解説 BOOK REVIEW
「太らない、疲れない、老けない」男になるため、即実践すべきこと
イキイキと働く男性ほど、実年齢にくらべて若々しく見える。 そんなふうに思ったことはないだろうか。
また、そうした若々しい印象には、スリムな身体つき、疲れを感じさせない笑顔といった健やかさが大きく関わっていることにも気づく。
これらのことを考え合わせると、若々しい印象を与えることは、周囲との関係を良好にし、結果として仕事のパフォーマンス向上につながると言えるだろうし、仕事ができる男性ほど、このことを分かっているため健康に気を配っているとも言えるかもしれない。
「稼げる男」と「稼げない男」の差は、健康な生活を送れているかどうか
『「稼げる男」と「稼げない男」の健康マネジメント』(水野雅浩著、明日香出版社刊)によれば、「稼げる男」と「稼げない男」との違いは、太らない・疲れない・老けないために、どれだけ行き届いた生活を送っているかの差だという。
では、健康な身体をつくるにはどうすればいいか。
本書のなかで水野さんは、食事・運動・睡眠・ストレスケアという4つの要素に配慮することが重要だと説いている。
稼げる男は鍋を選び、稼げない男は焼き肉を選ぶ
「稼げる男」になるために、水野さんが推奨する食べ物は鶏の水炊きだ。逆に、ストレス発散のためと脂たっぷりの焼き肉に手を出すのは最低限にしたほうがいい。
なぜ鶏の水炊きなのかといえば、鶏肉にはイミダペプチドという抗疲労成分がたっぷり含まれているから。渡り鳥が何日も休まずに長距離を飛び続けることができるのは、この成分によって、効率的に疲労を除去するシステムが体内に備わっているからなのだ。
なお、様々な実験結果から、イミダペプチドは摂取した2週間後から最も効果を発揮することが分かってきた。普段から疲れにくい身体をつくりたいなら、週に2~3回は鶏肉を食べるのがいいだろう。
稼げる男は速く歩き、稼げない男はのんびり歩く
自分は明らかに運動不足という自覚があったとしても、ジムに通う必要はない。今までよりも少しだけ歩き方に気を配るだけで、あなたは「稼ぐ男」に近づくことができるのだ。
重要なのはスピード。本書では、時速4.8キロ以上の早歩きの人と、時速3.2キロ未満ののんびり歩きの人との、9年後の健康度を比較した研究を取り上げており、前者のほうが後者よりも2.7倍病気になりにくいとの調査報告が紹介されている。
健康な身体を保ちたいなら、早歩きを徹底すること。さらに欲を言えば、歩行時間が1日30分未満だと糖尿病リスクが上昇するという点にも気をくばり、歩く量もできるだけ増やしたほうがいい。
稼げる男は寝る前にラジオ体操をし、稼げない男は寝る前に筋トレをする
疲れをためこまないために欠かせないのが、質のよい睡眠。
この点をクリアするために参考にしたいのが、本書で紹介されている「就寝前の身体のほぐし方」だ。次の三つを実践するだけでいい。
- 腕を回す運動… 脚は閉じたまま、かかとを上げず、腕の外回し&内回し。「肩甲骨を回す」イメージで。
- 身体を横に曲げる運動… 肋骨を広げ、脇腹を広げる動作。肋骨一本一本の間隔を広げるイメージで。
- 身体を前後に曲げる運動… 前屈と後屈。前屈は、だらりと身体の力を抜いて背骨のひとつひとつの骨を広げ弛めるイメージ。後屈は、手を腰に当てて軽く前に押しこみながら動かすのがコツ。
要するに、寝る前は筋肉の緊張をゆるませて身体をリラックスさせることが大切。筋トレなどにより筋肉をこわばらせることは、睡眠の質を落としてしまうのだ。
稼げる男は自然に触れ、稼げない男は人工物に囲まれる
水野さんによると、ストレスケアの有効な方法のひとつが、森林浴をすること。本書では、森林環境である一定の時間をすごすと、被験者の抑うつ症状や敵意が減少し、睡眠や活力が改善したという報告例も紹介されている。
