「百人一首」に隠された大いなる物語を見よ
秘められた真序小倉百人一首

秘められた真序小倉百人一首

著者:野田 功
出版:幻冬舎
価格:1,760円(税込)

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本書の解説

日本人ならば誰でもかるた遊びなどで親しんだことがある「小倉百人一首」。 何首か知っている和歌があるかもしれないし、競技かるたをやっている人であれば全首暗記している人もいるはずだ。

自然の美しさを詠んだものもあれば、恋の切なさや苦しさを詠んだものもある。1首目から読むとさまざまな和歌がちりばめられている印象を持つ百人一首だが、「実は本来あるべき別の順序があったのではないか」とするのが『秘められた真序小倉百人一首』(野田功著、幻冬舎刊)だ。

小倉百人一首は一つの壮大な叙事詩である

テーマや表現、そして口に出して読んだ時の語感から、百人一首はいくつかのグループに分けることができる。すべての和歌を丹念に検討し、順序を入れ替えた著者の野田さんは、小倉百人一首を「一つの壮大な100行詩」だと結論づけた。

野田さんによると、100首を大別すると、遠島にある天皇を想う60首と、式子内親王へのかなわぬ恋心が秘められた40首に分けられるという。野田さんは前者を小倉百人一首の「第一部」、後者を「第二部」と位置付けた。

そして「第一部」は、「やまとの国の自然や風物を描いたもの」、「やまとの自然から浮かんだ思いを詠んだもの」、「遠島の天皇への思慕を詠んだもの」と3つの章に大別される。「第二部」は「恋の始まりとその行く末を詠んだもの」と「しのぶ恋、かなわぬ恋を詠んだもの」の2つの章に分けられる。こうして、100首を整理し、並べ替えると驚くべき規則性と叙事詩性が立ち現れてくるという。

たとえば、小倉百人一首の最初の4首は

・秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ(天智天皇)
・春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山(持統天皇)
・あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の ながながし夜を ひとりかも寝む(柿本人麻呂)
・田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士のたかねに 雪は降りつつ(山部赤人)

となっている。
しかし、野田さんが並べ替えた「真序版」では、

・君がため 春の野にいでて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ(光孝天皇)
・春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山(持統天皇)
・秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ わが衣手は 露にぬれつつ(天智天皇)
・田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士のたかねに 雪は降りつつ(山部赤人)

である。4首のうち3首は共通しているが、柿本野人麻呂の歌を光孝天皇の歌と入れ替えて順番を変えると、春夏秋冬という季節の移り変わりが鮮明な歌の集まりとなる。歌の最後も「~つつ」がそろい語感がいいし、「衣手」「白妙」といった共通のワードも出てくる。順番を入れ替えたことで、テーマと語感とイメージがマッチした、歌の美しいワンセットが出来上がるのだ。

『秘められた真序小倉百人一首』では、このような歌のセットが節となり、章となって、最後に一つの壮大な叙事詩の様相となる。

それぞれの歌を個別に見ているだけでは絶対にわからない、100首をある順番で通して読むことではじめて体験できる世界観は圧巻。百人一首に親しんだことがある人であれば、没頭できる一冊である。

(新刊JP編集部)

インタビュー

■「小倉百人一首」には順番を入れ替えると見えてくる世界がある

『秘められた真序小倉百人一首』は選者の藤原定家の意思のようなものが感じられてわくわくしました。野田さんが百人一首に関心を持たれたきっかけを教えてください。

野田: 昔から数字パズルや図形パズルが大好きで、通勤中に数独、ナンプレ、ブリッジなど解いていたのですが、その延長で言語に関するパズルはないかなと考えていました。

もともと理系で言葉に関するものにあまり触れてこなかったというのと、記憶力にあまり自信がなくそれを改善したかったのとで、何か言葉に関するものを記憶してみようと思ったのが百人一首に興味を持ったきっかけです。

百人一首の順序に注目されたのはなぜだったのでしょうか。

野田: 最初は頭から覚えていたんですけど、それだと覚えにくかったんです。似たような歌がばらばらに配置されていますからね。だから音やテーマが似た歌をグループにして覚えたらどうかと思ったんです。それが30年くらい前のことですね。

音が似ている歌をグルーピングすることで記憶しやすくなったのでしょうか。

野田: そうですね。おかげでかなり覚えやすくなりました。それに、そうやって覚えていく過程で、百人一首が全体で一つの絵になっていることに気づいたんです。

それで、いろいろと並べ替えていくと、選者であった藤原定家の意図のようなものがおぼろげながら見えてきた気がします。

たしかに、百人一首はあまたある歌の中から藤原定家が100首を選んだものですが、中には響きが似た歌がいくつも含まれています。定家がなにか意図をもって編纂したと考えたくなりますね。

野田: あまりにも作為的に思えるんですよね。たとえば「いい歌」を集めようというコンセプトであれば、もっと別の歌があったはずなんです。どの歌人にも代表的な和歌があるわけですが、西行などはわざわざ比較的マイナーな歌がピックアップされています。

だから藤原定家には本人なりの意図や筋書きがあって、その筋書きに合う和歌を選んだという印象を受けています。

百人一首には「歌番号」があります。その順序が一般的に知られている百人一首の順番ということになりますが、この歌番号はどのように決まったのでしょうか。

野田: 一般的に知られている百人一首の順番は、天智天皇から始まって古いものから新しいものという順番で並べられています。内容的には自然を歌ったもの、世を憂える歌、恋の歌など、内容が異なる歌がばらばらに並んでいて、選者の意図のようなものは見えません。

