――『自律神経は1分で整う! ──人生が変わるお口の健康と自律神経の話』について。今野さんはこれまで「目」や「耳」についての本を出してこられました。今回「口」に注目された理由がありましたら教えていただきたいです。
今野:
私の施術院ではもともと全身を診ているですが、その中で日々感じているのは、目や耳、口といった「首から上」の部分に不調を抱える人がものすごく多いことです。
それがあったから、私は目の不調、耳の不調についての本をこれまでに書いてきましたが、その流れで今回は口ということですね。目にしても耳にしても、扱う本は極めて少ないですし、特に口についてもそうです。
口の中についての本は、基本的には歯科医の見地から書かれたものがほとんどということもあって、多くの人が口の中の状態が自分の健康とどう関係するのかを知りません。だから、私は中医学という別の見地から、口と全身との関わりを知ってもらおうとして今回の本を書きました。
――本書では、自律神経の乱れが唾液の分泌量を減らし、それが様々な不調に結びつくとしています。
今野:
個人差はあるでしょうが、ほとんどの人は体を健康に維持できるような機能を備えて生まれてきます。唾液もそうで、きちんと分泌されることによって殺菌機能で虫歯や歯周病を防いだり、消化を助けたりしています。
自律神経というのは長い時間をかけて少しずつ乱れていくもので、その影響がどこにどうやって出ているかというのはなかなか気がつきません。それであるとき「何を食べてもおいしくない」「味がしない」など味覚に異変が出たり、口臭が出たりしてようやく自覚するわけです。
――その時には唾液の分泌はかなり減ってしまっている。
今野:
そうですね。私たちは口の中のことは、虫歯以外あまり気にしないので、余計気づきにくいのかもしれません。
付け加えるなら、口臭の場合は唾液の分泌が減っていることも原因なのですが、胃腸の働きが弱っているともいえます。
これも自律神経の乱れから来ていることが多いので、たとえば口臭が気になるからといって歯科にかかっても根本的な解決にならないことがある。中医学は、全身をひとつなぎで連動しているものとして見るので、口臭に限らず不調の本当の理由にあたりやすいといえます。
――その他、自律神経の乱れはどんなところにあらわれるのでしょうか。
今野:
あらゆるところに出ますし、特にその人の体の弱い部分に出ます。内臓に出て胃腸の働きが悪くなる人もいますし、目の眼房水が少なくなる人もいる。
それと、自律神経の乱れはどこかに痛みが出るのではなく、むしろ痛みを感じなければいけないところで痛みを感じない状態になりやすいんです。私のところに来る人でも、ふくらはぎの裏の「承山(しょうざん)」を、押すと飛び上がるほど痛いツボを押しても全く痛くないという人が多くいます。
五感が鈍くなるというのも、自律神経の乱れの大きな特徴ですが、そのせいで自分が火傷をしていることに気がつかないご老人がいたりするので、危険なことだと思いますね。
――自律神経は長い時間をかけて乱れていくというお話がありました。となると、元に戻すのにもやはり長い時間がかかるのでしょうか。
今野:
それはやり方にもよります。手っ取り早く改善したいなら運動が一番で、特に内臓を刺激するような運動ですね。私は「臓器に汗をかく運動」と言っているのですが、ジャンプは内臓を刺激しますし、呼吸だって、少し意識をすれば内臓を使う立派な運動です。それらの詳しいやり方を今回の本では解説しています。
音楽を聴いてリラックスするといった方法もありますが、これはあくまで表面的なものです。自律神経の乱れの根本的な解決にはならないというのは覚えておいた方がいいと思います。
――本書では、自律神経の乱れがドライマウスを引き起こし、ドライマウスの改善が自律神経の乱れの改善につながるとされています。自律神経が乱れていると唾液が少なくなるのはわかりますが、唾液が少ないのは自律神経の乱れのいち症状であって、唾液を増やせば自律神経が整うという論理は成り立たない気がします。この辺りはどう理解すればいいでしょうか。
今野:
これは論理が逆転しているわけではなく、この本で「ドライマウス」を改善するための運動として紹介しているエクササイズは、いずれも自律神経全体を整えるためのものだということです。
ドライマウスの改善はもちろん、全身の調子が上がってくるはずなので、試してみていただきたいですね。
――ただ、唾液は年齢と共に分泌量が減るとも聞いたことがあります。
今野:
「歳だから仕方がない」と諦めるのは少し違っています。これは体の衰え全般に言えることですが、加齢とともに人の体がどう変わるかというと、栄養と酸素の吸収量が減ってくるんです。つまり、一種の栄養失調なわけで、それさえ補ってあげれば歳をとっても、体の機能はそれほど衰えません。年齢以上に衰えてしまう人と、いつまでも元気な人の違いはそこにあります。
栄養の取り込みは内臓の役割で、内臓の働きを司っているのは、やはり自律神経なんです。だから自律神経を整えるように運動をしたり、栄養を積極的に摂ったりということは普段から心がけるべきです。
――酸素についてはいかがですか?
今野:
30代の人と比べると、50代の人は酸素の最大摂取量が65%になるといわれます。60代になると60%で、70代だと50%です。
酸素は人間の生命を維持する原動力ですから、その摂取量が減った状態で栄養をたくさん摂ろうとしても、食が細くなってなかなか食べられません。栄養状態の改善と酸素の摂取量の改善はセットで考えるべきで、心肺機能も日頃から鍛えておくことが大切です。
――夏の盛りは過ぎたとはいえ、まだ暑い日も多いです。こういう時期は自律神経が乱れやすいと聞きますが、乗り切るためのアドバイスをいただきたいです。
今野:
暑い時期は心臓に負担がかかりますし、朝晩と日中の寒暖差で内臓も弱りやすいといえます。
乗り切るためのアドバイスになるかはわかりませんが、やはりいつも以上に生活習慣に気を配っていただきたいということに尽きますね。きちんと食べてきちんと眠るという、「隗より始めよ」ではないですが、基本的なところを見直していただいたいです。
――最後になりますが、読者の方々にメッセージをお願いいたします。
今野:
繰り返しになりますが、口はものを食べて、言葉を話してという、人間にとってとても重要なものなのですが、その認識がない方があまりにも多いので、まずは自分の生活や健康と口の状態との関わりに気づいてほしいと思います。
そこから、どのように口の状態と自律神経の乱れを改善していくかということは、本の中でくわしく書いています。この本が、健康を取り戻したり、健康について考え直すきっかけになればうれしいですね。
(新刊JP編集部)