「脳が疲れたときには、糖分を補給するといい」
こんな言葉を耳にしたことはありませんか? ただ、この言葉を信じすぎ、「仕事で疲れたら甘いもので気分転換」も、行きすぎると危険なことに。
『がんばらなくても20歳若返るナチュラルホルモン療法』(講談社エディトリアル刊)の著者である藤森徹也さんによれば、甘いものの食べすぎには、肥満や糖尿などよく知られているリスクだけでなく、さらにおそるべきリスクが潜んでおり、そこにはあるホルモンが大いに関係しているといいます。
そのリスクとは一体何なのか、お話をうかがってきました。
■閉経後に、高血圧や動脈硬化のリスクがぐんと高まる理由
――そもそも「ホルモン」とは、体内でどのような働きをするものなのでしょうか。
藤森:ホルモンとは、体内で作られる、ごく微量ながらも身体に特殊な影響をおよぼす物質です。
体内の代謝を司ったり、細胞や組織の成長を促したり、女性であれば生理周期をコントロールしたり、男性であれば精子をつくったりといった様々な機能を担います。
またホルモンは「若いころには潤沢に分泌されるが、加齢とともに分泌されにくくなる」ものでもあり、睡眠や食欲、気持ちのあり方など、「若さ」を保つ上で重要な機能にはたいてい関わっているため、不足すると「老い」が進んでしまうのです。
しかし、だからこそ、不足しがちなホルモンを補うことで「老い」を食い止めるという発想も出てくる。私どもが行なっているナチュラルホルモン療法は、まさにそのような観点からのアプローチといえます。
――「ホルモン」と聞くと「美容」に関連する話題を思い浮かべる方が多いようにも思いますが、「老い」全般に関わってくるものでもあるのですね。
藤森:もう少し正確にいうと、ホルモンバランスは、「健康な状態から外れていく」という意味での老化に大いに関わっているといえます。心臓病やがんなど、いろいろな病気になりやすくなるということですね。
たとえば、日本人女性の閉経の平均年齢は50歳といわれていますが、閉経するとエストロゲンという女性ホルモンが分泌されなくなります。
エストロゲンは血管を広げてくれる機能を持つホルモンなので、閉経後の女性は血管が狭く、硬くなりやすい。そのため50代の女性には、高血圧や動脈硬化を患う方が少なくありません。
――エストロゲンの分泌量は、多ければ多いほどよいのですか。
藤森:いえ、話はそう単純ではありません。エストロゲンの分泌量が増えすぎるのも好ましくないんです。
エストロゲンは細胞増殖を促す機能を持つため、がん細胞のなかにあるエストロゲン受容体と結びつくと、がん細胞の増殖を促してしまうケースがあるからです。
さらにいえば、現代人の食生活にはエストロゲンを増やしてしまう「罠」が多く潜んでいる。ホルモンバランスを崩さないためにも、食生活には注意したほうがよいでしょう。
――食生活における罠とは、具体的にどのようなものなのですか。
藤森:たとえば「ストレス解消のために!」などといって、甘いものを食べすぎるのは危険です。
必要以上に身体に入った糖類・糖質は使い切られることがないため、脂肪細胞において脂肪として蓄積されます。
脂肪細胞はエストロゲンを分泌するため、脂肪細胞が増えるほどに体内のエストロゲン量が増えてしまいます。またこれは、もう一つの女性ホルモンであるプロゲステロンとのバランスを崩してしまうのです。
プロゲステロンにはエストロゲンの作用を抑える機能があるので、これらのホルモンバランスが崩れることは、身体にとってかなりマイナスの影響をおよぼすんです。
――甘いものの摂りすぎが、最終的に癌のリスクを高めることにつながるというのは驚きです。
藤森:そうですよね。癌まで行かずとも、女性がヒステリックな感情に囚われてしまうのも、実はエストロゲン過多が大きく関わっています。
こうして見てくると、ホルモンバランスが日常のちょっとした不調から、生死にかかわる病気まで、かなり幅広く影響を与えるものなのだということが分かっていただけるのではないでしょうか。
だからこそ、飲み薬やクリームといった形でホルモンバランスを整えることが必要になってくるんです。
■せっかくの筋トレも水の泡? 筋肉を増やすために欠かせないホルモンとは
30代に入って「体重が落ちにくくなった」「代謝が下がったかも」などと感じている人は多いはず。
20代の頃の体型を維持しようと思うと運動や食生活の改善は欠かせませんが、運動が嫌いな人や食べるのが好きな人にとって、節制はストレスです。ならば、最低限の節制で効果を発揮する方法はないのでしょうか。
藤森徹也さんによれば、体型的な悩みを解決する上で、「ホルモン」が重要な役割を果たすのだそうです。
そこで、ホルモンと筋肉との関係を中心にお話をうかがいました。
■ストレス過多がつづくと不足しがちなホルモン コルチゾールが心身に与える影響
――インタビューの前半では、ホルモンバランスが、いわゆる「美容」だけでなく、「老い」全般に関わってくるというお話がありました。その意味で、ホルモンバランスは、女性だけでなく男性にとっても重要な問題といえるでしょうか。