できれば月に一度はこうした機会を持つのが望ましいが、それが難しければ3ヶ月に1度でもOK。それすら難しいようなら、週末などに、樹木の多い公園や神社やお寺でゆっくりするだけでも一定の効果はあるという。
本書では他にも「稼げる男は淹れたてのコーヒーを飲み、稼げない男は缶コーヒーを飲む」「稼げる男は五本指の靴下、稼げない男は普通の靴下」「稼げる男は睡眠時間から確保し、稼げない男は仕事の時間から確保する」といった気になるトピックが目白押しだ。
健康面に少しでも不安がある男性なら手にとって損のない内容といえるだろう。
インタビュー INTERVIEW
「デブは出世できない」を現場で見た人の証言
突然だが、アメリカ社会で出世できない人には、いくつかの共通傾向があるらしい。
例を挙げれば、肥満、喫煙、低身長、歯のケアが不充分……といったものだ。
『「稼げる男」と「稼げない男」の健康マネジメント』(明日香出版社刊)の著者である水野雅浩さんは、リーマンショックが起きた2008年当時、香港にいた。そして、そこでまさに「肥満」を理由に会社を解雇されたとおぼしきビジネスパーソンを多数見かけたという。
日本社会においても、同じような傾向が今後強まる可能性があるとしたら、私たちはどのように備え、毎日を過ごせばいいのだろうか。今回は水野さんご本人にお話を聞いた。
ファストフードの常連客だった金融マンを襲った悲劇
――
本書のメインテーマは「健康マネジメント」ですが、まずは、水野さんが健康の重要性を強く意識するようになったきっかけからお話いただけますか。
水野:いくつかありますが、香港で日本食のレストランに勤務していたときの経験が大きかったです。
そのレストランは香港で最も有名な金融ビルの目の前にあったのですが、店内で働きながら、道路を隔てた向こう側の金融ビルに入っていくビジネスパーソンを見ていたら、大きく分けて2パターンの人たちがいることに気づいたんです。
まず、ファストフードチェーンの袋を持ってビルに入っていく肥満気味な人たち。もう1パターンは、私が勤めていたレストランに頻繁に来る、スリムで肌ツヤの良い人たち。
言うまでもなく、ファストフードに比べて日本食は断然ヘルシーです。「何を食べるか」によって、健康面にかなりの差が出る可能性がある。そう気づかされたことは、大きな契機となりましたね。
――
なるほど、頭で理解するだけでなく、そのような現実を目の当たりにすることは大きいかもしれません。ただ、水野さんが当時の職を辞してまで、「健康」をテーマとした取り組みを始めるようになった理由はそれだけだったのでしょうか?
水野:いいえ、この話には続きがあります。そのころ、ちょうどリーマンショックが起きまして。
私は当時、レストランの営業活動のため、現地で開催される異業種交流会に積極的に参加していたのですが、ある交流会へ行ったとき、会場で「ファストフードの袋を持って金融ビルに出入りしていた肥満気味の人々のうちの一人」を見かけたんですよ。
海外では「健康にもを配れない人には仕事を任せられない」と考える人たちがいます。もちろん100%断言はできませんが、この考えに則れば、彼は肥満を理由に会社をクビになったのかもしれません。彼は交流会の場で必死に売り込みをしていました。
当時の私にとって、こうした光景を目の当たりにしたことは、かなりインパクトがありました。
――
「スリムで肌ツヤの良い人たち」はクビにならなかったのでしょうか。
水野:そうですね。実際、現地の知り合いから聞いたところによると、彼らの多くはリーマンショック後、クビになるどころか、逆に会社の再建を任されたそうです。
――
これまでのお話は海外に関するものでしたが、ここ数年の日本国内を見ていて、「健康」への意識変化は見受けられますか?
