インタビュー
「ありがとう1万回」も「アファメーション」も意味がなかった
――
引き寄せの法則に関する本はこれまで何冊も読んできましたが、西山さんが極端にスピリチュアルに振れるなど、コメディチックで読み物として、とても面白かったです。これは実際のご経験なんですよね?
西山:はい、本当です。ですので、この本にも書いたアファメーションで「私はお金が大好きで、お金は私が大好きです!」という自分の声をスマホに入れて聞いていたところ、駅の中でイヤフォンが抜けて周囲に丸聞こえになってしまったというエピソードも事実です。まだ入っているので、聞いてみますか?
――
はい、ぜひ。(音声を聞き)ああ、これは周囲に聞こえると気まずいですね…。今でも聞くんですか?
西山:今は聞かないです(笑)。ただセミナーなどで失敗例として使うことはあります。
――
スピリチュアルに極端に振れた経緯を教えてください。
西山:もともとはスピリチュアルと無縁のゴリゴリのビジネスマンで、目標を達成するために必要なものは努力と気合と根性と思っていたくらいでした。
新卒で入ったコンサルティングファームで結果を出して、その子会社で役員となって上場を経験し、年収も2000万円くらいあったんですよね。そこで調子乗って部下を引き連れて独立をしてもう14年目になりますが、やることを決めないまま独立したので大赤字を生んでしまって(苦笑)。
――
そこで追い詰められたと。
西山:こういう時に、人って死を選ぶのかな?と、それくらい考えました。で、現実に戻って、もうなす術がないから今までと真逆に振ろうということで、アポ取りもしない、目標も作らない、スピリチュアルに頼るということをとことんやってみたんです。その中で行ったことの一つが、さきほどのアファメーションです。
――
「努力・気合・根性」とは真逆のことをやった。
西山:そうです。お金もないし、社員もどんどんやめていって、もう頑張りようがなかったんです。
スピリチュアルに振ったあとは、トイレを入念に掃除したり、「ありがとう」を1万回言ったり、『ザ・シークレット』に出てくるビジュアライゼーションを行ったり、後は「宇宙におまかせ」ですね。今思えば、宇宙におまかせしても上手くいくわけがないんですけど、実践していました。
――
そのときは「引き寄せの法則」にこだわらず、スピリチュアル全般に傾倒していたんですか?
西山:そうです。ただ、スピリチュアルをずっと続けてきたけれど、なかなか活路を見いだせない。会社からは社員もいなくなり、家賃や税金も払えなくなりつつある。そんなとき、肉離れになって1週間会社を休むことになったんです。
――
それはかなりのピンチですね…。
西山:普通ならそう思うところですが、その時、暇でたまたま手に取ったのが『引き寄せの法則 エイブラハムの教え』シリーズだったんです。さっそく読破し、自分なりに「引き寄せの法則」をネットで調べたら、ちょうど第二次引き寄せブームみたいなものが来ていると。後に有名になる方とかもちょうどその2、3ヶ月くらい前からブログで引き寄せ日記を始めていたタイミングで、「これは面白いじゃん!」と思ったんですね。
――
それで引き寄せの法則をはじめようと。
西山:そうです。ブログを立ち上げて、毎日日記形式でつづっていって、本当に上手く成功を引き寄せられたら格好いいじゃん!くらいのノリでした。実際は。
――
本書を読ませていただくと、スピリチュアルを実践して上手くいかない期間が数年あったことが分かります。なぜすぐに効果が出なくてもやめなかったのですか?
西山:そちらの方が、頑張るよりは打破できる可能性があると思っていたんです。淡い期待ですね。
――
そして、2015年3月19日に『引き寄せ 会社社長のブログ』というブログを立ち上げ、そこから人生に少しずつ変化が出てきます。スピリチュアル分野で活躍されている方同士で交流されることもあると聞いたことがあるのですが、西山さん自身は他のスピリチュアル系ブロガーさんとの交流はあったのですか?
