最高に「生きがい」のある仕事
著者:石田 行司
出版:幻冬舎
価格:800円+税
著者:石田 行司
出版:幻冬舎
価格:800円+税
「人生100年時代」といわれるようになり、同時に定年が延びて仕事をする期間が長くなっている今、「仕事をいかにやりがいと喜びを感じられるものにするか」は人生そのものの充実度をこれまで以上に左右するようになっている。
ただ、仕事にやりがいや喜びを感じている人は、決して多くはないのが実情のようだ。リクルートキャリアが2013年から2019年に行った調査によると、働くうえで「働く喜び」が必要だと感じている人が8割を超えている一方で、「働く喜び」を感じている人は4割程度にとどまっている。求めてはいるが、なかなか手に入らないというのが仕事におけるやりがいや充実感の実態なのだろう。
では、どうすれば仕事をやりがいのあるものにできるのか。医療、介護、看護を含めたトータルヘルスケア事業を展開するニューロンネットワーク株式会社代表取締役の石田行司さんが、自身の半生を振り返りつつ、仕事における「やりがい」や「喜び」について考察する『最高に「生きがい」のある仕事』(石田行司著、幻冬舎刊)は、それを考える上で役立つ一冊だ。
石田さんが医療業界に入り、製薬会社のMRとしてキャリアをスタートさせたのは、仕事を通じて「人の役に立ちたい」という気持ちが強かったからだ。
MRとは医療機関向けに自社の製品を案内し、治療につかってもらうよう働きかける仕事。わかりやすく言えば、医薬品などの営業職である。
この仕事で大事なのは、普段から顧客となる総合病院やクリニックを訪問して、医師とコミュニケーションをとっておくこと。だから、石田さんは誰よりもまめに客先を訪問し、医師に顔を覚えてもらうことにした。「営業は自分を売れ」という営業職の鉄則を実践したのだ。
すると、効果はてきめんだった。1年目の成績は新人の中でトップ。仕事を覚えた2年目はさらに成績を伸ばすことができた。しかし、転機は3年目に訪れた。営業成績がまったく伸びなくなってしまったのだ。
初めておとずれたスランプに、どう対処していいかわからなかったという石田さんだったが、苦心の末に、ライバル会社で「伝説のMR」と呼ばれていた優秀なMRにアドバイスを仰ぐことにした。
その人物は、競合企業の若手からの申し出を断ることなく「僕は当たり前のことを当たり前にやっているだけなんだよ」とアドバイスしたというが、石田さんには抽象的すぎてよくわからなかったそう。それもあってその人物の一挙手一投足をよく観察することにした石田さんには、「当たり前のことを当たり前にやる」の意味が徐々につかめてきた。
その人物は、客先が「こういう対応をしてくれたらありがたい」ということを、とことん追求し、実行していたという。医師から「あったら助かる」と言われた資料はその場で手配し、医療機関が忙しい時間帯ではなく、朝一番や夜の遅い時間、昼休みに訪問して、その分ゆっくりとコミュニケーションをとる。医師一人ひとりの家族構成や好みをインプットして、有益な話題を提供するなどである。
自社の製品を売るだけなら、ここまでする必要はないのかもしれない。しかし、その人物はそこまでを「当たり前」にやることで、相手を喜ばせ、感謝され、それが結果として営業成績に結びついていた。「人の役に立ちたい」という初心から離れ、いつしか自分の営業成績のために仕事をするようになっていた石田さんにとって、この気づきはその後の仕事人生に大きな影響を及ぼすターニングポイントになったようだ。
◇
もし、石田さんがそのまま自分の営業成績だけを追うMRとして働いていたら、仕事に本当の意味でやりがいや喜びを感じることはなかったかもしれない。この体験を経て「顧客のため」「患者の利益」という視点を獲得した、石田さんは、その後のキャリアを通じて「生きがいとしての仕事」「仕事の喜び」を突き詰めていくことになる。
仕事のやりがいも喜びも、その人それぞれであり、一言で言い表せるものではない。ただ、顧客や消費者、あるいは自社の従業員のことを考え抜いて、行動にうつし、それが結果となって返ってきた時に、一番の喜びを得ることができるのは、どんな仕事でも同じなのかもしれない。
人生の長いパートナーになる「仕事」について、深く考えさせてくれる一冊である。
(新刊JP編集部)
■「プライベート」と「仕事」、そもそも分けられるものなのか?
