新型コロナウイルスのパンデミックに由来する世界的な景気後退はほぼ確実、国内でも職を失う人や内定を取り消される人が出るなど「お金」にまつわる不穏なニュースが多い昨今。そうなると、「給料以外の副収入を」と考えるのは自然なことだろう。
比較的少額で始められ、上手にやれば一定の利益を出せるとされる「FX」は、こんな時こそ「やってみよう」となりやすい。
ただ、初心者が始めて、いきなり継続的に利益を出せるほど、投資は甘くない。『初心者からプロまで一生使える FXチャート分析の教科書』(鹿子木健著、総合法令出版刊)は、FXで欠かせないチャート分析の手法を解説するとともに、準備体操なしで、いきなり走り出してしまう初心者投資家に警鐘を鳴らしている。
個人投資家である著者は、FXには始める際に「絶対スキップしてはいけないこと」があるとしている。
まず、一つ目が、「暴走しない決心をすること」。FXは決して「ギャンブル」ではないし、スリルを味わうためのものでもない。特にチャート分析を使う手法は、チャートの動きをよく研究したうえで、自分が投資をする条件と、利益確定・損切をする条件を決め、その通りに粛々と行う、どちらかというと地味な作業だ。
このことがわかっていないと、FX投資は暴走して、勝てる見込みのないタイミングで、身の丈に合わない規模の取引をしてしまう。もちろん、これでは利益は出せない。
お金が欲しくてFXを始めるのだから「一攫千金」を目指したくなるのは理解できるが、これも相場に踊らされ、自分を見失う原因になる。
だから始める前に、「FXで何をしたいのか」を明確にすることが大切だ。これも、鹿子木氏が挙げる「スキップしてはいけないこと」の一つである。
収入を5万円でも増やせればいいのか、まとまった資金が欲しいのか、老後の生活資金として年金にプラスして収入が欲しいのか、あるいはやりたいことがあって、そのための資金が必要なのか。人によってFXに目をつける動機は違う。その動機がはっきりしている人だけが、FXで必要な知識を入れる勉強もできるし、利益を出すための地味な作業を淡々と続けることができる。FXは手段であって、目的であってはいけないのだ。
準備もせずに、いきなりトレードを始めて「うまくいくだろう」などと考える人に、FXをやる資格はないと私は思います。(本書より引用)
ろくに勉強もせず「とりあえずやってみよう」で始めがちなのがFXの特徴。しかし、鹿子木氏はそんなふうにFXを始める人に厳しい言葉を投げかける。
投資銀行の元ディーラー、投資歴何十年の猛者、現役のファンドマネージャーといった人々がひしめくのがFXの世界。彼らですら毎回利益を出せるわけではないのに、始めたばかりの初心者が勝てるはずもないからだ。
継続して利益を出すことができるようになるまでには基礎的な準備が必要。そもそもチャート分析の勉強を始める前ですら、頭に入れるべきことがある。鹿子木氏によると「1年間は準備が必要」。これもスキップしてはいけないポイントの一つだ。
準備なしノウハウなしで始めてもうまくいくことはないと心得ておきたい。
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「再現性」と「普遍性」がないトレードはただのギャンブルになってしまう。本書ではそうならないためにも、必要な準備とチャート分析の方法、そして、トレードのノウハウを解説していく。
どれだけ準備をしても、経験を積んでも、勝率10割にはならないのが投資の世界。それでも少しでも勝率を上げることはできる。そのために必要なことは全て身につけてから、トレードに臨んだ方がいいだろう。
(新刊J P編集部)
■FXで勝つために必要な1年間 何をやるべきか
鹿子木: ひとことで言うなら「勝てる準備」。つまり利益を出す準備です。FXを始める準備というと、皆さんチャートを読む練習をしたりとか、FX関連の情報の取り方、読み解き方をイメージすると思いますが。それだけでは「勝てる準備」ではありません。
FXを始めると、当たり前ですが、判断をまちがえれば自分のお金が減っていくわけです。「始めてみないと何もわからない」ということで、FXの基本的な情報を頭に入れて、チャートを読む練習をしたらいきなりトレードに入ってしまう人がいるのですが、きちんと利益を出す準備ができていないなら始めるべきではありません。
じゃあ「勝てる準備」とは何なのかということになりますが、FXの仕組みを知ったり、チャートの読み方を学んだりというのも必要なのですが、大事なのは自分の「勝ちパターン」を確立することです。
鹿子木: 人それぞれではありますが、「こういうやり方でやると利益が出やすい」という一般的な方法はやはりあります。それを無視して高度なことをやっても、たぶん勝てない。うまく利益が出やすい方法をまず身につけてから始めるべきだと思います。
これは、もしかしたら「方法」というより「ルーチン」といった方がいいかもしれません。チャートの見方、準備の仕方、ポジションの取り方、利益確定の仕方、損切の仕方まで、その時の思いつきでやるのではなくて、一連の動作をパターン化することが大切です。これを1年かけて覚えるべきなんです。
鹿子木: チャートで毎日相場を見ながら練習する必要があります。「デモトレード」といって、バーチャルに取引ができるサービスを証券会社が無料で提供しているので、まずはそこで練習をしてみてください。
