■ 教育研究家の父が息子に実践したユニークすぎる金銭教育
いつの時代も、わが子に与えるお小遣いに関して、「何歳のときに」「どれくらい」が妥当なのかは、世の親にとって大問題。
でも考えてみれば、悩むのも当然だ。単に「何歳のときに、いくらあげればOK」とマニュアル的に解決すればいいわけではなく、そこには、「お金とどう向き合わせるべきか」という難しいテーマが絡んでいる。
このテーマについてヒントをくれるのが、『七田式の原点「大切なことは、みな子供たちから学んだ」』(眞人堂)の著者であり、しちだ・教育研究所の代表、七田厚さん。
自身の子ども時代の経験をもとに、あるべき金銭教育の形などについてお話をうかがった。
■ 教育研究家が自身の体験で成果を確信 父から受けたユニークな教育方法とは
――まずは本書の執筆経緯を教えていただけますか。
七田:
数年前、教育関係者が多く集まる1泊2日の勉強会に参加した際、2日目の朝におこなわれるモーニングセミナーで30分ほど話してほしいと依頼されたことがひとつのきっかけです。
そのセミナーの参加者の年齢層には、かなり幅がありました。まだ子育て中とおぼしき方もいれば、子育て済みの方もいらっしゃった。
そこで、わたし自身が子どもの頃の話だけでなく、大人になってからの話も盛り込めば、どちらの方にも楽しんでいただけるだろうとの思いから、いくつかエピソードをご紹介させていただきました。
すると講演後、聴衆のなかに「自分の父親のことを思い出して涙が出た」と言ってくださった方がいらっしゃいました。
そのような反応があるならば、読者の方に「自分の親はどうだっただろう?」と思い出していただくためのきっかけとして、わたしと父とのエピソードがお役に立てるのかもしれない。
そんな思いから、しちだ・教育研究所で発行している『夢そだて』という月刊誌で2年半にわたり、このようなテーマの連載をおこなったんです。その連載に大いに加筆したものを、今回、書籍という形で出させていただきました。
――
本書で書かれていることに対する、ご家族の反応はどのようなものでしたか?
わたしには3つ下の妹がいるのですが、わたしと父との数々のエピソードを読んだ妹からまず言われたのは、「お父さんとの思い出がそんなに沢山あって羨ましい」ということでした。
ただ、妹に比べ、わたしと父の接する時間が長かったことが、これだけ多くの思い出を残せた要因だったとは思っていません。
ともに過ごした時間の長さ以上に、わたしが30年経っても40年経っても覚えているよう、父が意識的に「誘導」してくれていたからという部分がかなり大きいと思いますね。
父は若いころに小説家を志していただけあって、日常のなかにいつもドラマを探しているような人でした。ややもすると流れていく毎日に、どんなに些細でも印象に残るようなドラマを演出しようとしていたような気がするのです。
――たしかに本書にも出てくる、七田少年がお金を拾った際のエピソードはとても印象的でした。
七田:
わたしが小学校2年生のときのことですね。街中で、百円札が2枚、落ちているのを見つけました。
そのお金は交番に届けたのですが、一定期間がすぎても持ち主が現れなかったため、わたしのものになりました。「どう使おうかな?」と思っていたら、父が「学級文庫の本を入れるスペースがなくて、本立てが必要だって言ってたでしょ? それを買ってみたら?」と言ったんです。
そのときわたしは「200円じゃ本立ては買えないんじゃない?」と返したのですが、父はすかさず「お父さんが足りない分を出してあげるから大丈夫」と言ってくれた。
結果、本立てを買ってクラスに寄付したところ、クラスメートからは冷やかされたりもしましたが、最終的にはかなり喜ばれました。
同じ200円でも、お菓子を買えば忘れてしまったかもしれないエピソードに、父ならではの「ドラマ」が演出されていたために、このときのことはいまでもわたしの胸の奥にしっかりと根を張っているのです。
――本書には、いまお話いただいたようなエピソードが30個あまり出てくるわけですが、親との思い出が少ない読者のなかには、妹さんのように「羨ましい」と感じる方は少なくないと思います。
七田:
ただ誤解してほしくないのは、父がつきっきりで面倒を見てくれたわけではないということです。むしろ相手をしてもらえなくて、寂しい思いをすることのほうが多かった。
父が経営していた英語塾に来ている生徒さんたちとワイワイやっているところを遠目に見ながら「羨ましいな」と思うことがほとんどでしたから。
つまり、何が言いたいかといえば、一般的なご家庭と比べて、わたしと父がともに過ごした時間が特別長かったわけではない。でもその分、やりとりの一つひとつが私のなかに残るよう父は色々と工夫を凝らしてくれた。
なので、仮に「子どもが寝しずまったころに家に帰り、子どもが起き出す前に出勤」というような毎日を送っているお父さんであっても、工夫次第で、お子さんのなかに鮮明な記憶を残すことはできるのだと強く言いたいですね。
――本書には、七田さんが親になってからのお子さんとのエピソードも出てきますが、これは七田さんがお父様から色々なものを受け継いでいることの証明のようにも感じました。
七田:
そうですね、先ほどの工夫の話でいえば、わが子が大人になったときに「自分が小さかったころには、こんなことがあったのか」と分かるよう、何か形に残しておくことも有効な方法だと思います。
七田家には昔から、年末になると、どの子も「わが家の10大ニュース」を発表するという決まりがあります。また発表するだけでなく、その内容をノートにつけておくのですが、これも一つの工夫といっていいでしょう。
「マラソン大会で入賞した」「学級委員長になった」「一人でお風呂に入れるようになった」など、どれも他愛のないことばかりですが、後になって見返してみると、子ども自身にとってもなかなか感慨深いものがあります。
また、こうして記録をつけておくことは、親にとっても、より多角的にわが子を観察することができるようになり、そのことがより深くわが子を知ることにつながるため、意味があることなのです。
