本書の解説
今、多くの企業で「副業」を解禁し始めています。
ビジネスパーソンにとって、副業は単なる「家計の足し」「小遣い稼ぎ」になるだけではありません。副業を通して知見を得て、本業の幅を広げるために役立てたり、自分の力でビジネスを立ち上げるチャンスをもたらしてくれます。
同時に「起業」という言葉も、一時代前に比べて敷居の低いものになりました。
株式会社は資本金1円で設立できますし、個人事業主として開業する道もあります。そしてインターネットを利用したビジネスならば、特別な設備や技能がなくとも、パソコンやスマホを駆使して行えます。
時代の変化とともに、私たちの働き方も大きく変わりつつあります。
逆に言えば、その変化に対応していかないと取り残されてしまう恐れがあるのです。
「必ず成功する」保証がない世界、だからこそ必要な考え方
「考えない人が淘汰される」と述べるのは株式会社GEAR代表取締役で、メディアの運営や婚活関連ビジネスを手掛ける有薗隼人さんです。
有薗さんは自営業を営んでいた父親の影響から「30歳くらいで起業したい」とおぼろげながら考えており、新卒でIT企業に勤めながらものすごい勢いで知識と営業ノウハウを学び、2011年に会社を辞めて独立を果たします。
ただ、有薗さん自身は「働きながら、小さく始める。特に、ネットビジネスをするなら、絶対に働きながらやるべきです」(p.74より)と強く訴えます。
というのも、ビジネスの世界には「必ず成功する」保証がありません。何度も痛い目に遭うものです。だからこそ、失敗しても致命的なダメージにはならない「0円起業」を提唱し、小さなチャレンジを積み上げていくことをすすめているのです。
そんな、有薗さんが自身のノウハウをまとめた一冊が『働きながら小さく始めて大きく稼ぐ0円起業』(クロスメディア・パブリッシング刊)。本書には、今だからこそ身に付けるべきビジネス成功の鍵についてまとめられています。
働きながら自分だけのビジネスを始めるなら「ネットビジネス」
有薗さんは、働きながら副業として自分のビジネスを始めるなら、ネットビジネスをすすめています。そのメリットは2つ。
- (1)初期投資がほとんどかからない
- (2)パソコン・スマートフォンとインターネットがあればよい
有薗さんが大きく成功を収めたアフィリエイトビジネスは、商品の仕入れ代などが不要という良さがあるといいます。本格的にやるならレンタルサーバーや独自ドメイン取得など1~2万円の出費は発生しますが、そこまで費用が発生するものではありません。また、仮になかなかビジネスが軌道に乗らなくても、大きな借金を背負うリスクがないといえます。
また、(2)については、初めのうちはオフィスや実店舗を設ける必要がないため、維持費を抑えることができます。
ビジネスチャンスは「格差」の中に転がっている
ただ、これだけではビジネスは成功しません。元手がほとんどかからないのが「0円起業」の大きな魅力ですが、ビジネスチャンスをつかめなければ、何も起こらず無為に日々は過ぎ去っていくばかりです。
そこで必要なのが「格差」を利用してビジネスをするという考え方。本書では下記のような「格差」が取り上げられています。
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・情報格差
…これまでのビジネスの成功例や今、世の中で起きている出来事を学び、ビジネスの種を得る。
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・経済格差
…どの層に向けてビジネスを行うか。それによって扱うビジネスも変わってくる。もちろん自分自身のマッピングも忘れずに。
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・地域格差
…仮にオフィスなどを借りる場合、都心は高くなる。また、特産品など地場ならではのビジネスも地域格差を利用できる。
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・男女格差
…例えば女性向けといわれるビジネスでも男性にニーズがあるかもしれない。格差に苦しむ人たちを解決するビジネスを考えることが社会をよくすることにつながる。
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・世代格差
…世代間で価値観やニーズは異なる。そうしたニーズを的確にとらえ、分析することでその世代を対象にしたサービスを提供できる。
