『ファーストクラスに乗る人の発想―今が楽しくなる57の具体例』
- 著者: 中谷 彰宏
- 出版社: きずな出版
- 定価: 1,400円+税
- ISBN-10: 4907072678
- ISBN-13: 978-4907072674
『ファーストクラスに乗る人の発想―今が楽しくなる57の具体例』著者 中谷彰宏さん
出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!
第83回のゲストは、実に1000冊目の著作
『ファーストクラスに乗る人の発想―今が楽しくなる57の具体例』
(きずな出版)を刊行した中谷彰宏さんです。
中谷さんといえば、スマートかつ鋭い言葉で読者を鼓舞する作家であるとともに、俳優やコメンテーターとしても活躍する才人。就職活動の時に『面接の達人』にお世話になった人は多いかもしれません。
なぜそんなに多才なのか?そしてなぜこれほどまで多作なのか?
その才能の原点に迫るインタビューです。
interview index
著作が1000冊を突破!今の心境は……
―― 中谷さんの著作の多さはかねてから知られているところですが、そのテーマは多岐にわたります。その中で「人の魅力」に関する本を初期の頃から書き続けていらっしゃるかと思うのですが、たとえば「一流の人」や「いい女」の条件というのは、中谷さんが本を書き始めた頃と比べて変化はありますか?
中谷:
「人がどう生きるか」とか「人の魅力」というのは今年来年で変わるものじゃないですね。
ビジネスは「今年はどうするか」とか「10年先はどうなっているか」とか短いスパンで考えますけど、人の魅力を決めるのは「文化」であって、文化の最低単位は1000年です。そんなにすぐ変わるものではないですよ。
―― 7月に発売された『ファーストクラスに乗る人の発想―今が楽しくなる57の具体例』で、ついに中谷さんの著作数は1000冊を突破しました。とてつもない数だと思うのですが、一つの区切りとしてどんな感想をお持ちですか?
中谷: 自然界に区切りというものは存在しません。だから、自分の中に1000冊でひと区切りという感覚もない。
―― 申請すればギネス記録になるのではないかと思うのですが……。
中谷: 僕は冊数を目標にしてきたわけではありません。
―― 長年コンスタントに、しかもハイペースで本を出し続けるというのは大変なことだと思います。普段は基本的に原稿を書く生活なのでしょうか。
中谷:
僕は自宅のイスがパソコンの前にしかないんです。自宅にはそこしか居場所がないから、パソコンの前のイスに座って原稿を書いているか何か本を読んでいるかです。
仕事は朝型ですか夜型ですか、ってよく聞かれるんですけど、そんなことを言っていたら間に合わないですね。
博報堂で学んだこと、今も役立っていること
―― 中谷さんといえば、かつては博報堂でCMプランナーとして活躍していたことが知られています。当時手がけた有名なCMがありましたら教えてください。
中谷:
リクルートを担当していたので、リクルートのCMには携わりました。
ただ、テレビCMってかかわる人が大勢いて、みんなに役割があるんですよ。
「あのCMは俺が手掛けた」っていう人が100人いても、それはウソではないんです。
僕はラジオのCMもやっていたんだけど、こちらは録音技師さんと二人でできるから、「自分がした仕事」と言い切れます。だから僕はラジオCMのほうが好きでしたね。だけど、テレビと比べると地味だし、手間がかかる割には評価もされないし稼ぎにもならないから、他の人はしたがらないんです。それもあって、ラジオCMってほとんど制作を外注するような仕事だったんだけど、僕は外注しないで自分でやっていました。
―― やはり、みんなテレビをやりたがる。
中谷: 特に車と化粧品はしたい人が多かったですね。そのぶん、大勢で作るので、自分がかかわれる部分はどうしても小さくなってしまう。
―― 博報堂で学んだことで、今も役立っていることはありますか?
