「ADHDは天才肌が多い」は本当か
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まず「ADHD」という言葉なのですが、ここ数年で急速に広まった印象がありますね。
司馬:ADHDはもともと子どもの領域でよく知られていました。大人にもADHDの傾向がある人がいるということが知られてきたのは、この10年ほどの間だと思います。
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よく耳にする言葉だけに、正確に理解することなくわかった気になってしまいやすいのもADHDの特徴です。あらためて、ADHDとはどのようなものなのか教えていただきたいです。
司馬:ADHDの傾向がある人の特徴は大きく分けて3つあります。
一つは、集中力の持続が困難で、不注意やケアレスミス、忘れ物や落し物が多かったり、やらなければいけないことを忘れてしまったりします。
二つ目は「多動性」といって、動きが多くて、落ち着きがないこと。子どもの場合はいつもはしゃいでいる感じなのですが、大人は細かい動きが多くなる傾向があります。
もう一つは「衝動性」といって、考えずに物事に反応してしまうという点が挙げられます。たとえば、欲しいと思ったら反射的に買ってしまったりというようなことですね。
普通は、欲しいものがあっても、「待てよ、今は我慢しようかな」というように抑制が働くのですが、その抑制が効きにくいのが特徴です。思ったらそのまま行動してしまう。
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ADHDについて、子どもについては昔から知られていたというお話がありましたが、子どもの頃は今お話しいただいたような特徴がなかったにもかかわらず、大人になってからADHD傾向の特徴が出始めることもあるのでしょうか。
司馬:そういう方もいるのですが、環境面の変化に要因があるケースが多いです。
どういうことかというと、子どもは基本的に学校にいって家に帰ってという生活で、何かあったら親がフォローしてくれたりもします。でも社会人になると、仕事があって家庭生活があって、人によってはそこに子育ても重なる。
学校生活くらいのシンプルさであれば何とかやれていたものが、大人になると処理しなければいけないことが急に増えますし、これまで家で親にサポートされていたものが、自分が親になったら今度はサポートする側になるわけです。
そういうところで処理が追いつかなくなって、トラブルが起きた後で、もしかしたら私はADHDなんじゃないかと気づくケースは多いかもしれませんね。
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司馬さんの著書『仕事&生活の「困った!」がなくなる マンガでわかる 私って、ADHD脳!?』(しおざき忍画、大和出版刊)を読むと、ADHDは「ADHDかそうじゃないか」という白か黒かの話ではないことがわかります。
司馬:血圧が高い低いというのと同じであくまで相対的な話で、この数値に達していないから大丈夫という問題ではありません。
先程お話しした症状が生活のなかにたくさんあって、なんとなく困っていたり、周囲の人との間でトラブルが起こっているようでしたらケアが必要ですし、診断を受けた方がいいかもしれません。
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この本では、ADHDを「障がい」ではなく「脳のクセ」と捉えています。この理由について教えていただきたいです。
司馬:「障がい」という言葉自体、生活の中に馴染みにくいというのがひとつあります。それであれば「脳のクセ」と捉えたほうが、本人も周りの人も「そのクセを理解したうえで、どう取り組んでいくか」という前向きな行動につながりやすいのではないでしょうか。
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ADHDだと診断された場合、医師の方からはどのような指示やアドバイスが考えられますか?