■ キャリア約40年の教育研究者が実践 わが子のリーダーシップを育む方法
書店のビジネス書コーナーに行くと、これでもかというぐらい目に飛び込んでくる「リーダーシップ」と銘打った書籍の数々。実社会に出て、その重要性を痛感し、こうしたテーマの本を手に取った経験のあるビジネスパーソンは少なくないだろう。
だができることなら、大人になってからではなく幼いうちに、「リーダーシップとは何か」を、身をもって学んでおきたいところ。では、わが子にこうした経験を積ませるにはどうすればいいのか。
しちだ・教育研究所代表の七田厚さんに、そのポイントをうかがった。
■「自立」の先にある「自律」 わが子にリーダーシップをつけさせるには
――本書ではいくつかのユニークな七田家の「伝統」が出てきます。そのひとつである「高校からは寮のある学校に入学させる」が印象的でした。お父様はどのような思いから、この伝統を大切にしていたのだと思いますか。
七田:
実は、わたしも気になって、一度尋ねてみたことがあるんです。そうしたらやはり、「子どもの自立を早めたかったから」ということを言っていました。
その狙い通り、寮生活を送るようになると、何か困ったときに親を頼ることができないため、自分で問題を解決する力はついたと思いますね。
それと、わたし自身、大人になってから気づいたのは、物理的に離れることで、親も早く子ばなれできるという効果があったということです。
――実家を出たことで親御さんの子ばなれが早まったというのは、具体的にどのような場面で感じたのですか。
七田:
この本には書きませんでしたが、わたしが実家を離れる前後で、母親のわたしへの態度が一変しました。大人として対等に接してくれるようになったといいますか。
実家にいたころは、「あなたは●●だから」といったような、決めつけた感じの物言いが多かったような気がしますし、どこか「所有物」のように扱われている感覚もありました。
でも、入学から夏休みで帰省するまでの数ヶ月のあいだに、「毎日、一緒にいることが当たり前」でなくなったことで、お互いに別人格として向き合えるようになった。いわば親子関係のスタートラインを引き直すような感じでした。
――ちなみに、七田さんが考える「自立」とはどのようなものでしょうか。
七田:
経済的な意味での自立は社会人になってからでいいと思うので、それ以外のことでいうと、「自分のことが自分でできる」ことが重要だと思います。
ただ、これだけでは不十分で、子育てにおいては、わが子を「自律」させるための働きかけも大切だと考えます。
――自律できている子とは、どのような子どもでしょう?
七田:
困っている友だちがいたら自力で助けられる子、でしょうね。この力こそ、リーダーシップにほかなりません。
――では、わが子を自律させるために、親はどのような働きかけをすべきなのでしょうか。
七田:
わが子が、「してもらう子」から「してあげる子」へと変われるよう働きかけることですね。たとえば、子どもが何か親におねだりをしてきたときに、すぐ救いの手を差し伸べるのではなく、あえて子どもに「させてみる」といったように。
子ども自身の「したいこと」が、誰かに「してあげること」につながるよう導いていくことで、子どもの自律は確実に早められると考えています。
――ところで七田さん自身、「自律できたな」と思ったのは、何歳ぐらいのときですか。
七田:
恥ずかしながら、30歳ぐらいのときだったと記憶しています。わたしは24歳で父のあとを継いで社長になったのですが、29歳ぐらいまでの自分の行動を振りかえると、子どもじみたものが多かったような気がしますから。
――人によっては「30歳成人説」を唱えるケースもありますが、本書にもあるように、「物理的に距離を置く」という話とは別に、子どもが大きくなってからもしばらくの間は、親が「目は離しても心は離さない」という意識を持つことは重要かもしれませんね。
七田:
30歳成人説という考え方には大いに賛成します。実際、「クレジットカードの使い方」など、子どもがある程度の年齢にならないと教育できないこともあると思いますから。
わたし自身、大学生になり東京で一人暮らしを始めたばかりのころ、クレジットカードを作り、父の目が届かないのをいいことに、36回もの分割ローンを組み、10万円以上もするオーディオセットを買ったことがありました。
すると後日、わたしが一人暮らしをする部屋を訪ねてきた父が、そこに並んでいるオーディオセットを一瞥したあと、わたしの目を見据えて、こう言ったんです。「支払いの詳細がわかる書類を見せなさい」と。
その書類を見た父はさらに「あなたはまだ借金をして買い物をするほど大人じゃないよ。このローンの残りは全部お父さんが肩代わりしてあげるから、約束してほしい。もう二度とクレジットカードで買い物をしないこと。欲しいものがあったら、お金を貯めてから買うようにしなさい」と諭すように言いました。
これはまさに「目は離しても心は離さなかった」ケースだと思いますね。
いま、わたしは経営の仕事もしていますが、銀行からお金を借りる際は、かなり慎重に「いくらまで借りるか」を検討します。
大学生のときのあの経験がなければ、「お金を借りることの怖さ」を考えないまま経営者になってしまっていた可能性すらある。そう考えると、父には本当に感謝しても感謝しきれません。
――最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
七田:
前半のインタビューの冒頭で話したことの繰り返しになりますが、本書を子育てのヒントとして活用していただけたらうれしいですね。
「こういう接し方があるのか」と参考にしていただいてもいいですし、「自分の親からは、どういうふうに育ててもらっただろう?」と当時のことを思い出すためのきっかけとして使っていただいてもいい。
本書を通して、子育てにおいて自分が大切にしたいことに気づいていただけたらと思います。
(新刊JP編集部)