西山:実はないんですよ。知識の8割は本で、1割5分が他の方のブログ、残りがイベントやセミナーなんですが、それも1年に一度行くくらいでした。
――
基本は書籍なんですね。
西山:そうですね。ただ、本の中身をそのまま鵜呑みにすると、実は間違った方法で実践することになることもあります。特に英語で書かれた本は翻訳の時点で間違ったニュアンスで書かれていたりということがあるんです。
例えば、これは2020年2月25日にブログで書いたのですが、『神との対話―365日の言葉』という本の中に「あなたの人生が「上向く」のは、あなたがそう選択したときだ。あなたは約束を信じ、そのとおりに生きなければならない。神の約束どおりに生きなければならない。」と出てくるんですね。
これは誤解釈してしまう可能性がある一文です。以前の私は、「選択」という前の「そう」という言葉を、「上向く」にかけて解釈していました。つまり、「私の人生が上向くと選択したときに、自分の人生は上向くのだ」と。
でも、何も変わらない。なぜかというと、解釈を間違えていたからです。これは「選択」を「思い出す」に変換して、その下にある「神の約束通りに生きる」という言葉を「それ」に引っ掛けたほうがしっくり来るんです。
「あなたの人生が上向くのは、神の約束通りに生きることを思い出したときだ」ということです。
――
西山さんの今の解釈の方が、自分で選択するという思考を手放せていて自然体ですよね。
西山:今だったらこう解釈できるんですが、当時は分からなかったんですよ。
自分にキャッチコピーをつけるという方法も、スピリチュアルの世界では「なりたい自分になりきって振舞う」、「お金持ちになりきって高級ホテルのラウンジでお茶をすると良い」というんですが、本当の意味は、仮に自分がキャッチコピー通りの人になったとしたら、今現状の中で、自分はどういう振る舞いをするだろうかと考えながら生活することが大事だということなんです。
私は「ガッツリ稼いでいるカリスマ経営者で、講演家としても活躍中」というキャッチコピーを自分でつけましたが、そういう人が手持ち金のない状態で定食屋に行ったら何を食べるのか、そういう人が得意先に営業いったらどういう振る舞いをするのか。そういうことを考え実践することがポイントなんです。
――
そして大きな転機となったのが、一昨年の夏です。大学進学予定の息子さんの学資ローン申し込みの審査に落ちてしまい、人生最大のショックの中で西山さんは「オレ、稼ぐ」という自分の心の声を聞きます。
西山:そうですね。「オレ、稼ぐ」と言って、ニヤリとしました。それまでずっと自分を動かしていたのは思考、つまりエゴでした。「こういう風に見られたい」「こうしたい」「こうしなくちゃいけない」…それらは全てエゴです。
ただ、学資ローンの審査が落ちた瞬間に「あ、もう頑張ってもダメなんだ」とエゴが気づき、自分を支配する座から降りたんです。代わりにその椅子に座ったのが「心」であり「魂」です。そして、心がエゴに対して「稼げ」と指令を出した。エゴはその指令を受けてどうすればいいかを思考する。健全な主従関係が生まれたんですね。
「稼ぐ」というだけの純粋な指令ですから、稼ぎ方のこだわりもなくなります。1対1にこだわっていた営業の仕方も変えて、自分の得意な「話す」ということを活かす形でセミナー形式にして1対複数の営業をするようにしました。
――
一気に効率が上がりそうですね。
西山:はい、すごく生産性が上がりましたね。それまでは1対1で3回も5回も面談をして成約に結びつかないことも多かったのですが、1対10のセミナー形式で自分が得意な話術で勝負し、その中でお客を見つけるというスタイルに変えて、売上が急に伸びるようになりました。
自分のエゴに人生の主導権を握らせるな!
――
西山さんは「オレ、稼ぐ」という「心」の声に耳を傾けることで、それまで自分を支配していた「エゴ」(思考)から脱却し、営業方法を変えて売り上げを伸ばします。それは、「こだわりを捨てた」という風に考えていいのでしょうか?
西山:こだわりというか「こうしないといけない」と考えることをやめました。それまでは「自分でやればいい」と思っていましたが、不得意なことは人に振るようにしたりしています。
――
「エゴ」と「心」は本書の核になるキーワードですが、息子さんの学資ローンの審査が落ち、「オレ、稼ぐ」と思った瞬間に初めて「心」の存在に気づかれたのですか?
西山:いえ、それ以前から瞑想をしていて、本当の自分は魂であり、エゴを観察する側だということは感づいていました。瞑想をしていると、プツッと思考が止まる瞬間があるんです。そこで「あ、エゴ=自分ではない。自分は魂(心)なんだ」ということに気づいていたんですね。
――
ただ、エゴに主導権を握らせないようにするのは難しくないですか?
