脳マネジメント
脳を味方にして独自性と創造性を発揮する技術
著者:秋間 早苗
出版:クロスメディア・パブリッシング
価格:1,738円(税込)
著者:秋間 早苗
出版:クロスメディア・パブリッシング
価格:1,738円(税込)
「正解」がなく、変化が速く、先を予測するのが難しい。
私たちが生きる現代はこんな風に評される。そして、そんな時代で生きていくために、考え方や生き方、行動様式を変えなければならないとも言われる。
時代が変われば必要とされる能力や資質も変わる。その変化についていくことが求められているのはわかるのだが、どうやって変わっていけばいいのかわからない。だから、私たちの多くは漠然とした不安を抱えて生きている。
「正解がない」と言われても、何もかもがうまくいく正解がどこかにあるのではないか、と考えてしまうものだし、物事がうまくいかなければ、自分がどこかでミスを犯したのだと考えてしまったり、ついつい周りと合わせてしまうのが人間というもの。だが、実はそれは人間の脳が本来的に持っている「クセ」によるものなのだそう。
私たちを支配し、振り回す「脳のクセ」から自由になり、逆に脳の手綱を自らが握ることでVUCA時代を生き抜くことができる。『脳マネジメント 脳を味方にして独自性と創造性を発揮する技術』(秋間早苗著、クロスメディア・パブリッシング刊)はそんなことを教えてくれる一冊だ。
本書でいう「脳のクセ」とは
・具体的な変化を厭う
・レッテルを貼って理解する
・物事の良し悪しをジャッジする
・他人事にしたり、なかったことにする
・違うことより、同じことに安心する
など。これらはいずれも長い歴史の過程で人間社会が身につけてきた性質なのだが、社会の変化に適応し、ダイバーシティやインクルーシビティが求められる現代の潮流とは逆行する。これは言い換えると、人類が時間をかけて身につけてきた性質を変えなければいけないほどの変化が現代では起こっているのだともいえる。これこそが、多くの人が今生きづらさを感じている理由なのだ。
もう少し細かく見ていこう。たとえば「レッテルを貼って理解する」というのは「これは、こういうもの」という先入観を持って物事を判断しようとする脳の性質である。これは言い換えれば「時間とエネルギーをかけて、個々の違いを丁寧に扱おうとしない」ということでもあり、「省エネ」を好む脳の性質を表している。これと同様に「具体的な変化を厭う」「物事の良し悪しをジャッジする」「他人事にしたり、なかったことにする」「違うことより、同じことに安心する」も、やはり脳の省エネ傾向を示しているのだという。
こうした脳のクセに振り回されていると、人生から主体性や創造性が失われてしまう。そうならないために、本書では
・気づく:脳のクセを理解し、自分の内側への解像度を高める
・働きかける:自己理解を深めたうえで、自分自身を望ましい状態に向ける適切な働きかけをしていく
・体現する:物事に主体性を持って現実創造していくために、自分ならではの力を発揮する
という3つのアプローチを繰り返していくことを推奨している。
最初のステップである「気づく」については、普段意識せずに出てしまう「口ぐせ」に注目してみるのがいい。
「あれがない、これがない」
「どうせ〇〇だから」
「これで合ってるかな」
「間違えないようにしなきゃ」
「なんで私だけ」
こんな言葉が日常的に口から出ていたり、頭の中に浮かんでいるのなら、それはマインドセットが脳のクセに支配されているサインだと言える。このマインドを変えていく「働きかけ」「体現」とは具体的にどのようなものなのかについて、本書は脳の性質についての解説を交えて解き明かしていく。
脳のクセを知り、そのクセから自由になり、逆にそのクセを上手に利用することが、本書の目指すゴール。それが実現できたら、正解のない不確実性の時代を自分らしく生きられるようになるはずだ。本書は現代を生きるために必読のガイドブックである。
■VUCA時代に人類は本来の生き方に戻る
秋間: 本の中でも書かせていただいたのですが、私自身これからの時代に対して「このままじゃまずい」とひしひしと感じつつ、でもどう自分を変えればいいのかわからずにいたんです。
「VUCA時代」とよく言われていますが、この時代を生きていくためにみんなで力を合わせないといけないことはわかっているのに、どうしてこんなにも力を合わせにくいんだろう、多様性の時代は「共創」という考え方が必要なのに、どうしてそれができないんだろうとずっと考えていたんです。
誰かがそれについて書いているんじゃないかというのを期待していたのですが、ただ期待するのではなく自分なりに試行錯誤してきたアプローチを書いてみればいいんじゃないかと思いたって書いたのがこの本です。
秋間: ありがとうございます。ただ、VUCA時代が「これまでとは違った新しい時代」とされていることには私は違和感があります。なぜかというと人間は狩猟をして暮らしていた時代からずっと先が不確実な時代を長く生き抜いてきたんですよ。
それが、たまたま農耕が始まったこと、あるいは産業革命が起こったことで、私たちは「定まった答えがある」という世界を仮想して生きてきたわけです。だから、VUCA時代というのは、まったく新しいものではなく、もともとやってきた生き方を取り戻す時代なのではないかと捉えています。
秋間: そうです。ただ、省エネとは対極の、何かに夢中になったり、おもしろがる力を、本来人間は持っていたはずなんです。そういう抑え込まれていた力を、VUCA時代は解放してくれる可能性があるんじゃないかという期待を持っています。
秋間: 自分に足りないものやないものにばかり目が行ってしまったり、「どうしてこんなこともできないの?」と人を責めたくなってしまったりといったことはどんな人にもあると思いますが、そういうふうに考えてしまうのは、その人本人に問題があるのではなくて、脳が本来そういう性質を持っているからなんです。
