仕事がデキる
「新人・若手社員」になる!
潮田式 "1on1"
ビジネス基礎研修
著者:潮田、滋彦
出版:ごま書房新社
価格:1,400円+税
著者:潮田、滋彦
出版:ごま書房新社
価格:1,400円+税
春前から本格化した新型コロナウイルスの感染拡大は、企業の社員教育にも大きな影響を与えた。例えば新入社員研修が延期になったり、リモートに変更された。また、4月の時点で在宅勤務を命じられていたために、「まだ会社に出社したことがない」という新入社員もいる。
こうした中で、仕事の基本をどのように若手や新入社員に教えるべきか、そして上司や先輩から教わればいいのか、悩んでいる人も少なくないだろう。
30年以上、研修講師として第一線で活躍している潮田、滋彦さんの著書『仕事がデキる「新人・若手社員」になる!潮田式 "1on1" ビジネス基礎研修』(ごま書房新社刊)は、そんな悩める人たちに向けた、仕事の基本と本質を教えてくれる一冊だ。
「1on1」という形式で繰り広げられる課長と若手社員の会話を追いながら、7日間のワークを通して、効果的なメモの取り方、失敗への向き合い方、問題意識の持ち方、コミュニケーション力などを学んでいく。
ここでは本書から、基本中の基本であるメモの取り方、そしてコミュニケーションについて少しのぞいてみよう。
なぜメモを取らないといけないのか。
その大きな理由の一つは、仕事をする人との信頼関係を築くためだ。ここを覚えておかないと、いくらメモを取っても使えないメモになってしまう。
メモを取ることによって、相手の話したことを覚えておくことができるようになる。そして、何度も同じ質問をしたり、「前に言っただろう」と説教されるがなくなる。逆に「自分の言ったことをちゃんと覚えている」ということは強い信頼感を生むのだ。
だからこそ、メモの取り方が重要だ。再現ができないメモは使えない。
本書ではメモを取る3つのコツを伝授してくれる。
(1)思いついたり、重要だと思ったことは、その場で書く
(2)単語ではなく、文章で書く
(3)抽象的で大きな内容ではなく、具体的で身近な内容で書く
いずれも難しそうには見えないが、つい忘れてしまいがちなことばかり。あとで見返してみたときに、一体何のことが書いてあるのか分からないとならないように、意識したいところだ。
そして、それぞれのコツについて、さらに深いレベルの話を本書の中で学ぶことができる。
続いては、5日目のワークとして取り上げられている「コミュニケーション力」だ。
リモートで仕事をしていると、チャットツールでのコミュニケーションがメインになるが、文章から相手の感情が上手く読み取れなかったり、刺々しさを感じたりしてしまうことがある。
ただ、それで相手にネガティブな印象を抱いてはいけない。
これは、顔を突き合わせてのコミュニケーションでも言えることだが、相手と自分は違う背景を持っていて、持っている情報に差があるということを前提に接するべきだろう。
そこで、この2つの基本的な姿勢が大切になる。
(1)他人の考えや思いを否定しないこと
(2)相手の良いところを見ること
人間関係はネガティブな方にスポットライトを当てると、どんどんその場所しか見えなくなっていく。そして、苦手意識が高まっていき、コミュニケーションに齟齬が起きてしまう。
一方で、良い価値を見出す習慣付けをしていけば、人間関係が好転するだけでなく、例えば壁に当たったとき、悩みが出てきたときにも建設的に対応できるようになる。否定をしないこと。良いところを見ること。この2つは気持ちよく仕事をするために必要不可欠なのだ。
また、本書ではさらに会話力の身につけ方についても触れているので、会話が苦手という人は読んでおきたいところだ。
本書は仕事をする上でのマインド面とスキル・ノウハウ面の双方から、「デキる若手社員」と言われるようになるための方法を伝授してくれる。
「デキる社員」とは、もちろん成果を出すし、一緒に仕事にしていて気持ち良いと思わせてくれる社員のこと。そんな彼らがやっていることが本書に詰まっている。
本書で学んだことは、きっと一生レベルで自分の役に立ってくれるに違いない。
新入社員や若手社員はもちろんのこと、教える立場である管理職や中堅社員にとっても自分の身を省みることができる一冊。部下から「こんな上司に会いたかった!」と言われる上司の言動とはどのようなものか、ぜひ参考にしてみてほしい。
(新刊JP編集部)
■「ウィズ・コロナ」の働き方で変わるもの、変わらないものは何か?
