文庫版 デキる社会人になる子育て術
元ソニー開発マネージャが教える
社会へ踏み出す力の伸ばし方
著者:鬼木 一直
出版:幻冬舎
価格:880円(税込)
著者:鬼木 一直
出版:幻冬舎
価格:880円(税込)
誰もがうらやむ学歴があっても、社会に出てから活躍できずに埋もれてしまう人もいれば、学歴はさほどでなくても社会に出てから大化けする人もいる。
社会に出ると、そんな実例を嫌というほど目にする。
だから「学歴がすべてではない」とよくわかっているのに、我が子のこととなると「まずは学歴を」となってしまうのは、子育ての矛盾といえるかもしれない。
もちろん学歴自体が悪いわけではない。問題なのは「学歴だけの人」「大学合格時や就職時が人生のピークだった人」になってしまうことだ。我が子がそうならないために、家庭でどんなことができるのか?
『文庫版 デキる社会人になる子育て術 元ソニー開発マネージャが教える社会へ踏み出す力の伸ばし方』(鬼木一直著、幻冬舎刊)では、経済産業省が2006年に提唱した「社会人基礎力」を土台に、社会に出てから活躍できる人の条件と、その条件を満たす能力の身につけ方を解説していく。
社会人基礎力とは大きく分けると3種類
・前に踏み出す力(主体性、働きかけ力、実行力)
・考え抜く力(課題発見力、計画力、創造力)
・チームで働く力(発信力、傾聴力、柔軟性、情況把握力、規律性、ストレスコントロール力)
これらはいずれも、家庭教育で育んでいくことができるという。
では、たとえば「考え抜く力」はどのように家庭で身につけさせることができるのか?
「どうして空は青いの?」「なぜ雲は落ちてこないの?」など、子どもは親に素朴な疑問をぶつけるもの。こんな時、どう答えるかで、子どもの考える力は変わってくる。
大事なことは、親は必ずしも「科学的に正しいこと」を答える必要もなければ「スマホで調べてみましょう」と正解を探す必要もないということ。こんな時、親は安易に答えを与えるのではなく「一緒に考えてみましょう」と、子ども自身が頭をひねる方向に持っていくことなのだとか。
その結果、子どもが考えついたことが「海が青いから空も青い」でもいいし、「神様が青い絵の具で塗ったから」でもOK。その答えに納得がいかなければ、子どもは自分で調べ、もっと考えるはず。この繰り返しが考える力を育んでいくのだ。
親としては、子どもが自ら考え、自ら学ぶようにしたいところだろう。ならば、「勉強はキリのいいところまで終わらせてからテレビを見てね」などと言って、「キリのいいところ」までやらせてしまっているならば、もったいない。
テレビを見ていて、いいところでCMに入ると続きが気になるように、勉強も中途半端なところで終わった方が、続きをやりたくなる。これを「ツァイガルニク効果」という。
親は、子どもが遊んでいると「もう9時だから終わりにして早く寝なさい」と言い、勉強していると「キリのいいところまでやって終わらせなさい」と言う。しかし、本当は逆なのだ。
◇
・前に踏み出す力
・考え抜く力
・チームで働く力
これらは社会人になってから自然に身につく人もいれば、そうでない人もいる。できることなら子どものうちから家庭の中で育んでおきたいところ。そのために親は今何をすればいいかを、本書は教えてくれるはずだ。
■子どもの思考力は家庭で育つ
鬼木 : コロナ禍もあって遠隔業務が多くなり、家庭教育に関心をもつ親御さんが増えていると感じています。しかし、家にいる時間が多くなったからといって暇なわけではないので、お母さんもお父さんも家庭教育に割く時間がなかなか作れないのが現状だと思います。本書は、そのような状況下でも親のちょっとした心がけで子育てを変えていければという考えに基づいた内容となっております。
鬼木 : そうですね。普段の生活の中で子どもと会話する時の言葉の選び方や考え方の部分がメインになっています。
私自身共働きであまり時間がないなかで子育てをしていますので、子育ての大変さはよく理解しています。もちろん共働きでなくても子育ての苦労は同じように感じていると思います。
忙しいなかでできたちょっとした時間に何をすればいいか、何を教えればいいかということがわからないという親御さんは多いと思います。学校を離れた家庭での時間をどのように過ごせばいいのかと悩んだ末に「わからないから勉強を見てあげようか」となりやすい。その延長で「とにかく勉強すればいい」「いい中学校、いい高校に入れたい」となっていく。
もちろん勉強を教えることはいいことですが、「その場限り」の教え方をしてしまうと、長い目で見たときに逆効果になることがよくあるんです。
鬼木 : それもそうですが、具体的には「答えを早く求めさせる教え方」をしてしまいやすいんです。「この問題はこういうパターンで解けばいい」というような「コツ」を教え込んでしまう。その結果、問題の本質がわからないまま、解き方だけを覚えることになります。これだとやっている方も面白くないですし、何より次に繋がらないんです。
鬼木 : おっしゃる通りです。学習塾なども、問題をひたすら解かせるというような教え方ではなく、考え方に注目した教え方に変わってきてはいますが、まだノウハウを重視する傾向は変わりません。