石田: 実は私は去年心筋梗塞を発症しまして、「死」というものがこんなに近くにあるのかと自覚するような体験をしたんです。その経験をしたことで、自分の子どもたちが成人して働き始めた時にアドバイスしてあげられなくなるかもしれないと思いまして、本にまとめようと考えました。
それとは別に、独立志望の若いビジネスパーソンや中間管理職で悩んでいる方々の相談もよく受けるので、そういう方々にとって少しでも学びになればいいなという気持ちもあります。
仕事というものが、単純に「ご飯を食べるお金を稼ぐためのツール」ではなくて、趣味やライフワークのように思えれば、あるいはそう思い込めれば、もっと人生は楽しくなるよということを伝えたいです。
石田: 自分が最終的に目指しているところまではまだまだ道半ばなのですが、その時点でやれることは全部やった、という思いはありました。道半ばなりに節目ごとに対する充実感はあったので、心筋梗塞で神様のお迎えが来るならば、それは自分の天命なのだとは思えましたね。
石田: 私はそこまできっちり分けるのは難しいんじゃないかと思うんですよね。というのも、誰にでも死生観はあって、それは仕事だとかプライベートというのを超えたものです。たとえば私は、死ぬ時にそれまで出会った人から「あなたに会えてよかった」と言われて死にたい。家族にも言われたいですし、仕事上の付き合いがあった人にも言われたいんです。そういう死生観と照らし合わせると、公私を分けることって、あまり意味がないような気がしています。
もっと一般的なところでいっても、プライベートで遊んでいる時に仕事のことが頭をよぎることはあるでしょうし、仕事をしながら晩御飯について考えることもあるでしょう。厳密に分けようと思っても、それはなかなか難しいですよ。仕事だとかプライベートだとか考えずに、自分の死生観、人生観と照らし合わせて「最終的にどう生きたい」という考えに従って生きる方が、シンプルで楽だと思います。
石田: 人は何のために働くかというと「夢」と「やりがい」と「お金」です。働くことが夢の実現にかかわることなら、そこにやりがいは生まれますし、働くことで誰かから感謝されれば、それはいずれお金になります。自分の人生という大きな枠組みで考えて、この三つのベクトルが揃っていることが理想なんだと思います。
石田: そんなことはないです。最初はやはりサラリーマンとしてまずはお金を稼ぎたいと思っていましたし、会社の仕事で「こんなことやってられないよ」とか「もう辞めたるわ」とか思っていましたね。仕事とプライベートも、当時は分けて考えていたような気がします。
石田: 娘が重度の障がいを持って生まれたことが転機でしたね。それまではMRとして医療業界の中にいながら、障がいを持つ子どもを授かるなんて、どこか他人事だったんです。
自分の娘がいざそうやって生まれたことで、世の中の理不尽さや辛さ、厳しさを感じましたし、一方ですごくありがたい出会いに恵まれたりもしましたのですが、この体験を通して「障がいのある娘が幸せに過ごせるような街を作りたい」と思うようになったんです。
そうなると、自分の仕事と夢がリンクするんですよ。それが転換点でした。
石田: そうです。たとえば、たまに障がいのある方が車を停める時の「駐車禁止等除外標章」が置いてある車があるじゃないですか。あれは警察署に行ってもらうものなのですが、多くの人はそれを知りません。
私がやっているのは調剤薬局のチェーンなのですが、ただ薬を渡すだけではなくて、税制の優遇とか助成金の申請はどこで、障がい者福祉の申請はどこで、小児科のいいリハビリセンターはどこでといったことを、薬局に来れば全部わかるようにしたら、障がいを持った方々はもちろん、そうでない人ももっと暮らしやすくなるのではないかと思ってやっています。
石田: そうです。たとえば介護保険の申請にしても、市の介護福祉課の職員に紹介状を書いて手続きがスムーズにいくようにしたり、膝が痛いという方には、膝の治療に詳しい先生のいる病院を教えて、紹介状を書いて診察・治療を受ける道筋をつくってあげる、ということをやっています。
それは、さっきお話した私の死生観ともつながっていて、「目の前の患者さんが、もし自分の家族や友達だったらどうするか?」という考え方を自分だけでなく従業員にも徹底するようにしています。
今は都市機能の中に、困ったことを何でも相談できる仕組みを入れられないかということで、マンションのデベロッパーと一緒に「ライフコンシェルジュ」という仕組みを入れたマンション建設を手がけたりもしています。
