新社会人は要注意! 「取り急ぎ」がトラブルの元になる理由
新社会人にとって、簡単そうでつまずきやすいのが「敬語」である。
学生時代のアルバイトや就職活動の経験を通じて、「もう敬語やマナーは充分、身につけた」と思っている人は多いが、それは油断というもの。
たとえば、「とんでもございません」「取り急ぎ〇〇まで」といったワードは、新社会人が「敬語」として使いやすい言葉だが、どちらも間違っている。
なぜ、これらは間違いなのだろうか。
『誰とでも仲良くなれる敬語の使い方』(明日香出版社刊)の著者、松岡友子さんは、これらの間違い敬語についてこんな解説をしている。
「とんでもございません」という日本語はない
まずは、相手から褒められ、謙遜の気持ちを表したいとき、つい使ってしまいがちな「とんでもございません」というフレーズについて。
実は、「とんでもない」自体がひとつの形容詞であるため、「とんでも+ない」と分けることはできない。
したがって、こうしたシチュエーションでは、「とんでもないです」「とんでもないことでございます」と返すのが好ましいのだ。
むやみに「取り急ぎ〇〇まで」と言ってはいけない理由
敬語の難しさは、つねに相手との関係性と距離感を考えて言葉を選ばないといけない点にある。「取り急ぎ〇〇まで」はこの点で少し気をつけなければならない言葉だ。
このフレーズは、時間がない場合に「取りあえず急いで」という意味で使うのが本来の形。覚えるとつい使いたくなる言葉だが、むやみに「取り急ぎご報告まで」「取り急ぎ御礼まで」と乱発するのはおすすめできない。
というのも、「〇〇まで」という言い回しは、目上の相手には使わない言葉。基本的に周りには目上の人しかいない新社会人は、本来使う場面がないはずの言葉なのだ。
また、「取り急ぎ」の方も誤解を生みがちな言葉なので、注意していただきたい。
たとえば上司に報告書を送る際にこのフレーズを使うと、「不完全かもしれませんが、とりあえず急いで報告します」と伝えたことになる。この言葉を正しく理解している上司であれば、「あとで完全な報告書が改めて提出される」と受け取るだろう。
送った当人がタスク終了と考えていたなら、後でトラブルの元になる。
お願いごとをされたとき、無礼にならない断り方
本書の著者、松岡友子さんによれば、敬語も含め失礼な表現というものは往々にして、相手との距離感を間違えてしまったために起こるという。
したがって、「よそよそしい」でも「なれなれしい」でもない、適切な距離感の言葉を選ぶことは、正しい敬語を使うことと同じくらい重要になる。
特に、何かネガティブなことを言わなければならないとき、こうした点に気を配ることは重要だ。例えば、目上の人もしくは客先から無理なお願いをされたとき、どのような言葉を選ぶべきか。
まずダメな例は、「すみませんが、無理です」「申し訳ありませんが、ご協力できません」。前者は論外として、後者も丁寧な言葉づかいではあれ、かなりきつい印象を与える言い方である。
このような場合、相手が自分に何か期待して声をかけてくれたことを考えれば、「断って申し訳ない」という気持ちが伝わるよう、「お役に立てそうにない」という言い回しを使うのがおすすめだ。
さらに「本当は協力したかった」ということを強調したいのなら、「残念ながら今回はお役に立てそうにございません」とすれば、相手を不快にさせずに断ることができる。
◇
本書では他にも、相手の話がよく理解できないときに使うと便利なクッション言葉、先輩に対し差し出がましくなく、かつ丁寧な形で「手伝いましょうか」と伝える際の注意ポイントなど、「使える」情報が満載だ。
4月から新社会人となる人はもちろん、敬語に少しでも不安があるなら、どの年代のビジネスパーソンにとっても学びのある一冊といえよう。
(新刊JP編集部)
コミュ力の高さは語尾に表れる? さりげない気づかいフレーズの使い方
なれなれしくなく、よそよそしくない。
人に合わせて適切な距離感でコミュニケーションを取れる人は、社内でも社外でも何かと重宝されやすい。当然、仕事の結果を出しやすくもなるだろう。
こうした対人関係の距離感は、人によっては誰に教えられなくてもできる一方、覚えようとしてもなかなか身につかない人もいる。