潮田: そうですね。実際私の場合ですと、3月中旬から5月いっぱいまでの研修は全てキャンセルまたは延期でした。6月になってからは多少再開していますが、4~5割程度というところです。秋以降は春・夏で延期になった研修も入ってくるので、忙しくなりそうです。
現在の集合研修とリモート研修の割合は4:6くらいでしょうか。ただ、集合研修といっても2メートルの間隔で座らなければいけないので、グループワークはできません。また、リモート研修になると、こちらが感情豊かに話をしていても、それが意外と伝わっていないなと感じることがあったりします。
潮田: そうした状況はあると思いますね。本書はコロナ禍が本格する直前、ステイホームの呼びかけが出る前に「書きませんか?」と声をかけていただいて書き始めました。こういう状況下だからこそ、家にいながら、仕事を進める時の基本的な考え方や押さえどころをしっかり学べる本が作れたら、皆さんのお役に立てるんじゃないかと思ったんです。
今、多くの企業でリモート勤務が推奨され、新入社員は画面越しに上司や育成担当の人から指示を受けたりしていますが、やはり人間関係が構築されていない状況でコミュニケーションを取るのは難しいですよね。どうしても齟齬が起きてしまいがちです。新入社員も実際の職場を想像しながら学ぶだけなので、なかなかリアリティを感じにくいかもしれません。
そこで、仕事の進め方において「本当の押さえておくべき場所はここだ」ということをこの本で教えることができれば、新入社員の皆さんが実際に現場に行ったときも応用が効くし、社会人としてのベースをしっかりと学んだ状態で効率よく仕事に取り組めるようになるんじゃないかと考えました。
潮田: 最近、「1on1」を取り入れている会社さんは多いですよね。職場の人材育成はOJTがベースになりますが、「1on1」を取り入れることで、よりしっかりと振り返りができたり、仕事の基本を教えることができるようになる。OJTにとって欠かせないものなんです。
だから、今回は「1on1」という上司と部下の面談を通して、部下の実務面でのレベルアップを促すという、そういうようなシミュレーションを書いてみようと思ったんです。
この本に登場するスギナミ課長という上司が、ティーチング(教える)とコーチング(引き出す)という両方のアプローチを上手に使いながら、部下のオオタさんを成長に導いていくストーリーになっています。
潮田: これは2つ考え方があると思います。変わらないものと変わるものがあって、まずは変わらないものでいうと、「物事の本質を捉える力が必要である」ということ。これはどんなに環境が変わっても、転職をして別の会社にいっても、同じです。必要なんです。
一方の変わるものは、リモートによるコミュニケーションの変化ですね。リモートだとやっぱり感情が伝わらなかったり、言葉の意図が見抜けにくくなったり、画面をシャットアウトして声だけで参加する人もいます。だから、今まで以上に、言うべきことをはっきり言わないといけなくなる、そして確認すべきことをしっかり確認しなければならなくなるんじゃないかなと思うんですね。
また、本書にも書いていますが、ビジネスチャットツールで情報共有するということもよく聞くようになりましたが、手軽であるがゆえにコミュニケーションの行き違いが起こってしまいがちです。自分の書いた意図ではない意味を解釈されたりすることも出てきますから、その点は注意すべきでしょうね。
潮田: 私は、それは大切なことだと思いますよ。
潮田: この本で、人間は「自分の当たり前で話をしてしまう」と書いていますが、それが行き過ぎると、他人の当たり前を受け入れられなくなってしまうんです。挨拶というクッションがあったほうがいいという人、単刀直入の方がいいという人、それぞれですが、押し付けすぎないことが大事ですね。
そして、「変わらないもの」と「変わるもの」はおそらく新人や若手だけでなく、上司や先輩にあたる人たちにとっても重要なものだと思います。特に上司や先輩はリモートによって今まで通りのコミュニケーションができなくなっている中で、それでも部下や若手を育成しないといけない。そこに対応しなくてはいけないんです。
