本書の解説
資産形成のため、あるいは給料以外の収入を確保するため、株の売買への関心は今も昔も高い。すでに始めているという人も多いはずだ。
ただ、プロではない一般の個人投資家のほとんどは「これから値上がりする(と思われる)株」を買い、上がったら売って利ザヤを稼ぐ。
方法論としては、株価が下がることで利益がでる「空売り」と呼ばれる信用取引もあるが、こちらは「リスクが高い」「素人がヘタに始めると大やけどをする」といったイメージが付きまとい、あまり手を出す人がいない。
本当に「株の空売り」は危険なのか?
「空売り」の基本的なやり方は、自己資金や手持ちの株を担保に証券会社から株を借りて売却。値下がりしたタイミング(最長でも6カ月以内)で買い戻し、証券会社に返済する。下がった分の差額から取引手数料や貸株料等を支払った残りが利益になるというもの。一見して難しそうに見えるが、「素人には無理」とむやみに遠ざけるのではなく、知識と「勝つための戦略」を手に入れることで、株売買のバリエーションが広がるはずだ。
『株の「カラ売り」で堅実に稼ぐ! 7つの最強チャートパターン』(冨田晃右著、日本実業出版社刊)は、知ってはいるがなかなか手を出せない空売りの世界を解説。勝つための方法論を授けていく。
そもそも、「空売り」はなぜ危ないと言われているのだろうか。その理由の一つは「信用取引」の性質上、手持ち資金の約3倍の取引が可能なことにある。つまりレバレッジを利かせて自己資金以上の取引ができるため、身の丈を超えた取引をしてしまいやすく、「損切り」のタイミングをまちがえると損失が大きくなりやすい。
また、空売りは株価が上昇すると損をする取引のため、一般的な株の現物取引よりも損失が大きくなりやすい点も著者の冨田氏は指摘している。現物取引の場合は株価が下がれば損をするが、どんなに下がっても「0」より下はない。一方で株価が急騰した場合は天井がないためだ。
ただ、これは本当に「空売りは危ない」ことを示すのかと言うと、必ずしもそうではないだろう。信用取引におけるレバレッジはあくまでも「利かせることもできる」という性質のものであって、自己資金の中で取引をすればいいだけの話ではある。
株価の急騰にしても「こういうときには損切りをする」というラインを決めておくことで傷口を広げずに済む。むしろこうした基準を持たないと、空売りに限らず株式の売買で利益を出すのは難しいだろう。
つまり、「空売り」も現物取引も、リスクと難しさは同じ。本当のリスクは、自分の中に行動基準を持たずに取引をすることだ。
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本書では、空売りの基礎知識や始め方はもちろん、利益を出すための戦略やリスク管理の方法を初心者にもわかりやすく解説している。そして冨田氏には、今の時代だからこそ空売りを提唱する理由がある。それを読めば、現物の買い一辺倒の株式投資から脱皮し、多彩な株売買のバリエーションを持つことの重要性が理解できるはずだ。
(新刊JP編集部)
インタビュー
安定的に稼ぎたいなら相場の流れに逆らうな
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冨田さんは今回の本の中で「カラ売り」の手法について解説されています。カラ売りには「危ない」「素人が手を出すものじゃない」というイメージが付きまといますが、こういうイメージが広まっている理由についてお考えをうかがいたいです。
冨田:誰が言い出したのか、そういうイメージが定着していますよね。カラ売りは信用取引ということでレバレッジを利かせられるため、自分の身の丈を超えた額の売買をやってしまいやすいというのは確かにあります。
また、カラ売りは「対象企業の株価が上がると損をする」という性質のものです。下がるぶんには0までですが、上は天井がありませんから、ロスカットをしないと損失がどんどん膨らんでしまう。
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なるほど。しかしそれは「カラ売りが危ない」というよりも、本人のリスク管理の問題という気がします。
冨田:おっしゃる通りで、カラ売りそのものに問題があるわけではありません。カラ売りに限らずレバレッジの高いFXなどもそうですが、それ自体が危ないわけではなくて、リスク管理がなっていないということなんです。商品や取引の種類→取引の種類や投資商品のせいにしてしまうのはちょっとおかしいと思いますね。
付け加えるならば、株価には上がることへのバイアス(偏見)があるんですよね。「株は買ったら上がるもの」という思い込みといいますか。社会や経済や個々の企業は成長していくだろうという考えを大前提的に持っている人が多い。
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カラ売りは利益を出すのが難しいというイメージもあります。投資経験が浅い人でも利益を出せるものなのでしょうか。
冨田:はい、出せます。株の売買は究極的には「株価が上がるか下がるかを当てるゲーム」です。「買い」では、これから値上がりすると思う株を買って、カラ売りでは値下がりすると思う株にカラ売りを仕掛けるというだけの話で、カラ売りが現物株の買い取引よりも難しいということはありません。
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先ほどおっしゃっていた「バイアス」なのでしょうが、なんとなく「上がる銘柄」を予想する方が「下がる銘柄」を予想するより簡単な気がしてしまいます。