司馬:ケースにもよりますが、たとえば忘れ物があまりにも多いということであれば、どうすれば忘れ物を減らせるのか、というアドバイスはできますし、どうすれば周囲の人のサポートをより集められるかといったところについてもお話できます。
ただ、それだけではなかなか改善しない方もいて、そういった方には薬を使った治療をすることもあります。
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日常生活に困難を覚えることが多い一方で、ADHDの人にはいわゆる「天才肌」の人も多いと聞きます。これは本当なのでしょうか。
司馬:ありえるお話だと思います。通常、人はそれまでの自分の経験にしたがって未来を予想します。いわば、「経験を通して考える」という、ある種の抑制にもとづいているわけです。
ADHDの場合、そういった抑制ですとかリミッターがない方が多いので、それが正しいかどうかはともかく、他の人が考えもしない発想が出てくることはあるのではないかと思います。
全体の5% どの職場にもいるADHDの同僚との付き合い方
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司馬さんが院長をつとめる「司馬クリニック」には、ADHDの傾向がある方がいらっしゃるかと思います。相談事として多いものがありましたら教えていただきたいです。
司馬:「忘れ物」や「集中力が続かないこと」に比べると目に見えやすい症状だからだと思いますが、「片付けられない」という方が圧倒的に多いです。
片付け方がわからないという方も、片付けた状態をキープできないという方もいるのですが、どちらにしても家族にうんざりされていたり、必要なものが見つからなくて探すのに余計な時間を使ってしまったりといった問題を抱えがちです。そして、そんな自分に自分でうんざりしてしまう。
その状態が続けば、余計に周囲の人とのトラブルが増えます。悪循環ができてしまうんです。
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ADHDは特別なものではなく、学校や職場など様々な場所にその傾向がある人はいます。たとえば、職場にADHD傾向のある人がいる場合、同僚としてはどんなケアをしていけばいいでしょうか。
司馬:ADHDは全体の5%ほどなので、30人の部署だとしたら1人か2人はその傾向がある人がいるということは知っておいていただきたいです。
同僚の場合、相手も大人ということで「このくらいのことはわかっているよね」と、あまり細かいことまで言いにくいところがあるのですが、明日が締め切りの企画書や報告書など「普通わかっているよね」と思うようなことも、ADHD傾向のある人は忘れてしまうことが珍しくありません。
なので、普通の大人に対するよりはこまめに、「どうなってる?」とか「ちょっと見せて」とか声かけをしていくのがいいと思いますね。
ADHD傾向のない人からすると「それをこっちに言わせるの?」というところもあるでしょうが、ADHD傾向のある人は、たとえば忘れ物が多かったとしても能力自体が低いわけではないので、相手の能力を生かす意味でも、ケアをしていただきたいと思います。
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同僚としてはADHDであることを自覚させた方がいいのかどうかという問題もあります。
司馬:本人は問題を認識していなくても周りの人が迷惑をかけられている場合もあるので、あまり困るようなら、自覚してもらった方がいいのではないでしょうか。
「君にはこういうところがあって、こういうことで周りの人が困っている」ということをわかってもらうことが必要ですが、それだけで終わるのではなくサポートもしていっていただきたいですね。
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また、自分の息子や娘がADHDだという時にすべきことも教えていただきたいです。
司馬:忘れ物が多かったり、落ち着きがなかったりしても「何回言ったらわかるんだ」というような𠮟り方はせずに、何度も根気強くやるべきことを伝えることです。脳の持つクセのお話ですから、叱ったり叩いたりすることで良くなりはしません。
それよりも、繰り返し忘れ物がないかリマインドしてあげたり、今日は何が必要なのか聞いてみたり、自分でチェックするスキルが伸びていくような育て方をする方が改善の可能性があります。
ADHDの場合、改善したと思ってもまた元に戻ってしまったり、一度獲得したスキルをキープできないこともあるのですが、根気よく取り組んでいただきたいです。
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ADHDという言葉は数年間で急に広く知られるようになりましたが、まちがった情報が伝わってしまっている例はありますか?
司馬:まちがった情報というほどでもないのですが、「多動」や「注意力散漫」といった症状に対して、何でもかんでもADHDが原因にされがちなのは気になります。
虐待を受けて育ってきた子どもにADHD症状が出ることがあるということが最近知られはじめたのですが、同じ症状でもADHDなのか虐待なのかで対処は変わってきます。
ただ、もともとADHDが先にあって、その症状が原因で虐待を受けやすいということもあるので、問題は単純ではないのですが。
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最後になりますが、ADHDの方と、そのご家族、同僚など周りにいらっしゃる方々にメッセージをお願いできればと思います。
司馬:もしかしたら自分はADHDかもしれないと思っている方は、医師の診断を受けるのもいいのですが、本を読んだりして、ADHDについて情報を得ることも大切です。
そして、もし診断の結果ADHDだったとしても、日常の困り事についての対処法はいろいろなものがありますし、症状をするために必ずしも病院に通う必要もありません。
知識を得ることで、気持ち的に楽になる部分はあるかと思いますので、まずはADHDを知る取り組みをしていただきたいなと思います。