ただ漠然とビジネスをはじめるのではなく、自分自身の強み・弱み、市場の調査・分析をしっかり行うことが求められます。
これらを自分の責任において行うことは、ビジネスセンスを磨く上でも非常に有効な手段といえるはずです。
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本書にはちょっとした行動から人生が変わったという事例が多数掲載されています。特に第6章の「0円起業」成功事例では、地代家賃0で飲食店を開いた事例や、人件費0の書店など発想の転換を促すエピソードが続出。また、自分自身を商品にするインフルエンサーを目指すことも「0円起業」に含めていいかもしれません。
今は「誰でも起業家になれる」時代。そして有薗さんは、今後「誰もが起業家になるべき」だと言います。
将来、生き残る人は自分の稼ぎ方をちゃんと持っている人、自分自身で儲けを作ることができる人。それは多くのビジネスパーソンが想像できるはず。
人生は一度きり。本書はチャレンジし続けることへのエールと成功するためのヒントを授けてくれる一冊です。
(新刊JP編集部)
インタビュー
一から稼いで売り上げを立てた経験を伝えたい
―― 本書は一貫して「どんどん動いて、独立・副業に限らず自分のビジネスを成功させよう」というメッセージを伝えていますが、そこに込めたメッセージを教えてください。
有薗:いろいろなところで言われていますが、人工知能(AI)の進化によって10年後、20年後の社会は大きく変化しているはずです。それは私たちの仕事にも影響を及ぼすわけで、考えなくてもできる作業はなくなり、自動化できる点はどんどん自動化が進んでいくでしょう。
となると、人間がAIに勝てる部分はどこかという話になるわけですが、私は創造性や思考だと思うんですね。それがない人間は淘汰されるであろう、と。
そんな時代を生き抜くためには、自分の力で稼ぐ力、どんどん動いて新しいものを生み出す力が必要です。その意味でも、自分でビジネスを立ち上げて、トライ・アンド・エラーを繰り返していってほしいというメッセージを込めました。
―― 特に読んでほしいのは若い方になるのですか?
有薗:私くらいの年齢ですね。25歳から35歳くらいの方にはぜひ読んでほしいです。
―― 20年後となると読者が50歳前後の頃ですよね。その時に仕事がなくなってしまわないように。
有薗:そうですね。会社に勤めている友人たちの話を聞くと、「会社をいつクビにされるか分からない」と後ろ向きな考えを持っていたりします。そうした状況を打破するためにも、自分が会社を食ってやるという前向きな考えを持つことが大切だと思っています。
―― 本書を執筆した経緯もそれを伝えたくて?
有薗:そうです。私自身、もともと個人で副業のような形でビジネスを始めて、それから8年ほど経ちます。アフィリエイトをはじめとしたネットビジネスが中心ですが、一から稼いで売り上げを立てるという経験をしてきたので、それを整理し、体系化して幅広い人にお伝えすることで、前向きな考えを持つ一助になれるのではないかと思っていました。
―― 独立起業だけではなく「会社員として働きながら」という部分は本書の大きな特徴です。
有薗:そうですね。副業OKの会社は増えていますし、以前に比べたら自分自身のビジネスをする上で、そこまで大きなリスクを取らなくてもよくなっています。固定収入を保ちつつ、新たな収入の口を増やすことがすごくやりやすくなっている背景があるわけです。
やりすぎると本業の会社から怒られるかもしれないですが(笑)、自分が持っているものを使ってどんどんビジネスできる環境にはなりつつあると思いますね。
一度も顧客と面会することなく売り上げを立てる営業マン
―― 有薗さんご自身についてお話をうかがいたいのですが、2011年に株式会社GEARを設立され、独立して8年経ちます。それまではどのような経歴を辿ってこられたのですか?
有薗:もともと父親が自営業だったのでおぼろげながら社長になりたいという意識は持っていました。学生の時は自分で考えて動いて人を動かすということが好きなタイプでしたね。
―― 文化祭なんかでも音頭を取るような。
有薗:はい。「これやろう!」って自分から積極的に動くタイプでしたね。インターネットを使ったビジネスは大学生の頃からやっていましたが、新卒時は起業せずにGMOインターネットに入社しました。そこでは2年半くらいいましたが、結構良い給料をもらっていました(笑)。
―― GMOでは営業をされていたんですか?