「この問題はこのパターンだからこう解く」という教え方をしてしまうと、そのパターンの中にあるものは解けますが、パターンから外れるとまるで解けない。そして、社会に出るとパターン通りに解決できる問題なんて少ないじゃないですか。
鬼木 : このお話をいただいた時は、正直びっくりしました。文庫化というと、売れた小説をより多くの人に読んでもらうためにするもの、というイメージでした。
出版社の方からは「子育て本の文庫化の前例はほとんどありませんが、この本なら読者層を広げてみる価値がある」と言われました。家庭教育に関心を寄せる親御さんは非常に多いと感じており、広い層の方に手に取っていただけるのであれば、とてもありがたいことだと思います。
鬼木 : 本書は見開きの2ページで完結する形式にしたこともあり、「とても読みやすい」「実例が多くわかりやすい」「実践してみて効果が出てきた」など多くの感想をいただきました。
また、小さなお子さんをお持ちの方向けに書いたのですが、意外にもお子さんが大きくなった方、さらにはお子さんがいらっしゃらない方からも、「考え方がとても参考になった」「人生観が広がった」という意見をいただきました。私にとっても大変勉強になりました。
鬼木 : 「問題集を買ってきて勉強させる」というようなやり方ではなく、日常の中に算数を持ち込んでほしいと考えています。
たとえば「3個のケーキをどうやって5人で分けるといいのか」、「行列に並んだ時に、あと何分で入れるのか」など、日常のシーンの中にも数学的な考え方を身につけられる場面はたくさんあります。ケーキであれば、「3/5」という分数を短絡的に出すのではなく、「半分ずつ分けると一人分足りないよね? どうしようか?」などイメージさせることが大切です。
行列であれば、列が定常状態になったと仮定して、1分間で後ろに何人並んだのかを数え、「並んでいる人数÷新たに並んだ人数」が概算の時間になります。このように、生活の中に算数をどんどん取り入れてほしいと思います。
鬼木 : そうだと思います。「子どもと一緒に考える」というのが一つポイントで、「いい子に育てたい」と願いながら親の自分は努力しないというのはおかしいじゃないですか。自分ができなかったことを子どもに託すケースをよく聞きますが、親も考える姿勢を見せることが重要だと思います。
勉強に限ったことではありませんが、子どもは一つの人格を持った人間なので、何を考えているのかを親が汲んで、話を聞いてあげることが大切です。親が「こうしなさい」と言っても、なかなかその通りにはなりません。勉強にしてもスポーツにしても、本人が納得してやることが大事で、それによってたとえば1位になれなかったとしても「どうすれば1位になれるのか」と子ども自身が考えますし、「そんなに努力しないといけないなら3位でいいかな」となったとしても、そこには子ども自身の決断があるので納得感が違います。
鬼木 : まずは、すぐに答えを教えずに、「〇〇ちゃんはどう思うの?」と聞いてあげることが大切です。そして、それがなぜなのかをさらに質問してあげてください。
「なぜ、空が青いの?」と聞かれて、困ったときにスマホで調べるというのはあまりお薦めしません。答えが違っていても一緒に考えてみる、そして時間をかけて正解を見出していくことが“考えるクセづけ“に繋がると思います。
■「失敗を恐れずにチャレンジする子」を育てるための子育てとは
鬼木 : 最も大切なのは、自己肯定感を高めることです。引っ込み思案な性格の子は、自信がない子が多く、失敗すること、否定されることを恐れる傾向があります。そこで有効なのは、「コーチング」の手法です。教えるという考え方ではなく、子どもの考え方を引き出す手法です。
「こうしなさい」という言い方を「うまくいくようにするにはどうしたらいいと思う?」と質問形式にして子どもに考えさせ、決めさせるのです。決める力は主体性に繋がっていきます。
鬼木 : すごく変わりますね。自分で考えて行動できる力がついてくれば、選択肢がどんどん広がっていくと思います。
鬼木 : そう思います。ただ、小さい子については「自分はダメだ」とか「失敗するかも」と考えることはあまりないのではないでしょうか。保育園で「これをしましょう」と言った時に、「自分はこういうことは苦手だから」と嫌がる子はほとんどいません。
小学校3年生、4年生くらいになると「ああ嫌だな」とか「苦手だな」という気持ちが強くなるので、3歳とか4歳くらいのいろいろなことに興味が溢れている頃にどんどんやらせてみて、できたら褒めることを繰り返していけば、そんなに引っ込み思案な子にはそもそもならないのではないかと思います。
鬼木 : 持って生まれた「おちゃらけ具合」みたいなものはあって、そこは差があっていいと思います。ただ、そこでおとなしめであることと、自分で論理立てて物事を考えられるかどうかはまた違う要素です。
鬼木 : そうですね。それらもまた別物です。自分で物事を考えて行動できるという主体性が大事なのと同じように、周りを見ながら引くべき時は一歩引いて俯瞰するのも大切なことですから。