デモトレードは本番のトレードとまったく同じ環境でできるので、1年かけてここで勝てるようになることを目指していただきたいです。デモで勝てるようになったということは、本トレードで勝つ準備ができたと思っていいと思います。
鹿子木: 私は毎日1回相場をチェックして、ポジションを持ったり決済したりするスタイルでやっています。ポジションをとってから決済までの期間でいうと、短くて24時間、長くて数週間です。数時間で決済することも、逆に数カ月以上ポジションを取ることもあまりないですね。
鹿子木: そうですね。ずっとチャートに張りついていられる人は少ないでしょうから、1日1回チャートを見るというやり方が、普通に仕事をしている方にとってもやりやすいのではないでしょうか。
鹿子木: これは本当によく聞かれます。確かに気になるところですよね。ただ、私は最初の資金はいくらでもいいと思っています。5万円でも10万円でも、用意できる人は100万円でもいい。
大事なことは額ではなくて「投資として捉えられるかどうか」というところです。というのも、額が少ないとかえって「投資」の感覚が薄れて「少ない元手でたくさん儲けたい」というギャンブルの感覚になってしまう人がいるんですよ。それだと、たとえ最初は5万円ではじめても、ギャンブルの感覚でやっているうちはすぐなくなります。そして次の5万円、その次にまた5万円となる。これではお金は増えませんし、ノウハウも身につきません。
その人にとって「投資として真剣に取り組める額」が、初期投資の適正額なんだと思います。
鹿子木: 合っています。ただ4万円でレバレッジを限界までかけると99%お金をなくしますけどね(笑)。
鹿子木: 1倍(すべて自己資金=レバレッジをかけない状態)から3倍までにしておいた方がいいと思いますね。
鹿子木: そうです。3倍がぎりぎり投資かギャンブルかの境界線だと思います。それを超えてレバレッジをかけてしまうと、精神的なストレスが急に高まりますし、興奮してどんどん投機的になっていく人も多い。
自分の話をすると、基本的には1倍から2倍にしています。3倍にするのはよほどのチャンスの時ですね。長く続ける資産運用としての投資をしたいなら、レバレッジは3倍以内にしておくべきです。
鹿子木: 本の中では、日本円、米ドル、豪ドル、カナダドル、NZドル、スイスフラン、ポンド、ユーロを組み合わせた28種類の通貨ペアでトレードすることをおすすめしているのですが、この中でレバレッジは1倍から3倍でやっていただきたいということです。
それ以外の通貨はリスクが高いので、レバレッジうんぬん以前に選ぶべきではないと思っています。たとえば少し前にトルコリラが1リラ40円から短期間で20円まで下がったことがあったのですが、この時にリラ買いのポジションをとっていたとしたら、レバレッジをかけていなくても自己資金が半分になるわけですから、レバレッジをかけていたら悲惨です。
鹿子木: そうですね。ここのところおとなしかったですが、ドル/円の値動きでも1日で2%から3%ほど上下することは、特別なことがなくても起こりえます。「何が起きてもおかしくない」ということは忘れないでいただきたいです。
■FX初心者が危ない 撃沈をさけるためにやるべきこととは?
鹿子木: その人がどんな資産運用をしたいのかによるのですが、これまで一度も投資をしたことがないという人の場合は「FXだけやる」のはおすすめできます。
というのも、資産運用のための投資としてFXをやるのであれば、身につけることや知らなければならないことは多いですから、他の投資と並行してやるのは現実的に厳しい。先のことは先のこととして、まずはFXをものにして、安定して利益を出せるようにするというのは賢明だと思います。
鹿子木: メリットとしては「流動性」と「換金性」です。
普通預金は口座にお金が入っている限り、銀行でもコンビニのATMでも、どこでも下ろせますよね。FXの口座もそれに近くて、常に現金を預けておけますから、チャンスがあったら投資してとって少し増やす。チャンスがなければそのままにしておく、ということができます。
投資信託や外貨預金だとそれはできなくて、投資したら投資し続けていないといけません。FXはそれとは対照的で、勝てそうな時だけ投資するということができるんです。だから、安定して利益を出せるようになれば、金利が高い預金口座という感じになります。
鹿子木: FXの初心者に対しては、これから始めるうえでの羅針盤にしていただけたらいいなと思っています。この本一冊読めばプロになれるとは言いませんが、これだけ情報が溢れている世の中ですから、情報を得られないために失敗する人よりも、まちがった情報を信じて変な方向に向かってしまう人の方が多いので、この本を使って確かめながら進んでいただきたいです。
プロの方やプロ級の方、トレード歴が長い方に対しては、自分自身のトレードをよりシンプルにして、余計なものをそぎ落として、極力負ける要素を排除するために役立つのではないかと思っています。
鹿子木: ファンダメンタル分析が代表的です。これは国の経済基盤だとか財政とか、産業構造、GDP成長率などの指標から通貨の値動きを予想していくというやり方なのですが、通貨取引は「その国の経済が好調なら通貨が買われる」というようなロジックでは動いていないんですよ。経済が好調でも通貨は売られるということは普通にあるので。
