本書の解説
自分が本当にしたい相続をするために 相続税対策を誰に相談すべき?
2018年7月に相続に関する民法(相続法)が約40年ぶりに改正され、2019年から2020年にかけて順次施行されることを知っているだろうか。
時代が進み、超高齢社会の到来や遺産相続の課題やトラブルが増加。こうした背景を受けて、今の社会に即した法律へと改正されるのだ。
その主な改正内容をあげると、例えば下記のようなものがある。
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・介護に寄与した金銭を請求できる
→亡くなった人を介護した相続人以外の親族が、相続人に金銭を請求できるようになる
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・自筆証書遺言が作りやすくなった
→自筆の遺言書は遺言者が自分で書くことが要件だったが、不動産や預貯金の財産目録をパソコンで作成しても認められるようになる
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・預金の仮払い制度
→これまでは亡くなった人の預金口座は凍結され、相続人全員の合意がないと下ろせなくなるため、葬儀費用や諸手続きの支払いに窮する家庭も多かったが、預貯金の3分の1については、各相続人は法定相続分まで単独で払い戻しを請求できるようになる
他にも「特別受益の範囲が決められた」「遺留分は現金で支払うことに限定」など、相続に関してきわめて重要な項目が改正されるのが今回の民法改正だ。
そんな相続に関する民法改正の具体的な内容をはじめ、生前からできる相続税節税の方法などを伝授してくれるのが『結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術』(曽根惠子、保手浜洋介著、総合法令出版刊)という本。
そして、本書では、金銭面だけでなく、感情面も大きく揺れてしまう「相続」だからこそ、そのアドバイザーとして相続コンサルタントに頼るのも手だとしている。
経済面・感情面の課題を、カウンセリングを通して見つける「専門家」
なぜコンサルタントに相続のアドバイスをお願いすべきなのか。
特に資産家といわれる人たちは相続においても大きな額が動き、不動産を多く持っているケースもままある。また、法定相続人の間でこじれが発生してしまうこともあるだろう。そうした経済面・感情面の課題を、カウンセリングを通して見つけるのがコンサルタントの役目だ。
著者が「自分の所有する財産の評価額や相続税額を知らない方が多い」「相続税がかかると困ると気にされている方でも、その他の課題には意識が及んでいないのが現状」と指摘するように、「何が課題なのか」を明確していけば、生前からできる節税対策も亡くなった後の節税対策も打つ手が増えてくる。
さらに、今回のような相続法改正にも対応したアドバイスを受け取ることができるだろう。考えることが何かと多い相続の心強いアドバイザーとしてコンサルタントに依頼をすることで、自分が本当にしたい相続を進めることができるようになるのだ。
「不動産」がトラブルの元に! 考えておきたい相続対策の相談先
『結果に差がつく相続力 相続税を減らすコンサルタント活用術』では豊富な実例を通して、生前からしておくべき相続対策をコンパクトにまとめた一冊である。
これまで相続で相談する人といえば弁護士、税理士、信託銀行があげられてきたが、著者はいずれも不動産の専門家ではないと指摘した上で、「相続では不動産の知識がないと節税もできずにトラブルのもとを作ることになりかねません」と警鐘を鳴らす。
特に不動産を保有している富裕層は少なくないだろう。自分が死んで家族がもめないようにするためにも、相談する先をきちんと考えておく必要がありそうだ。
(新刊JP編集部)
インタビュー
円満に対策をしたいなら「生前対策」に力を入れるべき
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これまでの相続税対策の本というと税理士や弁護士が執筆しているというイメージがありました。共著者である保手浜さんは税理士の資格をお持ちですが、曽根さんは不動産コンサルティングマスターの資格をお持ちのコンサルタントです。相続におけるコンサルタントの仕事について教えて下さい。
曽根:まず相続というと節税対策、そして財産分配の問題が強いというイメージがあるかと思いますが、私たちは経済面だけではなくて感情面も大事だと思っています。ご家族内で争わないように円満に手続きをしていただくために、感情面と経済面双方から対策をサポートするというのが相続コンサルタントの仕事です。私たちは「相続コーディネート」と言っていますね。
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曽根さんはこのお仕事をいつ頃始められたのですか?