水野:変化はあります。日本企業の動きを見ていて、明らかに「健康経営」に舵を切っているところと、そうでないところとに二極分化し始めているように感じます。
たとえば、ある大手製薬企業では、社長自ら朝7時に出社し、始業前に社員と一緒にヨガをして、朝食を摂っています。そして8時になると、全社員が仕事に取りかかる。当然、残業はありません。
なぜこのような働き方が可能になるのかといえば、経営者が「社員が健康であればあるほど、パフォーマンスが上がる」ということに気づいているからです。「健康経営」の典型例といえるでしょう。
――
「健康であるほど、パフォーマンスが上がる」という話は大いに頷けます。ただ、今ご紹介いただいたケースのように会社側に社員の健康への理解があればベストですが、そうでないケースも少なくないと思います。個人でできることとして、何か手軽にできて、早く効果を実感できる健康マネジメントの方法があれば教えてください。
水野:まずは就寝前に5分間、「スローラジオ体操」を取り入れてみるのがおすすめです。
今、多くのビジネスパーソンは「睡眠の質の低さ」に悩まされています。睡眠は身体を休め、日中の疲労を回復させるためのものですが、本来の機能を果たせていないんですね。
働く人にとって、仕事をしている時間というのはアドレナリンが絶えず出ている状態。ですが、寝る直前までテレビやパソコンやスマートフォンの画面を眺めていると、こうした緊張状態を解くことができません。
結果、寝ようと思ってもなかなか寝つけなかったり、寝ても寝ても疲れがとれないということになってしまいます。
つまり、質の高い睡眠をとるためには、身体を「緊張モード」から「休息・回復モード」へと切り替えることが必要なんです。その意味で、前身の筋肉をゆるめるためのストレッチになるスローラジオ体操は有効だといえます。
個人差はありますが、取り入れて1日、2日もすれば効果を実感できるでしょう。
肥満だけでなくEDも…「食べすぎ」の悪影響が怖すぎる
近年、増えているといわれる20代、30代といった若年層夫婦のセックスレス。
その原因は様々だが、男性が性機能障害を抱えているために…というケースも中にはあるだろう。
では、男性の性機能障害は何によって引き起こされるのか。
そこには「食」が大いに関わっている。
後半では、食事が生命に与える影響の大きさについてお話をうかがった。
健康状態は、食事、運動、睡眠、ストレスケアという4要素のバランスで決まる
――
本書では、「健康マネジメント」について、食事、運動、睡眠、ストレスケアという4つの観点から語られていますが、やはり、これら全ての要素に「バランスよく」気を配ることが重要なのでしょうか。
水野:その通りです。四つの要素に関して行き届いた生活を送ることは、オセロでいえば、四つ角をおさえるようなもの。一見、優勢に見えたとしても、四つ角をおさえていないかぎり、いつ形勢逆転されてもおかしくないですから。
どんなに良い食事を摂っていても、睡眠の質が低ければ、思ったようなパフォーマンスを出すことは難しいでしょう。
さらにいえば、若い時期にどれだけ、これらの要素に気を配れているかどうかで、老後の健康状態に雲泥の差が出ます。
――
「老後の健康」について、もう少し詳しく聞かせてください。
水野:私は香港のレストランに赴任する前、10年間ほど介護の仕事に携わっていました。
そのなかで、80代、90代になっても元気に過ごしている方と、60代、70代ですでに何かしら病を抱えている方とで、どのような違いがあるのかについて考えさせられる機会があったのです。
それはひと言でいえば、若いころにどれだけ自分の身体を大切にできていたかの違いです。
若いころ健康に気をつかっていなかったばかりに、60代で慢性腎不全になってしまった方をケアしたことがありました。腎不全になると、身体が自ら血液をきれいにすることができなくなります。
結果、週に二、三度は病院へ行き、人工透析をおこなって、血液を入れ替えなければなくなる。また、透析治療を続けていると、毛細血管はボロボロになってしまいます。
このような状態で、その後も二十年、三十年と生き続けていくのは辛いものです。「自分はどんな老後を過ごしたいのか」から逆算して、若いうちに健康への投資を始めることをおすすめします。
――
リーマンショックをめぐってのエピソードもそうでしたが、やはり、そうした実体験を積み重ねてきたことが、水野さんの現在の活動につながっているわけですね。
水野:そうですね。香港にいたころの話に戻ると、現地のビジネスパーソンを見ていて、習慣の違いにカルチャーショックを受けることがよくありました。
