新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済活動の停滞で、事業が立ち行かなる「コロナ倒産」は2020年8月3日現在で全国で400件に達した。その多くは中小零細企業だという。
一つの取引先に売上が依存していたり、資金繰りが「自転車操業」だったりと、中小企業の中には、今回のコロナ禍も含めて、ちょっとした環境の変化ですぐに経営が行き詰まる、文字通り「吹けば飛ぶような状態」で操業している会社も多い。こうした会社は、リスクヘッジにまでリソースが回らないケースがほとんどだろう。
事業の多角化とリスクヘッジは中小企業にとって死活問題だが、今の事業に加えて別の事業を一から育てていくのは、リソースの面でも、時間の面でも難しい。ただ、できることがないわけではない。
『空き家・古家不動産投資で利益をつくる』(大熊重之著、フォレスト出版刊)によると、不動産投資、中でも「空き家や古家」を利用した不動産投資は中小企業にとって多くのメリットがあるという。
まず、本業以外の安定した収入を得ることができるため、経営上のリスクヘッジになる。不動産投資というと数千万円単位の資金が必要になると思われがちだが、空き家や古家をリフォームして行う不動産投資であれば、400万円ほどではじめられるという。
著者の大熊氏が実際に行った例を挙げると、物件価格220万円、リフォーム費用180万円の物件を家賃5万円で賃貸して、年間60万円の売上を得ていたという。表面利回りは15%となるが、たとえば同じ400万円を本業の設備投資に充てたとして、同じように年額60万円の売上・利益増を確実に達成できるかというと、これは結構難しいのではないか?不動産投資の方は人件費も燃料代もかからないことを考えると、企業にとって不動産投資は「おいしい副業」になりえるのだ。
とにかく経済環境の変化が早く、今回のコロナ禍のような災害リスクだけでなく、グローバルリスクや為替リスク、イノベーションリスクなども考慮に入れなければならない現代では、ビジネスをその変化にすばやく適応させることが求められるが、どんなに準備をしていても、その適応のための施策が売上・利益となって実を結ぶには、多少の時間を要する。不動産投資で家賃収入を得ることで、この「タイムラグ」を持ちこたえることができる状態を作ることができれば、経営の安定性は増すことになる。
また、本業とはまったく異なる業界の事業を始めることは、経営者に新たな気づきをもたらす。新たな世界に触れることで視野が広がり、実行力がついた結果、本業にもいい影響を及ぼすことが多いという。
空き家・古家を再生させるという事業は社会的にも意義深く、地域に貢献することでもある。特にSDG’s(持続可能な開発目標)が掲げられている今、空き家・古家を利用した不動産投資もまた自社なりのSDG’sへの参加だといえるだろう。
大熊氏が空き家・古家を利用した不動産投資を勧める背景には、このビジネスが受ける「追い風」がある。
総務省が行った平成30年度の住宅・土地統計調査によると、日本の戸建て住宅の空き家率は13.6%。数にすると実に800万戸以上が空き家となっている。これが、広く知られている「空き家問題」だが、行政側はこの問題への対処として、平成27年の税制改正で、必要な勧告を行った空き家の所有者に対して、更地にするのと同様の課税をする措置をとった。これによって、固定資産税が最大6倍に跳ね上がってしまうため、空き家は「放置するより売った方がまし」という状況になっている。
また、空き家率は地方の方が高いため見落とされがちだが、件数でいえば空き家は圧倒的に都市部に多い。つまり住居としての需要がある場所に建っているケースが多いのも特徴なのだが、小規模な戸建て物件をリフォームして貸し出すということは、大手不動産会社からしたら効率が悪く、手を出さないのだという。
こうした条件を利用して、物件を見繕い、リフォームして家賃収入を得ることで、高利回りの投資ができる。これが中小企業こそリスクヘッジとして、空き家・古家に目をつけるべき理由だ。
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もちろん、空き家を一軒だけ買って、上記の例のように年間60万円を得られるようになっても、それだけで経営のリスクヘッジとして機能するわけではないだろう。まず一軒からはじめて、徐々に手を広げていくことも必要かもしれない。
