これはただの「ほめ本」ではない! 本当に深い絆を生む「ほめ言葉の魔法」
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まず、これまで職場の関係性を良くする本を書いてきた原さんが一気に舵を切り、本書で幅広い層に「ほめる」ことの本当の意味を伝えようとしていることに驚きました。
原: 人の悩みのほとんどは人間関係だと思うんです。実際に私のもとにはあの人との関係を良くしたい、あの人の良さを伝えたいけれど、どのようにほめればいいのか分からない。何から始めたらいいのか分からない。そういう声がすごく来るんです。
そして、その悩みから、もう相手とは分かり合えないと諦めてしまっている人たちがたくさんいます。私はそういう人たちに諦めないでほしいんですよね。
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本書には親子や家族の人間関係も含めて「もう元の関係を取り戻すのは無理だろう」と思うような溝が埋まってしまった事例がたくさん掲載されています。再婚相手の連れ子の女の子と仲良くなるために、男性が必死にその女の子の好きなアニメやゲームを覚えて詳しくなる事例なんかは愛情の深さがうかがえます。
原: そうなんですよ。テクニックではなく、いかに愛情を注ぐかということなんですよね。私は「ほめ育」という教育方法を世界に広げるために活動をしているのですが、その中で強く感じるのは、「ほめる」ということを一つのテクニックだと捉えている人が多いということです。
「ほめる」はテクニックじゃないんですよ。その人のあり方、存在を認めるということが私の考える「ほめる」なんです。愛情なのです。
人を愛すること=人をほめること なのです。
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存在を認めることが、「ほめる」のスタートになるわけですね。
原: スタートです。テクニックでほめたとしても、相手にはすぐにそれが伝わりますからね。
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お世辞だと分かりますよね。「本音ではないな」と。
原: 「アメとムチ」で今はアメをくれているんだな、とか、多分お願い事があって急にほめだしたんだな、とか。浅はかな「ほめる」というのはすぐにばれるんです。
先ほどおっしゃった連れ子の女の子の事例は、彼女が中学2年生とすごく多感な年頃なんです。最初はまったく相手にされずに、もう仲良くなることを諦めるしかないというくらいの溝でしたが、2年間必死に愛情を伝え続けて振り向いてもらえた。
お父さんはあなたのことを愛していますよ、というメッセージをずっと送り続けた。本当に大切にしたいからこそ、娘の好きなものを自分も好きになったんです。これはテクニックじゃないんですよ。2年間振り向いてくれない相手に愛情を伝え続けるってものすごい根気が必要じゃないですか。
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普通なら途中で心が折れてしまいますよね。
原: そうでしょ? 途中で言うこと聞けよ!と思ってしまう。諦めちゃうんですよね。
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ただ、こうして熱く語っていただいていても、今、世に出ているたくさんの「ほめ本」と一見同じように見えます。本書のどういう部分が他の「ほめ本」と異なるのでしょうか。
原: この『ほめ言葉の魔法』はテクニック本ではなく、あり方を教える本です。相手が喜ぶだけではなく、ほめた側にも成長を促します。
実感されたことがある人もいるかもしれませんが、相手をほめるのは難しいんですよ。良いところを見つけて、的確に言葉をかけないといけません。そこまでいくのには根気がいりますし、諦める選択肢も途中で出てくるでしょう。
そういったことを乗り越えて良い関係になる。この理想的な関係に行きつくのが、私の考える「ほめる」ことの目的なんです。うわべの関係ではなく、お互い言いたいことを言ってぶつかりながら、本質を知っていく。テクニックだけではそこまでの関係はならないですよね。
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本書の中で「叱る」ことも「ほめる」ことの一つだと書かれています。最初は意外に思えましたが、自分の体験と重ねると素直に理解できました。
原: そうなんですよ。人には伝えにくいけれど、伝えないといけないこともたくさんありますよね。相手のためになることならば、愛情を持ってしっかりと伝えてあげる。これが大切になんですね。
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本の中に、とある回転寿司チェーンの職人気質な店長の振る舞いに対して、原さんが共感し、その上で「叱りきる」ことで相手の行動を変えたという事例が登場します。このとき、原さんは相当な覚悟を持って叱ったのではないですか?
原: 覚悟を持って言いましたし、叱るときだけではなく、ほめるときも同じです。ほめる覚悟が必要なんです。相手の良いところを言うということは、相手のことを分かっていないといけないし、相手のことを考えて言わないといけないわけですから。
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そこまで相手のことを考えないと、相手には伝わらないということを忘れてしまっている人も多いように思います。
原: 日本人は、ほめた経験も、ほめられた経験も少ないように思います。そうなると、本当にほめられたときに、自分の感情がどう動くのか分からないんですよ。体験したことないから。だから、「ほめられても泣くことはないでしょう」と言い張る60歳くらいの経営者の方が号泣してしまうんです。
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それこそが「ほめ言葉の魔法」じゃないですか?
原: みんな、しがらみや与えられた役割の中で生きていますからね。
本当の「ほめる」は、そうしたしがらみも取っ払い、本気で相手の良いところを探すことです。言い合いになることもあるかもしれません。でも、分かり合えたときに笑い話になるでしょう。それが、私が「ほめ育」で目指している関係性なんですよね。
「人はほめられるために生まれてきました」
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前半ではテクニックとしての「ほめ」と原さんが提唱する本当の「ほめ」の違いについてお話を伺いましたが、そこから考えると「ほめるのが苦手」という人は、相手と分かり合うことを怖がっているようにも思えますね。
原: それはあるかもしれませんね。また、現代は良い点を探してほめる文化ではなく、マイナス点を見つけて改善するという文化が強いでしょう。マスコミを中心に、マイナスのニュースが毎日世間を賑わせていますし、良いニュースを報じても視聴率が取れない。社会全体がそういう傾向にある。
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確かに今は叩く文化が全盛です。
原: でも私は、人はほめられるために生まれてきたという真理があると思います。けなされるために生まれてきた人は一人もいません。私が世界に「ほめ育」を広めようとしているのも、その真理に気づいたからなんです。
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原さんはどのようにしてその真理に気づいたのですか?