たとえば、上司の立場の人に話を聞いてみると「リモート中の面談で沈黙が怖くて、自分から話してしまう」という声もありました。でも、相手は考えているから沈黙をする。つまり沈黙は必要な時間なんです。だから、上司や先輩は「聞く力」を鍛えないといけないと思うんですね。
潮田: それと、このような環境の激変は、捉え方次第ではチャンスにつなげることもできるはずです。だから、ものごとや体験に対して良い面や価値を見出していくことが大切です。新しくてもっと良いやり方を見つけるチャンスかもしれない。そんな風に上司自身が捉える。そういうことが問われているのではないのかなと思います。
潮田: そうなんですよね。だから、ミーティングの初めとかに、「沈黙はOKです」ということをはっきり言ってしまうことが重要だと思います。そうすれば、本人はちゃんと自分と向き合って考えて発言することができるし、上司も沈黙をしっかり許すことができるはずです。そして、本でもふれていますが、出た意見を否定しないこと。もしかしたら、自分が持っていない新しい発想や視点かもしれないのに、否定してしまうと部下は二度と本音で意見を言ってくれなくなります。
■「物事の本質を捉える」「自分の当たり前にはまらない」「柔軟な姿勢で取り組む」
潮田: この本の中で一貫して伝えていることは3つあります。1つ目は「物事の本質を捉える」。2つ目は「自分の当たり前にはまらない」。そして最後は「柔軟な姿勢で取り組む」です。
この3つを外してしまうと、どんな環境であっても成長はできません。
潮田: そうですね。まさにこの本は「思考停止」とは地続きになっていると思っています。人は現状維持を求めはじめると、流されるようになってしまい、自分で考えなくなるんです。だから、常に自分の頭で考えることが大事ですし、考えることを習慣化することが必要です。
もちろん、今日だけ考えて明日は考えないでは習慣にはなりません。常に自分なりに問いかけてみる、周囲の言っていることが本当にそうなのか考えてみる、その積み重ねをし続けていくことが思考停止から脱却することにつながるんです。
潮田: まさしくその通りです。この本の中でも、(登場人物で部下役の)オオタさんはメモを取っていないために、グループミーティングでどんな話がされたのか再現できません。
メモを取って記録し、それを見直すことで、いろいろなことが再現できるようになっていく。それを何よりも最初に習慣づけるべきことです。メモがちゃんと取れていれば、上司からの投げかけに対しても、メモを通して学んだことに照らし合わせて答えが出せるようになるんですね。この本の中でも、メモがきちんと取れるようになってから、オオタさんは飛躍的に成長していきます。
潮田: 成果も出し、一緒に仕事をしていて気持ちいいと思わせてくれる社員、ということ。また、もっと言うならば、周囲を上手く巻き込んで成果を出せる人、先を見据えて次の成長を作り出せる人でしょうか。
重要なことは、組織の中で仕事をするわけですから、独りよがりになってはいけないということです。これは3日目の「問題意識」のセッションで「自分ごと化」と言っていますが、職場の中で上手くいかないことがあったとき、「それは自分の仕事じゃないから」と他人ごとにするのではなく、自分はどう思うのか、自分だったらどうするのか、それを言っていく。また、他者の考えや思いを受け入れることも大事になりますね。これができる人は「仕事がデキる」と言えると思います。
潮田: 6日目の「提案力」のセッションで、「視点」「視野」「視座」という3つのものごとのとらえ方を説明していますが、まずは自分の仕事は他者が評価するということを受け入れて、他者からの視点で自分を見ることが大切です。また、視座を広く持って、自分が世界全体のほんの一部であることを意識すると、ものごとの捉え方が全く違ってきます。
潮田: そうですね。だから、まずは周囲の人に興味を持ちましょう。なぜこの人はこういうことを言うんだろうと想像してみることが大切です。
潮田: やはり習慣ですね。会社以外でも、家族や友人、恋人とのやりとりなど、普段の日常生活の中でのやりとりについて、自分の接し方をちょっと立ち止まって考えてみてください。意外と「オレ様」で接している人は多いですから。
自分の接し方を客観的に見て、相手のことを考えてみる。そのときに「そういえば、会話をするときによく遮っちゃうな」と思ったら、最後まで話を聞いてみるようにする。こういうことが重要です。