本書ではそうした戦略やノウハウについても、製造業、建築業、販売業、保険業など様々な業種での実践例を交えて、解説している。著者が業種別に今後の趨勢を占いつつ空き家・古家不動産投資を勧めているのもユニークだ。
中小企業や個人事業主にとって「本業の売上を伸ばすこと」と「経営を安定させること」は同じようで違う問題だ。本業を思い切ってやるためにも、何かあった時でも簡単にはぐらつかないような基盤づくり、ポートフォリオづくりは必須。本書で解説されている空き家・古家を利用した不動産投資のスキルはその助けになるはずだ。
(新刊JP編集部)
■変化の速い時代のリスクヘッジとしての「空き家・古家不動産投資」
大熊: まず、今回の本を読んでいただきたいのは、経営者の中でも社員が10人や20人の、中小企業でも「零細企業」に近い規模の会社の方や、個人事業主の方です。
こういう方々は不動産投資をするといっても、新築や築浅のマンションだと資金的に厳しいというケースが多いですし、回収までに20年、30年かかるような投資だと、それまでに会社がどうなっているかもわかりません。
ただ、空き家や古家への投資であれば500万円前後で始められますし、関東だと利回りが12%~13%、関西だと14%~15%ほど見込めますから、10年以内に投資したお金を回収できる目算がたちます。「低額で始められる」のと「回収までの時間が短い」というのが、中小企業に空き家や古家への投資が向いていると考える理由です。
もうひとつ、変化の速い時代に生き残っていくための備えをしていただきたいという気持ちもあります。今回のコロナ禍のように自然災害によって不況がくることもありますし、自社の業界でイノベーションが起きて、それまでの需要が減ることもある。こうした中で生き残っていくためには1つのビジネスに頼るのではなく、別の収益源を持ってリスクヘッジすることが大切で、空き家・古家を利用した不動産投資はそのために最適なんです。
大熊: 私も会社を経営しているのですが、ある時に中古の区分マンションをひと部屋買わないかという話が舞い込んで、買ったことがあったんです。
それをリフォームして賃貸に回そうとしたのですが、まったくお客さんがつかない(笑)。お金をつかってしまっているし、どうしたものかなと思って自分なりに工夫してもう一度リフォームをしたり、不動産業者と相談したり、工夫してなんとか借り手を見つけたんですね。ただ、投資としては全然利回りがありませんでしたし、完全な失敗でした。
ただ、その時の経験である程度不動産の知識を得られたんですね。だから次に、不動産投資の話が来た時に、リベンジのつもりでもう一度やるか、と。その不動産というのが、「築40年以上の戸建ての古家」だったんです。
これが、やってみると安く済みますし、借り手もつきやすいし、すごくやりやすかったんですね。これなら自分の会社の「新規事業」としてできるんじゃないかと思って始めたのが最初で、今はアパートも含め30戸弱に投資しています。
大熊: 家賃5万円だとして、150万円弱ですから、会社のメインの収益源になるというほどではないのですが、中小企業や個人事業主の「副収入」としては大きいですし、本業のリスクヘッジになるんですよね。賃貸不動産業は収入の波がほとんどないので、企業のポートフォリオに組み込めるんです。
大熊: もともとは不動産とは何の関係もない塗装業です。
大熊: いや、塗装といっても自動車などの部品塗装ですから、建築やリフォーム方面の知識はまったくなかったです。製造業のことしか知らない経営者でした。
そして、これも私が中小企業経営者に不動産投資をおすすめしている理由なのですが、私が空き家・古家への投資を始めてから、すごく視野が広がったんですよね。不動産というこれまでまったく知らなかった分野のやり方を知ることで、これまでやってきた仕事に固執せずに新しい事業を考えられる頭になるという点で、経営者自身の成長につながる面があります。
大熊: 部品塗装業は基本的に「下請」ですから、どうしても売り上げが依頼主の会社に左右されます。そこからなんとか脱け出したいともがいていたのですが、空き家・古家投資を始めたことで変わっていきましたね。