冨田:年配の方に多いのですが、高度経済成長からバブル経済へと日本経済が右肩上がりだった時期のイメージが強いんでしょうね。国や社会がそういう風に刷り込んでいるということも言えるのですが。株は結局上がるものだと・・・
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おっしゃるように「カラ売りも株の現物取引もリスクの度合いは変わらない」ということであれば、冨田さんがこの本でカラ売りを提唱されているのはなぜなのでしょうか。
冨田:一般的に株の売買をする方は、個々の銘柄の中からいいと思ったものを買うわけです。それは決してまちがったことではないのですが、もっと大きな株式市場全体の流れを見て、そこに乗っていかないと継続的に利益を出すことは難しいということをお伝えしたかったんです。
日本には日経平均株価やTOPIXといった市場全体の動向を表す指標がありますが、これが上がってくると、個々の銘柄も引っぱられて上がります。逆に下がっている時は自分が選んだ銘柄がどんなに良かったとしても下がりやすいんです。これがわかっていない人が案外多いんですね。
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確かに、買うべき銘柄だけに目が行ってしまいがちかもしれません。
冨田:株の相場には上げ下げのサイクルがあって、何年間かは上がって、その後何年間かは下がるというのを繰り返しています。私は「10年~12年でひとサイクル」と考えていて、相場の天井から天井までが10年から12年、底から底もそのくらいだと考えています。
それを踏まえると、2008年リーマンショックで暴落する直前の2007年の天井から数えて12年目です。そういう時期的なことからしても、今の上げ相場がそのまま続くとは考えにくい。もちろん明日からすぐに下がるという話ではないですが、ずっと上がり続けるはずはないので、相場全体が下がり始めた時のことも考えて、カラ売りの方法を今のうちに学んでおくと、いざという時にうまくいきやすいですよ、ということで今回の本を書いたんです。
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下げ局面の時でも株価が上がる会社はありますが、そこに注目するのは賢明な選択ではないということでしょうか。
冨田:はい、相場全体の流れに逆行しているという意味ではいい選択ではないと思います。もちろん上がる銘柄がわかるなら買うべきですが、そうはいきません。例えばですが、仮に上げ相場の時に100銘柄中50銘柄上がるとしたら、下げ相場の時にはそれが10銘柄くらいになったりします。そのくらい個々の銘柄は、全体の流れに引っぱられるのです。下げ局面の時に買いで入るなら、相当いい銘柄を見つけないと難しいと思います。
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相場全体が下がっている時は、その流れに乗って、株価が下がると利益が出る「カラ売り」をする方が、利益が出やすいということですね。
冨田:そうです。相場全体が上昇時であれば、銘柄選択で少々下手なことをしても放っておいたら株価が上がって利益が出るということも起こるのですが、下げ局面ではなかなかそうはいきません。だから、下げ局面に合わせた株売買のスキルを身に付けた方が、継続的に利益を出しやすいと考えています。
副業投資家は会社の業績を見るべきではない その理由とは?
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冨田さんは個々の企業の業績は見ずにもっぱら株価チャートや数字指標だけを見て株の売買をされていると聞きました。この方法は一般的なのでしょうか。
冨田:株価チャートについては、欧米と比べて日本ではまだまだ遅れているところがあり、一般の個人投資家にはなかなか理解されにくく広まってないと思います。確かにだんだんとそういった人は増えては来ていますが、ただチャート「だけ」で判断するっていう人はまだ少ないかもしれませんね。
日本にも昔から「酒田五法」など「ろうそく足」を使った手法をはじめとして、チャートを見て売買の判断をするような日本独自の方法があるにはあるのですが、日本人の性に合わないのか、業績とか何をやっている会社なのかっていうところで売買の判断をする人がメインだと思います。
ただ、チャート分析は一般の投資家でもプロの投資家とほぼ同じツールが手に入るんですね。一方で業績など企業についての情報はどうしてもプロと一般の投資家では格差ができてしまう。この点も私がチャートを見て売買の判断をすることをおすすめしている理由です。
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株の売買をするにあたって、会社の業績はどの程度織り込んでおくべきなのでしょうか?それともまったく不要なのですか?
冨田:業績がよければ株価は上がりやすいし、悪いと下がりやすいというのは事実なので、業績は無視していいという言い方は乱暴かもしれませんが、少なくとも私はたとえば決算報告書のような、業績を示す資料はまったく見ていません。株価チャートの形を追いかけて、値動きの兆候(上がる形や下がる形)が株式市場に転がっていたらそれを取りに行くというスタイルです。
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ということは、値が動く際のチャートパターンを前もって覚えておけば、チャートを見ての売買判断はある程度機械的にできるということですか?