人に寛容になれなかったり、変化が怖かったり、ないものがあることが不安だったりすることに罪悪感をおぼえるのではなくて、「これは脳のせいなんだ」と理解することで、いったん自分を責めるのをやめて立ち止まってみるということができるようになればいいなと思っています。
もう一つは、これからの世の中はこれまでの世の中の延長線上にはないと思っている人たち、このままじゃまずいと思っている人たちが、この本を味方にして、勇気を持てればいいなと思っています。
秋間: 私は仕事でアフリカに行ったりもしているのですが、この本で書いた「脳の無自覚なクセ」は、全てではないにしてもある程度は人類が皆持っているものだという理解を持っています。
ただ、やはり日本人特有の部分もあって、失敗を恥と考えたり、周りと違うことを恐れたりする性質は強いと思います。
■脳の性質に注目することで自分の気持ちが扱いやすくなる
秋間: 私自身、そういったことが書かれた本をたくさん読んできて、時に勇気づけられてきたのですが、一方でそういった本に書かれているように「意識を変えましょう」「考え方を変えましょう」と言われても、具体的にどうやるのかわからなかったんですよね。
秋間: わかったような気にはなるんですけど、それで毎日の習慣が変わるかというと、やり方がわからない以上変えようがなかったりしたので、どうすればそれぞれが長所を認め合ったり、物事を決めつけずに考えられるようになるのかという方法のところではしごが足りない気がしていました。
この本はこの問いへのアンサーとして書いたところがあって、脳の認知について、「外部からの刺激への反応」にスポットライトを当てています。たとえば何か嫌なことがあった時に「何が嫌だと感じたのか」について掘り下げていくことで、「自分はこういう言葉に対してこういうイメージを持っているからイライラしたんだな」という構造が見えてくると、自分の感情を扱いやすくなります。
私自身がこのアプローチでずいぶん楽になりましたし、私がこれまでにこのやり方をお伝えしてきた方々からも肯定的なご意見をいただいたので、本という形で多くの方にお伝えしたいと思ったんです。
秋間: 自分の中に不足している部分、自分にないものではなく、あるものや長所に目を向けられることというのが一つあります。あれがないこれがないと考えるだけで不安になるものですし、自分で自分を委縮させるような言葉が出てしてしまったりします。そこで、もし自分がそんな状態になっていたら、気づいて切り替えられることが大事だと思います。
もう一つは自分のコンフォートゾーンから出られることです。初めてのことに挑戦したり、知らないことをやってみたりする時って、誰でも怖いじゃないですか。でもその怖さは自分のせいではないですし、ましてやその行動が間違いだからでもない。挑戦っていうのはそういう恐怖を伴うものなんです。そういうこと全体を知っておくと、慣れ親しんだコンフォートゾーンから出て挑戦しやすくなるはずです。
付け加えるなら、誰かのマネをしたり、「こういうものがすばらしいんだ」という固定観念を持ったままだとこれからの時代はとても生きづらいものになると思います。誰かのマネをしたり、既存の価値観に囚われるのではなく「自分はこれが好き」「自分はこれが心地いい」という自分ならではのものを持っていただくためにも、まずは自分のことをよく知ることが大切だと思いますね。
秋間: まずは自分のチームや組織の現状把握から始めていただきたいと思います。「こうした方がいい」という情報が溢れている時代で、どうしても自分のチームが進むべき方向について迷いが出やすいのではないかと思います。リーダーの方がたくさん立っている旗に踊らされず、自分たちが本当に追うべき旗を見極めるために、この本は役立つのではないかと思っています。
また、チームに誰かを責めている人や自信を持てない人、チャレンジできない人がいたら、脳の性質の話をすることで「それはあなたのせいじゃないよ」というメッセージを伝えることができます。コミュニケーションのクッションとして、今回の本で書いている脳の話は有効なのではないでしょうか。
秋間: この本が「なんで自分ばかりこんな目に遭うんだろう」とか「このままじゃダメなのはわかっているのに、どうしていいかわからない」「どうしてわかってくれないんだろう」とモヤモヤした気持ちを抱えている人の役に立てばいいなと思っています。
そうやって悩んだり苦しんだりすること自体、いろんなことを自分事として捉えられるからこそなんです。その心の火を消さないように、ぜひ脳の性質やクセというものに注目していただきたいです。「どうしようもない」から「何かできることがあるかも」に考えをシフトするきっかけになってくれたらうれしいです。
秋間 早苗(あきま・さなえ)
株式会社La torche(ラトルシェ)代表取締役
2005年、東京大学農学部卒業。在学中よりサステナビリティや国際協力に関心を持ち、2007年に国際学生サミットを主宰。前例も正解もない、ゼロからプロジェクトを立ち上げる経験を通じて、自身の創造力を最大限に発揮できる領域を見出し、2008年に同大学大学院国際協力学を修了後、起業の道を選ぶ。産官学連携プロジェクトや多分野にわたる事業開発をリードしながら、事業性と社会性の融合、マルチステークホルダーの共創関係構築に取り組む。 2017年、結婚と出産を経て株式会社La torcheを設立。これまでの経験と領域横断的な知見を基に、独自のアプローチ「脳マネジメント」を打ち立て、個人や組織がその「存在ならでは」の価値を最大限引き出すための支援を行っている。国内外の現場で培った人間理解に基づき、持続可能な未来を志向した人材育成と組織づくりを目指し、積極的に発信を続けている。カナダ・バンクーバー在住。2児の母。
『脳マネジメント 脳を味方にして独自性と創造性を発揮する技術』公式サイト
https://brain-management.jp/
著者:秋間 早苗
出版:クロスメディア・パブリッシング
価格:1,738円(税込)