原: 自分の人生を振り返ってみたときに、親からほめられたこと、守ってもらった経験、そういったものが自分にとっての安全地帯になっていたんですね。人生の中でしんどいこともありましたけれど、安心できる場所からあったから乗り越えられた。
一番ほめて欲しい相手に、見捨てられた時の挫折感は、この安心できる場所がなければ、人はなかなか乗り切れない。
親や学校の先生などほめて育ててもらったことを思い返してみたとき、ほめられることこそが、血がめぐる感じがあり、未来の自分を信じることができると思ったのです。
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本書の中に、ラーメン店で働いていた女性スタッフが失敗直後に大きく成長した事例がありました。それは店長がその女性スタッフを守ってくれたことで「自分にとっての安全地帯」に気づいたことが成長の大きなきっかけになったという話でした。
原: そうなんですよね。ほめられて、自分が守られていることに気づくと、表情が違ってくる。身体にエネルギーが入ってくる感覚があるんです。うまくいかないことがあっても、少しことではへこたれないというか、頑張れる感覚が湧いてくるんですよね。
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期待に応えたいと思いますし、失敗しても次につなげていきたいと思いますよね。
原: 私なんかは、お客様からいただいたメールを何度も見返してしまうことがあるんですよ(笑)。何か気持ちが落ちそうになった時に、そういうメールを見返してみる。自分にとっての安全地帯というか、拠り所がそこにあるんですよね。
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上司やお客様からの気持ちの入ったほめ言葉はずっと印象に残っていますよね。
原: ほめてほしい人にほめてもらうと、心強いですよね。みんなそうなんです。親や上司、お客様…。尊敬している人にほめられたら誰もが嬉しいですし、記憶にも残ります。
そういう意味でも、ほめる立場の人に私はプラスの釘を刺してほしいんです。マイナスの釘を刺す人が多いけれど、それでは人は成長しません。プラスの釘を刺さないと。
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ここでお伺いしたいのですが、原さんは「ほめ育」という言葉を提唱し、それを世の中に広げる「ほめ育財団」という財団法人を設立されました。この「ほめ育」は「ほめる」とはどう違うのですか?
原: 「ほめ育」はほめて育てる教育のことです。教育は人を成長させるためのものですが、技術や知識を伝えるというだけでなく、その人の持つ能力や良いところを引き出すということも重要です。そもそもEducationの語源になっているラテン語は「引き出す」という意味もありますからね。
でも、先ほどもお話ししましたが、「ほめる」ということは実はしんどいことなんです。本当のことを探さないといけないし、言わなきゃいけないから。上辺ではいけません。本気で向き合わないと、相手の能力は引き出すことができません。
そして、引き出したとき、引き出されたとき、お互い全く違う景色を見ることができるはずです。「ほめて育てる」という教育は考えれば考えるほど、奥深いものなんです。
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原さんはその「ほめ育」を世界196ヶ国に広げようとされており、すでに世界13ヶ国50万人に広げています。このバイタリティはどのようにして生まれたのでしょうか。
原: 私が行動するのは、自分が広めたいからではなく、誰かが待っているという感覚があるからなんです。アメリカに行っても、中国に行っても、インドでも、カンボジアでも、日本発の教育メソッドである「ほめ育」を知り、実践することで、涙を流してよろこんでくれるんです。
だから…みんなが呼んでくれているからだと思います。196ヶ国に行こうとしているのは。これは私に与えられたミッションなんですよね。もちろん、全ての国に行くことは難しいかもしれないけれど、仲間が行ったり、今はインターネットもあるからSNSを通じて広めることもできるはずです。人工知能の技術も発達するでしょうから、それを利用することもできる。
今は世界との距離が縮まっているので、来年にも196ヶ国にアクセスできる可能性だってあります。志高く持って、世界中に「ほめ育」のメソッドを届けたいですね。
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「ほめられたい」や「認められたい」ということは世界各国で共通していますからね。
原: だから、「ほめ育」という言葉を、「もったいない」やトヨタの「カイゼン」のように世界で通じる言葉にしたいんです。外交の場面でも相手の良いところを言い合ってから始めるとか、素敵だと思うんですよね。
「ほめ育」は「赦す」「認める」「愛」「感謝」「叱る」の5つです。この本でもこの5つを、事例を交えて取り上げているので、ぜひ読んで実感してください。
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では、読者の皆さんに伝えたいメッセージを教えてください。
原: 人は夢を叶え、幸せになるために生まれてきました。そのためにも人間関係は絶対に良いほうがいいですし、いつでも周囲にほめ言葉や感謝が飛び交っているほうが良いですよね。
現代はネガティブな話題ばかりが目立っていますが、ほめる文化に戻ってほしいんです。もうダメだと思った人間関係も諦めないでほしい。親子、夫婦、上司部下。元から切れている関係なんてなかったはずです。だから元に戻るというか、良い関係に戻ってほしい。
思い出してほしいのです。
良い関係だった時のことを。
ほめ言葉が飛び交っていた時のことを。
人間の一生は短いのです。いつかは終わりがきます。愛する人に、大切な人に、ほめ言葉をかけてみてほしいのです。かならず相手の笑顔に出会えます。
本当は、ほめ言葉をかけてみたかった自分に会えますよ。
そして、思い切り自分をほめてあげてほしいのです。