生きていくうえで、自信や自己肯定感を正しく持てているかは大事な問題だ。
世の中には、仕事で優秀な成績を残して、誰からも認められているにもかかわらず深刻な自己不信を抱えている人もいれば、誰に認められなくても平然と自分を信じて生きていける人もいる。両者の違いこそ「自己肯定感」にほかならない。
日本とアメリカで心理セラピストとして活躍する王丸典子さんは『フェアシンキング (自己肯定感が高まる最強の思考法)』で、自己肯定感を持てないまま生きることの弊害と、日本人の自己肯定感の低さを指摘している。
自己肯定感の低い人、つまり、自分に対する評価がネガティブに偏っている人は、自分自身の人間としての価値を見出すことができず、自信も持てません。また、迷いや不安に翻弄されて、自分の望む方向になかなか進めません。(P6より引用)
王丸さんは自己肯定感が低いまま生きることの弊害についてこんなことを語っている。自分に価値を感じられない以上、どんなに仕事で大きな成果を残しても、他人から深く愛されても、自分への不信感がいつまでもつきまとうというわけだ。
また、自己肯定感が低い人の特徴としてはこんなものがあるようだ。
・他人の顔をうかがいすぎる……自分の気持ちよりも「相手からどう見られているか」が先に来る
・ゆきすぎた完璧主義……「できているところ」や「長所」よりも「悪いところ」や「改善点」に目が行ってしまう。
・他者との比較によって自分の価値を確認する傾向……評価の軸が「自分」ではなく、他者からの評価。
こうした特徴を持つ人は、必然的に仕事でも家庭生活でもストレスを抱えやすくなるが、そのストレスは「自分そのもの」を見つめなおすことでしか、本質的には解消されない。非常にあやうく、苦しい状態だといえるかもしれない。
自信や自己肯定感を持てない自分を変えるために、王丸さんは「フェアシンキング」という思考法を提案している。
自己肯定感が低い人は、自分のことを実際よりも低く見たり、思考パターンがネガティブな方向に偏りやすい。フェアシンキングはそうした考え方を公平で客観的な方向に修正していくものだ。
フェアシンキングは、ポジティブかネガティブかという、頭に浮かんだ考えの内容そのものよりも、考えたことをひとまず一度見つめ直してみることに重きを置く。その結果ポジティブな方に考えた方がしっくりくるならそう考えればいい。
問題はどうしてもネガティブな考えが頭に浮かんでしまう場合だ。この場合は、思考が少しでもニュートラルな方向に戻るようなことを考えてみるのがポイントとなる。
その場ですぐにネガティブな考えを追い払うことができなくても、この取り組みを習慣化することによって、ネガティブな方向に考えがちだった思考パターンや感情、そして自分という存在への捉え方が、現状をありのままに受け止めるフェアなものに、次第に変わっていく。結果、必要以上に自己否定や自己批判をすることがなくなるため、自己肯定感を高めることにつながるという。
王丸さんは本書のなかで、自己肯定感の正体とその高め方、そしてフェアシンキングについて、さらに詳しく解説している。
漠然とした不安や、満たされない自尊心、不毛な競争心や嫉妬心。
こうしたものは、もしかしたらあなた自身の自己肯定感に起因するものかもしれない。もっと楽に、ストレスを抱えることなく生きるために、本書で提示されるフェアシンキングの考え方は、多くの人にとってヒントになるのではないか。
(新刊JP編集部)
■自己肯定感は「流動的」なもの 安定して自信のある自分を作るために
王丸: 色々な解釈があるのですが、私は英語でいう「self - esteem」という言葉が元になっているのかなと考えています。自分のありのままの価値や能力を、卑下することもなくうぬぼれることもなく、ニュートラルな視点から受け入れるということです。
王丸: それは100%可能です。大人になってからも、様々な経験や成長を通して自己肯定感は変化します。
それと、自己肯定感や自信というのは、いつも固定されているものではなく流動的で、たとえば仕事人としての自己肯定感と家庭人としての自己肯定感は違うということも知っておくべきだと思います。ものすごく仕事ができて、周囲から尊敬されている人も、家庭内のこととなると自信がないというケースもありますし、日によって自信がある日とない日があるというのも、実感としてわかる方が多いのではないでしょうか。
そういう自己肯定感の実体を知ったうえでやるべきことをやっていくということが大切です。今回の本でもそのための取り組みについて書いていますので、参考にしてみていただきたいですね。
