INTERVIEWインタビュー
――『すぐに1億円』は凄腕の経営コンサルタントである遠山桜子が主人公のビジネスストーリーですが、印象的なのが物語中に何度も出てくる「儲けるなんて簡単よ」という決め台詞です。この言葉は高井さん自身も思っていらっしゃることなのですか?
高井洋子(以下、高井):実は、その桜子の台詞は、意味があって繰り返しているんです。
まず、その前提をご説明しますと、私たちのビジネスモデル塾の特徴は、単純に戦略ノウハウを語っているだけではなくて、脳科学に基づいています。消費は脳が起こしているものなので、脳科学の見地から考えるということは外せない部分があるんですね。
その上でお話をすると、これは経営者に限らず、どんな人でも、「難しい」と思ってしまうと難しくなってしまうし、「できない」という言葉が口癖になっていると、見事にできない人になってしまうんです。
脳は口に出した言葉を全部聞いていて、そのまま受け取ってしまうという特性があります。つまり、言葉をそのままの意味でしかとらえられず、口に出した言葉に引っ張られてしまうんですね。
「自分には難しい」「自分にはできない」「自分は大した人間じゃない」と口に出すということは、自分がそうであるように言い聞かせているのと同じことです。すると、できるはずのことでもできなくなってしまいます。
だから「儲けることなんて簡単よ」と、まずは簡単だと思わせなきゃいけない。桜子の決め台詞は、読者の脳にそう訴えかけるためにあるんです。
――「簡単よ」と桜子に言わせることで、「できない」「難しい」という言葉の足かせを取りはらうわけですね。
髙井:
そうです。また、桜子の台詞もそうですが、もうひとつ、前著の『400円のマグカップを4000万円で売る方法』と同じくストーリー仕立てにしているのにも、同じように意味があるんです。
人間の脳は、「他人なのか自分なのかを判断していない」という特性があります。わかりやすい例で言えば、映画を観て、涙を流しますよね。作り物の話でも、人は感情移入すると自分自身に起きたことのように勘違いして感情的になって涙するわけです。
理論だけのノウハウ本にしてしまうと、読者の方が自分に置き換えできないので、感情移入もできません。「そうやって机上の空論で本の中には書かれているかも知れないけれど、僕にはできないなぁ」と思ってしまうんですね。
だから、感情移入をしっかりしてもらうために、ストーリー+解説という形で書いているんです。
――たしかに、登場人物たちが徐々に前向きになっていく姿に感情移入をしていくと、そのあとの解説もスッと頭に入ってくる感覚がありました。また、『すぐに1億円』という本書のタイトルも印象的です。
髙井:
今回の本は最初に出した企画が難解だということで、コンセプトから練り直しました。タイトルは「1億円」となっていますが、最終的には1億円を目指しているわけではなくて、年商10億、そして100億をめざすためのベースにもなるようなノウハウをお伝えしています。
私が講師を務めている「No.1ビジネスモデル塾」に来てくださっている塾生さんは、年商1億円の経営者や創業したばかりの人だけでなく、年商規模で1000億円の経営者の方や上場企業の経営幹部の方などもいます。そうした様々な規模の経営者の方々が読んでも役に立つ一冊になっていると思います。
本の中にも書きましたが、実を言えば、年商が1億でも10億でも100億でも関係ないんです、ビジネスに「この年商規模だからこれをやらなくてはいけない、こうしなくちゃいけない」という決まりはありません。
たとえば、1億円の規模のお店を10店舗やっていれば10億円の規模になりますし。それをフランチャイズ化で100店舗にすれば100億円になるので、大切なのは年商規模ではないんです。
――ビジネスは、年商規模よりも仕組み、つまり、いかにビジネスモデルをつくるかということですね。そちらについては「ストックビジネス」というものが本書のキーワードになっています。この「ストックビジネス」とはどういうものなのか教えて頂けますか?
髙井:
今までの日本のビジネスは営業をかけて、売ったら終わりという「フロービジネス」ばかりでした。「フロー(flow)」というのは「流れる」という意味で、物品を代価で支払ってもらったら終わりというビジネスモデルです。
飲食店さんも、売上目標を立てて、月初から始まって、売上を築いていくわけですけれど、また翌月にはゼロからスタートしなければいけません。このモデルでは、たとえば冬の週末に大雪が降ったりすると赤字になってしまうこともあります。
それに対して「ストックビジネス」は、一回売ったら継続的に商品やサービスが売れ続けるというビジネスモデルです。つまり、定期的に売上が入ってくる仕組みが構築されたビジネスのことです。
そして、ストックビジネスをするために必要なのは「顧客のストック化(会員化)」、つまり、囲い込みです。
実際、今は大手企業が徹底的にお客様を「ストック化」しているという現状があります。
たとえば、AmazonはAmazonプライムで顧客を会員化していますよね。そうなると、お客様は「Amazonの会員になっているからAmazonで買おう」と考えるんです。
他社や競合に会員化されてしまうということは、お客様を取られてしまうということです。そこでいくら、「接客を良くしよう」「社員教育をよくしよう」と一生懸命になって売り出していっても、ストック化された後では、自分たちのところまでお客様は来てくれなくなるんです。
私は経営者の方々に「戦略は戦術で補えない」とお伝えしています。戦い方が「戦略」で、戦うためにやることが「戦術」です。
接客や社員教育というものは、あくまで「戦術」を磨いているに過ぎません。いくら優秀な社員さんやスタッフさんがいたとしても、Amazonプライムのような会員化という「戦略」に負けてしまっている時点で、結果は見えています。だからこそ、「ストックビジネス」という戦略が必要不可欠なんです。
――ご著書の中で、「自分のビジネスはストック化が難しい」とおっしゃる経営者の方が多いとありましたが、ストック化できるかを考える際のコツのようなものはありますか?