リフォーム業を始めましたし、そのノウハウを教える教育事業も今はやっています。あとは、空き家・古家投資の勉強会を開くための一般社団法人を立ち上げたり、やれることが広がりました。また、IT・広報関係の会社や他の一般社団法人の役員などでお手伝いしています。
大熊: よく知られているように、どんな地域でも駅前や駅近は土地が高くて、家賃も高い。逆に駅から離れると土地の値段は落ちるわけですが、家賃はそこまで落ちないんです。
駅から遠いと、駅前と比べて土地の値段は3分の1とか、ひどいと5分の1くらいになったりするんですけど、家賃はせいぜい2割とか3割下がるくらいです。これを踏まえて、土地はすごく安いけど、家賃はそこそこ取れる立地の物件を狙う、というのがまず一つあります。
大熊: そういうことです。もう一つは、地域ごとの生活保護の家賃補助の金額をベースにするのも一つの方法です。
生活保護の家賃補助額は地域によって違うのですが、3人が住めるくらいの戸建て物件の家賃補助額が5万円の地域だとしたら、5万円から6万円の家賃をとって採算が合うような物件を探す、というやり方です。たとえば初期費用400万円・利回り15%でやりたいのなら、家賃5万円で年間60万円ですから、物件を買うのに400万円つかってしまったら、リフォームに使うお金がなくなるので、リフォーム代200万円と想定して、200万円以内で購入できる物件を探す、という考え方ですね。
そうやって利回りから逆算していくと、物件を買えないことはあっても、買って失敗することは少なくなります。
■魅力いっぱいの空き家・古家 リフォームして賃貸収入を得るための物件の見極め
大熊: 建築物の基礎にあたる躯体を見ます。主に床や柱が傾いていないかどうかですね。これらが傾いていると、リフォームというより「建て直し」になってしまうので、お金がかかってしまう。こういう物件は除外します。逆に屋根などは、一見ボロボロに見えても部分補修で済むことの方が多いですね。
躯体がクリアできているのなら、あとは物件によって様々なので、どこを直す必要があって、そうなるといくらくらいかかるかということを個別に考えていきます。
大熊: 見つかります。ただ、誰がみてもきれいな物件は、欲しがる人も多いですから、基本的には高額です。だから、ボロボロで「これ、本当に住めるようになるのかな」と思うような物件の方が、逆に言えば投資には向いているんです。そのなかで最低限、躯体の状態をチェックする、ということになります。一例ですが、ボロボロの物件を50万円で買って、450万円かけてリフォームしたら、かなりきれいになりますよ。
大熊: ひとことでいうと「差別化」です。一般的な賃貸住宅は、すごく「無難」に作ってあります。ワンルームマンションを見に行ってもらうとわかるのですが、ほとんどの物件は白い壁と茶色の床ですよね。
せっかくリフォームするのに、そこに近づけてしまうのは悪手です。洋室でも色をちょっと変えてみるとか、戸建て物件の特性を生かして和室を残しつつ、モダンな感じを出してみるとか、そういう差別化をすることで、借り手がつきやすくなるんです。
大熊: これは、正直わからないんです。というのもデータがないんですよね。我々はおそらく日本一空き家を扱っている団体だと思いますが、それでも戸数でいえば1000戸やそこらです。逆に言えば、探せばいくらでも再生できる物件があるということでもあると考えています。
大熊: 前提として、物件の保守管理は自分ではやらずに外注すると考えているので、何軒でも管理はできます。
不動産の勉強をするという意味では、自分で管理してみるのもいいのですが、おっしゃるように管理できる戸数には限界もあるし手間と人出がかかります。零細企業が新規事業としてやるには向いていません。不動産管理会社に所有する物件の管理を頼んだ場合、管理費は家賃の5%くらいのものなので、自分たちで管理することで本業に支障が出るくらいなら、外注してしまうのも手だと思います。
大熊: 12%前後でしょうね。最低12%。すごく高い数字のように思えますが、空き家・古家を対象にする場合十分可能なんです。
大熊: 今のところ参入してきていませんし、おそらく今後も参入することはないと思います。なぜかというと、額が小さすぎるんです。200万円とか300万円の物件の仲介を大手の会社がするかといったら、まずしません。