人の話をちゃんと聞いて、自分の話をちゃんと発信する。この2つを意識すれば、新しい情報はどんどん集まってきます。「自分はこうだ、分かったか」ではなく、相手が受け取れるように伝える。これを習慣化をしていくんです。
もちろん、自分の意見や考えを持っていることは大事ですが、そこに固執しないでほしいですね。年齢が高くなっていくと、少しずつ柔軟性がなくなっていくので(笑)
潮田: そうですね。人生のどの場面にも自分の生き方が出てきますから。
潮田: 大きく分けると4つですね。まずは、タイトルに直接的に書いている「新人・若手」の皆さんです。この本の特徴は、単に「メモを取りましょう」とか「PDCAをまわしましょう」とか「コミュニケーションが重要です」という話を書いているのではなく、深いレベルでそれらの重要性を納得しながら仕事の基本を学べるようになっています。そして、若いうちに物事の本質を捉える力や柔軟性を持って考える習慣が身に付けば、それはどんな環境においても役立つので、ぜひ学んでほしいですね。
2つ目はリーダー、役職者、リーダー候補の皆さんです。この本でオオタさんを指導するスギナミ課長はすごく良い上司なんですけど、まさしくこういう理想的な上司を目指してほしいです。インタビューの前編でもお話ししましたが、スギナミ課長にはティーチングとコーチングのアプローチを入れていて、人材の育成はその両輪が必要だと思っています。スギナミ課長の存在から学べることはたくさんあって、どんな風に部下と接するべきか、話を進めるべきか、とても良い教材になると思います。リーダーや役職者の方が読むと、何度もハッとさせられる場面があると思います。
3つ目は、比較的大きな企業だと、OJT指導員やメンターといった育成担当の方がいるんですが、そういう若手を育成する担当の方に読んでほしいですね。この本を新人さんと一緒に読んでいくことで、共通言語を持てると思います。
最後は本のオビに書いてあるのですが、経営者の方や企業の人事教育担当の皆さんです。
前編でも話題に出ましたが、自宅で業務をする人も多くいると思いますし、コロナ禍において、物理的・経済的な理由でなかなか研修を実施できない企業も多いと思います。でも、人材育成は待ったなしで必要です。そのようなときに絶好のテキストになると思います。若手社員に読んでもらい、各自の具体的な行動を宣言してもらう形がいいのではないかと思います。
そうなると、ほとんどすべてのビジネスパーソンというのが本書の読者ターゲットになりますね(笑)。ベテランの方にも意外と忘れていたり、できていないことがあったりするので、読んでほしいです。
潮田: そうですね。ただ、できていないからダメというわけではなく、できていないことが見つかったら、より良い姿になるように新たな習慣を身につけていくことが大事だと思います。本書は自分の姿を客観的に見るためのツールとしても使えるので、ぜひ読んで頂きたいですね。
(了)
潮田、滋彦(うしおだ・しげひこ)
トゥ・ビー・コンサルティング株式会社 代表取締役。米国NLP協会認定NLPトレーナー、DiSC(行動特性分析)認定インストラクター、ハーマンモデル認定ファシリテーター。大手エンジニアリング企業で海外営業職を経験後、企業内人材開発講師の道へ。独立を経て、30年間以上一貫して第一線の研修講師として活動中。
講師実績として、一部上場企業を中心に300以上の企業や自治体にて、述べ15万人以上を指導。登壇時間は1万5000時間以上にも及ぶ。また、受講者に合わせて臨機応変に進める研修は満足度が高く、リピート率が95%を超える。現在も年間220日以上のペースで「学ぶことの楽しさ、成長することのワクワク感」を日本中のビジネスパーソンに伝えるために、全国を飛び回る日々を過ごしている。また、後進の若手講師の育成にも力を注いでいる。
著書に『速習!シンプルに文章を書く技術〜読み手をうならせる32のテクニック〜』(PHP研究所)、『“思考停止人生”から卒業するための個人授業』『12万人を指導した“カリスマ講師”が教える“売れっ子講師”になる112の秘訣』(共にごま書房新社)ほか累計6作執筆。
著者:潮田、滋彦
出版:ごま書房新社
価格:1,400円+税