髙井:
「定期で購入してもらうことはできないかな」と脳に問いかけ続けないといけませんよね。
そこで「No.1ビジネスモデル塾」では、アイデアが出るように色んなポイントの脳への問いかけをしています。たとえば、「ある商品を通販で一個一個のものを売っているとします。では、これを毎月買ってもらうにはどうするか?」と問いかけるんです。
その商品が美顔器だったとしましょう。美顔器は同じお客様が毎月買ってくださる商品ではありませんよね。でも、「美顔ジェル」ならどうでしょう。これなら毎月買ってもらえそうです。
このように問いかけて考えてもらうと「ストック化するなら継続商品に変えていかないといけない」ということがわかったり、「そもそも売り出すための商品の選択が悪かった」ということに気付いたりする経営者の方もいます。
こんなふうに「売ったら終わりではなく、毎月毎月お金が入ってくる仕組みはないかな」と、脳に問いかけ続けるのがポイントです。
――本書の中で、「ストックビジネス」と並んで、もうひとつのキーワードになっているのが「ジョウゴの法則」です。こちらについてもお教えください。
髙井:
ジョウゴというのはご存知かと思いますが、液体を別の容器に移したりするときに使う、注ぎ口が広くて、先が細くなっている道具です。あの形をイメージした集客から販売までの流れを「ジョウゴの法則」と呼んでいます。
継続的な売上を出していくためには、本当に儲かる「本命」のサービスや商品がなくてはいけません。この「本命」のサービスや商品を売るためには、集客のための「おとり」の商品やサービスをつくる必要があります。
おとり商品というのは、気軽に買って頂けたり、消費したいという感情を引き起こしたりするものです。
たとえば、女性は必要でないものでも「カワイイ」というだけで買ったりしますよね。他にも「みんなが持っているから」という理由でほしくなって買うこともあります。そういうふうに、気軽に買えるものが「おとり」の商品やサービスです。
ネットのビジネスでは「アカウント5つまで無料で使えます」とか「○ヶ月無料」というのもあります。無料は敷居が低いので使ってもらえますよね。これも集客のための「おとり」です。
――確かにインターネットをしていると、よくその言葉を見かけます。
髙井:
でしょう。この「おとり」を入り口にして、最終的には「本命」を売らなければいけません。
でも、儲けが出るような価格の高い「本命」の商品をいきなり売っても、なかなか買ってはもらえませんよね?
そこで、「おとり」と「本命」の間に、「リピート」の商品やサービスを入れます。
「リピート」の商品やサービスでお客様とコミュニケーションを図り、関係性をつくってから「本命」を売りましょう、というのが「ジョウゴの法則」の全体像です。
先にお話しした美顔ジェルの例で考えてみますね。
お店がエステサロンだとして、商品はしっかりとした売上を出すために高級美顔ジェルだとしましょう。
まず、集客のために初回半額とか無料といったサービスを打ち出します。これが「おとり」です。
次に、お客様の囲い込みをするために「リピート」となる商品やサービスを提供していきます。たとえば、エステ施術の割引サービスや比較的低価格なコスメを利用していただいて、競合他社に目移りしないような関係性をつくります。
そうやって関係性ができたところで、継続的な売上が立つ「本命」商品の販売へ移るわけです。
もちろん、各プロセスでお客様に提供するサービスや商品は、質の良いものであることが大前提なので、自社の商品やサービスを常にブラッシュアップしていくことも必要です。
このようにして、ストック化して儲かる仕組み――ビジネスモデルをつくる戦略は、どんな業種の経営者にも必要です。しかし、優しい目で見ても80%、厳しく見れば95%くらいの経営者の方が、こうした仕組みを持たないままビジネスをしていますね。
――なかなかシビアな数字ですね。ちなみに、ビジネスモデルを持たないままビジネスをしている経営者の方の共通点というものはありますか?