両者の違いは何なのか。『誰とでも仲良くなれる敬語の使い方』(明日香出版社刊)の著者であり、企業向けのマナー研修講師も務める松岡友子さんに、この点を中心にお話をうかがった。
「ちょっとした配慮」は言葉づかいに表れる
―― 本書のコンセプトである「敬語とは、相手との距離感をはかるもの」という考え方が印象的でした。まずは、このようなコンセプトで執筆しようと思った経緯をお聞かせいただけますか。
松岡:担当編集の方と本書の内容を決めるための打ち合わせをしていた際、「部下が自分に対し、すごく仰々しい敬語を使ってきて……」と悩む姿を目の当たりにしたことが、ひとつのきっかけです。
また、ちょうど同じ頃、又吉直樹さんが芥川賞を受賞して、インタビューで失礼な聞き方をしてきた女性記者を「不思議な距離感の人」と表現したことがあったんです。
これらのことにインスピレーションを受け、「距離感」をキーワードにしようと思いました。
―― コミュニケーションをうまくとり、人間関係をスムーズに築くためには、今おっしゃった「距離感」が大切になってきます。
松岡:相手との距離感・関係性を正しくつかむことと同時に、距離感にふさわしいマナーを身につけることも大切です。
たとえば、相手のことを心配していることを伝えたい時、相手が友だちであれば「どうした?」と声をかけるでしょうが、先輩であれば「どうしましたか?」、上司なら「どうなさいましたか?」と訊ねますよね。また、小さい子どもが相手なら、「どうしたの?」とかがんで目線を合わせて訊くのではないでしょうか。
つまり、相手との距離感にふさわしい言葉を選ぶこと、それ自体が立派なマナーであり、コミュニケーションの基本なんです。
―― 本書でも、「仲の良い友だち→お世話になっている先輩→敬意を払うべき上司・お客様」と、相手との距離感に応じた「ふさわしい言い回し」を「×→△→○」という3段階で解説がなされています。△と○の違いは、どういった点にあるのでしょうか。
松岡:ちょっとした配慮をできているかどうか、ですね。
たとえば、出張で使う飛行機のチケットを購入するため、相手に承諾をもらう場合、「朝8時の便を予約しますがいいですか」と訊いたとします。でも、これだけでは△です。
相手の提案に「No」と言うのは勇気の要るものです。人間、「いいですか?」とか「大丈夫ですか?」と訊かれると、つい反射的に「いいですよ」「大丈夫です」と答えたくなるものなんですよ。したがって、この場合、「朝8時の便を予約しますがよろしいでしょうか?」とするのが○でしょう。
さらにいえば、Noと言いにくい相手の気持ちを汲んで、「時間が早すぎて、大変ではないですか?」と、プラスアルファの言葉を付け加えられれば完ぺきですね。
―― わざわざそのような「配慮のある一言」について解説されたということは、松岡さんの問題意識として、そういう一言を言える人が減ってきている実感があるからでしょうか。
松岡:おっしゃる通りです。たとえば、エレベーターに乗っているとき等にも、そういったことを感じます。
自分がボタンの傍に立っていたとして、一昔前までは、見ず知らずの人から「すみません、3階もお願いします(ボタンを押してください)」と声をかけられることがありました。
でも最近は、背後からニョキッと誰かの手が伸びてきて、黙ってボタンを押されることが少なくないんですよ。
配慮のある一言どころか、それ以前の問題で、言葉を発する機会自体が減ってきている。こうなってくると、当然、語彙力も低下してしまいます。忌々しき事態だと思います。
―― お願いするのは迷惑をかけるような気がして、何も言わずにボタンを押してしまうのかもしれませんね。
松岡:そうなんでしょうね。ところで、先日、「世界幸福度報告書2017」が公表されましたが、調査対象155カ国中、日本は51位でした。
この調査結果を見ていて興味深かったのは、上位国にくらべて日本は「他者への寛容さ」の数値が低かったことです。
世の中がこれだけイライラしていると、「ボタンを押してください」と言うことすら迷惑がられるのではと恐くなってしまう。その意味で、いま申し上げたエレベーターの話というのは、寛容さがなくなってきていることの一つの表れなのかなとも思ったりするんです。