冨田:はい、形やパターンさえ覚えれば可能です。チャートを見て売買するやり方は色々あるのですが、今回の本ではチャートを見て、臨機応変に値動きを分析するのではなく、チャートパターンを株式市場から選別する方法を解説しています。
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冨田さんご自身も株の売買をされていると思いますが、チャートの形を見て判断をするなかで迷う時というのは、どんなことで悩んでいるのでしょうか。
冨田:正直に言えば、迷うことはないんです。というよりは、迷っている場合は動きません。
市場にたくさん銘柄があるなかでチャートを見て売買をしているわけですが、自分の頭の中に理想とする値動きの兆候(チャートパターン)があり、それが見つかったら売買をする。見つからなかったらやらないということです。
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テクニカル分析のメリットはどんな点にあるのでしょうか。
冨田:「こうなったらカラ売りする」とか「こうなったら買う」「こうなったらロスカットする」という、自分の中のルールを決めやすいのがメリットだと思います。これは言い換えればリスク管理がしやすいということです。
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冨田さんがこの本で提唱しているやり方を実践していく場合、日々どれくらいの時間を費やす必要があるのでしょうか。会社員が副業としてやっていけるものかどうかをお聞きしたいです。
冨田:根を詰めてやる人もいれば、片手間でやる人もいるので、時間について一概には言えないのですが、少なくとも仕事の合間に株価を見る必要はありませんし、逆に見ると、株価の値動きに感情が揺さぶられ売買判断がゆがめられるので、仕事の合間には見ないでくださいと教えています。
具体的には、翌日に売買したい場合は、当日の15時から翌朝9時までに売買するチャートを探して注文を入れて、9時から15時の市場が開いている時間帯は株価は見ない。15時になったら、翌朝9時までにその注文が成立したかどうかを確認して、成立していれば、チャートをチェックしてまた注文を入れる、というサイクルです。こうすることで本業に影響が出ないようにやるのは可能です。
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ちょっと答えにくいかもしれませんが、冨田さんは株の売買でどれくらいの利益をあげていますか?
冨田:具体的な数字は言えないのですが、年間で8ケタくらいです。
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カラ売りでの利益についてもお聞きしたいです。
冨田:さっきの相場の話に戻るのですが、ここ数年は大きな流れは上げ相場だったので、カラ売りを仕掛ける場面がそもそもあまりなかったり、あるにはあるのですが少なかったり、短期勝負だったり・・・ですね。カラ売りは下げ相場でこそ利益が出るものなので。
ただ、繰り返しになりますが、上げ相場がいつまでも続くわけではありません。下げ局面に転じた時には、流れに逆らって買いに走るよりも、流れに乗ってカラ売りをした方が利益は出やすいので、今後そういう状況になった時にはカラ売りを仕掛けることが増えていくと思います。
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今回の本でどんなことを伝えたいですか?
冨田:株価チャートを使ったカラ売りの手法の本なのですが、「カラ売りは買いよりも稼げるので、今後ずっとカラ売りをやりなさい」ということを提唱しているわけではなくて、「株式相場というのは上がることもあれば下がることもある」ということをわかっていただきたい。当たり前のことなのですが、国や公的機関はこういうことはなかなか口にしません。言ったら買い手が居なくなり、もっと下がってしまうので。それもあって、相場は下がることもあり、そんな状況時には手持ちの株は売らなければならないし、株を買ってはいけないということをわかっていない人が案外多んです。
今は上昇相場中ですが、これがいつまでも続くと思っていると、天井をつかまされた時に大損をしてしまいます。この本で書いているカラ売りをやるかどうかは自由ですが、せめて来るべき下げ局面が来たら、今持っている株は売ってください。そうしないと損失を大きく膨らませ、塩漬けになってしまうので。
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最後に、株式投資に行き詰まっている人や、これから始めたいという人にメッセージをお願いいたします。
冨田:私は常々、個人で株をやる場合は「投資家」ではなくて「トレーダー」を目指してほしいと言っています。「企業価値に焦点をあてるのが投資家、株価の値動きに焦点をあてるのがトレーダー」だと私は思っていますが、ぜひ後者を目指していただきたい。
なぜかというと、企業についての踏み込んだ情報はなかなか一般の個人投資家は入手できないし、たとえ入手できたとしても、そういった情報を分析する能力もないからです。大口のプロ投資家は集団で動きますし、ものすごく頭のいい人たちが四苦八苦しながら銘柄を選択している世界です。同じことを一般の人ができるかというと難しいでしょう。少なくとも、私にはできませんでした。
だから私は株価の動き自体に焦点をあてるトレーダーの道に入ったんです。株価チャートを勉強して、トレードを始めてみたらうまくいったんです。現在は自分自身がトレードをしつつ、そのノウハウを個人トレーダー志望の方々に教えています。チャートを見て売買を判断するのであれば、大口のプロと個人の間には、少なくとも使うツールに関してはほとんど差はありません。そして、そのツールを使えば、個人レベルでも長期的継続的に利益を上げていけると思っていますので、株式投資ではなく、ぜひトレードにチャレンジしていただきたいですね。