有薗:そうです。ゴリゴリの営業です。電話での法人営業で、一度もお客様と面会をしたことがなかったのですが、2年間ほどで1億5000万円くらい売り上げました。最後の方は声色、間の取り方、テンションで成約するかどうか分かるようになっていましたね。
―― それはコミュニケーション力が高まりますね。
有薗:電話のクローズ時には「今度一緒に飲みに行きましょう!」と仲良くなったりもしました(笑)。ただ、もちろん話術やコミュニケーションだけで営業していたわけではなくて、相手の会社のリサーチもすごくしていました。商品の魅せ方についても工夫しましたし、ストーリーを作ることも意識しました。
晴れて独立。しかし、そこに聳え立っていた壁にぶち当たる
―― 営業として良い成績を上げている中で退職して、すぐに独立されたのですか?
有薗:いえ、その後に1社中途で転職しています。ただ1ヶ月くらいでやめてしまいました。今のビジネスはその時に副業として始めたのがきっかけです。自分のほしいお金に少し届かないので、もっと稼ごうと思って副業を始めたという感じですね。
―― 1ヶ月でやめたあと、他の会社に行かず、そのまま独立したのはどうしてですか?
有薗:先ほど言ったように社長になりたいということはずっと思っていて、タイミングもあったので父親に相談し独立してやってみるか、ということになりました。「社長」と呼ばれたいという思いはずっとあったので。
それに、いろんな方が言っていますがどれだけ失敗しても日本にいる限りはやり直せるというか、なんとかなると思っているんです。転んでもやり直せるという確信がありましたから、起業しちゃおう!と動いた感じですね。
―― 経営者として会社を経営する中で悩まれたこと、当たった壁はありますか?
有薗:立ち上げ当初は「株式会社GEAR」という会社なんて誰も知らないわけです。GMO時代はGMOという上場企業の看板がありましたけど、独立してそうではなくなった。だから、まずは認知を広げていかないといけないという壁にぶつかりました。
あとは、どうしても作業を自分でやってしまい、経営者としてやるべきことに割く時間が取られてしまったことも反省です。誰かに業務を投げるということを当時は知らなくて、スピードが鈍ってしまったというところがあります。
インターネットビジネスの業界では「レバレッジ」と言いますが、一人でできることは限られているので、その部分はもっと学びたかったですね。
―― 一方で経営に手ごたえを感じた瞬間は?
有薗:仲間が増えてきたあたりで手ごたえは強く感じるようになりました。結局、ビジネスは信用だと思うんです。社会とのつながりの中で信用を増やしていって、その信用が儲けにつながる。お客様、取引先とのコミュニケーションの中で怒られたり傷つけられたりすることもありますが、仲間と一緒に作り上げたものが褒められて信用されたりすると、それはとても嬉しいことです。
―― 経営者の方に話を聞くと、「起業」にはリスクがあるという話もあります。固定費がかかったり、一人でやるうちはいいけれど社員が入るとその人の人生も背負うことになる。その意味ではまだ起業に対する敷居の高さはあるように感じますが、実際はどうでしょうか?
有薗:以前の考え方だとそうなるかもしれません。今は工夫して固定費をかけずに起業できます。オフィスを借りなくてもいいし、スタッフも業務委託という手がある。「起業」という言葉に惑わされず、ビジネスをすることの本質的な部分を考えるべきでしょうね。
アイデアや気づきをメモすることの重要性
―― 本書にはビジネスチャンスをつかむ発想術が書かれていますが、有薗さんが普段の生活でチャンスを見逃さないために心がけていることはなんですか?
有薗:本を読んだり、テレビのビジネス番組を観たりということは欠かさずやっています。また、思いついたこと、気になったことはとにかくメモしますね。テレビを観ていても、街中の広告を見ても、気になったらスマホにメモします。その意味ではビジネスチャンスは日常の中に転がっていて、アイデアをどう使うか、どう応用するかが鍵かなと。
―― 最近はどのようなメモをしましたか?