鬼木 : 本書の第3章に「子どもの力を伸ばす本当の褒め方」という項目があります。子どもを褒めるのは、成功した時よりもむしろ失敗した時の方が大切なのです。
たとえば、お手伝いをしたのに汚してしまった場合、その結果に対して叱られたのでは、「やらなければよかった」と感じます。逆にうまくできた時に褒められても、「それはそうでしょう」ということであまり記憶には残りません。むしろ、失敗した時にその過程を褒めてあげることで、「失敗してもいいんだ」という気持ちになり、自己肯定感が高まります。
鬼木 : 本書は、項目ごとに完結する形式になっていますので、気になる部分だけ切り取って試していただければと思います。子どもは十人十色です。すべてがうまくいくとは限りませんが、子どもに合うやり方、言い方があると思います。
一つでもうまくいけばそれは前進です。その一つが積み重なることで大きな効果となってきますので、焦らず時間をかけて挑戦していただければと思います。
例えば公園に行ってサッカーをする時に、「どういうふうに蹴ればもっとボールが飛ぶと思う?」とか「ボールに回転をかけるにはどうすればいいかな?」など、子どもの好きなことに対して深掘りするようなことを聞いてみるといいと思います。それが自分で考える力の育成につながり、いずれ勉強にも活かされていきます。
鬼木 : 「自分で考えさせる」という意味では基本的には同じだと思います。子どもが外から帰ってきた時に靴を脱ぎ散らかしてしまうのだとしたら、「きれいに靴を脱ぎなさい!」と叱っても、子どもの頭には叱られたイメージしか残らないんですよね。「叱られて嫌だったな」とか「今度は叱られないといいな」という希望的観測で話が終わってしまう。対策等が立てられていないので、それだとまた同じことをしてしまいます。
だから「どうしたらいいと思う?」と子どもに聞いて、自分で考えさせることが大事です。「急いで入ってきたから散らかってしまった」と言うなら、急いで入ってきても散らからないようにはどうすればいいかを考えさせれば自分なりの解決策を考えるようになると思います。
鬼木 : うまくいかなかったことは、すっぱり諦めてください(笑)。子育てはうまくいかないことの方が圧倒的に多いものです。
子どもはひとりの人格を持った人間ですから、思い通りにさせようと思うのは親のエゴです。思ったようにいかないからこそ、可愛いですし、育てがいがあると思います。そもそも、子どもが親の思った通りに動かないということは、親が思っている以上に可能性があるということじゃないですか。そうした発見や想定外のことをぜひ楽しんでいただきたいと思っています。
鬼木 : これからの社会にはどんどんAIが入り込んできます。単純作業、誰にでもできる業務は次々とコンピュータに奪われていきます。
ただ「考える仕事」は今後もなくならないはずです。昔は知識の豊富な人、手に職がある人が優遇されていましたが、これからは「知識」「技術」はコンピュータが代替えしていきます。だからこそ先入観に捉われず、深く考える習慣をつけることがとても大切です。それを単純に子どもに求めるのではなく、一緒に考えることで親も一緒に成長してもらえれば一番いいと思っています。
何が起こるかわからない時代です。多様性を身につけ、一見無駄と思えることにも、どんどん取り組ませてあげて欲しいと思います。いつ、どの体験が役に立つかわからないものです。
もちろん学歴は大切なものですし、いい大学に行こうというモチベーションは尊重されるべきですが、大学に入ることが目的化し、社会人になってから何をすればいいかわからなくなってしまうのはもったいないことです。学歴にすがるのではなく、学歴を活かして何ができるのかを考えていただきたいと思います。本書はそのために役立つ内容になっていると考えています。
(新刊JP編集部)
鬼木 一直(おにき・かずなお)
東京工業大学6類(建築系)に入学、大学2年次に応用物理学科に転籍、理学部同学科卒業。大学院に進学し超低温物性物理の研究を行い、第ゼロ音波の観測に成功、東京工業大学修士課程理工学研究科修了。ソニー株式会社入社1年目にハードディスク垂直記録方式の薄膜磁気ヘッドの記録再生確認に成功、その後、世界初の大型液晶ディスプレイ、愛知万博出展50m×10mの超巨大レーザーディスプレイデバイス、消費電力ゼロの水循環を利用した厚さ1ミリ以下の薄型ヒートパイプ、超高周波ミリ波伝送による大容量データ伝送デバイスなど数多くの開発に携わる。その間出願した特許件数は43件に及ぶ。
また、開発マネージャとして多くの人材育成を行った後、2014年から、東京富士大学経営学部准教授、2017年に同教授。大学広報室長、メディアセンター部長、図書館長、入試広報部入試部長、IR推進室長などを歴任。大学広報室長を務めていた2015年に、本学は社会人としての実務経験を学生のうちから身につける『実務IQ教育』を提唱、社会人基礎力を高める実践教育を積極的に推進している。
2022年3月現在、14歳の長女と9歳の男女の双子を子育て中。海外訪問国は100か国以上。
著者:鬼木 一直
出版:幻冬舎
価格:880円(税込)