中谷:
僕は演出だとか表現にかかわることがしたくて広告代理店に入ったのですが、たまたま直属の上司がマーケティングが好きな人で、マーケティングを徹底的に勉強させられました。当時は早く表現のほうをさせてくれないかなと思っていたけれど、後にすごく役立ちましたね。
売れっ子のクリエイターって、表現の分野に強いんだと思われがちなんですけど、みんなマーケティングもバリバリできます。作家でいえば五木寛之さんもそうですし、村上龍さんも渡辺淳一さんもそうです。マーケティング的な視点があるから世の中の空気を読める。そしてなおかつ表現ができる。ちょうど僕が博報堂を辞めるころに入ってきて入れ違いだった佐藤可士和さんもそうですよね。
あとはやはり、リクルートという元気のある会社を担当できたというのは幸運でした。広告代理店の社員は複数のクライアントを同時に担当するんですけど、担当したクライアントの正社員になっていくように感じるくらい中に入り込むんです。一番鍛えられて、一番楽しかったのがリクルートでした。リクルートは若いベンチャー企業で、博報堂は老舗です。その両方を体験できたのはラッキーでしたね。まあ、こういうクライアントでいい経験ができることもあれば、悲惨なクライアントの捕虜みたいになることも鍛えられました。
―― 32歳で退職するまで、ずっと会社の忘年会の幹事をやっていたとか。
中谷: 忘年会の幹事は新入社員の仕事だから、普通なら一回すればいいんだけども、僕は二年目の時に引き継ぎも兼ねて新人のアシストをして、なんだかんだそれ以降も毎年していました。
―― みんながやりたがるテレビCMではなくてラジオCMが好きだったというお話もそうですが、人が行かない方向に行きますよね。
中谷:
そうですね。みんながしたがる仕事については「誰かがしてるから自分はいいや」という気持ちはありました。
それと、企業が大きくなって組織が固まってくると、みんながしたがらなかったり逃げてしまった結果、手つかずになった「隙間」が増えてくるんです。それがチャンスなんだと思っていました。
―― 車や化粧品のテレビCMなど、「花形」の方に行きたい気持ちはなかったんですか?
中谷:
したいと言ったからといってさせてくれるわけではないですからね。どんな仕事に当たるかというのは巡り合わせの部分が大きいです。
それって会社の仕事に限ったことではなくて、今の自分にも言えます。今公開されている『少女椿』という映画に、嵐鯉治郎という少年愛の男の役で出ているんですけど、「なんであの役を引き受けたんですか?」とよく聞かれるんですよ。答えは簡単で「依頼が来たから」です。依頼が来た役を自分なりに思い切り楽しんで演じているのです。
仕事というのは選ぶものではなくて、自分のところに来たものを最大限楽しんですることが大事です。自分のところに来た仕事をもっと面白くするために、自分から企画を考えるという発想です。これも博報堂で学んだことですね。
―― 与えられた仕事に対して「こんなこと自分にできるんだろうか?」と不安になることはありますか?
中谷: そんなことだらけです。というか、そうじゃないとダメですよ。得意なこととか、元々できることだけやっていると、人はしぼんでいきますから。
極秘ミッションにかかわったおかげでクライアントに“捕虜”に
―― 先ほど少しお話されていた、広告代理店時代の悲惨な経験の方もお聞きしたいです。
中谷:
クライアントの新商品開発にかかわってしまうと大変でした。新商品開発の情報は極秘で、そもそも新商品を開発していること自体が秘密です。だから、僕の仕事について知っているのは博報堂の中でも直属の上司だけだったんです。
となると、会社のなかで「おまえ、仕事してないな」となる。冗談じゃないですよ、めちゃくちゃ働いているのに。だけど、それに対して反論もできないわけです、何しろ秘密だから。新商品開発って10年かかることも珍しくないので、その間はこの状態がずっとこの状態が続くんです。
そうしているうちに、唯一僕の仕事のことを知っていた上司がいなくなってしまうこともあるんですよ。そうなると本格的に捕虜です。新商品開発は、商品を作りながらCMも平行して作るので、試作品がテストでダメになるとCMもボツ。それで最初からやり直していたら、今度はクライアントの担当者が代わって、前の担当者と同じ仕事はしたくないと言い出した。それでまた一からやり直しです。結局世に出ないものを延々と作り続けることになるわけです。これは僕だけではなくて、同じような人が大勢いたはずですよ。
―― それはきつい……。
中谷: 世に出ないといっても、海外ロケをしたりして大掛かりにCMを作るんですが、こちらもオンエアされないことはわかっているわけです。でもそんなのは空しいから、ちょっと社内遊泳がうまい人は逃げてしまう。だから一番下っ端に回ってくるんです。
―― 博報堂を退職されたきっかけは何だったんですか?