知人に大手の不動産会社の方がいますが、「こんな物件を会社に持って帰ったら上司に怒られる」と言っていました。だから、むしろ私のところに紹介してくれることも多いです。向こうからしたら空き家・古家の売却先を探している人も一応顧客ですから、自分のところでは扱いたくないけど、無下にもできないんですよね。だから「知り合いに紹介しておきます」となる。これはリフォームについても同じで、大手の工事会社はこういう小さな案件はまず扱いません。
大熊: そこが不動産投資で一番大事なところです。だから不動産会社に任せずに、どういう流れで入居者がくるか、どういう物件なら借り手がつくのかを勉強しないといけません。
ただ、基本的には不動産会社に、やってきた人に物件を勧めて、気に入ったら契約するという流れなので、不動産会社に置いてもらう資料を工夫するというのがすごく大事です。不動産会社で物件を探した人ならわかると思いますが、大体どの物件も「間取り図」があって「外観」があって、あとは日当たりとか、駅まで何分とかの情報が載っていて、という感じでしょう。そこを工夫して、他の物件とは一味ちがう資料を作って、不動産仲介業者に営業をかけるわけです。
大熊: 今はどんな業種でも、環境の変化が速く、激しくなっている時代ですから、1つの業種で生き残るのはすごく難しくなっています。
イノベーションが起きて、自社の需要が一気になくなることもありますし、台風や災害のリスク、為替リスク、政治環境の変化で自分のビジネスが被害を受けることもある。資金力で劣る中小企業は、こうしたリスクが顕在化した時に「嵐」が過ぎるまで待つ余力はないはずで、だからこそ1つのビジネスだけでなく、別の収益源を持つことが大切になります。
ただ、別の収益源を作るといっても、どの業種もみんな切磋琢磨しているわけで、いきなり新参者が成功できるほど甘くはない。そう考えた時に、不動産投資はやはり向いていて、なかでも空き家・古家への投資は低額で始められるのと、利回りが高いのとで、中小企業のリスクヘッジに最適ですし、財務体質の改善にも役立ちます。本業が行き詰った時に、方向転換するためのつなぎの資金にもなる。節税や事業承継にも役立ちます。
そして、繰り返しになりますが、未経験の業種に触れる(経営体験)ことで、経営者自身の成長にもつながるのもメリットです。製造・小売・卸・建築業などの中小零細企業や店舗・士業・コンサルタントのような個人事業主の皆さんには、ぜひチャレンジしていただきたいと思っています。
(新刊JP編集部)
大熊 重之(おおくま・しげゆき)
一般社団法人全国古家再生推進協議会理事長、一般財団法人日本不動産コミュニティー認定講師。
株式会社オークマ工塗代表取締役、株式会社カラーズバリュー代表取締役、株式会社琥珀代表社員、合同会社ステップライフ代表社員、日本知的資産プランナー協会認定コンサルタント、一般社団法人全国企業主導型保育支援協会理事、zenschool マスター。
2000 年5 月、東大阪の小さな貸工場で部品塗装の会社を開業。従業員3 人から初めて、下請け業の経営に苦しむものの、2013 年に始めた空き家・古家不動産投資がきっかけで会社が5社になり、グループ売上5.7 億円にする。
零細企業が強い経営の源は不動産収入(B/S 収益)であることに気がつき、自ら実践を始め、最適なものは空き家・古家不動産投資と確信して4 年間で資産1 億5000 万円、家賃収入1500 万円にする。空き家・古家不動産投資が新しいビジネスアイデアを生み、実行力が上がることを実感し、教育・建築・物販・不動産・コンサルタントと事業の幅を広げる。
全国で空き家・古家不動産投資の一般社団法人全国古家再生推進協議会を設立し、会員数5000 人・再生実績1000 戸以上のコミュニティーを設立。現在も全国の空き家をなくす事業を拡大する一方で、工務店・職人に下請け脱却の仕組みを提供。また、大家さん向けJ -REC 認定不動産実務検定講座を講師として、毎年セミナーを開催して好評を得ている。
こうした成功から、教育事業・社団法人化ビジネスモデル構築の支援もしている。また、zenschool マスターとして企業の新製品開発やイノベーションを起こす活動のほか、「2025 年には127 万社がなくなる」と言われる大廃業時代で、少しでも多くの零細企業が生き残れるように “企業の副業” を勧めている。
著書に『儲かる! 空き家・古家不動産投資入門』(三木章裕氏との共著、フォレスト出版)がある。
著者:大熊 重之
出版:フォレスト出版
価格:1,500円+税