王丸: ゴールとしては幸福感や充実感をもって生きるということです。自己肯定感はこの二つに大いに関係していて、自己肯定感が低い人が幸福感や充実感をもって生きていくのは難しいんですね。そう考えると、自分のことを公平な目で見て、あるがままに認めてあげる姿勢を持つことは、気持ちのうえでの健康や幸福感、充実感を持つことにつながるので、とても大事なんです。
王丸: もちろんです。気持ちや精神状態は日々変わるものですから。だけど、自己肯定感を持てない日ばかりが続くのはちょっと問題なので、そこは少しずつ良くしていきましょう、ということですね。
王丸: 色々な方がいらっしゃるのですが、拠点が銀座なので仕事をバリバリされている方が多いです。たとえば、ある女性のお医者さんは仕事がものすごくできる方なのですが、子どもの頃から親に言われるままがんばって医者になったからか、人から言われたことを150%こなすことは得意なのですが、プライベートになると急に会話が苦手になってしまう、という悩みがありました。美容院で美容師さんとするようなちょっとした世間話ができなかったり、ということです。
もう一人は、こちらもお医者さんで男性の方なのですが、やはり親からがんばれと言われて、その通りにやってきた人生だったので、自分で何かを決断したことがないことに悩んでいらっしゃいました。自分が何者だかわからない、と。
王丸: そうですね。ただ、カウンセリングに来ていただいて、一つひとつ、自分のやっていること、やってきたことを第三者と一緒に確認することで、少しずつ自己肯定感や自信といったものを安定して持てるようになったという方は多いです。もちろん、そうなった人の中には長く時間がかかった人もいれば、2回くらいのカウンセリングで精神面が安定してしまった人もいて、千差万別なのですが。
王丸: 性格がオープンなことでしょうか。自分で問題を認識していて、そのうえでアドバイスを受けた時に、比較的スムーズに「じゃあ、ちょっと試してみようかな」となる人は早いですね。
フェアシンキングでは、物事を俯瞰して見るのですが、それはこれまで慣れ親しんできた視点からひとまず離れてみるということでもあるので、勇気がいることではあります。それを柔軟に取り入れてみたら、パッと力が抜けて楽になったという方はいらっしゃいますね。
王丸: もちろん、アメリカにも自己肯定感が低い方はいるのですが、日本の方の方が「根が深い」と感じます。
よく言われるように、アメリカは子どもを「ほめて育てる」ところがあるんです。もちろん、日本でいうところの「毒親」のような人もいますし、虐待する親もいるのですが、たとえ家庭環境が悪かったとしても、学校に行けば先生がほめてくれますから、生活のすべての場所で自分を認めてもらえないということは少ないんです。
じゃあ日本はどうかといいますと、私のように昭和の時代に教育を受けた世代の人間には、学校でもほめられず、家でもほめられなかったという人は結構多くて、そういう人はやはり自己肯定感を正しく持ちにくくなります。
また、日本の場合は協調が重視されたり、なにかと謙遜する文化の影響もあるでしょうね。協調が過度に重視されると、他人の顔色を見て自分の考えや行動を決めることにつながりますし、謙虚さは「自分で自分の価値を認めることは傲慢だ」という考えに結びつきやすい。
日本にもアメリカにも自己肯定感が低い人は一定数いるのですが、日本の方が割合として多く、問題が根深いと感じています。
王丸: いるとは思いますが、私のカウンセリングに来る方は、ほとんどの方が自己肯定感の低さを自覚しています。
ただ、そういう人も、私のところに来る直接の原因は「抑うつ感」だったり「不安感」だったりします。自己肯定感の低さは自覚しつつも、そうした悩みと自己肯定感がどうかかわっているかはわかっていないというケースはありますね。
王丸: そうですね。イコールではないのですが、ある程度関係はあると考えていいと思います。やはり自分を信じられるようになれば気持ちは安定しますから、先行きの不安にしても、「何とかなるかな」という方向に考えが向くようになるので。
■幸福感や充実感を持ちにくい 自己肯定感が低い人の特徴
王丸: 他人の評価を基準にして自分を判断してしまうというのが大きな特徴です。たとえば、誰かに自分が着ていた服を「そのブラウス、似合わないんじゃない?」と言われただけですごく怒ってしまったり、自分全体が否定されたように感じてしまうとか、あるいは他人から評価されたり賞賛が受けられないと落ち込んでしまう、といったことです。