中谷:
僕は映画監督になりたかったので、映像の勉強をするために博報堂に入ったんです。だから、そもそも入った時からいずれは独立するつもりでした。
入ってみたらマーケティングをさせられたり得意先の交渉をさせられたりで、なかなか希望通りにはいかなかったんだけれど、独立するまでは我慢しようと思っていました。
初めて会社に辞めたいと言ったのは28歳の時でした。でも、会社ってなかなか辞めさせてくれないんですよ。当時の上司が優しい人でその優しさに負けて辞めることができなかったというのもあったのですが、辞めさせてほしいということはそれ以降も度々言っていました。
本当に辞めることができたのは、大きな組織替えがあって新しい上司がきたのがきっかけになりました。「俺の奴隷になるかクビになるか、どっちか選べ」と言うんですけど、こっちとしては「待ってました」です。
―― 著述業をやりたくて独立したわけではなかったんですね。
中谷:
今も自分が「作家」だという認識がないんですよ。病院に行く時は問診票の職業欄に「作家」と書きますけど、二文字で済むからそうしているだけ。
「自分の職業は○○だ」と決めるのではなくて、したいことをして、その結果世の中が自分をどんな職業にカテゴライズするのかはお任せします、という感じですね。
本を書き始めた頃、テレビに出る機会があって、その時に肩書が必要だと言われたんです。僕は「肩書はなくていいです」と答えたんですが、それだと紹介をする時に困るから、なんでもいいので肩書が欲しい、と。なんでもいいなら、ということで僕が「“壺作り”でお願いします」と答えて、それが実際に番組で使われた記憶があります。
―― 中谷さんが人生に影響を受けた本がありましたら、三冊ほどご紹介いただければと思います。
中谷:
まず、石原慎太郎さんの『スパルタ教育』です。これは子どもの時に読んだんですよね。自分は子どもで「教育される側」なのに。
その中に「父親は夭逝すべきである」って書いてある箇所があるんですよ。つまり父親が早くに死んだほうが子どもは強く育つと。僕はそこを読んで「なるほど」と思ったので線を引いたんだけれども、それを後で親が借りて読んだ。
二冊目は『孫子の兵法』にします。中学生くらいの時はこういう本にドキドキしていました。「やっぱり革命家にならないといけないな」と思ったりして。
最後は漫画で、本宮ひろ志さんの『男一匹ガキ大将』です。主人公の戸川万吉の何がすごいって、彼本人は別に子分なんかいらないんだけど、何百人、何千人もの子分を従えた不良少年のボスが彼の子分になるから、結果的にものすごい数の子分ができてしまう。「このやり方だな」と思いました。一人ひとり子分を集めていたらなかなか数は増えないですからね。
―― 最後になりますが、今後の活動について抱負をいただければと思います。
中谷:
『少女椿』にしても「あんな役もするんですか?」と担当編集者が驚いていました。今後も「中谷彰宏は何をするかわからない」と思われる感じでやっていきたいと思っています。
いつも(所属しているプロダクションの)マネージャーさんには「みんなが断った仕事があったら、僕がするから持ってきて」と言っているんです。そういうものが僕の仕事になるという感覚はありますね。
取材後記
お話の面白さに、語り口のスマートさに、そしてそのたたずまいにひき込まれっぱなしの取材でした。ご本人は1000冊目の著作を「区切り」とは考えていませんでしたが、こちらとしてはやはり「お祝い」を言いたくなります。
これからも、読者をハッとさせたり、気づきや学びを与えてくれる中谷さんの本を楽しみにしています。
このたびは本当におめでとうございます!
(インタビュー・記事/山田洋介)
中谷彰宏さんが選ぶ3冊
- 『スパルタ教育』
- 著者: 石原慎太郎
- 出版社: 光文社
- ISBN-10: 4334050018
- ISBN-13: 978-4334050016
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- 『新訂 孫子 (岩波文庫)』
- 著者: 金谷 治 (翻訳)
- 出版社: 岩波書店
- ISBN-10: 4003320719
- ISBN-13: 978-4003320716
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- 『男一匹ガキ大将』
- 著者: 本宮 ひろ志
- 出版社: 集英社
- ISBN-10: 4086170116
- ISBN-13: 978-4086170116
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プロフィール
■ 中谷彰宏さん
1978年 大阪府立三国丘高校卒業
1984年 早稲田大学第一文学部演劇科卒業
1984年 博報堂入社。CMプランナーとしてTV、ラジオCMの企画・演出、 ナレーションを担当
1991年 独立し、株式会社 中谷彰宏事務所を設立
2008年 【中谷塾】を主宰し、全国でセミナー、ワークショップ活動を行う(著者サイトより)