―― 社会が不寛容になったことで言葉を発しづらくなった。その結果、日本人の語彙力が低下しつつある。現代人が「配慮のある一言」を言えなくなったのは、そういった問題が背景にある、と。
松岡:語彙力の低下に関連して、最近思っていることをもう一つ申し上げると、若い方が「ヤバい」を連発しているのも気になります。
おいしい、まずい、かわいい、かっこいい、困った、うれしい……等、あらゆる印象や感想を「ヤバい」の一言で済ませてしまっている、といいますか。
そのことの何が問題なのかといえば、自分のなかに感情が湧き、いざそれを表そうとしても、「かわいい、かわいくない」といった具合に、「0か100か」みたいな話になってしまいやすいこと。0と1の中間にある部分がゴソッと抜け落ちてしまうんです。
これは「マナー」にも大いに関わってくる話です。相手に合わせて距離感を調節するようなコミュニケーションがとれなくなっているわけですから。
上司のハラスメントを未然に防げる 部下のコミュニケーション術
まだ経験の浅い新社会人は、上司とのちょっとしたやりとりにも、何かと気を遣ってしまうもの。
でも気を遣うあまり、コミュニケーションをとることを恐れ、その結果人間関係がギクシャクしてしまうのは最悪だ。
そこで今回は、『誰とでも仲良くなれる敬語の使い方』(明日香出版社刊)の著者であり、企業向けのマナー研修講師も務める松岡友子さんに、目上の人とコミュニケーションをとる上で大切にすべき心得をうかがった。
目上の人にかわいがってもらうための、コミュニケーションのツボ
―― 松岡さんは普段、ハラスメント防止セミナーの講師もしていらっしゃるそうですね。本書の内容からして少し意外な印象を持ちました。
松岡:実は、マナーとハラスメントは密接につながるものです。
まず、ハラスメントを引き起こす大きな要因に、コミュニケーション不足があると考えています。そして、コミュニケーションが不足しがちになると、どうしても互いにモヤモヤとした感情が溜まっていき、普段なら何とも思わないことに不快感を持ちやすくなってしまう。
ではなぜ、コミュニケーション不足になってしまうのかといえば、インタビューの前半部分でお話したような正しい距離感をとれなくなっていることが原因であることが多いんです。
つまり、距離感を誤ったコミュニケーションをとってしまったために誤解が生じ、互いに不愉快な気持ちになり、コミュニケーションをとりたくなくなる……という悪循環が生まれやすくなるわけです。
―― では、4月から新社会人となった方に向けて、目上の人とうまく距離感をとりつつ、失礼な言葉づかいにならないようアドバイスするとしたら、何と伝えますか。
松岡:普段からていねいな言葉づかいを少し意識することをおすすめします。
外での用事を終えて帰宅したら、独りごとでいいので、今日あったことを言葉にしてみる。たとえば、「体格のいい人と食事をした」ということを何と表現するかを考えてみてほしいのです。
「でかい奴と飯を食った」と「大きい人とご飯を食べた」。どちらを自己表現として選ぶかは人それぞれです。でも、そもそも選ぶためには、選択肢を持っていなければなりません。その意味でも、実際に言葉にしてみて、「語彙力の大切さ」に気づくことが第一歩だと思います。
―― そもそもの語彙力を増やためには、どんなトレーニングがおすすめですか。
松岡:ひと世代、あるいは、ふた世代ぐらい上の人と話す機会を沢山持つといいでしょう。私自身、そういう方が対談なさっているのをテレビなどで見て、言葉づかいについて学ぶことがありますから。
できるだけ目上の人と積極的に話をし、「こんな言葉の使い方があるのか」と驚いたら、自分でも使ってみる。このサイクルを繰り返すだけで、語彙力は確実に高まるはずです。
―― ただ、年上の人に話しかけることに苦手意識を持っている若い人もいると思います。そのような人は、まずどのようなことを心がけるべきでしょうか。
松岡:そういう人にとっては、すごく勇気の要ることだと思いますが、出身地や趣味など、どんなに些細なことでも構わないので、自己開示をしてみることをおすすめします。