内容を揃えた形に変えたらどんな歌世界が見えてくるかという関心が芽生えて、それが『秘められた真序小倉百人一首』を作るきっかけになりました。並べ替えたらまったく違う姿が見えてきました。

真序を定めていく作業がどのように行われていったのか詳しくお聞きしたいです。

野田: 通勤中に頭の中で並べ替えの試行錯誤を延々と続けました。スマホができてからは文書作成アプリを使えるようになったのでかなり楽になりましたね。自分なりに工夫してぴったりくる並べ替えを見つけていくのは楽しかったです。

百人一首の歌の順序を入れ替えるという取り組みはこれまでにもいろいろな人が行ってきたことなのでしょうか。

野田: 並べ替えた方が本来の姿に近いとの指摘は織田正吉の『絢爛たる暗号 百人一首の謎をとく』(1978)でもされています。私はこの本が刺激となって並べ替えの試行錯誤を重ねて今回の出版に至ったのですが、この本を読んでから出版まで30年以上経過しているのに驚いてしまいます。

■「小倉百人一首」に託した藤原定家の秘めた思いとは

歌のイメージや言葉のリズムなど、様々な要素から百人一首の順番を入れ替えると、全体として叙事詩のように読める、とされていました。この叙事詩に通底するテーマのようなものがあるとしたら野田さんはそれをどのようなものだとお考えですか?

野田: 真序の100行詩は私たちには平安のロマンと抒情そのものですが、定家の身になって考えるとまた違った側面が見えてきます。

それは、当時としては79歳と超長命であった定家の亡くなる直前の執念のようなものが込められているところです。書き残さなければ死に切れない。しかも大っぴら表現することには社会的に差し支えがある。その秘められた想いを定家はこの100首に託したのだと考えています。私はそれが後鳥羽院、順徳院への追慕であり式子内親王への秘められた恋心だと解釈していますし、秘めざるを得なかった定家の胸中に強い共感を覚えます。

なぜ定家は胸中を隠さなければならなかったのでしょうか。

野田: 定家は順徳天皇や後鳥羽天皇にすごくお世話になっていた人ですから、恩義を感じていたはずです。ですが彼らは鎌倉幕府から島流しにあっています。定家は立場上、鎌倉幕府が目をつけている彼らへの思いを表現するのは差しさわりがあったんだと思います。だから、この二人の和歌は当初百人一首には入っていなかったんです。

ただ、今に伝わる「小倉百人一首」を編んだ時、定家は人生の最晩年でした。もう思い残すことがないように、ひそかに二人の歌を入れたのだと思います。

後世の人が気づいてくれればいいんじゃないか、という思いがあったのでしょうか。

野田: そう思います。少なくとも私には彼の思いが伝わりました。当時の定家はこんなことを考えていたんじゃないか、というのを推測ではあっても世の中の人に知ってもらうことは、ある意味彼が望んでいたことなんじゃないかと思っています。

並べ替えが完成して通読した時にどんな感想を持ちましたか?

野田: 完成した順序で読んでみたら、あまりにもすっきりしすぎている印象を受けました。自然についての歌が60首と、秘められた恋についての歌が40首。非常に整った形に分けられるんです。これに気づいたときは感動しましたし、藤原定家の意図が見えた気がしてうれしかったです。

今回の本をどんな人に読んでほしいとお考えですか?

野田: 「小倉百人一首」は言うまでもなく我が国が世界に誇る貴重な文化遺産ですから、なるべく大勢の人に知ってもらいたいです。この書籍は私が並べ替えた順番に和歌を紹介するだけでなく、それぞれの和歌に合ったフォトイメージを配しているのが大きな特徴です。「小倉百人一首」の世界を存分に味わえる工夫が施されており、「入門書」として誰にでも手軽に読んで、楽しんでいただけるはずです。

最後に読者の方々にメッセージをお願いいたします。

野田: この本は読者自身が主役です。1000年の歴史ミステリーの解明にあなた自身が参加していただけます。ぜひ「真序ワールド」を存分にお楽しみいただきたいと思っています。

最後に、私の大好きな歌を自分で現代風に翻案したものを紹介させていただきます。やはり恋の歌がぐっと来ます。1000年前の女性達の生々しい感情が伝わってきて感に堪えません。

ひと夜の契りのこの恋に 命を懸けてもいいですか (皇嘉門院別当)
あきらめ切れないこの私 一度だけでもあなたに逢いたい 死ぬ前に (和泉式部)
秘やかに 想い続けて耐え切れない 命絶えよと希ってしまう (式子内親王)

(新刊JP編集部)

書籍情報

目次

  1. はじめに
  2. 真序百人一首事始め
  3. 第1部の概観
  4. 第2部の概観
  5. 全編鑑賞の前に
  6. 全編鑑賞
  7. 後鳥羽院 順徳院への追慕
  8. やまとの国の自然の姿や様々な風物
  9. やまとの自然の姿が引き起す様々な想い
  10. 配流への想い
  11. 式子内親王への追慕
  12. 恋の始まりとその行く末
  13. しのぶ恋、かなわぬ恋
  14. 同一語、類似語の例証
  15. 通しで鑑賞 (暗記、復唱用にもご利用ください)
  16. 翻案した現代詩で鑑賞
  17. 真序で覚える百人一首
  18. 真序かるた会
  19. あとがき

プロフィール

野田 功(のだ・いさお)
野田 功(のだ・いさお)

野田 功(のだ・いさお)

現職:フィットネス インストラクターとして、横須賀市を中心に、BN 体操(BodyNatural Fitness)の指導を行なっています。
詳しくはホームページ(bntraining.web.fc2.com)をご覧ください。

秘められた真序小倉百人一首

秘められた真序小倉百人一首

著者:野田 功
出版:幻冬舎
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