髙井:
まず、経営者の方が自ら働いてしまっていますよね、戦術となって。
経営者がやるべきことは戦略をつくることです。「自分が動いて売上を出さなきゃいけない」ということは、そもそもビジネスモデルがないからでしょう。
そういった経営者の方々は「社長」と「経営者」の違いが曖昧なのかもしれませんね。「社長になりたい」と言われる方は多いですけれど、「経営者になりたい」という人は少ないですから。
会社や企業のトップは「経営者」なので、営業や開発ではなく「経営」が仕事ですよね。そこでなんでもかんでも自分でやろうとしてしまうのは、経営者の姿ではありません。
このことについては、ビル・ゲイツ氏がいい例だと思うんです。
彼はCEOとして経営をやっていたけれど、クリエイティブな人だから経営がつまんなくなってしまって、自分が開発部長になってゲーム機のXboxをつくってたりしていました。
けれど、彼は社長の座にいながら開発部長をやっていたわけではないんですよ。やはり、経営は経営、開発は開発ということをわかっていらっしゃる方です。
営業社長になってしまうと、当然、経営は疎かになります。結果、戦略を練る時間もつくれないから儲からない、という悪循環に陥るわけです。
――そういえば、今回お話を伺っていてもそうですが、本の中でも「儲かる」という言葉をよく使っておられたのも印象的でした。
髙井:
そうですね。「儲かる」という言葉は多くの人がその意味を誤解していると思うんです。
私が経営者の方に「儲かっていますか?」と聞くと、「儲かる」の意味が分かっている方は「儲かってますよ!」と答えてくださるのですが、意味がわかっていない方は「ボチボチです」とか「言いたくないです」と答えるんです。
「儲かる」という漢字は、「信じる」に「者」と書きますよね。ビジネスは、やっぱりお客様や社会から信用されたり信頼されたりしないと、お金の意味でも儲からないんですよね。
だから「お金儲け」って、結局は「人儲け」なんです。顧客の方々に信頼され続けない限り、儲かりませんから。
だから、「儲けることなんて簡単よ」と言うと、がめつい人だと思われがちですけれど、そうではありません。
ちゃんと「お金儲け」をするなら「人儲け」することが必要です。人儲けするとは何かというと、顧客に信頼されるモノやサービスを提供した上で、関係性をつくる。そうやって囲い込みができていないと儲かりませんよ、という意味合いなんです。
――なるほど。そういう意味合いがある、と。「儲かる」のお話に関連してうかがいたいのですが、高井さんは「儲かっているお店があると偵察に行く」というお話を本書の中で書かれていましたけれど、実際に偵察に行くとどういうところを見るのでしょうか?
髙井:
飲食店だったら、まずはターゲットと客単価ですね。どこをターゲットにしているかというのはすごく重要です。そのターゲットと単価がズレているとうまくいきませんから。
あとは、店員さんにそれとなく色々と質問をします。
私は今、シンガポールに住んでいるので「日本人客と現地のお客さんは何%くらい?」「何が一番人気なの?」「リピーターの人はどれくらいいる?」とか、具体的なことを聞きます。追加注文する際とかにさりげなく聞くと、結構、みんな答えてくれますよ。
――すごいですね。常にビジネスモデルについての好奇心があるんですね(笑)高井さんは株式会社Carityの「No.1ビジネスモデル塾」の講師を50期以上続けておられますが、ビジネスモデル塾をやっていて、ご自身にプラスになることはありますか?
髙井:
ビジネスモデル塾には、これまで900社近くの塾生さんが来てくださっているので、よくわからないという業種業態がないんです。
いろんな塾生さんにアドバイスができるように、自分自身もその業種についての知識を習得しようとアンテナが張り巡らされているので、そういった意味ではいろんな業種業態のことを理解できていると思います。
あとは、旧態ビジネスと今のトレンドが、時間軸でわかっているというのもあります。時代背景も含めて、この時代はこういうビジネス、という流れですよね。旧態ビジネスだけではなく、今のビジネスモデルも捉えて、その変遷が把握できていると思います。「今からそんなビジネス立ち上げても儲かりませんよ」ということもアドバイスできないといけないので。
そういう意味では、来てくださっている塾生さんに育てて頂いたという部分もあるので有難いことです。
――最後に、ビジネスモデルを持たずに悪戦苦闘している経営者の方にメッセージをお願いします。
髙井:
今回の『すぐに1億円 小さな会社のビジネスモデル超入門』は、本当にわかりやすく書いているので、ぜひ多くの方々に読んで頂きたいです。
これからの世の中はAI社会だと言われていて、職業がなくなるなんていう話もあります。
でも、これからは逆に小さい会社や中小企業がAIを導入していって、任せられる仕事はAIに任せる。そして、どんどんアイデアを出す時間をつくる。そうやってビジネスの原点である目の前のお客様を喜ばせるという目的を忘れず、お客様の囲い込みをしていくことが重要だと私は思っています。
経営者はお客様を大事にしたいという気持ちがあると思うんです。その気持ちを形にするには、ビジネスモデルや戦略が絶対に必要です。多くの経営者の方々は強い気持ちを持っていても、ビジネスモデルに関して甘いところがあります。それを今回の本から学んでもらえたらと思います。
(取材・文:大村佑介)