自己肯定感を持てている人であれば、評価の軸が自分ですから、着ている服が似合わないと言われても「そう?私はこのブラウス好きなんだけどね」と返せるのですが、自己肯定感が低いとなかなかそうは言えないんです。
あとは家庭環境のところで、親が過干渉だったり、いいところをほめるよりもマイナスポイントを指摘するタイプだったりすると、自己肯定感は育ちにくい傾向がありますね。もちろん、親がそういうタイプでもあまり気にせずに育ったたくましい人もいるのですが、繊細な人だと自分で自分を認められず、内心ですごく傷つきながら育ってしまうことがあります。
王丸: 根本的には本人の問題なので、どこまでやるかという問題がありますよね。周りの人に何ができるかというと、じっくり話を聞いてあげるくらいしかないのではないかと思います。
ただ、その時にはぜひ「アクティブ・リスニング」をしてみてください。相手の話をしっかりと聞く姿勢を持って、相手が「Aだと思っている」と話していたら「あなたはAだと思っているんだね」と共感してあげる。そうすることで、相手は「この人は自分のことを理解してくれた」と考えます。これだけでも相手は「自分の言っていることは、他の人の理解を得られる価値のあることなんだ」と感じられて、気持ちの面で少し上向くんです。
王丸: 「フェアシンキング」とは私が作った言葉で、欧米の心理学のフィールドで一番使われている療法(認知行動療法CBT)を簡素化したセルフエクササイズを指します。
私たちは誰しもが、自分の中の固定観念を通して物事を見ていて、たとえば乗らなければいけない電車に乗り遅れてしまった時、人によってはこの世の終わりのように感じて落ち込んだり、逆に「次の電車でいいか」とさして気にしなかったりします。
同じ出来事に遭遇しても、人によって解釈が違うわけで、その違いをもたらしているのが固定観念で、後者の「次の電車でいいか」と思える人の方がストレス耐性は高いと言えます。
自己肯定感が低い人ほど、同じ出来事を見てもネガティブな方向に考えやすいので、それを少しずつ「次の電車でいいか」という方向に考えられるように、もっといえば自分の気持ちが安定して、自分のことを自分で引っぱり上げられるように、物事の見方を変えていきましょう、というエクササイズですね。
王丸: できます。新しい考え方や物事の捉え方を習得するのは、運動や楽器の演奏を習得するのとまったく同じで、反復によって身についていきます。
王丸: 「ビジネスエリートが実践」と書いてはいるのですが、ビジネスエリートじゃなくても、悩みや不安を抱えるすべての方々に読んでいただきたいと思っていますし、自己肯定感が低い方でなくても、落ち込んだ時や不安な時に手に取って、エクササイズを実践していただくと、気持ちが安定すると思います。
王丸: 今世の中がこういう状況で、不安がない人はほとんどいないはずです。仕事が減ったり、なくなったりした人ももちろんそうですし、富裕層の方だって不安がないわけではないでしょう。
今回の本で書いているフェアシンキングは「自分の心をあやすツール」だと思っています。心が揺れて不安な状態はつらいものですが、うまく自分をあやしながら日々を過ごすことで、大変な事態でも乗り切っていくことができるはずです。この本がそのための助けになることを心から願っています。
(新刊JP編集部)
王丸典子(おうまる・のりこ)
カリフォルニア州公認サイコロジスト。臨床心理学博士。心理セラピスト。アメリカ心理学会正会員。アメリカ軍契約サイコロジスト。
日本航空株式会社専務取締役秘書、アメリカ・パイオニアニューメディアテクノロジーズ社長秘書を経て、カリフォルニア・スクール・オブ・プロフェッショナル・サイコロジーで、心理学修士号及び心理学博士号を取得。サンディエゴ市のシャープ総合病院をはじめ、メンタルクリニック等でうつ病、不安症、PTSD、統合失調症、慢性疼痛や人間関係の問題に対し、心理カウンセリング面談を提供。その後、心理カウンセリングルームをサンディエゴ市に設立し、様々な保険会社の契約サイコロジストとして年平均1000件のカウンセリング面談を行う。現在、東京・銀座にあるインテグラルカウンセリングサービス代表。日本人プロフェッショナルをはじめ、海外在住経験者や外国人などを対象にカウンセリング面談を提供している。
著者:王丸典子
出版:株式会社マキノ出版
価格:1,400円+税