有薗:先日、『カンブリア宮殿』(テレビ東京)でポテトチップス業界二番手の湖池屋さんが出ていたのですが、当初は業界1位のカルビーさんの後を追って、多様な味を展開する戦略を取っていたそうなんですね。ただ、やっぱりそれでは駄目だと。湖池屋の歴史を思い出して、自社の本質に立ち返ろうという話で。
それをメモして、創業期に考えていたことを思い出すこと、本質に立ち返ることはすごく重要だと再認識しまして、自分も当時から今まで起きてきたことを追いかけたり、当時のアイデアやビジネスは今、応用できないかを考えだしました。
―― メモを通して、自分のやっているビジネスの本質に立ち返った。
有薗:そうですね。ただ、自分の視点だけに頼らない、他者の客観的な意見も大事にするということもすごく意識しています。
―― というと?
有薗:自分の考えだけで通用するほどビジネスは甘くはない世界です。私の会社はマーケティングも手掛けているので、ユーザーの声がダイレクトに聞けるアンケートより強いものはないとも考えています。結局は現場が第一ということです。
婚活関連事業は弊社の主力事業の一つですが、私が想像だけで女性のニーズを把握することはできません。女性ユーザーからの客観的な意見が必要で、そういった声をアンケートやインタビューを通して聞き、ビジネスに生かすということをしています。
成功する人に共通するポイントは「諦めが悪い」こと
―― 有薗さんから見て、ビジネスセンスの高い人に共通する点は?
有薗:成功者のやっていることを「盗む」のが上手い人です。それも、そのまま真似るのではなく、そのビジネスの本質を見抜いて他のジャンルで応用する。その力が高いと、どんな時代でもビジネスで成功できると思います。
―― そのセンスをどう身につければいいのでしょうか。
有薗:ビジネスで成功をしている人たちのツイッターを追いかけるだけでもかなり変わってくると思いますよ。孫正義さんですとか、堀江貴文さんですとか、成功している人たちの考えていることがダイレクトに分かる時代ですから、彼らの発言や考えていることを徹底的にインプットする。そこからじゃないですかね。
―― 有薗さん自身は影響を受けた経営者はいますか?
有薗:たくさんいます。彼らからは自分で自分の上限を決めないこと、限界を作らないことを教わってきました。例え今のお給料が20万円でも、それ以上は上がらないと自分で決めるのではなく、ゴールをもっと上において行動することが大事だと共通して考えています。
副業でも独立起業でも、ビジネスで成功する人とそうではない人の違いは「諦めの悪さ」に出てくると思います。成功する人は諦めずに続ける。たとえ借金を1000万円背負っても立ち上がれる人が最終的に成功するのかなと。
だから、どこをゴールに据えるかが大事なのだと思います。3000万円負債を抱えたとしても、失敗を糧に立ち上がって、1億円、2億円稼げる人になればいいじゃないですか。失敗は失敗ですけど、それをゴールにする必要はありません。成功をゴールと考えて、失敗したまま終わらないことが大切だと思います。
―― なるほど。成功するまで諦めない。ただ、その上で精神的な部分だけではなく、ノウハウや稼ぐ力を身につけなければ前進できないとも思うのですが。
有薗:そうですね。だから市場のニーズをちゃんと捉えて、市場にとって価値のあるものを提供していくという基本的な部分を大事にしないといけないと思います。
例えば、副業として自分の作ったものを売ろうとしたときに、自分にとっては価値があると思っても、実はニーズがまったくなければ売れません。ものの価値を決めるのは自分ではないんです。ただ、だからといって価値がないから失敗ということではなく、そこから試行錯誤をすることが大切で、もしかしたら売れるものができるかもしれない。あるいはただ単に売る場所を間違っていた、という可能性もありますよね。
そうやってマーケットの感覚を磨いていくことは、ビジネスで成功するために必要な過程ではないかと思います。だから自分にとって価値があるかではなく、「市場と向き合いましょう」ということ、これはちゃんと伝えたいです。
―― 最後に、本書の読者の皆様にメッセージをお願いします。
有薗:今の時代、インターネットを駆使することで色々なビジネスができるようになっています。例えば「タイムバンク」というサービスを使って婚活アプリで良い人と出会える方法を売ったり、「note」でダイエット方法をまとめて提供している人もいます。YouTuberも大きく稼げる手段の一つになりました。
ただ、それらはチャレンジがあってこそです。これからの時代は、自分で稼ぐ力が必要になります。もちろん、最初から上手くいくということはないでしょう。だから今のうちに動いて失敗を繰り返して、成功を目指していってほしいと思います。