話しかけられる側にしてみれば、こわがらずに思い切って飛び込んできてくれる若い人というのは可愛いものです。なので、あまり遠慮せずに、目上の人にも自分からどんどん話しかけてみる、ということをしてほしいですね。
―― 小さな失敗もするかもしれないけれど、まずはコミュニケーションをとること自体が重要だ、と。
松岡:おっしゃる通りです。「失敗」ということでいうと、いつも若い方向けの研修でご紹介する話があります。
ある企業の管理職の方の話ですが、この方は、新人がやってくるといつも「オレの目が黒いうちに、沢山失敗しておけよ」とおっしゃるそうなんです。
自分の育てた部下が、後々、違う部署に行ってから、「どういう育て方をしたんだ」といわれてはかなわないと。なので、自分の管理下にいるうちに沢山失敗して、ちゃんと成長してから他の部署へ行ってほしいということらしいんですね。
初めてこの話を聞いたときは「上司としての本音だな」と思えましたし、部下への接し方として素晴らしいと感じました。
―― たしかに理想的な上司ですね。
松岡:私自身、客室乗務員時代にチーフパーサーをしていたことがあるのですが、新人が「ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いします」という挨拶をしてきたら、「これからは絶対、そういう挨拶はしないように」と注意していました。
職場の先輩に迷惑をかけない新人なんていません。ただ、お客様にご迷惑をおかけすることは許されない。つまり、新人の仕事を見守り、お客様にご迷惑をおかけしないよう、新人の失敗をカバーすることが上司の仕事なんです。
なので、先ほどのメッセージとあわせて、「もし、『新人のやることが迷惑だ』なんていう先輩を見かけたら、ろくな先輩じゃないから、私のところまで引っ張ってきなさい」とも言っていました。
―― いまのお話に勇気づけられる新社会人の方は多いと思います。最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
松岡:言葉は大切な自己表現です。TPOに合わせて服を選ぶように、相手に合わせた敬語表現を使い分けることができれば、多くの人とコミュニケーションを取ることができる魅力的な人になれると思います。
言葉を沢山知っていれば、自分のメンタルを救うことにもつながりますし、表現力の豊かな人はまわりから愛されます。
ぜひ本書を参考に、誰とでも仲良くなれるビジネスパーソンになっていただきたいですね。
(新刊JP編集部)
目次情報
- はじめに
- 本書の登場人物の設定
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01章 社会人なら知っておきたい「敬語の基礎知識」
- 01 敬語は五つに分けられる
- 02 苦手な人がはまる敬語の落とし穴
-
02章 シーン別に見る「正しく適切な敬語」
- シーン1 基本のやりとり
- シーン2 あいさつ
- シーン3 メール・書き言葉
- シーン4 電話
- シーン5 訪問
- シーン6 交渉・クレーム応対
- シーン7 接客
- シーン8 社内コミュニケーション
-
03章 思いが伝わる「言葉遣い」と注意したい「言葉の癖」
- 01 言いにくいことを伝えるときのコツ
- 02 若者言葉・最近の言葉
- 03 ら抜き言葉・れ足す言葉・さ入れ言葉
- 04 〇〇症候群になっていませんか?
- おわりに
著者プロフィール
松岡 友子
マニエール・トモ代表
コミュニケーションマナーアドバイザー
戸板女子短期大学・岩崎学園情報科学専門学校非常勤講師
早稲田大学卒業後、ANA国際線客室乗務員およびチーフパーサーとして11年半乗務。
退職後、エアラインスクール講師などを経て2007年より研修講師として活躍する。
日本語教師、NLPプラクティショナーやTAカウンセラー、ハラスメント防止コンサルタントなどの資格を活かし、
学生へ向けた秘書検定などの資格取得指導から、
社会人向けビジネスマナーやセルフマネジメントまで幅広く研修、講演を行う。
現在、大手企業・官公庁・地方自治体への年間登壇回数は100回以上。
「丁寧なだけではない、より良いコミュニケーションをとるためのマナー」と人気を博している。