曽根:平成のはじめ頃ですね。30年近く前です。平成4年がスタートなのですが、当時、不動産の賃貸管理の会社を経営していまして、大家さんとお付き合いがあったんです。ある時、とある大家さんが亡くなってしまったのですが、その方は約1000坪の土地を持っていて、5億円ほどの財産をお持ちだったんですね。
そこで相続の手続きを税理士さんにお願いしたのですが、不動産のことは分からないとなりまして、管理会社の立場としてお手伝いをさせていただきました。その時に不動産をお持ち方は、不動産の知識がある人が相続のサポートをする必要があると感じたんですね。
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なるほど。
曽根:特に資産家の方になりますと財産の7割が不動産であるとも言われていました。ノウハウを蓄積し、それを元にサポートしなければうまく相続できないということに気づいてこの仕事を始めたんです。
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平成4年ですとバブル崩壊の真っただ中ですよね。バブル景気の影響もありましたか?
曽根:バブルの影響というよりも、農家の方ですとか土地を持っている方のお手伝いがスタートです。もともと土地を持っていて、こんなに高い価値になるとは思っていなかった、と。いざ相続になった際に「こんなに税金を払うのか」という方々です。
数百坪の土地を持っていらっしゃるけれど現金はあまりないという方も多かったのですが、当然相続の際には土地を売って納税しないといけない。だから相続の節税のアドバイスが必要だったんですね。
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本書では生前対策についても書かれています。
曽根:はい。実はその後、被相続人が亡くなってからでは節税でできることが少ないと気づきまして、生前対策に力を入れるべきだろうと。何も対策をせずに亡くなられて、ご家族がもめる様子もたくさん見てきましたが、経済面と感情面双方で生前に準備できれば、ご家族がもめることはないんですよね。
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コンサルタントは課題解決のサポートが仕事ですが、相続におけるコンサルタントの強みと弱みについて教えていただけますか?
曽根:私自身の話を申し上げますと、現在は不動産の専門家としての立場でアドバイスをさせていただいています。宅地建物取引士の上位資格として公認不動産コンサルティングマスターという認定試験があり、その中に不動産分野の資産継承のスペシャリストである相続対策専門士という認定資格があります。その資格は平成5年度にスタートしていますが、当時から私はその資格の上で活動をしているんですね。
ただ、まだ認知度は低いというのが弱みですね。税理士さんや弁護士さんは立場が明確ですから、相談先としても分かりやすい。でも、人によっては財産の多くの割合を占める不動産の専門家の役割は大きいと思います。
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相続対策をサポートされる際は、被相続人と相続人どちらの方とお話することが多いのですか?
曽根:亡くなる方よりも遺された方々とお会いすることが多いです。
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生前対策の場合はいかがですか?
曽根:その場合はご家族全員に集まっていただきます。私たちが相続の相談を受ける際に一番多いトラブルは家族内でもめていることなんです。その理由を分析してみると、だいたいコミュニケーションができていない。財産の情報がオープンになっていない。それを防止する最大の手段は、元気なうちから被相続人が財産の状況や自分の気持ちをご家族の前でオープンにしてもらい、コミュニケーションを取って進めていくことなんですね。その上で、ご家族全員合意の上で遺言書までつくれば確実にもめません。
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つまり、準備が万全と。
曽根:これでようやく円満に相続の手続きができます。だから、相続について話し合える雰囲気に持っていくことも私たちのサポートの一つです。今まではお金のことについてあまり話ができないような風潮がありましたから、意外と家族に伝えていないんです。遺言書もこっそり作っておくとか。
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遺言書があるだけまだ良いのではないですか?