たとえば、息抜きの仕方。日本では、15時ぐらいになると休憩をとり、近所のコンビニへ行ってコーヒーを買うという光景をよく目にしますよね。でも香港では、こうしたとき、漢方薬局へ行って漢方のお茶を飲むのが常識なんです。
その背景には、東洋医学ならではの予防医学的な考えがあります。
現地の予防医学の先生のところへ行ったとき、「病気にならないよう、定期的に私のところに来なさい」といわれたことがありましたが、対症療法をよしとする西洋医学とは全く異なる考えにもとづいて暮らしている人たちがいるのだと思い知らされた瞬間でした。
――
そうしたことも含め、異文化に触れたことで新たに気づかされたことも多かったわけですね。
水野:もうひとつ付け加えるなら、香港にいたことで、和食の素晴らしさを再認識させられたことも大きかったように思います。
インタビュー前編でも、「日本食レストランに頻繁に来るお客様ほど、スリムな体型を維持している人が多かった」という話をさせていただきましたが、和食は栄養バランスからいっても、理想的な食事なのです。
ザッと挙げるだけでも、しっかりタンパク質を摂れる、油分が少ない、旬の野菜を多く摂れるために抗酸化力が高まる、といった点があります。
――
そう考えると、日本人は恵まれた状況にあるわけですが、必ずしもその恩恵を充分に受けているとはいえないように思います。水野さんは、日本の平均的なビジネスパーソンの食への意識に関して、どのような問題意識をお持ちですか。
水野:「うどんとご飯のセット」が典型ですが、多くの日本人は炭水化物を摂り過ぎだと思いますね。
身体を動かす仕事に就かれている方であれば問題ないのですが、オフィスワーカーの場合、このような炭水化物の摂り方は過剰といわざるをえません。
炭水化物は糖質と食物繊維で構成されています。つまり、炭水化物を過剰に摂れば、糖質過剰に陥るわけです。過剰に摂取した糖質は内臓脂肪になります。そして、状態が悪化すれば、糖尿病になる。
――
食を侮ると、大変なことになるのですね……。もうひとつ食に関していえば、本書のなかで「食べすぎはED(勃起機能の低下)につながる」と書かれていたのも驚きでした。
水野:もう少し正確に申し上げると、糖質や脂質の摂り過ぎがEDにつながります。これらの成分を摂り過ぎることで血液がドロドロになり血流が悪くなってしまうからです。EDは血管の詰まりによって起こるというわけですね。
また、こうもいえます。精力の強さ=生命力が高さという面がありますが、人間というのは、少し飢餓感があるくらいのほうが、生命力は高まるんですよ。
――
それはどういうことですか?
水野:「トマトに水をあげすぎるのは良くない」といった類の話を聞いたことがありませんか? あれと同じで、生命体のなかに埋め込まれている「長寿遺伝子」は飢餓状態になって初めて発現するという研究報告があります。
つまり、「少し足りない」くらいのときのほうが身体は目覚める。「子孫を残そう」という意識が強く働くわけです。なので、腹八分目ぐらいでやめておくのがちょうどいいんですよ。
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最後になりますが、読者の皆様へメッセージをお願いします。
水野:インタビューの冒頭で「健康」に興味を持ったきっかけはいくつかあったという言い方をしましたが、実は、リーマンショックの際に目の当たりにしたこと以外にもうひとつ、大きな契機となった出来事がありました。
レストランの集客のため、ある五つ星のレストランへ営業に行ったときのことです。当時私は30代だったのですが、今よりも10キロほど太っていました。そのせいか、あまり良い印象を与えなかったんでしょう。ホテルのコンシェルジュは私の姿を見るなり、こう言ったんです。
「あなたのように、自分の身体すらマネジメントできない人に、我々と同じレベルのサービスができるとは思えない。世界のVIPをあなたに紹介するわけにはいかない」と。
不健康であることがビジネスチャンスを失うことにつながるという現実を叩きつけられた瞬間でした。これからますますグローバル化が進めば、国内にいても私のような経験をする人は増えていくでしょう。
その意味で、若いうちに健康習慣を身につけることは大変重要なことだと考えています。
また、三十代から四十代にかけては、仕事の質も量も右肩上がりに高まっていく時期。と同時に、健康の土台が崩れやすい時期でもあります。気持ちとしてはアクセルを踏みたいのに、身体がブレーキをかけてしまう。そんなビジネスパーソンをこれまで多く見てきました。
日頃からコツコツと健康マネジメントを行ない、安定した健康状態を作っておくことが、仕事のパフォーマンを押し上げることにつながります。
後悔の少ない人生を送っていただくためにも、本書でご紹介したメソッドを活用していただけたら、うれしいですね。