西山:難しいですよ。特に忙しくなると、仕切りたがりますからね。「こうすれば上手くいくから、こうすればいいんだ!」という風に言ってくるし、都合よくいかないと途端にイライラし出す。
そういうときはあえて瞑想を10分でもするといいです。10分も時間が取れないなら、深呼吸だけでもいいと思います。エゴが暴走すると、心を中心から追いやって自分が座ろうとしますから。
――
瞑想をすることでエゴを客観的に捉えることができるようになるのは分かります。ただ、それでも不安な状況はエゴが優先してしまいそうです。
西山:将来を考えて陰鬱になったり焦ったりしますよね。スピリチュアルの世界に、「イマココ」という言葉があるのですが、これは「今」は心しか生きられないということなんです。
「今」以外について思いを張り巡らせているのはエゴです。新型コロナウイルスで仕事が入ってこない、会社がつぶれそうっていう不安は将来を予測するエゴから生まれるものですが、今はまだ会社はつぶれていないわけですよね。だから今の自分とは関係ないんです。
「今、ここを生きる」ということをできる限り意識することで、不安は取り除かれる。そうすると余裕が出てきます。
「引き寄せの法則」って、実はエゴが欲しいものを引き寄せるのではなく、穏やかな豊かさを引き寄せるんです。言い変えれば「大丈夫」という安心感ですね。今月売上がないけれど大丈夫。今は常に変化していて、売上がないのも変化のプロセスの一つであると。そういうことなんです。
全ては変化をしているのだから、将来のことを憂慮して不安になるよりも、どんどん今、やりたいことをやろうという余裕ができてくるんですね。
――
ただ、心の声に従い続けることって、自分がわがままに振る舞い続けることでもあると思います。そうなると自分から人が去って行ってしまわないでしょうか。
西山:これはスピリチュアルにハマり込んだ人が陥る罠ですね(笑)。だから、こうならないように上手くエゴを使うんです。心の声をそのまま外に出しちゃうとわがままになってしまうわけで、まずは心がエゴに指令を出し、その時にできる最善策を見つける。
例えば、顧客との面談中に「帰りたい」と思っても、いきなり帰ったらダメでしょう。ならば、気分転換として「空気でも変えましょうか」と言って窓を開けるとか、今できる範囲で心の声に従って行動する。どうやったら円満に自分の心の声の欲求を達成できるかを思考させるんです。
――
西山さんはこの方法で2億4000万円の大赤字を何とかしてきた。
西山:そうですね。でも、自分の中では一気に変わったように思います。スピリチュアルで直線的に変化していくような話ってあるじゃないですか。あれは違うと思いますね。指数関数的にグンと変わります。
――
本の表紙の著者表記のところに、「引き寄せ会社社長」という通り名をつけていますが、この通り名は変わらず。
西山:このキャッチコピーは、ブログを始める際に私のエゴがつけたものですが、定着しているので使っています。サインを下さいと言われたら「引き寄せ社長」と書いていますよ(笑)。
――
本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?
西山:この本の「はじめに」の最後の方に書いていますが、順風満帆な人生を過ごしている方も、漠然とした不安を抱えている方も、今まさに暗闇真っ只中にいるという方も、引き寄せ難民・スピリチュアル難民という方も、ぜひ読んでほしいですね。
実は私の引き寄せのセミナーの参加者は、男性よりも女性の方が圧倒的に多いんです。そして、人間関係で悩まれている方が多いように感じます。
――
みんな、誰かに対して不満を持ったり、我慢をしたりしているのかもしれません。
西山:そうですね。ただ、他人を変えることはできません。相手が自分を満たしてくれないのであれば、相手に期待するのをやめたほうがいいと思います。その分、できる範囲で自分を満たしてあげる。
誰かに意思決定や判断基準を委ねると苦しいじゃないですか。テレビで刷り込まれた理想的な夫婦像であったり、伝記で読んだ名経営者を目指しても、苦しいだけです。それよりも「自分のオリジナルな人生を生きよう」と伝えたいですね。
――
例えばですが、会社からの評価の中で「あなたにはこうなってほしい」と言われたとします。それにはやはり従うべきなのでしょうか?
西山:この場合、「仕事のプロ」と「人生のプロ」という2つの観点から考える必要があります。仕事のプロとは、成果を出し続ける人です。組織に貢献できる人なので、そういう風に言われたらクリアしていかないといけません。
ただ、人生はそれとは別で考えるべきです。人生はプロセスを楽しみ続けるものですから、一つ一つの仕事の失敗・成功で自分の価値を決めず、そのプロセスを追い続けていくことが大事なんです。例えば、転職をして給料1.5倍になりました。でも半年後には倒産しているかもしれない。変化を乗りこなすのが人生のプロです。
その人生のプロになるためには自己肯定感が大事です。自分を傷つけないようにしてほしいですね。
――
最後に、読者の皆様にメッセージをお願いします。
西山:本の中にも書きましたが「大丈夫。楽しんで!」というメッセージが全てですね。すべてがプロセスなんですから、できる範囲で今を楽しんでください。