藤森:おっしゃるとおりです。たとえば以前、私どものクリニックにお見えになった男性で、こんなケースがありました。当初はうつ病を疑っていたのですが、よくよく調べてみると副腎疲労症候群だということが分かったんです。
――どのようなホルモンが不足すると、副腎疲労症候群になってしまうのでしょうか。
藤森:副腎から分泌されるホルモンとして、コルチゾールというものがあります。これは別名「ストレスホルモン」ともいわれるもので、身体にストレスがかかると分泌されます。
コルチゾールはストレスへの耐久力を増加させる働きがあるため、適量分泌される分には、問題ありません。むしろ、私たちの体調を保ってくれるものです。
でも、短期間であってもあまりに強いストレスにさらされたり、長期間にわたってストレスにさらされつづけると、まずいことになる。副腎は休む間もなく大量のコルチゾールを分泌しつづけることになり、副腎が疲れきってしまうからです。
――副腎が疲れきった状態=副腎疲労症候群ということでしょうか。
藤森:そうですね、もう少しいうと、副腎が疲れて機能低下し、身体がストレスの影響を直接受けることで色々と不具合が生じてしまう。その状態こそ、副腎疲労症候群にほかなりません。
――不具合とは、具体的にどのようなものですか。
藤森:先ほど「当初はうつ病を疑っていた」という言い方をしましたが、副腎疲労症候群は一見すると、うつ病の症状と見分けがつきにくい。
たとえば、突然頭が働かなくなったり、朝起きるのがつらくなったり、すぐにイライラしてしまったり……といった症状が見られます。
副腎疲労とうつ病が併発することもあるので、見極めはなかなか簡単ではありません。専門の医療機関で適切な検査を受ける必要があります。
――副腎疲労症候群だと分かった場合、ナチュラルホルモン療法では、コルチゾールを注入するのですか。
藤森:いえ、症状がかなり深刻な場合を除いて、それはできるだけ避けます。副腎が疲れきっているときに外からコルチゾールを入れてしまうと、副腎は「もう自分では作らなくていいんだ」と思ってしまい、さらに機能を停止してしまうことがあるからです。
それよりも、ストレスをやわらげるために生活環境を変えることを薦めたり、副腎を治すために必要なサプリメントを摂ってもらったり、コルチゾールの原材料になり得るようなホルモンを補充したりといったケアをおこないます。
――コルチゾールの原材料になるホルモンとは何ですか。
藤森:プレグネノロンというホルモンです。これはコレステロールを材料に作られ、体内で様々なホルモンに変換される物質です。
――いま、コレステロールという言葉が出たのでうかがいたいのですが、ダイエットとホルモンとの関連でいえば、何か知っておくべきことはあるでしょうか。
藤森:まず、脂肪が多いと、エストロゲンが過剰に分泌されてしまい、テストステロンというホルモンの作用を抑えてしまいます。ちなみに、テストステロンは男性ホルモンの代表格で、いうなれば、雄としての積極性を左右するものです。
ダイエットを怠り、肥満気味の状態を放置しつづけると、このテストステロンが不足しがちになるという問題がありますね。
――テストステロンが不足すると、具体的にはどのような影響があるのでしょうか。
藤森:ひとつ分かりやすい例を挙げれば、テストステロンの多少は「筋肉のつきやすさ」に影響します。
2000年、『Mayo Clinic Proceedings』という医学雑誌に、こんな面白い研究結果が発表されたんです。男性更年期障害の方を対象に、「テストステロンを補充しながら筋トレをする」「テストステロンを補充するだけで筋トレはしない」「テストステロンを補充しないで筋トレをする」「テストステロン補充も筋トレもしない」という四つのグループに分ける。それらのグループについて、一定期間、経過観察をおこないます。
結果、どのグループの男性の筋肉量が増えたかというと、もちろん一番は「テストステロンを補充しながら筋トレをした」グループなのですが、次に増えたのが「テストステロンを補充するだけで筋トレはしない」グループだったんですよ。
ガソリンがないと車が動かないように、テストステロンが不足した状態でいくら筋トレをがんばっても、筋肉はなかなかつかないということがこの研究結果から分かります。
――最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
藤森:最近、巷で「アンチエイジング」という言葉をよく耳にしますが、本当の意味でのアンチエイジングは、身体の内側(なか)が若々しいことによって初めて達成できると私は考えています。
つまり、身体の内側(なか)が若々しく健康な状態であって初めて、外見的な美しさも伴ってくる。この状態に持っていくためにも、ナチュラルホルモン療法の可能性をより多くの方に知っていただきたいですね。
(新刊JP編集部)