曽根:そうなのですが、逆にその「こっそり」というのがもめる原因になるんです。納得いかないと。また、遺言書の内容を知っていた人と知らなかった人がいたときの温度差ももめる原因ですね。
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確かに気持ちを逆なでする可能性がありますね。
曽根:だから、遺言書も相続もオープンにしましょうということが私たちのメッセージです。ただ、ご家族自らそういう意識になるというのは難しいと思うので、サポートする立場のコンサルタントが円満な相続に導いていく役割を果たしていくという形ですね。
2018年民法改正で気をつけるべき項目とは?
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本書では不動産を活用した節税について解説されていますが、なぜ不動産が相続税対策に効果的なんですか?
曽根:不動産にするとその際の「評価」で納税額が決まるので、評価額を減らすことができれば節税対策になります。
例えば現金1億円ならば、相続時にも価値はそのままですから節税にはなりません。でも、現金1億円で一棟マンションを購入すると、土地は約64%、建物は約28%の評価となります。つまり、それぞれ5000万円で土地は約3200万円、建物は約1400万円となるんですね。それを合わせると約4600万円。評価額は約46%と半分以下になります。もちろん、路線価の時価や借地権などによっても変わってきますが、だいたいそのような計算になります。
また、分譲マンションの1室ですと、時価1億円のタワーマンションの1室を購入した場合、2419万円、約25%の評価となった実例があります。タワーマンションは節税効果が高いという話はそういう理屈なんですね。
これらの計算は、本書で図表にして説明をしていますので、ぜひそちらを参考にしていただきたいのですが、現金でもっているよりも不動産の方が評価は下がり、節税に効果的と言えるんです。
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その不動産は賃貸物件にすると。
曽根:そうですね。賃貸不動産にすれば家賃収入を得られますし、自宅として使うのであれば、「小規模宅地等の特例」という大幅に評価額が減る特例を使うことで節税になります。
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ただ、家賃収入を見込むにしても不動産の選び方は注意が必要そうですね。
曽根:そうですね。収支のバランスがちゃんと取れるのかは見定めないといけません。特に賃貸はスタートが肝心ですから、住居の需要があるエリアに建てるなどの「見る目」は必要になってきます。
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まさに不動産投資的な視点ですね。
曽根:そうです。節税で終わりではなく不動産賃貸事業として考えるべきで、不動産にするからには20年、30年と継続できないことには本末転倒です。その見極めは必要でしょうね。
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例えば40年、50年前に建てられて、もうかなり古くなって住み手もつきにくいという物件もあると思います。
曽根:確かにずっと不動産を持ち続けないといけないことが一つのリスクになっていますよね。もし若い頃に建てたアパートが、自分が70代、80代になって次の世代を考えた時、売却をして別の不動産を建てるとか、資産組み替えをしていく必要はあるはずです。ただ、地主さんの多くは自身が持っているものを自分世代では持ちこたえさせて、次に渡そうと思われています。
空き地のまま渡すにしても、急に空き地を渡されても税金だけかかって利用できないし、困るというお子さんもいらっしゃいます。やはり相続人であるご家族が負担のない状況で渡したいですよね。
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都市部ではなんとかなるにしても、地方、特に農村地では「こんな何もない土地を相続されても」ということが起きていると聞いたことがあります。
曽根:最近ご相談いただいた70歳の方も、息子が2人いらっしゃるのですが、自分の親の土地から離れて暮らしているために愛着もないので、土地を売って処分をして現金に換えてそのまま贈与するか、別の不動産を都心に購入するかという話をしました。次の世代に負担がないような形をつくるためには、思い切りが大事ですね。
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最近週刊誌で「終活」の特集をよく見ますが、「終活」ブームの影響で相続の相談件数が増えたというのはありますか?