■「つまらない仕事」が「生きがい」に変わるまで
石田: 自分の人生を通じた夢と、仕事のベクトルを合わせるためにどうするか、ということですよね。よく若い方にそういうことを質問されるのですが、「夢は探すものではなくて、決めるものだよ」と答えています。
「こんな風になりたい」というものでもいいですし「お金持ちになりたい」というものでもいい。夢といっても、そんなに壮大なものである必要はないのですから、自分がやりたいことや興味のあることについて一度しっかり考えてみて、そしてひとまず「これをやろう」と決めてみる。そうすると、そこまで到達するために何が必要なのか見えますから、今やるべきこともわかるのではないでしょうか。
石田: 端的にいえば数字です。MRは営業なので、ノルマもありましたし。自分で言うのもなんですが、成績はよかったんです。だけど、その数字を作るためにあちこち走り回ったりというところで、辛いこともありましたね。
自社の薬を買ってもらうためにお医者さんのところに行くんですけど、やっぱり中には嫌な医者もいるんです。ひどい人なんて名刺を渡したら、そのままそれをゴミ箱に捨てますからね(笑)。
石田: 目の前の医師ではなくて、医師の向こうにいる患者さんに貢献できているんだと考えるようにしたことです。医師に薬を売るのではなくて、患者さんにきちんと薬が届くようにするために、こちらが医師を教育しないといけないということを考えるようになったら変わっていきましたね。
石田: そうですね。もっといえば、開業医ってみんな自分の病院を繁盛させたいんですよ。そのためにはやはり患者さんを治すことですよね。その気持ちを汲み取って、自社の薬だけでなく他社の薬も勉強して、どの薬がどんな患者さんに合う、ということをアドバイスするようにしていましたし、「自分が病院長だったらどうするか」という視点で営業をしていました。そうなると、もう「ただ薬を売るだけ」という仕事とはやりがいが全然違います。病院側も自分を必要としてくれるようになる。どんどん仕事が楽しくなっていきましたし、当然成績もついてきました。
石田: 私は死ぬ時に、それまで出会った人みんなに「あなたに会えてよかった」と言ってもらいたいというお話をしましたが、それを入社した従業員みんなにやってもらって、どんな人生を送りたいかを考えてもらいます。
そのうえで、うちの会社の仕事が彼らの人生と少しでもリンクするように、やりたいことにチャレンジできる制度を充実させています。いずれ独立したい人もいるでしょうし、会社の中で出世してマネジメントする立場になりたい人もいるはずです。もちろん今のままでいいという人もいるでしょう。それぞれに思惑があっていいので、それを何年かの計画にしてチャレンジしていきなさいと言っています。今のままでいいといっても、現状維持をするには少しずつ上がっていかなければいけないので、そこにも何かの挑戦をする余地はあるんです。
石田: 「おもしろくなき世の中をおもしろく」と過去の偉人が言っていましたけども、どうせ働くなら、少しでも楽しくなる方向に考えていった方がいい。今回の本はそのためのお役に立てるのではないかと思います。少しでも参考になるところがあればうれしいですね。
(新刊JP編集部)
石田 行司(いしだ・こうじ)
ニューロンネットワーク株式会社代表取締役
1965年生まれ。徳島文理大学薬学部卒業後、エーザイ株式会社にてMRとして勤務。アルツハイマー型認知症治療剤アリセプトの国内総責任者や関西北陸エリアのマネジメント責任者を務め、業界での知識や人脈を培う。生まれたばかりの次女がインフルエンザ脳症で重度障害を抱えた際、通院や通所の手続きで各所を駆け回った経験から、患者に優しい医療や看護、介護のあり方を模索するように。その後、病気の治療や予防、再発抑制から介護保険の申請までワンストップで情報を提供する薬局の設立を目指し36歳で起業。
「かかりつけ薬剤師」のいるニューロン薬局を展開するほか、健康関連商品の開発や医療特区での施設建設にも携わるなど、医療、介護、看護、民間企業の垣根を越えた「トータルヘルスケア」事業を精力的に行う。2019年8月20日のThe New York Times「NEXT ERA LEADER'S」で日本人24人に選出されるほか、多数の実績を有する。著書に『医療特区でがん難民と医療業界を救え』(経営者新書)がある。
著者:石田 行司
出版:幻冬舎
価格:800円+税