も少なくなく、不動産投資による収入が入るとことでよけいに生活が派手になるリスクがありますね。
――椙田さんの元にも金銭感覚が派手という人はよく来られるんですか?
椙田:
多いですね。だから、最初に生活の見直しを指摘します。不動産投資で仮に不労所得が入っても、遊びには使わないこと。貯蓄して再投資する。不動産は古くなると修繕に費用が発生することもあるので、無駄遣いすべきではありません。
――最後に、本書の読みどころを教えてください。
椙田:
不動産投資本の中には、筆者自身の高い属性や特殊な資産背景によって実現した投資をさも誰でもできるかのように涼しげに書かれたものや、発行から時間が経ち過ぎて状況が変わってしまっているような古い情報も含まれており、まさに玉石混交です。
本書では、最新のトレンドを僕がサポートしてきた数多くの実例に基づいて体系的に整理したもので、そういう意味では幅広い属性の方の投資方針を決めるためのバイブルという位置付けになる本だと自負しています。
(了)