曽根:「終活」ブームというよりは、平成27年の相続税増税がインパクトありましたね。あの時、一斉にテレビや雑誌で特集が組まれて、それを機にご相談に来られる方が増えました。特に増えたように感じられるのは生前対策の相談で、今では生前対策と亡くなられたあとの節税対策の相談数は半々くらいです。
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では、このお仕事を始めてから約30年、近年特に増えていると思うトラブルはありますか?
曽根:ご家族によってトラブルの内容も異なりますが、以前に比べて主張される方は増えてきましたね。法律のことを勉強なさって、法定割合分もらえる権利があるとおっしゃったり。
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そういえば、2018年の民法改正で、亡くなられた被相続人の介護をしていた相続人以外の親族も金銭を請求できるようになりました。これは大きい変更ではないかと思います。
曽根:特別寄与料が請求できるようになりましたよね。今まではもめるポイントの一つでした。同居していた長男夫婦が介護をしていて他の兄弟は何もしていなかったのに、相続となったらそのお姉さんが「4人兄弟だから4等分ね」と言われ、もう喧嘩ですよ。私たちが間に入ってなんとか場を落ち着かせましたが、一番理不尽な想いをされていたのは長男のお嫁さんだと思います。
それが、今後は特別寄与料という形で払われることになりました。これは良いことだと思うのですが、それでも感情面のこじれというのは残ると思います。権利があるからといって堂々と請求するのか、と思う相続人もいらっしゃるでしょう。
そうした意味でも介護をスタートするときから、介護を引き受けるのであればどのくらい特別寄与料を払うのかということを家族内でルール決めすることが大事です。そのために、私たちは「介護ノート」というスマホで記録できる情報共有のツールを作っています。そこで介護の記録をつけてご家族で情報共有していただこうと。
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確かに介護の大変さは実際にやっている人でないと実感できませんからね。
曽根:そうですね。どんなことが起きているのかは見えませんから。
でも、一番の理想は被相続人がちゃんと遺言に介護してくれる人にもお金を相続すると決めて遺言書に盛り込むことですね。
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もう一つ、2018年の民法改正の中で他に覚えておくべきポイントがあれば教えて下さい。
曽根:「配偶者居住権」が創設されましたが、これは扱いが難しいんです。今まではこれまで住んできた家について「所有権」だけがありましたが、その家を配偶者とは別の人が相続しても、配偶者はそのまま無償で住むことができる権利です。
これまでは配偶者が所有権を取るというのが定番でしたが、相続の際に不動産を売却しないと子どもに相続の取り分がねん出できないというケースもありました。でもこの「配偶者居住権」を選択することで、現金を相続できるケースが増えるわけです。
しかし、配偶者居住権をどんどん活用すべきかというとそうではありません。例えば定年退職前に夫が亡くなった場合、所有権が子どもに移っていると「老後の資金として家を売ろう」としてもできないんです。また、子どもの同意を得て家を売ってもそれは子どものお金になります。
配偶者居住権を選んでいい人は、子どもと同居していて、最後までその家で暮らそうと決めている人ですね。また、亡くなった夫の先妻に子どもがいて、その家をその子どもに戻さないといけないというとき。その2つのパターンかなと思います。いずれにしてもこの選択は難しいので、専門家に相談すべきです。
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具体的に何歳頃から相続の準備をすべきですか?
曽根:私たちは遺言の証人業務も受けていますが、やはり70代が一番多いです。まだお元気で意思がはっきりしているので、その辺りから始めるのも良いと思います。
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『結果に差がつく相続力』をどのような方に読んでほしいですか?
曽根:本書は主に資産家向けに書いています。不動産をたくさん持っているなど、節税対策が必要な方にはぜひ読んでいただきたいですね。
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具体的にいくらくらいの資産を持っている方でしょうか。
曽根:2億円以上の財産を持っている人は対策が必要です。不動産をお持ちの方。現金を多く残している方に読んで頂ければと思います。