鹿子木: そうですね。チャートを見る方が自分でコントロールできる部分が増えると思います。値動きの中に法則性を見つけて、それに基づいて予想していくという方法で、もちろん外れることはあるのですが、分析手法を身につければ大きく外すことはそこまで多くありません。たぶん、「空が曇ってきたら雨がふりやすい」とか「雲がなかったら温度が上がりやすい」というのに近いと思います。
相場というのは色々な思惑を持った人間の心理の集まりなのですが、全体としては「行くべきところ」に行くものです。その群集心理を視覚化したものがチャートなんですね。チャートの値動きという「過去」を見て、次に起こることを予想していく。具体的には「ちょっと上がりかけているから、もっと上がるかもしれない」とか「いつも下がっているあたりまで下がったから、このあたりで反転して上がるかも」ということで、法則にのっとって「いつも起きていること」を基準にするわけですから、厳密にいえば「予想」とも言えないかもしれません。
鹿子木: こんなことを言うとあまり喜ばれないかもしれませんが、いきなり始めたがるんですよ、皆さん。やってみないとわからないということで、最初から50万円入れて始めてしまう。そこから得るものも確かにあるんですけど、まずデモトレードをやって、そこで利益が出せるようになるまでは、自分のお金を使わない方がいいです。
もう一つ、急に人が変わってしまう方がいるんですよ。普段はセルフコントロールもできるし、人柄もいいし、会社ではいい仕事をするんだけど、FXになると急に抑制が効かなくなって危ないトレードをしてしまうという。
鹿子木: そういう方は結構多いですね(笑)。たとえば株の場合はいい情報がFXより多いですし、企業に対する投資なので、ある程度リテラシーを意識している人が多いのですが、FXはギャンブル的な発想で入ってくる人が多いんです。
くれぐれもセルフコントロールと「お金を稼ぐこと」が目的だというのを忘れないでいただきたいです。「稼げなくても楽しければいいや」という考えが入ってきやすい世界なので。実際、FXで利益を出すための準備ってひたすら地道で、まったく楽しくないですよ。毎日同じ時間にチャートをチェックして、判断して、欲を出さないようにコントロールしてっていう繰り返しです。
鹿子木: 人は弱いものだということを忘れないこと。それと自分を信じないことです。いつ何が起きるかわからないのが人間です。今は理性で欲をうまくコントロールできていても、目の前に一億円積まれたらどうなるかわからないでしょう?
だから、欲を刺激しないような仕組みを作るのが大事だと思っています。レバレッジを低くしてトレードするのはその仕組みの一つですし、チャートを見るのは1日1回30分にするとか、スマホではチャートを見ないというのもそうです。
鹿子木: これから始める方に対しては、1年間学ぶ時間を持って、準備をすること。そして、遊びや趣味やギャンブルではなく、お金を増やすための「仕事」を一つ増やすつもりでFXに取り組んでいただきたいです。
すでに始めているけどうまくいっていない方の場合、うまくいっていないのは技術や知識が足りないというよりも、「スイッチ」がどこかズレているからだと思います。そのスイッチを見直すことができれば、状況は好転するはずなので、がむしゃらにトレードしたり、色々な手法を試すのではなく、自分のどこに問題があるのかをシンプルに考えていただきたいです。
世の中の真理はシンプルなものです。あれもこれもとあちこちに手を出せばいいわけではなくて、引き算で余計なものをそぎ落としていくことの方が必要で、最後に残ったものを大事にしてほしい。これは投資の世界でも同じだと思います。そのために今回の本が役立てばいいなと思っています。
(新刊JP編集部)
鹿子木 健(かなこぎ・けん)
株式会社メデュ代表取締役
お金を扱う能力を高めるための普遍的な知恵を伝えることがライフワーク。2004 年から個人投資家として投資活動を始めた。投資全般に精通しているが、不動産投資と外国為替証拠金取引(FX)が得意分野。2014 年から関東財務局登録の投資助言者として4 年間、数千人の個人投資家に対しFX 投資助言を行い、自身の全トレードをリアルタイムで公開。現在、FX 投資家のコミュニティ「SOPHIA FX®」を運営している。エッジの効いたチャートパターンと勝てる行動パターンを組み合わせた「勝ちパターン」を提唱し、「鹿子木式10 の勝ちパターン」としてまとめ、発信している。
著書に『一週間でマスター FX 入門 なぜ鹿子木式は銀行預金より安全で不動産投資より稼ぐのか?』(雷鳥社)、『サラリーマンでも1 年で1000 万稼ぐ副業FX』(ぱる出版)、『勝てない原因はトレード手法ではなかったFXで勝つための資金管理の技術 損失を最小化し、利益を最大化するための行動理論』(共著/パンローリング株式会社)などがある。代表を務める株式会社メデュは2020 年4 月に近畿財務局に金融商品取引業(投資助言・代理業)の登録申請済み。登録完了後は、FX 投資助言サービス及び勝ちパターンシグナル配信関連サービスを開始の予定。
株式会社メデュ
https://medu.biz/
著者:鹿子木 健
出版:総合法令出版
価格:1,500円+税